第14話 魔女のお茶会
テツナンド城の4階にある貴賓室に5人の魔女が集い、お茶会が進行中だ。 本日のオヤツはガトーショコラの生クリーム添え。 5人ともワンピースを着用。 ワンピースは魔女の正装である。
ガブリエラ・ハニーゴールドがシュクガワ・マナミにこれまでの人生を根掘り葉掘り尋ねるのを聞き流しながら、イナギリ・クルチアは壮大なスケールの考え事をしている。
(マキハタヤ殿の到来は、私たちソ連合が待ち望んでいた転機。 マキハタヤ殿の協力があれば、ソ連合はディアマンテ女王国を打倒し、天下を三分する勢力の1つになれる。 でもマキハタヤ殿とテツナンドとの契約は、たったの1年間。 マキハタヤ殿をソ連合に引き留める手立てはないかしら?)
クルチアがガブリエラとマナミの会話に意識を戻すと、話はマフィアのボスになったマナミがマリカと再会する件に及んでいた。
「でね、私が怒って屋台に駆け付けたら、そこにマリカちゃんがいたってわけ」
「それで? どうなったの? マキハタヤ殿と戦ったの?」
ガブリエラの問いにマナミは首を横に振る。
「ううぅん。 再会を喜び合ったわ。 マリカちゃんの顔を見た途端、怒りなんて消え失せてた。 よくよく話を聞いてみれば、悪いのは私の子分のほうだったし」
ハズキは感動に目を潤ませる。
「素敵なお話ね」
クルチアは隣に座るマリカに、小声で話しかける。
「ねえマキハタヤさん」
タバサ王国時代から2人は "さん" 付けて呼び合う仲だ。 猛将ぞろいでマリカの戦い方を理解できない魔女たちの中で、勇将イナギリ・クルチアはマリカの戦い方を一端なりとも理解しえた数少ない魔女の1人だった。
「なんだ?」
「どうしてダナウェイを出てテツナンドに来たの?」
「命令違反が嵩んでね。 居辛くなった」
「命令違反?」
「うむ。 ダナウェイは私を高額で雇ったが、常に後方に控えさせ戦力として活用しなかった―」
「マキハタヤさんを恐れる一方でマキハタヤさんの戦い方を嫌い、飼い殺しにしようとしたのね」
「ダナウェイも『魔女道』を重んじる国だからな。 だから私は独自の戦いを展開したのさ。 戦果は上げたが、命令違反には違いない」
「マキハタヤさんがディアマンテじゃなくテツナンドを選んでくれて、ホントに良かった」
「テツナンドのほうが戦闘が熾烈だからな」
「いっつも先鋒を命じられるもんね。 でもそうすると、テツナンドはマキハタヤさんにとって理想的な環境じゃない? 仕官しちゃえばいいのに」
「そいつは御免こうむる」
突き放すように言ったマリカの横顔を眺めながら、クルチアは考える。
(タバサ王国を放逐された心の傷がまだ癒えていないのね。 将を射んと欲すれば、まず馬を射よ。 マキハタヤさんにとっての馬と言えば...)
クルチアは視線の行き先をマリカの現在の相棒に転じた。 マナミは傭兵時代の手柄話をガブリエラに語って聞かせている。 すっかりガブリエラに懐いた様子である。




