第7話 ダンジョンの中は…
ダンジョンの中は、やはりひんやりとしていた。
石畳の床を踏むと、足元からじわりと湿気が這い上がってくる。壁に取り付けられたたいまつの火が、ゆらゆらと頼りなく揺れていた。
「前より……ちょっと暗くないか?」
リクが懐中電灯を構えながら小声で言う。
その声にはやはり緊張がにじんでいたが、しっかりと前を見て歩いている。
「たぶん、火のついてるたいまつが減ってる。前、ここの角にもあった」
秋人が静かに指を差す。
「ってことは、誰かが消したか、時間で消える仕様か……どっちにしろ不気味だな」
蓮がぼそりと呟き、ハンマーを握る手に力を込めた。
進むたびに、ほんの少しずつ空気が変わっていく気がした。
湿度、匂い、空気の重さ──すべてが、外の世界とは違っている。
「よし、ここからは少し慎重に。足元、気をつけて。何か仕掛けがあるかもしれない」
秋人がリーダーのように静かに指示を出すと、リクはすぐに従い、蓮も無言で頷いた。
──すると。
「ん?」
秋人がふと立ち止まる。足元に、何か違和感を覚えた。
「……この石、少し沈んでる。踏んだら動きそうな感じがする」
秋人がしゃがみこみ、バールの先端で床の石を突いてみると、かすかにガコッと音を立てた。
「やっぱり、圧力感知のスイッチだ。踏んだら何か起きる……」
「罠か……」
蓮が顔をしかめる。リクは怖そうに距離を取った。
「よく見つけたな、秋人……」
「うん。でも、これ……通路のど真ん中にある。避けて通るしかないな」
3人はそっと石の端をまたぎながら進む。
何も起きなかった。けれど、その存在だけで十分だった──この空間が、やはり“現実”じゃないと証明するには。
「なあ、あれ……」
リクが懐中電灯で指し示した先に、小さな部屋のような空間があった。
洞窟のような造りの中に、ぽつんと開かれたその空間。中に何か……机のようなものがある。
「行ってみるか」
3人は慎重に部屋に入る。壁に沿って石の棚があり、そこに置かれていたのは──
「……これ、マップ?」
秋人が手に取ったのは、古びた紙だった。手書き風の線で区切られた通路。今いる場所に似た構造が描かれていた。
「やば……本格的だ……!」
リクが思わず顔を輝かせる。
蓮は周囲を警戒しながらも、秋人の手元を覗き込んだ。
「……おい、ここ、“赤丸”で囲まれてるぞ」
マップの奥に、“×印”とともに小さく描かれた空間。
そこに、赤い線で手書きの丸がつけられている。
「何かあるってことか……?」
秋人がつぶやく。
その瞬間──
──ギギッ……!
遠くの通路の奥から、小さな物音が響いた。
「また……いるのか?」
3人の背筋がピンと張る。
蓮はすぐにハンマーを構え、秋人もバールを抜いた。リクは杭を胸元に持ち、懐中電灯で奥を照らす。
しかし、音の正体は見えなかった。ただ、何かがこちらを伺っているような、そんな視線だけが感じられる。
「……やばい。ここで音立てたら、またゴブリン出るかもしれない」
「マップは持ってこう。ここは覚えておこうな」
3人はそっと部屋を出て、再び通路に戻った。
慎重に、静かに、呼吸を殺して進む。
そして──
「……あれ、光ってない?」
蓮が指差した先、通路の奥に、ぼんやりと青白い光がまた浮かんでいた。
次なる発見へと、3人は静かに歩を進めた。




