第19章 地雷原の踊り子
女子大生の弘美を待ち受けていた大都会の罠。孤立無援の弘美は都会の狼たちの牙から逃れられるか。
ありえない。
私が不二子に負けるなんて、そんなバナナ・・・
もしかして、夢?
痛てッ!
「ウソでしょー。高子、私をかついでるんじゃないの?」
高子から、不二子が男子東大生の間では結構人気があり、すでに彼氏もいるという話を聞いた私は軽い眩暈と同時に怒りさえこみ上げてきた。
上京してからはや九ヶ月、年末年始を実家で過ごすために帰省していた私は、久々にジイの顔でも拝みにゆこうかと思いつき、晦日の前日、中津の唐揚げを手土産に篠崎家を訪れた。
肝心の不良老人は、海南銀行本店の娯楽室でOB連中との年忘れ麻雀大会の最中ということだったが、ちょうど帰省していた高子から引き止められ、ランチをご馳走してもらうことになった。
「さすが東大生というべきか、あの人たちってより難解でシュールなものに魅かれるみたいなのよね。不二子ってただの変人っていうんじゃなくて、頭は切れるし、弁も立つでしょ。そうそう、メンサの試験だって一発でパスしたそうよ」
高校時代の友人に東大生が多い高子は、しばらく会っていない不二子の情報もしっかりとキャッチしていた。
「メンサって、あの知能指数が人口の2%以内でなきゃメンバーになれないってやつでしょ」
「うん、それも風邪引いて点滴打ちながらっていうんだから、人間業じゃないわよね」
そりゃあそうでしょ。そもそも人間じゃないし。
それにしても、不二子に彼氏なんてとても信じられない。
催眠術でも使ったか、それとも洗脳したのか。
もしかしたら、変な呪術でも会得したのかもしれないな。
不二子が男と抱擁している姿❘
うーん、雌のオオカマキリが交尾しながら、雄の頭部を齧っている姿しか想像がつかない。
うえー、気分悪くなってきた。
「ちょっと弘美、何か変なこと想像してるでしょ」
「いやー、不二子って細胞分裂して子孫を増やすしかないって思い込んでたからさあ」
「はあ?両性具有じゃあるまいし。ちゃんと霊長類らしく、やることはやってるわよ」
「高子こそ霊長類はあんまりでしょ。せめてホモ・ハビリスぐらいにしときなさいよ」
「それだってほぼ猿じゃない。ところでそういうホモ・エレクトゥスさんには彼氏いるのかな」
高子ってば痛いとこ突いてくるなあ。
そう聞いてくるってことは高子、もしかして彼氏できたのかな。
「まあ、今んとこ本命はいないけど、ボーイフレンドの中からテキトーに見つくろってるってとこかな」
私が作り笑いを浮かべながらお茶を濁そうとすると、
「どーせあなたのことだから、MARCHあたりの茶坊主引き連れてアタナハンの女王気取りってところかしら」
高子の一言は、スパイシーホットなワイルドターキーを鼻から注ぎ込まれたかのように、私の悪知恵回路を一瞬でシャットダウンさせてしまった。
ううーん、図星だけに辛いわ。
私の周りって何故か中途半端な小金持ちの軽い男ばかりで、女性力に磨きをかけてくれるような知的なエグゼクティブとは縁がないんだよなー。でも、媚びてくれる取り巻きもいなきゃいないで寂しいし、所詮は孤島の女王の器なのかな、私って。
「そういう高子はどうなのよ」
ある程度の予想通りの答えが返ってきた。
「彼氏?いるよ。っていうかもう飽きちゃった」
やっぱりねー。高子ってパッと見こそ平均的な博多娘かも知れないけど、しれっと身につけているもののほとんどが一流ブランドのオーダーメイドだし、気品っていうか生まれ持ったセレブムードが 無意識のうちに滲み出てるから、砂糖に群がる蟻みたいに男だって寄ってくるわよね。
だけど、飽きたってどういうことなんだろう。
言動や性格にうんざりしてきたのか、それとも・・
「言っとくけど、弘美が想像しているような身体の相性が悪いとかじゃないからね」
えー、私のお下劣な性格までお見通しってわけー。
「じゃあ何が気に入らないのよ」私が少々憤慨しながら尋ねると、
「後ろ姿がダサいのよ」ときた。
実は高子、SKDのターキー(水の江滝子)ファンだったジイの影響で歌劇にはまり、小学校時代から、ジイにせがんで宝塚歌劇団の公演に足繁く通っていた筋金入りのヅカファンなのだ。
中でも遼河はるひや真飛聖のような男役に対する憧れが強く、一時は本気で宝塚音楽学校の受験を考えていたが、身長が一五八センチで打ち止めになってしまったため、タッパ不足で(ルックスも無理かなーと思う)断念した過去がある。
要するに、宝塚の男役トップスターの洗練された立ち振る舞いにこそ男の色気を感じるようになった高子には、巷のスタイル抜群でファッションセンスもピカ一の男ですら、未開地の蛮族にしか見えないのだ。
中高時代は女子高で必然的に男に縁がなかったとはいえ、負けず嫌いの超お嬢様にとって彼氏いない歴二十年のビンテージラベルを貼られる屈辱は耐え難かったようで、セレブ子女御用達の隅田川合コンクルージングで、積極的にモーションをかけてきた長身ちょいイケ面のW大生と交際してみることにしたらしい。
男性に対する免疫力の弱い高子は、甲府地検検事正の次男坊という血統に加えて、男子カーリングのインカレ選手というスポーツマン(というのかな?)の彼とあっという間に恋におち、女友達からも「高子の彼氏ってイカしてるよね」と羨望のまなざしで見られることで得意になっていた時期もあったという。
ところが、一直線に恋に落ちた時というのは、感情が加速していて視界が狭くなるぶん、一時期のお昇りさん気分が落ち着いてくると、かえって今まで見えなかった部分がより鮮明に見えるようになり、幻滅してしまうことも少なくない。
高子の場合は、妄想状態のまま恋に落ち、覚醒したとたんに馬車がかぼちゃだったことに気付くという恋愛ビギナーにありがちな症例だった。
待ち合わせをしている時の立ち姿、別れて去ってゆく時の後姿、しょっちゅう猫背で携帯ばかりをいじっている彼氏を遠目に眺めているうちに、王子様の正体は『ノートルダム・ド・パリ』のカシモドだったことを悟ったのだそうだ。
高子の男の評価基準が偏向的であることも確かだが、暇さえあれば携帯アプリというのも芸がなさすぎる。まだ頬杖ついて物思いに耽っている姿とか紫煙をくゆらせている姿の方が哀愁があって、男として絵になると思う。
四六時中せわしなく動き回っている小型齧歯類に愛着を感じる人もいるだろうけど、私はふてぶてしい態度で眠りかぶっている猫科の肉食獣に見入っている方が心が癒されるクチだ。
そういえば高子んちって、じいはいっぱしのレーシングドライバー気取りで自宅で筋トレしてるし、父親の趣味はアーチェリー、母親は元国際線のキャビンアテンダントだから家族揃って姿勢がいい。
私は高子のような神経質なほどの立ち姿フェチではないけれど、男性の本質を見抜く手段として「男は背中で語る」という表現ほど秀逸なものは他に思い浮かばない。
長身で肩幅の広い緒方さんは安心感があるし、マリリンのパパもすらりとしてダンディだ。まあ、麻吉親父はゴジラだけど、ポチだって一応立ち姿はモデル級だもんね。
そう考えると、私って世間一般で言うところのカッコイイ男が近くにいたから、自然と恋愛のハードルが高くなっていたのかもしれない。
高子が元彼と写っている携帯写真を見せてもらっても、まだポチの方がマシとしか思えない。ということはつまり、こういう日常に慣れてしまったがゆえに、ときめきっていう感情が鈍感になってきてるってことなのだろうか。
そんなんじゃ一生彼氏できないよ。
男好きと紙一重でも、カトリーヌみたく恋愛体質にならないとバリやばいわ。
「そういえば、イブに銀座でカトリーヌに会ったよ」
「どうせまた、カルガモ男たち引き連れて歩いてたんでしょ」
「ううん。その時は一人だったけど、今の彼氏はオマーンの王族のドラ息子なんだって」
「ええっ、夏に会った時はオーストリア人の特派員記者とアツアツだって言ってたのに、もう鞍替えしちゃったの?」
「しょうがないんじゃないの。産油国の御曹司連中って、そんじょそこらのバブリー坊やたちと違って、ばら撒き方が放水車だもんね」
「でもさ、イスラム教徒だからお酒飲めないんでしょ。だったら、キャバクラでシャンパンタワー立ててはしゃぐわけでもないだろうし、いったい何して遊ぶの?」
「自家用ジェットやヘリポート付きのクルーザーで、釜山やマカオのカジノに出かけたり、世界中の五つ星レストランめぐりしたりしてるそうよ。ショッピングだって一流デパートやブティック貸し切りだもの。そういえば、ニューイヤーはメリアハバナ(キューバの高級ホテル)で過ごすんだって」
「でも、高子んちだって買い物はほとんど外商だし、海外の別荘にバカンスで出かけてるじゃない」
「全然格が違うわよ。うちの会社のヘリじゃ海外なんて行けないし、お爺さま以外は海外旅行もビジネスクラスよ。カトリーヌみたいなマイルハイクラブの会員とは一生縁がないでしょうね」
ヘリで国内移動できるだけでもあんたは別世界の住人よ、高子。
平成二十六年 初夏
「オーマイゴッシュ!ヒロミ、ヴィンテージポーシュナンテノッテルノ?」
私が渋谷のスクランブル交差点で信号待ちをしていると、テレビでよく見かける南米出身のJリーガーと腕を組んで横断歩道を渡っていたカトリーヌがいきなり声をかけてきた。
こいつまた男変えてんじゃん、とちょっとムカついたけど、男に手を引っ張られて名残惜しそうに「ウィルユー、ギブミー、アライド、サムデイ?(いつか乗っけてくれない?)」と手を振りながら去ってゆく姿を見ていると、何だかほっこりとした気持ちになった。
大学の入学祝いに父が車を買ってくれることになったので、私はジェームズ・ディーンの愛車だった一九五五年式のポルシェスパイダー500をねだったのだが、実用性に乏しいうえ、福岡市の一等地で新築の3LDKマンションが買える価格ということで、即却下されてしまった。
かといって今時の水冷ポルシェじゃあ図体ばかりでかくてエグゾーストノートも味気ないし、金持ちの子弟が集うK大では単なるドイツ製大衆車でしかない。で、ジイに相談したところ、対候性もまずまずの356コンバーティブルDがよかろう、ということになった。
ジミーは356でもアマチュアレースに出走していたので、一応ジミーつながりということで、私もそのへんで妥協することにした。
ジイの知り合いが程度の良い右ハンドル車を所有しているということで話をつけてもらい、相場より安価で譲っていただいた一九五九年式の356(サンゴロー)は、小さなバスタブのようなフォルムが実にキュートで、眺めているだけでも飽きが来ない。こんなに小さな車体なのに足元は広々しているし、いざとなれば四人乗れるのだから、使い勝手の良さはファミリーカーと変わらない。それでいてルマンに出場した快脚ぶりは、現代の高速道路でも過不足はない。
雨天時に幌を上げて走ることを考慮して、六ボルトの貧弱な電装を十二ボルトに換装し、助手席吊り下げ型のエアコンも装着してある。
さすがに東京でもヴィンテージポルシェを転がしている十代の女の子にはお目にかかったことがないから、アトランティックブルーの356を運転中の私は結構目立っているようで、ガソリンスタンドやドライブインでもよく声をかけられる。
そのうちメインテナンスをお願いしている整備工場の社長の紹介で、旧車の走行会やマニアミーティングに参加するようになり、旧車オーナーの知己も増えていったが、高校時代の仲間がいない世界には大きな危険が潜んでいた。
私はとあるミーティングで、真紅のスバル360を所有する三十歳の女性美容師と知り合った。彼女は偶然にも私のブログのファンだということで意気投合し、時折渋谷のダイニングカフェやレストランで夕御飯を一緒に楽しむほど親密な関係になった。
ファッションセンスにも秀でていた彼女は、私のおしゃれの指南役のような存在でもあり、私自身、姉のような親近感を覚えていたのだが、それらは全て私を罠に誘い込むための撒き餌だった。
今でもあまり思い出したくはないが、ゴールデンウィーク明けのある日の午後、彼女から、合コンのメンバーが一人急用で来られなくなったので、代わりに参加してほしい、という電話があった。
本来、合コンはノーサンキューの私も、チャラい学生たちと違い、相手が世間でよく知られている大手広告代理店の若手社員というところに少し魅かれるところがあって、待ち合わせの六本木のダイニングバーまでのこのこと出かけていった。
合コンは三対三で、相手は若手というには微妙な三十代前半くらいの年恰好だったが、ブランドスーツに高級時計と身なりも良く、芸能界の裏話など話題も豊富だったので、私も大人の世界に一歩踏み込んだような心地よいときめきとともに、時を忘れて六本木の夜にどっぷりと浸っていた。
途中からは記憶がない。
上半身に圧迫感を感じた私がうっすらと目を開けた時、目の前に合コン相手の一人の顔があった。
「ん?なんで私この人と一緒にいるの?」思考回路がゆっくりと起動中で、まだ事態を飲み込めていない私は、抵抗する間もなくいきなり唇を塞がれてしまった。
無精髭が頬に突き刺さる痛みとともに、私の五感センサーはようやく立ち上がったが、身体に力が入らない。やがてなめくじのような舌が私の口腔内をのたうつ感触が脳神経に伝わるや、迎撃スイッチがONになった。
私が舌に思い切り噛み付くと、男は類人猿のような雄たけびをあげながら、もんどりうってベッドから転げ落ちた。
腰が抜けたようになった私は、散乱している服をバッグに押し込むと、トップレスのまま這うようにして部屋を出て、非常階段の踊り場の陰に身を潜めた。そこから、無意識のうちに携帯でポチにSOSを発信すると、真夜中にもかかわらず、ポチは2コールで電話に出てくれた。
「そいつの携帯だけ奪って逃げろ。俺もすぐに行くから」と指示を受けたものの、ポチがいるのは福岡だ。
コイツ、使えねーやつ、とキレそうになったが、怒りで脳の血流がよくなり意識がはっきりとしてきたので、着衣を整えてからこっそりと部屋に戻ってみると、私の片方のパンプスが引っかかってオートロックのドアが半開きになっていた。
耳を澄ますと、男が呻きながら内線でフロントに救急車の要請をしているようだったが、タオルを口に当てているのか、もごもごと話しづらそうで、かなり手こずっていた。
意を決した私がベッドの死角から忍び寄り、サイドテーブルの上にある男の携帯を掴んだとたんに目が合ってしまった。
男は血に染まったバスローブ姿のままいきなり立ちあがって追いかけてきたが、パンプスを履いていても、オッサンが追いつけるほど私の足はヤワではない。
幸いリザーブしていた部屋が二階だったので、非常階段を一気に駆け下り、トップスピードのままちょうど入店してきたカップルとすれ違うように屋外に飛び出した私は、あっという間に都会の宵闇の中に紛れ込んでいた。
全力疾走しすぎて途中の公園の公衆便所でゲロを吐くと、一気に疲労感が押し寄せてきて、そのまま女性用の個室で便器を抱いたまま寝込んでしまい、原宿のマンションにたどり着いた時には、頭上に初夏を思わせるような太陽がギラギラと輝いていた。
眩い日差しを浴びながらエントランスの前に仁王立ちしていたのは、暑苦しい顔をした小島よしお、もといポチだった。
いきなりポチから横っ面を張られた私は、反射的にミドルキックを繰り出したが、簡単に右足首を掴まれてしまった。
片足を取られて逆さ吊りにされた私が「何すんのよー」と毒づくのを無視して、マノン・レスコーの遺体のように私を肩越しに担いだポチは、そのままエレベーターに乗って私を部屋まで運んでいった。
ベッドの上に投げ出された私が、振り向きざまに拳を繰り出すと、今度は避けるそぶりもなく顔面で私の右ストレートを受けたポチは、「痛えなーバカ」とつぶやいて私をきつく抱きしめた。
何だかジーンときて涙が溢れてきた。
ポチと向かいあった一瞬、心臓が大きく脈打ち時間が止まったかのように感じられたが、キメ顔のポチの左の鼻の穴からたらーりと鼻血が流れてくると、思わず笑いがこみ上げてきて、涙を流しながらベッドの上を転げまわった。
ようやく笑いが止まり、ポチから「ホント、無事でよかったよ」としみじみ言われると、自然に私の口から「有難うシンくん」と、柄にもなく殊勝な言葉が溢れ出していた。
ポチに心からの感謝の気持ちを告げたのはこれが初めてのことだった。
私が合コン男から奪ってきた携帯をポチがチェックしたところ、案の定、私のトップレス画像が保存されていた。幸い他に転送した痕跡はなかったが、画像とはいえポチに裸を見られているのに、私は恥ずかしさよりも、ショックで頭の中が真っ白になっていた。
「弘美ちゃんは、すごく頭切れるくせに、変なところが抜けてるんだよな。こんな安っぽいトラップに引っかかるなんてさ」
ポチによると、合コン参加者は全てグルで、女友達からの誘いと安心してやってきたカモを、酒で泥酔させるか薬を盛って、男がお持ち帰りするというよくあるパターンなのだそうだ。
つまり女友達はターゲットを釣るための協力者で、男たちに何らかの借りがあるか、金銭的見返りのためかのどちらかが一般的で、さらに悪どい奴なら、ハメ撮りした画像でゆすって風俗系に売り飛ばすか、AV出演を強要することもあるという。
「実生活での交友関係が不明瞭な人から誘われて、複数の男と酒を飲むなんて、無防備にも程があるよ。真里ちゃんか不二子ちゃんがついてれば、こんなことにはならなかったのに・・」
ポチの言うとおりだ。あの美容師は共通の知人がいないから、私と話をしている時の彼女が全てだった。つまりそれが芝居でも、見破るすべがなかったということだ。それなのに私は何もかも信じてしまった。迂闊だった。こんな形でファーストキスを奪われるなんて、親にばれたら切腹ものだ。
ポチは私からの電話を受けたあと、福岡空港より始発が早い北九州空港までバイクを飛ばし、午前五時半発羽田行きのスターフライヤーに乗ってきたのだそうだ。
ポチは男の携帯を手に「後は俺が引き取らせてもらうから」と言い残してマンションを後にした。
三日後、「アイツの網膜に焼きついた弘美ちゃんの画像も全て消去しておいたよ。それに奴はもう男じゃないから、ファーストキスも無効だよ。だから今度は本当に好きな男と素面でキスし直さなきゃね」とメールが入った。
「女の敵は女よ」って不二子がよく言ってたっけ。
私ってやっぱりマリリンや不二子たちがいないとダメなのかな。
それにしてもあの時、いくら動揺してたからって、なぜポチになんか電話をかけたんだろう。
緒方さん・・・じゃちょっと言えないか。軽蔑されてもう相手にしてくれなくなるのが怖かったんだろうな、本能的に。
ポチのことだから、あのハイミスの美容師にもきっとケジメ取らせてるに違いないよね。
それも相当エグイ方法で。
それよりあの男の人、男じゃなくなったってどういう意味なんだろう。
まさか宮刑なんてことはありえないよね。
ポチって実はサイコパス?
一瞬、あの男の両眼をポチがスプーンでくり抜いている光景が頭に浮かび、生唾を飲み込んだが、次の瞬間にはこう思い直した。
ポチって使える男だわ。




