イタリアと酸化還元反応
しいなここみ様『麺類短編料理企画』参加作品
新潟市某高等学校のとある教室で、化学の授業が行われていた。
「このように酸素と結びつくことを『酸化』、逆に酸素を失うことを『還元』と言っていたな」
教師が板書しながら話す。
「この元の物質に着目すると、酸化されているものは電子を失っているよな」
生徒たちはカリカリとノートを取っている。
「だから、広義には電子を失うことを『酸化』、電子を得ることを『還元』と言うんだ」
「ちょっと待ってください!急すぎて意味わからない!」
一人の生徒が立ち上がった。
「どこが分からない?」
「その定義だと、酸素と結びついてもいないのに『酸化した』ってケースがあるわけですか?」
「あるな。典型的なのは金属が酸に溶けた時だ。鉄(Fe)が鉄イオン(Fe2+)になれば酸化だ」
「雑過ぎるでしょ!言葉が分かりにくいにも程があります」
「んなこと言ってもな・・・理系科目は名称適当なのいっぱいあるぞ・・・そもそも『名称なんて区別できればそれでいい。酸化が嫌ならA0821反応とかにするか?』ぐらいの価値観の人間いっぱいいるからな、理系の天才達には」
「それで納得できませんよ。国語じゃ『相手が分かる言葉を使え』とか言われてるのに」
「しかしな・・・」
教師は腕を組んで考えた。
そして閃いた。
「では聞くが、お前はカレーイタリアンはどう思うんだ?」
生徒は絶句する。そこを突かれると痛い。
「あれにイタリア要素は無いぞ。名前を変えるべきだと思うか?」
「いや・・・カレーイタリアンはカレーイタリアンです。カレー焼きそばではイメージが違う・・・」
生徒は歯噛みした。
新潟市には『イタリアン』なるソウルフードがある。
元々は焼きそばにトマトソースをかけたものだ。
しかし、後に出来た派生が色々とある。
焼きそばにカレーをかけた『カレーイタリアン』
ホワイトソースをかけた『ホワイトイタリアン』
麻婆豆腐をかけた『麻婆イタリアン』等。
イタリア要素があるのはノーマルだけなのだが、新潟市民はそんなことは気にしない。
「いいか、元々は『イタリア風焼きそば』だ。しかし、やがて『焼きそばに何かをかける形式そのもの』を『イタリアン』と呼ぶようになった。それと同じことだ。カレーイタリアンのつもりで、この酸化還元も受け入れてはくれないか?」
教師は諭すように言う。
「わかりました。ありがとうございます」
生徒は納得して着席した。
これで一件落着と思い教師は油断した。言ってはいけない一言を言ってしまったのだ。
「まぁ、なんだかんだ言って、イタリアンはノーマルが一番旨いけどな」
この一言は新潟市民が大勢いる中で言ってはいけない。
「カレーまでがノーマルだ」
「ホワイトの良さが分からないヤツは素人」
「麻婆を認められないヤツは老害」
「でも、最後にはノーマルに戻らない?」
「いや、オレは最後に戻るのはカレーだ」
「いや、オレは最後にカレーに戻った更に先でノーマルに戻った」
「オレは更に先の更に先で・・・」
その授業の場で結論が出ることは無かった。
ー了ー
高校の授業の中で一番納得できなかったのがこれなんです。。。
で、色々考えた結果、「まぁイタリアンみたいなものか」と無理やり自己解決した記憶を小話にしました。
ー追記ー
いかすみこさんから非常に分かりやすい解説を頂きました。
「酸化」が先で、「酸素」という名称の方が変なのだそうです。
なるほど!
詳しくは感想欄をご参照ください。