第6話 再び、扉の向こうへ
夜。
風の音と虫の声しか聞こえない田舎の道を、3人の影がそっと走る。手にはリュック、そしてスマホのライト。
「遅れてないよね……? 20時、ちょうど……!」
「大丈夫、予定どおり。あそこの裏口、昨日と同じように開いてるな」
秋人が声をひそめて確認すると、リクは小さくうなずき、蓮は慣れた様子でフェンスを乗り越える。
ホームセンター「カンキョーライフ」。
昨日見たときと同じ、ひっそりとした建物。その静けさの中に、まだ信じがたい異空間が眠っている。
3人は従業員搬入口から中に入り、ライトを点けながら棚の間を抜けていく。
「……やっぱ、誰も来てないな。昨日とまったく同じ、埃っぽい空気だ」
「っていうか、こんなとこ普通誰も入んないって……」
「だからこそ、好き勝手できんだろ」
蓮がニヤリと笑い、工具コーナーに向かう。
「さてと……装備、探すか」
秋人がそう言うと、3人はそれぞれ別れて、ホームセンター内部を物色しはじめた。
──園芸コーナー。
「おっ、これよくない?」
リクが手に取ったのは、軽めの鉄パイプの園芸杭。昨日持っていたのと同じ種類だが、今日は少し短めで、取り回しやすいうえに先端が尖っている。
「あと……折りたたみスコップとか……ロープもあった! 一応持ってく?」
──工具コーナー。
秋人は、一通り物色したが、手に馴染むものがなく、結局は昨日のバールを磨くようにタオルで拭いて、腰に差すような形にセット。
近くの棚から、懐中電灯用の電池と、作業用の軍手も見つけてポケットに入れた。
「これなら……少しはマシに動けるはず」
──資材コーナー。
「おっしゃ、見っけ」
蓮が手に取ったのは、持ち手付きのハンマー。
柄が80cmほどあり、やや重たいが、その分威力はありそうだ。
さらに近くにあった結束バンドと、ガムテープもバッグに突っ込む。
「よし、準備完了だ」
3人はレジ前で合流し、装備を確認しあう。
「懐中電灯は3人とも持った? 予備電池は?」
「ばっちり。スコップとロープも持ってる」
「俺は軍手と、スマホバッテリー。あと、口に入れられそうな非常食も一応……」
「……なんか本格的すぎて、逆に笑えてくるな」
「笑ってる場合じゃないって。あの中、マジでヤバいから……」
「だからこそ、装備だ。行くぞ」
秋人が静かにうなずき、レジ横の金属製の扉の前に立つ。
懐中電灯の光が反射して鈍く光る。取っ手も鍵もない、異世界への入り口。
秋人がバールを構えながら一歩前に進むと、扉が反応するように──ギィィ……と、またゆっくり横に開いた。
「……戻ってきたな」
3人は顔を見合わせ、無言でうなずく。
今度は逃げない。
あの“ゴブリン”がいようと、罠が待っていようと──
今度こそ、確かめに行く。
「行こう」
秋人が先に一歩踏み出し、リクと蓮が続く。
3人の光が、再びダンジョンの闇の中に吸い込まれていった──。