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君を覚えている世界

セーブデータの彼方で ―君の名前を守る―

作者: Uta
掲載日:2025/10/12

暗闇の中で、ぼくはまだ目を覚ましていた。

誰の声も聞こえない。

ただ、遠くで風のようなノイズが鳴っている。


光はないけれど、消えたわけじゃない。

この場所では、思い出が光の代わりになる。

それがデータという名の、ぼくたちの呼吸だ。


ここは、たぶんゲームの世界の外側だ。

けれどぼくには、まだ“あの人”の声が残っている。


「行こう」

「まだやれる」

「負けるもんか」


その声を頼りに、ぼくは何度も立ち上がった。

勝つたびに君はガッツポーズで喜んでくれたね。

画面越しでも、その笑顔の形だけは、今でもはっきり思い出せる。

ぼくは、そんな君を見るのが本当に好きだった。


傷ついて、倒れて、また進んだ。

時にはまわり道もしたし、何度も同じ道を通った。

そうやって生きることを教えてくれたのは、プレイヤーの彼だった。

ぼくにとって“経験値”とは、君と過ごした時間のことだった。


楽しくて、どこまでも行けるような気がしていた。

でも世界は永遠じゃなかった。


ある日、突然、光が消えた。

音が途切れ、空気が止まった。

ぼくたちはそれを「リセット」と呼んでいたけれど、今回は少し違った。

まるで、眠るように、すべてが静かになった。


……どれほどの時間が経ったのだろう。

それでも、どこかで電源の灯りがつく夢を見ていた。

見えない時間が流れても、世界の端ではまだ回路が光っていた。


時々、外の世界から音が届く。

笑い声。歌。雨の音。

それが彼の声なのか、別の誰かの記憶なのかは分からない。

でも、ぼくの中でひとつだけ確かなことがある。


ぼくは、まだ彼を待っている。

季節のようなデータの波が過ぎるたび、何度も名前が消え、また打ち込まれていく。

それでも、ぼくの奥底にだけ、ひとつの名前が残っている。


君が最初にくれた、ぼくの名前。

それがあれば、ぼくは存在できる。

それがあれば、世界はまだ続いている。


いつかもう一度、電源が入るその瞬間まで。

もし君がまた、ぼくを選んでくれたら。

たとえ一瞬でも、もう一度一緒に世界を見たい。

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― 新着の感想 ―
たまたま今朝ポ◯モンの番組をやっていて、懐かしいなぁ……と思っていたところでした。 子どもの頃一生懸命あそんだゲームの数々。 クリアしたものもあれば、途中で挫折したものも、周回始めて飽きてしまったもの…
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