表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
今夜、ホームセンターで、ダンジョン探索  作者: にゃんこ雷蔵


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

10/11

第10話 再戦

ギャアアアアアッ!!


突如響いたあの金切り声に、リクの体がビクリと跳ねた。

鼓膜を突き破るような耳障りな音。

前回の記憶が脳裏にフラッシュバックする。


「来るぞ!」


秋人がバールを構え、通路の入口に視線を向ける。

たいまつの揺らぐ明かりの奥、暗がりから飛び出してきたのは、2体のゴブリンだった。


「2匹……っ!」


秋人の読みどおり、複数体。しかも──前回よりも動きが速い。


「蓮、左を頼む!俺が右を止める!」


「了解!」


秋人が叫んだ瞬間、蓮が一直線に飛び出した。

足元をしっかりと踏みしめ、構えた金属バットを振りかぶる。


ゴブリンの1体が襲いかかってくる。

短いナイフのような骨の刃を振り下ろすが──


「甘ぇよ!」


蓮のバットが横からぶち当たる。

ガンッという鈍い音とともに、ゴブリンの胴体が横へ吹き飛ばされた。


「っしゃあ!」


その隙に、秋人はもう1体のゴブリンの側面へ回り込む。

ナタを抜き、バールと二刀で構える。


「来いよ……!」


ゴブリンの赤黒い目が秋人を捉える。

次の瞬間、甲高い叫び声とともに突っ込んできた。


──ギャァァッ!!


秋人はナタで受け止め、すぐにバールで脚を払う。


──カンッ!


しかしゴブリンは体勢を崩さず、短い腕でバールを押し返すように弾いた。


「硬い……!」


前よりも明らかに耐久が上がっている。手応えが重い。


「秋人ッ、そっちもう1体来てる!」


リクの叫びが背後から届く。


「なっ──!」


ふり返ると、吹き飛ばされたはずのゴブリンが、よろめきながらも立ち上がり、秋人の背に迫っていた。


「まずい──!」


その瞬間、シュッと空気を裂く音がした。


──パンッ!


小石がゴブリンの額に命中。リクのスリングショットが、ギリギリのタイミングで牽制になった。


「……リク!」


「行け、秋人ッ!」


一瞬の隙を突いて、秋人は背後のゴブリンに横薙ぎのナタを振るう。

肩口に斬撃が入り、黄色い体液が飛び散る。叫び声を上げて後退するゴブリン。


「リク、もう一発撃てるか!?」


「っ、わかんない……でも、やってみる!!」


リクの手が震えていた。恐怖が喉に張り付いて、足が引きつりそうになる。

それでも、秋人が倒れる姿だけは見たくなかった。


「うおおおっ!」


渾身の一撃。

放たれた弾は正確に飛び、もう1体のゴブリンのこめかみにヒットした。


その隙に、蓮がバットを担ぎ直して突っ込む。


「トドメだァァッ!」


バットの一撃が、ゴブリンの頭を地面へ叩きつける。

肉の潰れる音。血と体液が飛び散り、ゴブリンは動かなくなった。


「……ッ、はあっ、はあっ……!」


蓮の肩が上下に揺れる。

それを見ながら、秋人もバールを地面についた。


残る1体のゴブリンは、肩から血を流しながらも、ふらつきながら後退していた。


「逃がすな!」


秋人が叫ぶ。


「蓮、前から!俺は側面を回る!」


「任せた!」


蓮が正面から突進。ゴブリンが悲鳴を上げて後退しようとしたその瞬間、

秋人が横から踏み込み、ナタの背でゴブリンの膝を打ち抜いた。


「ギィイイッ!!」


転倒したゴブリンの首に、蓮のバットが振り下ろされる。


──ガンッ!!


呻き声が途切れ、動きが止まった。


静寂が戻る。

リクはその場にへたり込み、肩で大きく息をしていた。


「……終わった……?」


秋人はゆっくりとゴブリンの死体を見下ろし、ナタの血を拭う。


「2体……倒したな」


「全員、無事か?」


「……俺は大丈夫」


「こっちも……ちょっとスリングショット握りすぎて手痛いくらい」


蓮がフッと笑って、バットを肩に担ぎ直す。


「俺たち、やっぱり……ちゃんと戦えてるじゃん」


リクの声に、秋人は静かにうなずいた。


「ああ。結構ギリギリだったけどな」




3人はそれぞれ小さく笑い合いながら、少しだけ前よりも、強くなった気がしていた。


そしてその足元には、ゴブリンの亡骸と──血に濡れた石畳。

手に残った衝撃が、これが現実であると訴えている。



「……それにしても、強くなってたよな。あのゴブリン」


蓮がそうつぶやきながら、バットの先を地面に立てる。

返り血がこびりついて、鉄の質感が鈍く濁っていた。


「前のより明らかに硬かった。動きも速かったし、連携も取ってた」


秋人はナタの刃を拭きながら冷静に言う。

足元では2体のゴブリンが動かなくなっていたが、その異様な姿は今も目に焼きついていた。


「……もし、この先にもっと強いのが出てきたら……」


リクが不安げに口を開く。スリングショットを握る手は、少しだけ震えていた。


「でも、お前が最初に撃ってくれたおかげで助かった。ちゃんと“効いてた”よ」


秋人の言葉に、リクは顔を上げた。


「……そっか。じゃあ、俺もちゃんと戦えてるってことだよね……!」


蓮がニッと笑い、リクの背中を軽く叩いた。


「お前、やる時はやるタイプだな。見直したわ」


「い、痛っ!や、やめてよもう!」


いつもの調子が少し戻ってくる。

だが、ダンジョンの空気は相変わらず冷たく重たいままだ。


秋人はライトをかざしながら、再び石の台座の上に目をやった。


「……この“赤いポーション”、どうする?」


彼の手には、布に包んでいたガラス瓶。中の液体は青とはまるで違う濃い赤。

光に透かすと、どろりとした粘度があるようにも見える。


「飲むのは……やっぱ、危険だよね?」


「現段階ではな。でも、ヒントがあるかもしれない。周囲を探そう」


秋人の提案に、3人は部屋の中を探索し始めた。

たいまつの光を頼りに、壁の棚、石のテーブルの下、隅に積まれた木箱──どれも長い間放置されていたようだったが、その中のひとつに、秋人は目を留めた。


「これ……文章?」


木箱の底に貼られていた紙切れ。湿気で半分は読めなくなっていたが、かろうじて残った文字があった。


『赤き瓶 力ヲ 呼ビ覚マス 代償ヲ伴フベシ』


「……“力を呼び覚ます”?」


リクが顔をしかめる。


「ってことは、強くなる代わりに……なんか失うとか……?」


「団体はできない。でも、戦闘用のバフアイテムっぽいな。身体能力を一時的に上げるとか、そういう方向かも」


秋人が慎重に解釈を進める。


「代償ってのが気になるけどな。寿命?身体の一部?それとも……」


「体が暴走するとか……?」


リクがぽつりとつぶやく。

冗談のような言葉に、3人とも一瞬黙り込んだ。


「……とにかく、持ち帰って調査を続けよう。今は判断材料が少なすぎる」


秋人は赤いポーションを布に包み直し、リュックに収めた。


「よし……じゃあ、この部屋は一旦クリアってことで、引き返すか。無理に進むより、今日は成果持って帰ったほうがいい」


「だな。戦利品2つと初めての“2体戦”クリア。十分だろ」


蓮がバットを肩に担ぎ直す。

リクも懐中電灯を握りしめ、深くうなずいた。


「……今日、俺、ちゃんと戦えた。ちょっとだけ、自信ついたかも」


「なら上出来だよ」


秋人が微笑む。

その言葉に、リクの頬が少し赤く染まった。


こうして3人は再び、金属の扉へと向かって歩き始めた。

無事に帰れる保証は、どこにもない。それでも──


彼らは確かに、少しずつ“ダンジョン探索部”として、強くなっていた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ