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今夜、ホームセンターで、ダンジョン探索  作者: にゃんこ雷蔵


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第9話 勝利と戦利品

「……帰ろう」


秋人の静かな一言で、3人はダンジョンをあとにした。

血の匂い、息の音、足元に転がった“何か”の感触──すべてが現実として残っていた。


再び金属の扉を抜けて、ホームセンターの空気に戻った瞬間、3人は同時に深く息を吐いた。


「……生きてる、俺たち……生きて帰ってきた……!」


リクが膝に手をついて笑う。少し泣きそうな顔で。


「生きてるし、やっただろ。ゴブリン倒した。俺たち、マジでやったぞ」


蓮がハンマーを床に立てかけ、腕の傷口を軽く見て眉をひそめる。

タオルで血を拭き取って、無言でポケットから絆創膏を取り出して貼った。


「慣れてんだな、そういうの……」


「喧嘩とアレは全然違ぇけどな。……でも、ビビって逃げるより、マシだ」


秋人はバッグから、青いポーションの瓶を取り出した。

布に包まれたそれは、まるで宝石のように淡く光っていた。


「これが、俺たちの最初の“戦利品”か……」


「……やば。ほんとに、ゲームじゃん……」


リクがそっと手を伸ばし、瓶の表面を指でなぞる。ガラスは冷たく、澄んだ液体がほんの少しだけ揺れた。


「中、飲めるのかな?」


「やめとけ。今の段階じゃ、なんの効果があるかもわかんないし」


「でも、見た目は完全に回復アイテム……だよな?」


「多分な。もしもの時のために、しばらく保管しとこう。実験は後で」


秋人は丁寧に瓶を布に包み直し、リュックの奥にしまった。


「よし、とにかく……今夜は帰ろう。日が変わる前に戻らないとバレる」


「うん。あと……帰ってから風呂入って、布団入ったら、多分……全部夢だった気がするんだろうな」


リクがちょっと苦笑いして言う。


「でも、明日になっても腕のキズは残ってるぜ?」


蓮が軽く自分の腕を叩く。


「現実だ。少し進んだだけで、未知の液体があった…。探せば他にもあるかもしれない。だったら次はもっと深くまで行って、もっと“取って”こようぜ」


「……ああ。俺も、そのつもりだ」


秋人の目が、静かに燃えていた。


3人はそっとホームセンターをあとにし、夜の田舎道を歩いて帰った。


時折、誰かが口を開きそうになっては黙る。

けれど、その沈黙は重くなかった。

胸の中で膨らんでいくのは、不安と、それ以上の興奮。


そして──


あのダンジョンの奥には、まだ何かがある。

青いポーションは、その“証拠”だった。


次の日の朝。

教室のざわめきは、今日もいつもと同じだった。

机を移動させながら騒ぐ声。笑い声。窓の外から聞こえる体育の笛の音──


でも、秋人たち3人にとっては、もうただの“学校”じゃない。


「なあ秋人……あれ、絶対夢じゃないよな?」


休み時間。リクがノートを開くふりをしながら、小声で尋ねてきた。


「うん。夢じゃない。まだ腕の感覚、残ってるし……あと、これ」


秋人は机の下でそっとバッグを開け、布に包まれたポーションの瓶を少しだけ見せた。


「おおっ……! やっぱりある……!」


「隠しておけ。下手に見られたら大ごとになる」


蓮が後ろの席からボソッと口を挟む。

その声にリクはビクッとして慌てて姿勢を正した。


「ご、ごめん! でもさ……ほんとに、すごかったよね。倒したって実感、やばい。あの時、俺マジで逃げたかったけど……」


「逃げなかった。杭、刺したの、お前だろ」


秋人が淡々と言うと、リクはぽかんとした顔になった。


「……俺、ちゃんとやった?」


「おう。ちゃんと刺さってた。あれでトドメだったかもな」


「……ふふっ、やべ、ちょっと自信ついたかも……!」


「調子のんな。今回のは3人だったから勝てた。単独だったら死んでたぞ」


蓮がそっけなく言い放つ。でも、その声には僅かに柔らかさがあった。

リクもそれを感じ取ったのか、少し照れくさそうに笑った。


「じゃあ、また行くんだよね?」


「……行くさ。あれで終わりじゃない」


秋人は小さく頷いた。昨日拾ったマップのコピーをノートの間に挟みながら、呟く。


「奥に、まだ“何か”がある。赤い印の場所──気になるよな?」


「間違いねぇ。あそこには、もっとすげえもんがあるはずだ」


「……でも今度は、もっとちゃんと作戦立てよう。昨日は勢いだったけど、いつもああはいかない」


「だな。火力、照明、退路……それと武器の取り回し。俺のハンマー、室内じゃ振り回しにくかった」


「……俺の杭も、刺すタイミングとか場所とか、もっとちゃんと狙えるようにしたい」


「俺も。バールは手に馴染むけど……扱いに幅がない。道具としても使えるようにしておかないと」


3人の会話は、誰にも聞こえないような小声で進んでいた。

けれどその内容は、日常を超えていた。


──まるで、秘密の任務に挑むチームのように。


「よし、今日の放課後は道具のメンテと、戦い方の確認な」


「作戦会議ってやつ?」


「そう。それと、ポーションについても調べよう。どこまで効果があるか、どう使うか……ちゃんと考えよう」


「OK。じゃあ、また放課後、公園集合で!」


リクが親指を立てた。蓮は無言でうなずき、秋人はノートに静かにメモを取る。


こうして、“冒険の次なる一歩”は、静かに進んでいた。

誰にも知られないまま。誰にも話せないまま。


それでも──3人の心は、確実に前に進んでいた。


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