表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/11

第4話 興奮が冷めないうちに

「──はあ、…やべぇ……マジで死ぬかと思った……」


ホームセンターの従業員通路の隅、古びた棚の影に座り込みながら、蓮が荒い息を吐く。

リクも懐中電灯を床に置き、膝を抱えてしゃがみこんでいた。


興奮に任せ、一通り言いたいことを言い終わった3人は壁にもたれてぐったりとしていた。


「心臓バクバク……やば……まじで心臓何個あっても足りん……」


「でも……」


秋人は、まだ少し肩で息をしながらも、扉を見つめていた。

無機質な金属の扉は、まるで何事もなかったかのように、冷たく閉ざされている。


「……いたよな。ちゃんと“いた”よな、アレ」


「うん、いた。バッチリ見た……なんかもう、脳に焼き付いて離れないし」


リクが呻くように答える。

蓮もハンマーを床に置き、頭を掻いた。


「信じらんねぇけど……あれは、現実だ。あんなにくせぇし、動きも、声も、ガチだった」


「──ってか、俺ら何に遭遇したの? ファンタジーの世界とかじゃないよね、これ現代だよね?」


リクが言いながら、周囲をぐるりと見回す。そこにあるのは、かつて見慣れた場所、今は潰れたホームセンターの、ほこりと錆に包まれた空間だった。


現実。

だけど、あの扉の向こうには──“現実じゃない何か”が確かにあった。


「……これ、警察とかに言ったら信じるかな」


「バカ、通報したって“夢でも見たんだろ”で終わるに決まってんだろ。あんなの、誰が信じるかよ」


蓮が吐き捨てるように言いながらも、どこか悔しそうにしていた。


「でも、俺たちは見た。俺たちだけは……知ってる」


秋人の言葉に、2人は黙ってうなずく。


しばし沈黙のあと、リクがぽつりと口を開いた。


「……また、行こうよ。あそこ」


「はあ!?」


蓮が思わず声を上げる。


「いやいやいや! お前、さっきまでビビってたろ!? あんなもんにもう一回会いたいのか!?」


「いや、怖いよ!? 超怖い! でも……でもさ、見たんだよ。ダンジョン。ゲームの中にしかないはずの、ああいうやつ。俺たち、今のままじゃ絶対満足できないと思うんだ」


リクは、震える声ながらも目を輝かせていた。


「だってさ……今まで見てきた世界が全部変わるかもしれないんだよ? こんなこと、滅多に起きないって!」


「……」


蓮は黙り込んだ。

秋人は、バールを握りしめながら天井を見上げる。冷たい蛍光灯の残骸が、静かに軋んでいた。


「……俺も、行きたい」


静かな声で、秋人が言った。


「ビビったし、逃げたし、たぶんあのゴブリンってやつはヤバい。でも……確かめたい。あの中に、何があるのか。なんでこんなことが起きてるのか」


「……秋人」


リクが嬉しそうに笑い、蓮は眉をひそめながら立ち上がった。


「……チッ。しゃーねぇな。行くってんなら、俺も行くわ。2人だけで行かせて“おいてけぼり”はムカつくしな」


そう言って、ハンマーを肩に担ぐ蓮。その顔には、さっきの恐怖を噛み殺すような笑みがあった。


「ただし次は、ちゃんと準備してからな。明るいライトと、もっとマシな装備…あとは、食いもんと水もいるかもな」


「探索準備か……面白くなってきたね」


リクが立ち上がり、懐中電灯をポケットに戻す。


秋人もバールを背中に回し、静かにうなずいた。


「今日のとこは、もう帰ろう。装備を整えて……また、明日夜に集合だ」


3人は、何度も振り返りながら、夜明け前のホームセンターを後にした。

誰もいない駐車場。見上げた空には、うっすらと東の空が明るくなっていた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ