表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/6

第六話 ありがとう(最終話)

 翌朝。コーデリアは食堂へ向かいながら、昨夜の出来事を思い返していた。

 老商人のノーウッドが帰った後、ウィリアムとふたり夕食を用意する。

 我ながら良い出来だと思う。

 それを食べたウィリアムは、いつも通り優しく微笑んでくれた。

 でも、何かが違う。

 その「違い」が、コーデリアの心に小さな棘のように刺さっていた。


「おはよう、ウィル」


 朝の用事を済ませたウィリアムが食堂に入ると、コーデリアが朝食の準備を終えるところだった。エプロン姿の彼女が、誇らしげにテーブルを見つめている。


「おはようございます、お嬢様」


 その表情は、いつもより明るい。まるで、何か大きな決断をした後のような、吹っ切れた明るさだった。


「今日も良い朝ですね」

「...ええ」


 ウィリアムが手伝おうとテーブルに近づくと、コーデリアは慌てて彼の手を取った。


「だめよ。今日はあなたも、お客様なの。座って」


 そう言って、椅子を引いて勧める。ウィリアムは戸惑いながらも、促されるまま席についた。

 テーブルには、焼きたてのパン、バター、ジャム、そして温かいスープ。完璧な朝食。


「ウィル」

「はい?」

「あなた...何かあったの?」


 ウィリアムの表情が一瞬陰る。でもすぐにほほ笑んだ。


「いいえ、何も」

「もう無理はしていないのよね?」


 ウィリアムは優しく微笑んだ。


「お嬢様が成長されて、嬉しいのです」

「そう...」


 ウィリアムはコーデリアの入れた紅茶を一口飲んだ。

 おいしい。でも、そのおいしさが、今は何だか寂しく感じられる。

 ウィリアムは窓の外を見ている。その横顔は穏やかだが、どこか遠くを見ているようだ。


 コーデリアは胸の奥に、小さな不安を感じていた。

 何か...大切なことを見落としている。そんな予感がする。



 午後。コーデリアは辻馬車に揺られながら、白薔薇のティールームへ向かっていた。

 ひとりだけで外出するのは初めてのことだった。

 ウィリアムには「友人たちと会ってくる」とだけ伝えた。彼は少し驚いた様子だったが、すぐに微笑んで「どうぞ、お気をつけて」と見送ってくれる。


 白薔薇のティールーム。白い薔薇の装飾が美しく、上品な雰囲気の店内。コーデリアが入ると、既に三人の友人が席についていた。


「コーデリア!」


 セシリアが手を振る。


「ひとりで来るなんて、成長したわね」


 マリーが微笑む。アニエスも嬉しそうに席を勧めてくれた。


「みんな、急に呼び出してごめんなさい」

「いいのよ、どうしたの?」


 コーデリアは席に座り、深く息を吸った。


「実は...お茶会を開きたいの」

「お茶会?」


 マリーが興味深そうに尋ねる。


「ええ。ウィルに...日頃の感謝を、ちゃんと伝えたいの」


 三人が顔を見合わせる。そして、満面の笑みを浮かべた。


「素敵じゃない!」


 セシリアが目を輝かせる。


「成長したわね、コーデリア」


 マリーが優しく微笑む。


「ところで...」


 アニエスがいたずらっぽく笑う。


「今『ウィル』って言わなかった?」

「え?」


 コーデリアの頬が赤くなる。


「前は『ウィリアム』だったのに。いつから『ウィル』になったのかしら?」


 セシリアも加勢してくる。


「それは...その...」


 コーデリアは顔を真っ赤にして俯いた。三人がくすくすと笑う。

 アニエスが優しく手を握った。


「ロマンチックに演出しましょう!」


 セシリアも目を輝かせる。


「それに...」


 コーデリアは決意した。


「お父様と親しかった、あの商人の方にも来ていただきたいの」

「商人?」


 マリーが尋ねる。


「ノーウッドおじさまよ。ウィルが尊敬している方なの。ウィルの相談に乗ってくださるはず」



 お茶会当日。

 応接間には、白いテーブルクロスが敷かれ、コーデリアが用意した紅茶とクッキーが並んでいた。


「素敵なお茶会ね」


 マリーが微笑む。セシリアとアニエスも、嬉しそうに席につく。


「ありがとう、みんな」


 コーデリアは少し緊張している。手作りの紅茶とクッキー。完璧ではないけれど、精一杯作った。


「この紅茶...あなたが淹れたの?」


 マリーが一口飲んで、目を細める。


「ええ...苦くない?」

「いいえ、ちょうどいいわ」


 セシリアもクッキーを一口食べる。


「美味しいわよ!手作りって分かるわ」

「形が崩れてるのもあるけど...」

「気持ちがこもってるから、最高よ」


 アニエスが笑う。


 ウィリアムはテーブルに座って、それを見ていた。本来なら執事が主人と共に食事の席につくなど、あってはならないこと。しかし――


「ウィル、紅茶のおかわりはいかが?」


 コーデリアが優しく尋ねる。


「いえ、お嬢様。私がお注ぎ...」


 立ち上がろうとするウィリアムを、マリーが優しく制する。


「今日はあなたもお客様なのよ。コーデリアに任せてあげて」


 ウィリアムは戸惑いながらも、再び席につく。

 やがてお茶会の準備が整うと、コーデリアは皆に声をかけた。


「みんなに、聞いて欲しいことがあるの」


 三人が注目する。ウィリアムも、コーデリアを見つめる。


「私ね、ウィルに...」


 コーデリアは深呼吸した。


「ウィルに、大事な話があるの」


 セシリアが小声で「頑張って!」と言う。アニエスも頷く。マリーは優しく微笑んでいる。


 コーデリアは、ウィリアムを真っ直ぐに見つめた。今日こそ、ちゃんと伝える。日頃の感謝を。あの言葉を。


「ウィル、私ね...」


 その時。玄関のベルが鳴った。

 ウィリアムが立ち上がろうとすると、コーデリアが手で制した。


「私が行くわ」

「でも、お嬢様...」

「座っていて」


 セシリアとアニエスも「そうよ!」と声を揃える。


 コーデリアは玄関へ向かった。扉を開けると、そこには老商人のノーウッドが立っていた。手には、招待状を持っている。


「失礼します」


 ノーウッドは驚いたように目を見開いた。


「これはこれは、コーデリア嬢。自ら出迎えてくださるとは...本日はお茶会へのお招き、ありがとうございます。少し遅れてしまったかな?」


 その声には、感激が滲んでいた。コーデリアの成長を、心から喜んでいるのだ。


「いえ、来てくださって嬉しいわ、おじさま」


 コーデリアが微笑む。そして、ノーウッドのコートを預かった。その仕草は、まだぎこちないが、心がこもっている。


 応接間に戻ると、ウィリアムも立ち上がって礼をした。


「ノーウッド様、ようこそ」


 マリーが明るく言った。


「実は、コーデリアから重大発表があるのですよ」

「重大発表?」


 ノーウッドは興味深そうに眉を上げた。


「それは楽しみですな。良いことは重なるものです」


 彼は満足げに頷いた。そして、真剣な表情になる。


「ウィリアム君、私からも良い知らせがある」


 友人たちが顔を見合わせる。コーデリアも不安そうにウィリアムを見る。


「こちらの皆様にも、お聞きいただきたい」


 ノーウッドはゆっくりと封筒を開いた。


「マグナス公爵家から、正式な返事が来た」


 マリーが小さく息を呑む。マグナス公爵家。王家にも連なる大貴族。


「え...?」


 セシリアが戸惑った声を上げる。アニエスも困惑している。


「公爵家って...いったい何の話ですの?」


 コーデリアはウィリアムを見る。しかし、彼は目を逸らした。


「ウィリアム君を、破格の条件で迎え入れたいそうだ」


 静寂。

 コーデリアは、言葉の意味が理解できなかった。


「ウィリアム君、おめでとう」


 ノーウッドが微笑む。でも、ウィリアムの表情は複雑だった。


「待って...」


 コーデリアが震える声で言った。


「おじさま、どういうことですか?」



 ノーウッドは、ゆっくりと説明を始めた。先日、ウィリアムから相談を受けたこと。マグナス公爵家が優秀な執事を探していたこと。そして、破格の待遇での招聘の話。


 コーデリアは混乱していた。

 公爵家?破格の条件?迎え入れる?


「ウィル...どういうこと?」


 コーデリアの声が震える。

 ウィリアムは深く息を吸った。


「実は...」


 彼はゆっくりと、説明し始めた。


「私は奴隷身分です」


 友人たちが驚く。

 コーデリアも、次の言葉に備えることはできなかった。


「先日、ノーウッド様に相談し...私という奴隷を、公爵家に売却していただくことになりました」


 売却。

 その言葉が、コーデリアの胸に突き刺さった。


「売却金で、お嬢様が一生不自由なく暮らせる資金が確保できます」


 ウィリアムは静かに続けた。


「これで...もう、お金の心配はありません」


 彼は微笑んだ。悲しげに、でも優しく。


「お嬢様は、もう自立されました。私がいなくても大丈夫です」


 友人たちが絶句している。マリーは手で口を覆い、セシリアは涙ぐみ、アニエスは固まっている。


 コーデリアは、まだ理解が追いつかなかった。


「...え?」


 小さな声が、震える。


「売却...って...」

「はい」


 ウィリアムは優しく答える。


「あなたが...いなくなる...?」


 その言葉を口にした瞬間、現実が襲ってきた。


「いや...いや、そんな...」


 コーデリアは椅子から立ち上がった。

 手が震える。足が震える。


「ふざけないで!!」


 コーデリアの叫びが、部屋に響いた。


 全員が驚く。ウィリアムも、老商人も、友人たちも。

 今まで見たことのない、コーデリアの怒りの表情だった。


「どういうこと!?私に相談もなく!?」


 涙が溢れる。でも、止められない。

 ウィリアムが一歩前に出る。


「お嬢様...」

「黙って!!」


 コーデリアは手を振り上げた。


「私のため?私のため!?」


 涙が頬を伝う。


「誰が、あなたを手放せって言った!?」

「誰が、一人で生きろと言ったの!?」


 友人たちも、涙ぐんでいる。マリーは目を閉じ、セシリアは泣いている。アニエスは拳を握りしめている。


「あなたは...あなたは、私が何を望んでいるか...」


 コーデリアの声が、震える。


「何も...何も分かっていない!!」


 ウィリアムは動揺していた。今まで見たことのない、コーデリアの姿。


「お嬢様...しかし、これは...」

「黙って!!」


 コーデリアは涙を拭おうともせず、ウィリアムを見つめた。


「あなたは...いつも、私のためって言う」

「でも...本当に、私のためなの?」


 ウィリアムが言葉に詰まる。


「私は...お金なんか、要らない」


 コーデリアは震える声で言った。


「あなたが...あなたがいなくなるくらいなら...」

「お金なんて...全部、要らない!!」


 その叫びに、ウィリアムは固まった。


「お嬢様、お聞きください」


 ウィリアムは必死で説明しようとする。


「私の私財は、もう底をついています」

「このままでは、半年も持ちません」

「お金がなければ、生きていけないのです」


 コーデリアは涙を拭った。


「だったら!」


 涙声で、でも力強く言った。


「だったら、一緒に働けばいいじゃない! 私も、何かできることがあるはず!」


 その言葉に、ウィリアムは言葉を失う。

 確かに、お嬢様はまだ多くのことができない。紅茶は苦く、クッキーは形が崩れている。


 でも。


「それでも!」


 コーデリアは叫んだ。


「それでも、諦めない!」


 マリーが立ち上がった。


「二人とも、落ち着いて」

「ちゃんと話し合いなさい」


 セシリアがコーデリアの肩を抱いた。


「深呼吸して」


 アニエスも優しく声をかける。


「コーデリア、あなたの気持ちを伝えなさい」


 コーデリアは深呼吸した。一度、二度。

 そして、ウィリアムを真っ直ぐに見つめた。


「ウィル、聞いて」


 涙を拭い、震える声を抑えて。


「あなたは...私にとって、どれほど大切か」


 ウィリアムが目を見開く。


「お金なんて...比べ物にならないくらい、大切なの」


 コーデリアは一歩前に出た。


「私は...まだ不器用よ」


 テーブルのクッキーを指す。


「紅茶だって、まだ苦い。クッキーも、形が崩れてる。料理も、掃除も...完璧じゃない」


 自分の無力さを認める。それは、辛いことだった。


「でも!」


 コーデリアは声を張り上げた。


「あなたと一緒だから、成長できるの」


 ウィリアムの目に、涙が浮かぶ。


「これからも...もっと成長する」


 コーデリアは手を差し伸べた。


「いつか、あなたの隣に立てるように。いつか、あなたを支えられるように」


 その手は震えていたが、決意に満ちていた。


「だから...」


 涙が溢れる。でも、言葉を続ける。


「だから、待ってて欲しいの。一緒に...一緒にいて欲しいの」


 セシリアが涙ぐんでいる。アニエスは拳を握りしめている。マリーは優しく微笑んでいる。

 コーデリアは、最後の言葉を紡いだ。


「私たちは...家族になれる」


 ウィリアムが息を呑む。


「奴隷と主人じゃなく」


 友人たちが小さく叫び声を上げる。


「子供も...たくさん作りましょう」


 コーデリアは微笑んだ。涙でぐちゃぐちゃの顔で。


「あなたが欲しかった、家族を。私も...家族が欲しかったの」


 コーデリアは手を差し伸べたまま、ウィリアムを見つめる。


「さぁ、ウィリアム」


 その声は、震えていたが、力強かった。


「どうですか?」


 ウィリアムは動けなかった。

 コーデリア...あなたは...

 こんなにも...私を...


 涙が溢れる。止められない。


「お嬢様...いえ、コーデリア...」


 声が震える。


「でも、もう決めたことなのです」


 その時。


「待て、ウィリアム君」


 ノーウッドが静かに言った。

 全員がノーウッドを見る。


「慌てるな。話を最後まで聞け」


 ウィリアムが顔を上げる。


「ノーウッド様...?」


 ノーウッドは深く息を吸った。


「奴隷だの身売りだの何の話だ? 私が持ってきた公爵家の提案は、最初から違うだろう?」


 全員が息を呑む。


「マグナス公爵家が求めているのは...」


 ノーウッドはゆっくりと言葉を紡ぐ。


「奴隷ではない。執事長としての、正式な雇用だ」


 ウィリアムが驚愕する。コーデリアも、友人たちも。


「破格の給与」

「奴隷身分からの解放」

「住居の提供」


 ノーウッドは続けた。


「奴隷の身売りだなんてウィリアム君、君だけが言ったことだ。私はそんな話を公爵様にしていない。なによりも...」


 彼は微笑んだ。


「妻や子がいるなら一緒に来てもいい、という条件だ」


 沈黙。

 長い、長い沈黙。


 ウィリアムは信じられないという顔をしている。


「なぜ...なぜ、最初にそれを言わなかったのですか」


 ノーウッドは厳しい表情になった。


「お前が、『奴隷として売ってくれ』などと馬鹿な事を言ったからだ」


 その声には、深い想いが込められていた。


「お前の覚悟を...試したかった」


 ノーウッドの表情が和らぐ。


「そして...…お嬢様の覚悟も、見たかった」


 彼は二人を見つめた。


「二人とも...」


 ノーウッドは微笑んだ。


「合格だ」


 マリーが微笑む。セシリアは涙を流している。アニエスは拍手している。


 コーデリアは、まだ状況が飲み込めていなかった。


「つまり...」

「つまり、ウィリアムは...」


 ノーウッドが頷く。


「奴隷ではなく、自由な身分で働ける。そして、家族と一緒に暮らせる」


 コーデリアの目が輝いた。


「本当に...?」

「本当だ」


 ノーウッドは二人を見つめた。そして、優しく微笑んだ。


「実はな、マグナス公爵家から私に話が来たのは、ある噂がきっかけだったのだ」


 友人たちが顔を見合わせる。


「商人の間では『優秀な執事がいる』という話が広まっていた。宮廷に出入りする商人からも、同じ名前が上がっていた。そして、社交界のサロンでは『没落令嬢に尽くす執事の美しい物語』が評判になっていたそうだ」


 ノーウッドは三人の友人を見渡した。


「公爵家の耳にもその噂が届いてな。『ウィリアム・グレイという執事について知っているか』と、私に問い合わせが来たのだ」


 マリー、セシリア、アニエスが、驚いたように目を見開く。


「旧知のエヴァーハート家の執事だと答えたところ、ぜひ迎え入れたいと。君たちが撒いた種が、公爵家の耳に届いたのだよ」


 セシリアが小さく「私たち...?」と呟く。マリーは目を潤ませ、アニエスは拳を握りしめている。


「君たちの友情が、この二人を救ったのだよ」


 ノーウッドは穏やかに言った。

 コーデリアは友人たちを見つめた。涙が溢れる。


「みんな...大好きよ!」


 言葉にならない。ただ、感謝の気持ちが胸いっぱいに広がる。

 三人も涙ぐんでいる。言葉はいらない。ただ、温かい視線が交わされた。

 ノーウッドは咳払いをして、場を引き締めた。


「さて、ウィリアム君」

「公爵様は『妻や子もいるなら』と言ってくださったが?」


「います!」


 コーデリアが即答した。

 全員が驚く。


「妻がいます!」


 コーデリアは胸を張って言った。


「私です!!」


 友人たちが拍手喝采する。セシリアは「言った!」と叫び、アニエスは「すごい!」と拳を突き上げる。マリーは涙を拭いながら微笑んでいる。


 セシリアが、ウィリアムに向かって言った。


「さぁ、ウィリアム!」

「してちょうだい!」


 アニエスも続ける。


「プロポーズよ!」


 マリーも優しく頷く。


 ウィリアムは動揺していた。顔が赤くなり、視線が泳ぐ。こんなに慌てた彼を、コーデリアは初めて見た。


「お、お嬢様...いえ、コーデリア...」


 彼は深く息を吸った。そして、椅子から立ち上がると、コーデリアの前に膝をついた。


「私は...あなたの執事として、ずっと仕えてきました」


 その声は震えている。


「でも、もし許されるなら...」


 ウィリアムはコーデリアの手を取った。


「あなたの夫として、一生そばにいさせてください」


 静寂。

 コーデリアは涙が溢れた。


 答えは「イエス」でも、「愛してる」でもなかった。


「ありがとう、ウィリアム」


 その言葉が、全てを語っていた。


 ウィリアムは涙ぐんでいる。


「コーデリア...」

「ウィル」


 二人は見つめ合う。


 ノーウッドが優しく言った。


「二人とも...」

「幸せになれよ」


 コーデリアは深々と頭を下げた。


 ウィリアムも頭を下げる。


「ノーウッド様、本当に...」


 二人は顔を上げ、見つめ合った。


「ウィル...」

「コーデリア...」


 もう、何も言葉は要らなかった。

 「愛してる」なんて言葉は、必要ない。

 「ありがとう」と「献身」が、全てを語っている。


 友人たちが温かく見守る。ノーウッドも満足そうに微笑む。


 応接間には、温かい空気が流れていた。

 白い薔薇が、窓辺で二人を祝福するように揺れている。



 数ヶ月後。

 マグナス公爵家の庭。白い薔薇が、美しく咲き誇っていた。


 ウィリアムは執事長として、立派に働いている。公爵夫妻からの信頼も厚く、屋敷の使用人たちも彼を慕っている。


 庭の一角で、コーデリアが使用人たちに紅茶を振る舞っていた。


「お嬢様、美味しいですよ」


 若い使用人が微笑む。


「まだ少し苦いですが...」


 コーデリアは照れたように笑った。


「いいえ、心がこもっていて、最高です」


 別の使用人も頷く。


 ウィリアムが近づいてくる。


「コーデリア」

「ウィル」


 二人は微笑み合った。


 ウィリアムは、コーデリアのお腹に優しく手を添える。

 そのお腹は、少し膨らんでいた。


「愛しています」


 ウィリアムが静かに言うと、コーデリアが微笑えんだ。


「ありがとう、ウィル」


 献身と感謝で結ばれた、二人の物語。


(完)

最後までお読みいただきありがとうございました。

よろしければ高評価とブックマークをお願いいます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ