第2章 | 赤坂ウィークリーマンション
ガーンガーン、と電話が鳴った。
気乗りしないまま電話を取った。
>「おはよう、兄貴!!」
独特のアクセントに、すぐにわかった。レイだ。
>「お昼だよ、レイ」と小さく微笑んで答えた。
>「ひょう、今月帰ってくるんでしょ?」と、彼は慌てて尋ねた。
>「予定は…姉も来るって言ってる」と答えた。
>「え?姉がいるの!?」と、レイは驚いたような声を上げた。
>「え、姉じゃなくて…友達よ」と、慌てて訂正した。
>「えーと…」と、レイは小さく笑いをこらえた。
>「今月帰ってくるなんて、まさにうってつけだね」と彼は言った。
>「どうして?どうしたの?」と、私は不思議そうに尋ねた。
>「メイの好きなアーティストがバニュワンギでコンサートをするらしいの。」
>「わあ!誰?」私はますます興奮して尋ねた。
>「歌詞のあるやつだよ…」
レイはすぐにその曲のヴァースを歌った。Hindia - cincin 調子は外れているが、熱意に満ちている。
"Kau bermasalah jiwa
Aku pun rada gila
Jodoh akal-akalan neraka
Kita bersama"
[ 精神的な問題を抱えている
私もちょっと頭がおかしい
ヘルズ・トリック・マッチ
私たちは一緒に ]
私は笑いました。「わあ、ヒンディー語!すごい!」私の目はすぐに輝きました。
「レイ、まだチケットある?」と僕は急いで聞いた。
「心配すんな、ブロ。もう俺が予約しといたから。」とレイは余裕そうに答えた。
「えっ!?さすがだな、レイ!」と僕はめちゃくちゃ嬉しくなった。
レイはくすくす笑った。
「なあ、お前の日本の友達…インドネシア語もわかるのか?」
「ヒマちゃん?うん、分かるよ。しかもプレイリスト、ヒンディアの曲いっぱいだし。」と僕は軽く笑った。
「へえぇ…あの日本の子、なかなかイケてんな。」
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LIVE ON 23:00
NightStream 〜 赤坂ウィークリーマンション 〜
視聴者数:48人
ヒマ:「おはよう、みんな。今夜は約束通り、赤坂ウィークリーマンションを探索するよ。」
ヒョウ:「この場所は評判が悪いんだ。変な音や幽霊がよく出るってさ。」
@tomeo: ひぃ怖い
@hororflix: 昔そこに住んでたことある
@well: serius gua indo sendiri
ヒマ(hororflixに反応):「わあ…それはラッキーだったのか、それともアンラッキー?」
僕とヒマは古びた建物の前に立っていた。外壁の塗装は剥げ、ところどころに苔の跡が残っている。夜の風が冷たく吹き、どこか湿った異臭が漂っていた。
僕たちは中へと足を踏み入れる。玄関を抜けた瞬間、重苦しい空気を感じた——まるで誰か見えない何かがこちらを見ているような気配。
(カメラが少し揺れる)
@ger: カメラ揺れてるぞ
@mio: カメラも怖がってるんじゃね
廊下は細長く、天井には古い蛍光灯がチカチカと弱々しく光っていた。僕たちの足音だけが反響し、静寂をさらに際立たせる。
ヒマ:「想像してたより…ずっと暗いね。」
ヒョウ:「だな。しかも…妙に静かすぎる。」
僕たちはとある部屋の前に立った。ここ207号室は、過去に女性が自殺したという噂がある部屋だ。
僕は静かにノックした。もちろん、返事はない。
ヒマ:「開けてみる?」
ヒョウ:「開けよう。」
ドアはギィ…という音を立てて開いた。湿気と、どこか鉄のような匂いが鼻を突いた。
@rin: うわマジ怖い
@kei: 入るなって…
懐中電灯をつけると、床板はひび割れ、壁には水の跡のようなシミ。隅には壁に向かって置かれた椅子があった。
ヒマ:「この椅子…ずっとこのまま?」
ヒョウ:「夜中に動いたって話もある。」
@tom: 椅子が動くとかウソだろ
@taku: 絶対ネタでしょ
ヒマ:「座ってみようか?」
僕はうなずいた。ヒマはカメラを三脚にセットし、ゆっくりと椅子に座った。
ヒマ:「…何も起きないね。」
しばらくすると、どこか隣の部屋からノック音のような音が聞こえた。
(カメラがまた揺れる)
ヒョウ:「今の音、聞こえた?」
@ger: 確かに聞こえた
@rin: やばいマジで…
ヒマ:「落ち着いて…多分パイプの音か、隣の人だよ。」
しばらく静かにしていた。壊れた天井のファンだけが、低い音で回っていた。
ヒョウ:「ヒマ、ここの歴史ってどんなの?」
ヒマ:「昔はここ、サラリーマンの仮住まいだったらしい。でも、1年のうちに3人の自殺者が出て…そのうち2人がこの207号室で亡くなったの。」
@kei: マジならやばい
@tom: でもどうせヤラセだろ
僕はカメラを持って廊下を歩いた。非常階段の近くに茶色いシミがあった。鉄のような匂いがさらに強くなる。
ヒョウ:「これ…血の跡かも。」
ヒマは僕の後ろに立っていた。僕たちは目を合わせた。…何かが背後を歩いているような気がした。
(突然またカメラが揺れる)
@eru: 今の何!?
@mio: カメラまた変になってる!
ヒョウ:「今、誰か通ったよな…」
ヒマ:「脅かさないでよ、ヒョウ…でも、私も何か感じたかも。」
微かな呼吸音のような音が聞こえた。振り返るが、廊下には誰もいない。
@ger: 編集だろ
@rin: 絶対仕込みだわ
非常階段の扉が少し開いていた。さっきは確かに閉まっていたはずだ。
ヒマ:「開けてみようか。」
ヒョウ:「うん、開けよう。」
そこには埃とクモの巣だらけの小部屋があるだけだった。
@tom: 大袈裟すぎ
@kei: もうネタってバレバレ
ヒマ:「見た目は普通でも、なんか…ゾッとするよね。」
ヒョウ:「…なんか、ずっと誰かに見られてる気がする。」
207号室に戻ると、さっきの椅子が動いていた。今度はドアの方を向いていた。まるで、僕たちを待っていたかのように。
@rin: 椅子の位置変わってる!?
@taku: 絶対カメラのトリックだろ
ヒマ:「私、動かしてないよ。」
ヒョウ:「俺もだよ。」
僕たちは黙り込んだ。カメラは椅子をじっと映し出す。
再びノック音が鳴る。今度はもっと大きく、上の階から何かが落ちたような音も続いた。
ヒョウ(小声で):「…本当に怖い。」
@kei: こんなの安い演出だろ
@tomeo: でも…ちょっとゾクッとした
ヒマ:「…今日はここまでにしようか。みんな、観てくれてありがとう。」
ヒョウ:「また次のNightStreamで会おう。」
ライブ終了。
Live End 00:19
建物を出ると、僕たちは歩道で少し立ち止まった。東京の夜風がアスファルトの匂いを運び、街の音も少しずつ静かになっていく。
ヒマは深く息を吸い込んだ。「…まだ心臓バクバクしてる。」
僕はうなずき、首筋をなでた。「俺も。でも…なんかホッとした。」
ヒマは静かに僕を見て言った。「椅子が動くって、思ってた?」
僕はしばらく黙って、古びた建物を見つめた。「いや。せいぜい音が聞こえるくらいだと思ってた。」
しばし、二人とも黙ったまま歩道を歩いた。水たまりに映る街灯が、僕たちの影を揺らしていた。
ヒマがぽつりと呟いた。「でもさ…怖くても、また配信したくなるのが不思議。」
僕は少しぎこちなく笑った。「NightStreamって中毒性あるよな。」
ヒマも薄く笑って答えた。「うん…中毒。そして…視聴者との、小さな秘密。」
「ヒマさん…」
「ん?」とヒマが返す。夜風にかき消されそうな声だった。
「明日、バニュワンギに行くんだよね…」
ヒマが僕を見て、静かに言った。
「うん。朝8時に空港に出発して、9時ごろのフライト…何も起きなければね。」
僕はうなずいた。「そうだね。」
僕たちは言葉少なに歩き続けた。濡れた舗道に足音が響き、街灯の光が水たまりに揺れていた。
言葉よりも静寂がすべてを語る。
けれど、その沈黙の奥に、確かに同じ想いがあった。
——僕たちはまだ知らなかった。
あの故郷で、何が待っているのかを。
おもしろい事実
ヒョウはインドネシア語と日本語の混合文字です
ヒマは彼がヒマラヤに登ったときに母親がつけた名前です。
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