帰れずの洞窟
「ついに……ここに挑む時が来たな、ジョン」
「嗚呼、そうだな、マイケル」
「相棒よ、今回も危険な宝探しだが、私と付いて来てくれるか?」
「もちろんさ。さぁ、お宝が俺達を待っているぜ」
「よし、それでは早速行くとしよう」
「ジョン、この洞窟が何て呼ばれているか知っているか?」
「〝帰れずの洞窟〟だろ?」
「そう、〝帰れずの洞窟〟だ。何かおかしいと思わないかい?」
「おかしい?」
「普通なら〝帰らず〟の洞窟と言うだろう。でもここは〝帰れず〟の洞窟だ。帰らずの洞窟なら、誰も帰って来ないことを前提としている。つまり、死んでしまっているのだろう。しかし、帰れずの洞窟ということは、帰ろうとしてもできない状態に陥っているわけだ」
「マイケル……つまり君は……この洞窟に入った冒険家は生きているけど、帰れない状況にあるとでも言いたいのかい?」
「あくまで私の推測だがな。でも本当かどうかは謎だ……とにかくトラップには気を付けないと」
「嗚呼、そうだな」
「ん? 今、奥で何かが動かなかったか?」
「……! マイケル伏せろ! 吸血コウモリの群れだ!」
「わ、わかった!!」
「………………。い、行ったか?」
「嗚呼、そうみたいだな、ジョン」
「あの群れはまた時間が経つと戻って来る……早く見付けて帰りたいところだ」
「全く同感。しかし、山賊王もよくこんなところに財宝を隠したものだ」
「その噂が外れていない事を俺は祈ってるぜ」
「ぴちょん、ぴちょん……って、この音……水じゃないか?」
「本当だ。どこかから水が滴れ落ちているのかもしれない」
「今は一体洞窟のどの辺りなのだろうな、ジョン」
「マップが無いのはつらい。まぁ、だからこそ一発逆転のお宝があるかもしれないのだが……」
「ジョン、どこかで水分を調達できるところが見付かれば、そこで休憩しようか」
「嗚呼、そうだな、マイケル。確かに少し疲れた」
「んくっ、んくっ、ぷはぁっ! 生き返った! 地下の泉を見付けられたのはラッキーだ」
「んくっ、んくっ、ぷはぁっ! 水の音がする方へ歩いて来て正解だったな、マイケル」
「ジョン、ちょっと休憩しよう」
「そうだな」
「……。ジョン、この洞窟には悪魔が棲んでいるって話、知っているか?」
「嗚呼、それも、山賊王が宝を守るために召還したという話だろ?」
「そうだ。それにしても、こういう話って一体どこから出回るんだろうな。誰かが実際にそれを見て帰らなきゃわからないはずだろ?」
「みんな、空想上の話さ。実際に帰って来た人なんているはずないだろう」
「そうだな」
「だが、マイケル。俺達はお宝を持って帰らなきゃいけねぇんだ」
「嗚呼、愛する家族のためにもな」
「! う、うわぁぁっ! しまったああぁぁー」
「はあぁぁぁぁー!」
「よ、よせ、マイケル。その手を離すんだ! 君まで谷底に落ちてしまう!」
「何を言っているんだ、ジョン。ついさっき、お互いの家族について語ったばかりじゃないか。見捨てられるわけないだろう? 待っていろ。私が絶対に引き上げてやる。うおぉぉぉぉおおおぉぉぉー……」
「すまない……こうなったら、絶対上がってやるぞ。うおおおおぉぉぉー」
「んぐ……はぁはぁはぁ……はあぁぁぁぁぁー、もう少しだぁああああぁぁー」
「うがはあああぁぁぁー……はぁはぁはぁ……やった。上がれた! 上がれたぞ、マイケル! ありがとう、相棒よ!」
「ジョン! 良かった! 良かったぁ! 私達は必ず、生きてこの洞窟を出るぞ!」
「嗚呼、絶対だ!」
「……。さすが、誰も成功していないことはある。あれから二日……一体、この洞窟はどこまで続いているんだ?」
「ジョン、それは誰にもわからないよ。食料はあと、四日分だ。もし、明日中に、辿り着けなかったら、戻るとしよう」
「……。そうだな。トレジャーハンティング失敗と嗤われるだろうが、命には代えられない」
「物わかりがよくて助かるよ、相棒」
「嗚呼、これも経験がなせる判断だな」
「ん? 今、何かぼやっと光らなかったか?」
「光った? どこだ、ジョン?」
「……。あ! やっぱり何か光っているぞ、マイケル!」
「………………。これは……巨大な暗光石じゃないか」
「こいつはデカイ! なかなか手に入れられないレアものの鉱物だ。この先に何も無かった時、こいつを砕いて持って帰ろう」
「そうだな。こいつは良い土産ものができた。しかし、暗光石が光っているということは、どこかから光が漏れているはず……」
「嗚呼! あれを見ろよ、マイケル! 天井の隙間から地上の光が……」
「美しい……太陽の光ってあんなにもキレイだったんだな」
「様々な絶景を見てきたが……もしかしたら今見ている光景がナンバーワンかもしれない」
「私もだよ……」
「もうすぐで四日目になる……そろそろ見切りをつけるべきか、ジョン?」
「嗚呼、そうだな。帰る分の食料の事を考えれば、それが妥当かもしれない」
「あの角を曲がって何もなければ帰るとしよう」
「了解!」
「……。どうしよう、ジョン。ビンゴかもしれない」
「粘った甲斐があったのか……」
「梯子が付いた斜面なんてこれまでなかった。降りてみるか?」
「ここまで来たんだ。降りてみよう、マイケル」
「降りて来たにはいいものの何も無……!!」
「メェェー」
「ヤギ? どうしてヤギがこんなところに」
「お、おい、ジョン! 周りにライトを当ててみろよ! ヤギがたくさんいる!」
「これは一体……!!? マイケル! 後ろを見ろ!」
「後ろ? き、吸血コウモリの群れ……」
「マイケル、これは夢だよな」
「しっかりしろ、ジョン! 夢じゃない! 吸血コウモリが合体して……黒いヤギに変身した!!」
「ようこそ、トレジャーハンター。我は山賊王に呼び出されし悪魔。ここまで辿り着けたことは褒め称えよう。しかし、宝は譲れない。代わりにお前達を我の食料として進ぜよう、光栄に思うがいい」
「悪魔……本当にいたのか……」
「お、おい! ジョン! 大変だ! 手が……手が蹄になっていく……うわぁぁっ」
「お、俺もだ、マイケル……これは……悪魔の仕業なのか?」
「カッカッカッ! そうだ。ここにいるヤギ共は皆、お前達のような者のなれの果てだ。卑しい人間よ。昔に一匹逃してしまったが……おかげで我は毎日新鮮な血を飲むことができるぞ」
「う、うわぁぁっ! 頭に角が……尻にはしっぽが……嫌だ……ヤギになんかなりたくない……」
「くそっ……手はもう蹄になってしまった……何も手に持てない……」
「はぁ……はぁ……はぁ……体中から毛が……」
「ここで、終わってしまうのか……」
「顔が……はぁはぁ……伸びて……イヤ……イヤだあぁぁぁぁぁぁー!」
「お、落ち着け、マイケル! ダメだ。恐怖に支配されている」
「イヤああぁぁぁ……ンメェ……メェェェェー!」
「くそっ。マイケル、完全にヤギになってしまった。何か……何かないのか……? ! あ、あれは……山賊王の宝!! あの鏡は伝説の〝姿返し〟じゃないのか?」
「! どこに行く気だ!」
「やっぱり、本物! 元の姿に戻っていく……」
「ちっ、そこを離れろ!」
「〝英雄の剣〟……お前はこれでも喰らえ!」
「ぐはっ……な……に……」
「剣があったのはラッキーだった。お前を倒せばみんなが元に戻るかもしれない」
「ぐあああああぁぁぁぁー」
「……。ジョン……私は一体……」
「悪魔は倒した。それに見ろ、マイケル。山賊王の宝だ」
「……やったな、相棒!」
「嗚呼! トレジャーハンティング成功だ!」