第10話 マキハタヤ・マリカ
セガワ軍との戦いから1週間が経った頃、テツナンド城を1人の傭兵隊長が訪れていた。
傭兵隊の採用を担当する役人は若い男性。 明らかに新人である。
「ええと、隊名をもう一度うかがって宜しいですか?」
そう言いながら、手元の書類をペラペラとめくる。 そこに記載されるのは、各地で活動する傭兵隊の情報。 テツナンド王国がコツコツと収集してきた貴重な情報だ。 契約の是非や契約金額の判断に使う。
傭兵隊長マキハタヤ・マリカは手際が悪い新人に苛立ったりしない。 クールに隊名を繰り返す。
「マキハタヤ傭兵隊だ」
口調と同じく外見もクール。 漆黒のショートヘア・すらりと伸びた手足・薄い胸・理知的なおでこ。 平時だから鎧兜は身に着けず、黒いズボンと白いYシャツ、それに革のベストを着用している。 靴は革のブーツ。
「失礼しました。 マキハタヤ傭兵隊ですね。 えーと...」
役人はマキハタヤ傭兵隊のページに至り、内容に目を通す。 部隊の規模はプチ中隊。 隊長と副隊長が魔女。 数ページにわたり延々と記載されている戦績は斜め読み。 彼の目当ては最後に記載される "等級" と "寸評" だ。 そこに判断の指針が集約されている。
最後のページまで来て、年若い役人は思わず唸り声を上げる。
「むぅ」
マキハタヤ傭兵隊の等級は "特級" だった。 "一級" の分厚い壁をブチ抜く最高ランクの傭兵隊である。 寸評には次のようにある。
『この傭兵隊が雇用を求めて訪れることがあれば、速やかに上司に報告せよ』
それは寸評ではなかった。 評価ではなく指示。 マキハタヤ傭兵隊が下級役人の職権を超える存在だと示す一文だった。
✩˖°⌖.꙳✩˖°⌖.꙳✩
寸評の指示に従い役人が上司に報告し、上司がそのまた上司に報告した結果、マキハタヤ・マリカは城の高い所にある立派な部屋に通された。 それは事務的な部屋ではなく応接室。 賓客をもてなすための部屋だ。 扉の取っ手が金色である。
上司の上司は肉付きの良い初老の男性。
「少々お待ちください」
極めて丁重にそう言って、部屋を出て行った。
単なる傭兵契約とは思えない雰囲気になって来た。 だがマリカは戸惑わない。 これまでに訪れた他の国でも同じことがあった。




