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魔女戦記  作者: 好きな言葉はタナボタ
第二章

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第16話 将を射んと欲すれば...

翌日。 軍事訓練場で野営する3つの傭兵部隊の補給は完了した。 しかしもう午後も遅い時間。 テントを畳み荷造りするうちに日が暮れる。 よって出立は明日と決められた。


傭兵隊長マキハタヤ・マリカと副隊長シュクガワ・マナミは1つの幕舎を2人で使っている。 幕舎はテントの一種だが、普通のテントより立派で遥かに大きい。 中にはカーペットが敷かれ、寝台・机・椅子といった家具が置かれている。 かがまずに中を歩けるのは言うまでもない。


マリカとマナミの幕舎に、魔女王フジワラノ・ハズキの使者がやって来た。


「シュクガワ・マナミ殿、フジワラノ様の仰せです。 城にお越しください」


「わたし? マリカちゃんじゃなくて?」


「左様でございます」


じゃあ行ってくるね。 そう言ってマナミは使者に連れられて幕舎を出ていった。


後に残されたマリカは考え込む。


(マナミを城に...? なぜ?)


        ✩˖°⌖.꙳✩˖°⌖.꙳✩


マナミは城の高い所にある立派な部屋に通された。 昨日の貴賓室とは違う、こぶりな応接室だ。 すでにハズキは来ている。 椅子から立ち上がってマナミを出迎え、マナミの手を取り両手でぎゅっと握る。


「よくぞおいでくださいましたシュクガワ殿」


ハズキに手を握り締めさせたまま、マナミは尋ねる。


「私に何の用?」


「実はお願いがあるのです」


「どんな?」


「シュクガワ殿に、テツナンド王国に仕官して頂きたいのです」


「テツナンド王国の魔女武将になれってこと?」


「左様です」


「どうして私なの?」 マリカちゃんじゃなくて。


「それはその、イナギリ殿が―」


「イナギリって、昨日のハニーゴールド殿じゃないほうの魔女?」


「そうです」


「あの魔女が私の登用を勧めたの? どうして?」


「それはその... あっ、立ったままも何ですから、どうぞお座りください」


ハズキはマナミに椅子を勧めて誤魔化した。 クルチアの言葉をありのままに伝えると印象が悪い。"将を射んと欲すれば、まず馬を射よ" だなんて。


マナミは勧められるまま誤魔化されるままに席に着いた。 態度には出さないが、仕官に乗り気である。


(魔女武将かぁ。 悪くないね)


マナミは修行の途中でタバサ王国を逃げ出したから、魔女武将の経験が無い。 マリカの傭兵隊に加入して副隊長になってからも、魔女武将としてのキャリアの無いマナミに声を掛ける国はなかった。 ことさら魔女武将になりたいと思ったことは無いが、いざこうして仕官を持ちかけられると嬉しいものだ。


        ✩˖°⌖.꙳✩˖°⌖.꙳✩


その頃マリカは幕舎で1人、ハズキがマリカを呼び出した理由と、それをそそのかした人物を的確に見抜いていた。


「さてはイナギリさんの差し金だな。 マナミを登用して私をテツナンドに縛り付ける気か」


マナミが仕官を引き受けても、ハズキはマナミを秘密武将として扱いマリカの傭兵隊に残しておくだろう。 しかしテツナンド王国に縛り付けられるのは気に食わない。


「イナギリさんめ、まったく悪どいことを考えてくれる」


そう言いつつも、マリカの口元には小さな笑みが浮かんでいる。 こんな手を使ってくるとは。 さすがイナギリさんだ。


        ✩˖°⌖.꙳✩˖°⌖.꙳✩


マナミが幕舎に戻ってきて、意気揚々とマリカに告げる。


「マリカちゃん、わたし魔女武将になっちゃった!」


「そうか」


「俸禄5千万だって!」


「そうか」


魔女武将の俸禄として5千万モンヌは破格の安さである。 他国では最低でも3億モンヌだ。 しかし相場を知らぬマナミは無邪気に喜んでいる。


「戦馬をくれるって言ってた!」


「ほう、良かったな」


「将軍位はトパーズにしたよ!」


マナミの報告を聞き流していたマリカの目が、驚愕に見開かれる。


「なんだと!? 一名将軍じゃないか!」


「最初はシェルとかパールとかって言われたんだけどさぁ、雑魚(ざこ)将軍なんてカッコ悪いじゃん。 マリカちゃんと同じダイヤモンドとか思ったけど、ダイヤモンドは常設じゃないって言われてさ」


マナミにゴネられトパーズの将軍位を差し出させられるハズキの困った顔が目に浮かび、マリカはハズキに同情した。 マナミにトパーズ将軍に相応(ふさわ)しい実力が無いとは思わないが...


次いで大変なことに気づいた。 将軍位による加増だ。 ダナウェイ女王国でもディアマンテ場王国でも、一名将軍の場合、将軍位により年額100億モンヌが加増される。 そんな大金をマナミに支払って、テツナンド王国は大丈夫なのか?


「さっき俸禄が5千万だと言ったよな? それはマナミがもらう全額か?」


「そうだよ? なんで?」


「そうか」


マリカは胸を撫で下ろした。 ハズキはマナミにゴネられつつも、マナミを手の平で転がすべきところはちゃんと転がしていた。


「ねえ、なんでそんなこと訊くの?」


「いや、深い意味はない。 気にしないでくれ」 俸禄5千万のトパーズ将軍、か。 最安値の一名将軍だな。


「そう? あっ、そうそう。 今後のことは心配しないでね。 トパーズ将軍になっても私はマキハタヤ傭兵隊と一緒に行動するからさ。 私がテツナンドの武将になったのは秘密なんだって」

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