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魔女戦記  作者: 好きな言葉はタナボタ
第二章

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第11話 ハズキの憂鬱

魔女王フジワラノ・ハズキは執務室で仕事中。 届けられる書類に機械的に署名しながら、ため息をつく。


「フゥ」


完全に行き詰まった気分でいる。 1週間前に2人の親友を死別と生別で失い、一昨日はディアマンテ女王国に新たに武将交換を要求された。 死亡した武将のぶんの交換枠が1つ空いているとの理由で。 それに応じた結果、ハズキの4人の配下の半分が今や交換武将で占められている。 武将の質量ともに、辺境の小国と同レベルだ。 ソ連合の盟主としての座すら危うい。 ハズキ本来の配下である2人は対ダナウェイの前線であるサイバラ砦に詰めており、ハズキと共にテツナンド王国の首都アイテツ市に残るのは2人の交換武将のみ。


「一人ぼっちの魔女王かぁ。 もういっそ辞めてしまおうかな」


本心ではない。


「なんてね。 辞めるはずない。 私以外に誰も『魔女化の秘法』を破棄するつもりがないんだから」


        ✩˖°⌖.꙳✩˖°⌖.꙳✩


魔女武将の維持には膨大なコストがかかる。 定員が無い最下級の雑魚(ざこ)将軍ですら年俸3~10億モンヌ。 一名(いちめい)将軍ともなれば年俸100億を超す。 国家的な事業に等しいコストだ。 なのに『魔女化の秘法』を持つ3つの大国は、競うように新しい魔女を増やし続けている。 一騎当千と称される魔女武将の数が戦力に直結するからだ。


魔女は年を取らないから増える一方。 戦死する魔女武将もいるが、『魔女化の秘宝』を持つ3つの大国が競って魔女を作るから減るより増えるほうが多い。 このままでは破綻が生じる。 いつかニンゲン社会は魔女を養いきれなくなる。 そのことにハズキが気付いたのはタバサ王国テツナンド郡の太守だった頃。


どにかしなきゃ。 でもどうすれば? 世に存在する『魔女化の秘法』を破棄すればいい。 そうすれば魔女の増加に歯止めがかかる。 でも『魔女化の秘法』の所有者は3つの大国。 一介の太守がどうこうできる物じゃない。


ハズキは敬愛する先輩武将イナギリ・クルチアに相談を持ち掛けた。 そのときクルチアは話を聞くだけだった。 しかし、タバサ王国の魔女王サマンサ・タバサが姿を消し王国の行く末が問題になったとき、突然その話を持ち出してきた。


「ハズキ、あんた魔女王になりなさい。 天下を統一して『魔女化の秘法』を破棄するの」


聞けば、クルチアもクルチアの主君であるガブリエラ・ハニーゴールドも、ハズキと同じ懸念を抱えていた。 魔女の増加を問題視していた。


「それならガブリエラ様が魔女王になるべきです。 とりあえず私が治めるテツナンド郡を―」


テツナンド郡を献上しようとするハズキを制してガブリエラは言った。


「ニンゲンに優しい支配を敷きたい気持ちは、貴女も私も同じ。 でも、私は猛将。 その手の(まつりごと)には弱者の立場に立てる貴女が向いているの」


心の中で密かに()つ一方的に義姉(ぎし)と慕うガブリエラに(さと)されて、ハズキはその気になった。


        ✩˖°⌖.꙳✩˖°⌖.꙳✩


過去を回想するハズキのもとへ、役人がやって来た。


「フジワラノ様、ローズウッド殿の使者が参っております」


ハズキは顔を輝かせる。


「まあ! ローズウッド殿の」


ギネヴィア・ローズウッドはテツナンド王国の魔女武将。 武力値76・知力値78・魅力値72。 各能力をバランスよく備える良将だ。 武力はさほどでないが、聡明にして沈着。 テツナンド王国の軍師とも言うべき存在である。 だが優秀ゆえに武将交換制度の対象となり、現在はディアマンテ王国に出向中だ。


使者に手渡された封書を開封し、ハズキはギネヴィアからのメッセージを読み始めた。 それは短文だったが内容は重大、ハズキの顔から血の気が引いた。


「いよいよテツナンド王国も最後というわけね」


ギネヴィアの報告書は、魔女王ナタリー・ディアマンテがお茶会の席で漏らした腹積もりを伝えていた。 あと1回ソ連合に先陣を務めさせ弱らせてからソ連合を併合する、と。


絶望しそうになるのを、ハズキはグッとこらえる。


「そんなこと、させるもんですか」


だが対策は思い当たらない。 ここまで状況が悪化すると、対策など存在しないのかもしれなかった。


        ✩˖°⌖.꙳✩˖°⌖.꙳✩


書類に署名するだけの作業すら手につかず苦悩するハズキのもとへ、再び役人がやって来た。 さっきの若い下っ端役人と違い、今度のは高官。 肉付きの良い初老の男性だ。


「フジワラノ様、とんでもない逸材(いつざい)が我がテツナンドに舞い込んで参りました」


興奮気味に、それでいて端然と、高官はハズキに告げた。


「何の話です?」


「傭兵部隊です。 あのマキハタヤ傭兵隊が、我が国との契約を望んでおります」


「まあっ! マキハタヤ殿が!?」


ハズキの憂鬱は吹き飛んだ。 (ふさ)がっていた目の前が一気に開けた気がした。

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