第15話 入室じゃないわ。 覗くだけなの
セガワ討伐で死亡した交換武将キララ・カオリの代わりとしてディアマンテ女王国から送られてきたのはマーブル・ローゼズ。 ディアマンテ女王国での将軍位はシェル。 最下位の将軍位だが、俸禄は3億モンヌ。 テツナンドの本来の魔女武将の6倍。 テツナンド王国にとっては重い負担である。
マーブル・ローゼズはタマムシ・ズシコと2人で、お茶会を開いていた。 開催地はマーブルが城下町に与えられた武家屋敷。 オヤツはシュークリーム。 カスタードだけでなく生クリームまで入っている逸品である。
「ズシコさん聞きました? テツナンドの魔女王がハニーゴールド殿とイナギリ殿をお城に招いてお茶会を開いてるんですって」
マーブルは若い魔女だ。 ナタリーは強い魔女を求めて、新しい魔女を生み出し続けている。
「じゃあ今日は1人でお茶会じゃないのね。 良かったじゃん」
ズシコは皮肉な口調でそう言って、ハズキの1人ぼっちを話題に盛り上がろうとした。
しかしマーブルは乗ってこない。 語りたいことが他にある。
「でね、今日は他に2人招かれてて、その2人が傭兵らしいんです」
ズシコは眉を逆立てた。
「なんですって! 傭兵風情がお城のお茶会に招かれたというの?」
「そうなんです! 支配国の魔女武将である私たちですら一度も招かれたことがないのに」
「傭兵が招かれるなんて何事かしら」
興味に駆られた2人は、シュークリームを手早く食べ終えテツナンド城に潜入調査に行くことにした。
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テツナンド城の4階にある貴賓室の前には警備の者がいて、中を覗こうとするズシコ&マーブルと押し問答になった。
「怪しい者じゃない。 私はディアマンテ女王国のシェル将軍タマムシ・ズシコ。 交換武将としてテツナンドに来ているわ。 そのドアに隙間を少し開きなさい。 中を覗きたいの」
「申し訳ございませんが、部外者の入室はお断りさせて頂いております」
マーブルが警備員の認識の間違いを訂正する。
「入室じゃないわ。 覗くだけなの」
「覗くのもお断りさせて頂いております」
ズシコは貧弱な胸の前で細い両腕を組み、苛立たしげに足で床をトントンと叩く。
「どうして駄目なのかしら?」
「入室が駄目なのと同じ理由でございます」
エキサイトしたズシコの声が大きくなる。
「じゃあそもそも、どうして入室が駄目なのかしら?」
「規則でございます」
ズシコが切れた。
「いいから覗かせなさいっ!」
戦場以外では猛将である。 ニンゲン相手には威勢がいい。
ドアが内側から開かれ、鉄錆色の頭髪の魔女が顔を覗かせた。
「何を騒いでいるの?」
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ハズキの意向により、2人はお城のお茶会の座に連なることになった。 着席したズシコとマーブルは、視線を下げて、口の中でもにょもにょと述べる。
「本日はお招きに預かりまして―」「たいへん恐縮です―」
ハズキの寛大な処置に少しばかり恐れ入っている。 タバサ王国時代に雲の上の存在だったガブリエラやクルチアと同じ席に着くことに緊張している。
「どうぞ気楽にしてくださいね。 堅苦しい席ではないのですから」
ハズキが優しい言葉をかけた。
給仕が恭しくズシコとマーブルの前にガトーショコラと紅茶を置くと、2人の緊張は解け視界が広がった。 改めてお茶会の列席者を眺め回す。 上座に座る主催者のハズキ、向かって右手にはガブリエラとクルチア、そして左手に座る人物は―
「...マキハタヤ・マリカ?」
黒い瞳と頭髪、理知的なおでこ、薄い胸、ズシコ以上に貧弱なオーラ。 名将とも悪鬼とも呼ばれるマキハタヤ・マリカに相違ない。 マリカは黒い瞳をズシコに向けていた。
「いかにも。 久しいなタマムシ殿」
「お久しぶりです、マキハタヤ殿」
機械的に答えながら、ズシコは考えていた。 明日にでもディアマンテ様に使者を出さねば、と。




