第1話 光るホームセンター
「だから本当なんだって!あのホームセンター、夜中に光ってたんだよ!」
昼休みの教室の一角。騒がしいクラスのざわめきの中で、リク--中島リクは、またその話をしていた。
いつもの調子で話しながらも、声の端に焦りがにじんでいる。
「兄貴と天体観測に行った帰りだったんだよ。夜の十一時くらい。空に気を取られてた兄貴は全然気づいてなかったけど、俺はちゃんと見た。あの、閉店したホームセンターの屋上が、ぼんやり青白く光ってたんだ!」
秋人--佐久間秋人は、弁当のふたを閉めながら、リクの話に小さくうなずいた。
「リク、またその話してるのかよ。何人に言った?」
「……クラス全員と、隣のクラスの数人。あと先生にも。」
「そりゃあ信じてもらえないわ。」
「うっ……そうだよなあ。でも秋人、お前なら信じてくれると思ってさ!」
俺は少し考えてから、弁当袋を片付ける手を止めた。
「リクが嘘つくようなやつじゃないのは知ってる。でも、なんかの見間違いとか、そういう可能性もあるからさ。現場を見てみないことにはなんとも言えない。」
「……見に行ってくれるの?」
そのとき、バンッと音を立てて教室のドアが開いた。
「行くなら今日の夜だな。俺も行く。」
蓮---佐伯蓮が、腕を組んで立っていた。
眉間にしわを寄せて、いつもの不機嫌そうな顔。
「お前、また話題にされてたぞ、他のクラスのやつらに。『中島、また変なこと言ってる』ってな。」
「……うぅ。」
「見たなら見たで、ちゃんと証拠作っとけ。行って何もなきゃ、リクの見間違いってことになるし。もし本当に何かあったら──面白えじゃん。」
蓮はニヤッと笑って、机に腰を掛けた。
「今日の夜、集まろうぜ。あの潰れたホームセンターの裏手、従業員用の搬入口。誰にも見られずに入るなら、あそこしかねえ。」
リクが目を輝かせ、俺は肩をすくめた。
「──ま、行って確かめるだけなら、いいか。」
俺たち3人は、その夜、潰れたホームセンターへ向かう約束をした。
まさか、その先にあんな世界が広がっているとは思いもしないまま──。
夜。
月が雲の切れ間から顔をのぞかせ、静かな田舎町の風景をほんのりと照らしていた。
ホームセンター「カンキョーライフ」の外観は、昼間と変わらずひっそりとしていた。
一か月前に閉店してから、ここに足を運ぶ人間なんてもういないはずだ。けれど──
「な、見ろって……ほんのり光ってない?」
中島リクが声をひそめながら、屋上のあたりを指さした。確かに、目を凝らすと建物の上部がぼんやりと青白く発光しているように見える。
「……街灯とか、隣の自販機の照り返しじゃないな。確かにこれは、ちょっと不自然だ。」
佐久間秋人──俺はそう呟きながら、フェンスの影から建物を見つめた。
「ほらな? 俺の見間違いじゃなかったんだって!」
「……まだ決まったわけじゃねぇよ。中、入ってからだ。」
蓮がフェンスを乗り越え、音を立てないように着地する。慣れた様子で歩き出す姿に、俺とリクも続いた。
向かったのは、従業員搬入口。
扉は錆びついているが、蓮が体重をかけると、ギィ……と重たい音を立てて開いた。
「……鍵、かかってなかったんだな。」
「管理ガバガバすぎんだろ、これ。」
中は、まるで時間が止まったかのようだった。
棚に残された工具、ポスターの色褪せた宣伝文句、レジのカウンター……それらすべてが、「昨日まで営業していた」と言われても信じそうな雰囲気を持っていた。
「なんか……普通に入れたの、逆に怖いな。」
リクが背後を気にしながらそう言ったときだった。
「おい、秋人。あれ、なんだ?」
蓮が、レジカウンターの真横を指さす。そこには、場違いなほど無骨な金属製の扉があった。
無機質な銀色。取っ手も鍵穴もない。
ただ、表面に奇妙な模様のような線がいくつも走っている。
「……こんなの、営業中にもあったか?」
「いや、なかったはずだよ。俺、ここちょくちょく来てたけど……こんな扉、絶対見たことない。」
リクの声がわずかに震えている。
秋人は扉の前に立ち、その表面にそっと手を当てた。
ひんやりとしていて、明らかにこの建物の中では異質だ。
「……どうする?」
蓮が聞いてきた。
秋人は一瞬だけ考えたあと、苦笑いを浮かべて答える。
「開けてみるしかない、よな。」