第2話 選ばれし武器
「……開かねえな。」
佐久間秋人は、金属の扉の前でうなった。取っ手も鍵穴もなく、何度押しても引いても、びくともしない。
まるでこの空間だけ、常識とは違う法則が働いているような気すらする。
「でもさ、さっき秋人が触ったとき、少し反応しなかった?」
リクが言うと、秋人はもう一度手のひらを扉に当ててみた。が、今度は何の反応もない。
「……タイミングか? いや、それとも……」
「チッ、めんどくせえな。こういうのはよ──力技だろ。」
そう言って佐伯蓮は、近くにあった工具コーナーに目を向けた。そして、重たそうなハンマーを手に取ると振りかぶる。
「うお、それ絶対危ないやつ!」
「やめとけって!壊れるわけないし!」
リクと秋人の声を無視して、蓮はハンマーを振りかぶった。
ゴンッ──! 低く鈍い音が扉に響き渡る。……次の瞬間、何の前触れもなく、扉が横にスライドし、開いた。
「……え、開いた。」
「マジで?」
「お前、すげーな……」
蓮は少し驚いた顔でハンマーを見つめた後、照れ隠しのように鼻を鳴らした。
「ほら見ろ。筋肉は裏切らねぇってことだ。」
開いた先には、石造りの空間が広がっていた。
苔むした石壁と、ヒンヤリとした空気。整った石畳の通路が、どこまでも続いている。
「な、なにこれ……ガチでダンジョン?」
「……夢じゃねぇよな?」
3人は顔を見合わせ、無言でうなずいた。
蓮が一歩踏み出す──すると、何の問題もなく彼の体は扉を抜けてダンジョンへと入った。
だが──
「うわっ!?」
リクが続こうとすると、透明な壁に弾かれるようにして、尻もちをついた。
「リク!?」
秋人も手を伸ばしながら前へ出たが、まるで空気が固まったかのような壁にぶつかり、中に入ることができなかった。
「……なんだこれ。」
「俺だけ……?」
扉の向こうで立ち尽くす蓮と、入れずに困惑する秋人とリク。
秋人は周囲を見渡しながら、じっと考えた。
「……もしかして、これ、“武器を持ってないと入れない”とか、そういう条件なんじゃ……」
「はあ!? そんなゲームみたいな……」
「いや、でも、蓮がハンマーを持ってたときに扉が開いて、そのまま入れた。俺とリクは素手だった。それに、蓮の持ってるのって、“武器”って呼べなくもないだろ。」
リクと顔を見合わせ、試しに自分も何かを手に持ってみることにした。
秋人は近くの棚に目をやり、手に取ったのは──バール。
埃を被ってはいたが、十分に使える硬い金属の塊だった。
振り回すにはちょうどいいサイズだ。
リクは少し迷った末に、園芸コーナーにあった長めの鉄製の園芸杭を手に取った。先端が尖っており、柄の部分には木の持ち手がついている。
「……これでどうだ。」
2人がそれぞれ“武器”を持って再び扉に近づくと、今度は何の抵抗もなく──すっと通り抜けられた。
「や、やっぱりか……!」
「マジでゲームじゃん、こんなの!」
「でも、ただのハンマーやバールで反応するってことは、“それっぽければいい”ってことかもな。」
秋人はバールを手にしっかり握りしめ、改めて前を向く。目の前には、暗く深く続く未知の空間。
背筋がゾクッとした。でも、その奥に何かある──そんな直感があった。
「行こう。ここがどこか知らないけど……確かめないと気がすまない。」
3人は、それぞれ“選ばれし(かもしれない)武器”を手に、ダンジョンの闇の中へと足を踏み入れた。