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星の国の聖女と12星座の守護者 〜運命に導かれた愛〜

星の国の聖女と12星座の守護者 〜運命に導かれた愛〜

桜井ユナは異世界アストリア王国に召喚され、新たな聖女としての役割を果たすべく、王宮での厳格な暮らしに足を踏み入れた。異国の地で、彼女は貴族社会の厳しい規範とエルサからのマナー教育に苦戦しながらも、必死に適応しようとしていた。日々の訓練と指導に加え、国王陛下からの突然の召喚が彼女の心に重くのしかかる中、ユナは何か大きな試練が待っている予感を抱えていた。第1章の終わりに、ユナは国王陛下からの召集に応じるため、緊張の面持ちで宮殿の広間に向かう。これから始まる試練が、彼女にとってどのような意味を持つのか、まだ誰も知らない。彼女の運命を大きく変える一歩が、ここから始まる。


ー心の闇と光の交錯—星の力を求めてー

〜前編〜



「お前に伝えなければならないことがある。」



国王の厳粛な言葉が重く響いた。私はその場に立ち尽くし、心の中で不安が広がるのを感じた。



王宮での生活には少しずつ慣れて、厨房の人たちとの交流や、美味しいパンケーキを楽しむことができた日々。



エルサからの厳しい指導を受けながらも、マナーを習得しつつある自分。



そして、王宮に迷い込んだ猫を通じて知ったピスケスの意外な一面や、魔物が現れた時に必死に守ってくれたキャンサーの存在。



リディアという同性の友人もでき、少しずつ新しい世界に馴染んでいった。



アルシオン王太子から魔法を教わり、少しずつ自信を持ち始めた。



しかし、今この瞬間、国王の厳しい顔と重苦しい空気に、私は再び不安に包まれた。



「アルシオンとの婚約を勧めたい。」



国王の言葉が続いた。



私は驚きと戸惑いを隠せなかった。



(王太子と婚約?まだ知り合ったばかりの人と…?)



将来は国を担う聖女としての道を歩むことは理解していたが、婚約の話が突然持ち上がるとは思ってもみなかった。



「我が息子、アルシオンから魔法を習っていると聞く。囲気も良くなって来ているようではないか


将来は国を担う聖女になり、王太子と結婚して更に国を繁栄させてくれ。」



国王は続けて話した。



「結婚後は公務と皇后としての仕事、そして聖女として祈りを捧げて欲しい。」



国王は豪快に笑うがその瞳はユナをしっかり見据えていた。



「王太子と…婚約なんて…まだ知り合ったばかりなのに…王太子とすぐに婚約はできません!」



私は強い意志を込めて告げた。



国王の言葉が耳に残り、私は思わず口を開いた。



「そもそも…王太子にはお相手がもう決

まっているはずです!」



その瞬間、心の中で一気に動揺が広がった。



王太子との婚約話が持ち上がるなんて、夢にも思っていなかった。



王宮で過ごしてきた日々が、まるで昨日のことのように、私の心の中で色あせていく。



王太子はエルサと婚約が成立している。



それに、まだ私は王太子と知り合ったばかりで、婚約の話が持ち上がるのはあまりにも唐突すぎる。



どうしてこんなに急に話が進むのか、疑問と不安が頭の中で渦巻いた。



「エルサさんが王太子の婚約者と聞いています。…なのに、どうして突然こんな話が…」



私は言葉を詰まらせながらも、何とか続けた。



「私たちがまだお互いを深く知り合っていないのに、こんな大事な決断を迫られるなんて、理解できません。」



心の中で、これから始まるであろう新たな道が重くのしかかり、私の胸を締め付ける。



国王の決定に対する驚きと戸惑いが、私の心の奥底で静かに、しかし確実に膨らんでいった。



「それに…エルサさんはどうなるのですか!?…王太子と婚約し、王妃候補となるにはとても苦労したと思います!」



私の声が震える。



エルサのことを思うと、胸が痛んだ。



彼女がどれほど努力し、苦労して王妃候補としての地位を築いたのかは、今の私にはかろうじて分かるくらいだ。



マナー教育を受ける中で、彼女の厳しさや完璧さを目の当たりにし、どれほどの努力が必要なのかを痛感していた。



エルサが私に教えてくれたマナーや立ち振る舞いには、並大抵の努力では到底成し得ないものがある。



その背後には、血のにじむような努力と、誰にも分からない苦悩があったはずだ。



彼女が苦労して築いた地位が、あっさりと崩れるのはあまりにも残酷だと感じた。



エルサのことを思うと、ユナの心は切なく、申し訳ない気持ちでいっぱいになり



彼女が積み上げてきた努力と、私に対する冷淡な態度の背後にある苦しみが、ユナの胸を締めつける。



どれだけ努力しても、王の一言で簡単に覆ってしまう運命に立ち向かわなければならない彼女の姿を想像するだけで、心が重くなった。



ユナは、国王に対して疑念を抱いている一方で、エルサへの深い共感と同情を感じていた。



そのため、発言には緊張感と困惑が表れ手のひらを震わせながらも、目を真剣に国王に向け



肩がわずかに震え、唇が軽く噛まれていた。



体全体に緊張が走り、彼女の手は不安に震えながらも、精一杯の勇気を振り絞る。



国王は冷静な顔で、ユナの動揺を気にも留めずに言葉を続けた。



その口調は、まるで国の政策について話すかのように淡々としていた。



「エルサについてだが、婚約破棄になることが決まった。彼女には高い爵位の男と結婚させるよう取り計らうつもりだ。」



ユナの心はさらに冷え込み、体中に重い鉛のような感覚が広がった。



国王の言葉が頭に響く中、彼女の目には瞬時に悲しみと混乱が浮び



エルサの努力と誠実さが一瞬にして踏みにじられる様子に、心が締めつけられる思いがした。



国王の言葉が続く間、ユナは黙って耳を傾けるしかなかった。



手のひらは緊張で汗ばんでおり、顔を上げることすらできずにいた。



エルサの未来を決定付ける冷酷な発表に対して、ユナは何も言えず、



ただただ心の中でエルサへの深い同情と、どうしてこんな事態になったのかという疑念が渦巻いていた。



ユナは王太子に視線を向け、問いかけの意味を込めたまなざしで彼を見つめ、



「エルサさんはこの話を知っているのですか?」



と、その問いを投げかける。



王太子は、一瞬その視線に捕らえられたように見えたが、すぐに冷静な表情を取り戻した。



彼の瞳にはわずかな陰りがあり、感情を押し殺したような無表情が広がっていた。



唇がわずかに引き締まり、彼は視線を逸らし、空気が一層重くなった。



「エルサには…まだ伝えていない。」



彼の声は平静を装っていたが、その言葉には微かに苦々しさが滲んでいた。



視線をそらすことで、彼の心中の複雑な感情が一瞬見え隠れし、



ユナの質問に対して答えることで、彼の内心の葛藤がより一層浮き彫りになった。



その態度に、ユナは言葉を失い、胸の中でさらに多くの疑念が湧き上がっていった。



王太子がエルサに対する本当の気持ちや、この事態が引き起こす結果に対する覚悟が見え隠れし、彼の反応に深い失望と不安が募った。



「王様…王太子とは知り合ったばかりです。…直ぐに答えは出せません」



ユナは真剣な表情で、心の奥底から湧き上がる不安を抑えようとしていた。



目を大きく見開き、彼女の声には困惑と焦りが混じり、まるで自分がまだ完全に理解していない状況に対する戸惑いが表れている。



手のひらはわずかに汗ばんでおり、肩が小さく震えているのがわかるほどだった。



国王はユナの言葉に一瞬驚いたような表情を浮かべたが、すぐにその顔を引き締めた。



彼の目には、冷静でありながらも鋭い決意が宿っていた。



「確かに、お前とアルシオンはまだ互いのことを深く知る段階ではないかもしれない。


しかし、結婚とは単なる個人の感情に留まるものではない。」



国王の声には、彼が持つ責任感と国の利益に対する強い意志が込められている。



「聖女としての立場を担うには、国の未来を見据えた選択が必要だ。お前がこの国のために力を尽くすことを期待している。」



彼はまっすぐにユナを見つめ、その眼差しには、ただの感情論ではなく、国家に対する使命感と政治的な配慮が滲んでいる。



国王の言葉には一切の揺らぎがなく、ユナに対してもその決断を受け入れるよう求める強い意志が感じられた。



ユナは国王の言葉に眉をひそめ、言葉を続けた。



「それでも、納得が行きません。お互いをまだよく知り合っていないのに、どうしてこんなに急ぐのですか?」



国王は静かに息をつき、やや柔らかな表情を見せた。



「ならば、時間をかけてお互いを知ることができるよう、期間を設けることにしよう。


半年後に行われる”星結の夜”


その間に、二人の関係が自然に深まることを期待している。」



王は冷静で威厳ある声で言った。

彼の表情は穏やかでありながらも、決して譲らない決意が感じられる。



玉座に座る王は、堂々とした姿勢を保ちながら、ユナの目を見つめ、



彼の声には柔らかさも含まれていたが、それはあくまで形式的な優しさであり、本心からの理解を示しているわけではなかった。



重苦しい雰囲気の中で、王の言葉は宮殿の大広間に響き渡り、その場にいる全員の耳に深く刻まれた。



王が決断を下した瞬間、エドガー・ド・ヴァレンティーノと名乗る宰相が一歩前に出て口を開いた。



「陛下、聖女様に選択肢を与えたらいかがでしょうか?」



王は少し驚いた表情を浮かべ、エドガーを見つめた。



「聖女さまが星結びの夜までに守護者である12星座のシンボルを持つ者を一人でも見つけられたら、王太子との婚約は白紙とし、


見つけられなかった場合は王太子殿下と結婚するという条件を提示してはいかがでしょうか?」



と提案した。



ユナはその提案に耳を傾け、心の中で希望が芽生えた。



王は深く考え込む様子を見せたが、最終的には頷いた。



ユナは一瞬戸惑ったが、決意を込めた声で答えた。



「分かりました、その条件を受け入れます。」



彼女の言葉には強い意志が感じられ、その場の空気が少し和らいだように感じた。



その日、庭園に佇むユナは咲き誇る花々の香りを感じながら、心を静めていました。



国王との謁見の後、聖女の道か、王太子との婚約か、まだそれを決め兼ねていた。



そんな時、後ろから足音が近づいてきます。



振り返ると、王太子が穏やかな笑みを浮かべて立っていました。



「ユナ、こんなところで何をしている」



「少し庭を散策していました、アルシオンさま。」



ユナは微笑みを浮かべながら答えるが、



王太子はユナの隣に立ち、彼女と一緒に景色を眺める。



「そうか。実は、君に知らせたいことがあるんだ。数日後に大切な公務が控えている。君も一緒に参加してほしい。」



ユナは驚きましたが、すぐに顔を引き締めた。



「公務ですか?どのような…?」



「国民に君を正式に紹介する場だ。彼らに、未来の王妃としての君を見せる必要がある。


もちろん、聖女としての君の役割も重要だが、君と私が結ばれることが国のためになると考えている。」



王太子の言葉には、自信と計算が感じられる。



ユナはその言葉を受けて、静かに頷いた。



「分かりました、アルシオンさま。公務に参加します。」



心の中で複雑な感情が渦巻くものの、今は彼の期待に応えるしかないと感じていた。



王太子は満足そうに微笑み、ユナの手を取ろうとしましたが、ユナはその手を軽くかわして言いました。



「では、その公務に備えて準備をしておきますね。」



王太子は少し驚いたようでしたが、すぐに柔らかな笑みを浮かべて答えました。



「君がその意志で望むなら、それでいい。」



ユナは一礼すると、その場を後にした。



彼女の心には、聖女としての使命と王太子との婚約という、二つの重圧がのしかかる。



王宮の廊下は、いつも通り静かで荘厳な雰囲気に包まれていました。



ユナは、数日後に控えた公務のことを考えながら、重たい心を引きずるようにして歩いていた。



頭の中では、アルシオンとの婚約のことが何度も巡り、どうしてもその重さを振り払うことができません。



その時、廊下の向こうから、黒いドレスを身にまとったエルサが現れた。



目が合った瞬間、ユナは足を止め、言葉を失う。



エルサの顔には、いつもの冷静さの中に深い悲しみと怒りが宿っているように見えた。


二人はその場で立ち止まり、互いに無言のまま見つめ合ち。



ユナは胸の中にある申し訳なさと、どうしようもない罪悪感に押しつぶされそうになります。



しかし、何を言えばいいのか、どう振る舞えばいいのか、言葉が見つからない。



エルサがその沈黙を破るように、冷ややかな声で口を開きました。



「…聖女様、王太子殿下とのご婚約、おめでとうございます。」



その皮肉混じりの言葉に、ユナの胸は一瞬にして締め付けられました。



エルサの声には、怒りと失望が隠し切れずに滲み出ていて、まるでユナの心を鋭く刺すようでした。



「エルサさん…」



ユナは小さな声で彼女の名前を呼びましたが、その声は震えていて、



エルサの怒りを和らげるどころか、さらに彼女を刺激してしまったように感じました。



「私は、アルシオンさま……王太子殿下との未来を夢見て、これまでどれだけの努力をしてきたか…あなたにはわからないでしょうね。」



エルサの目はユナを見据え、その瞳の奥には涙が浮かんでいましたが、それを堪えるように唇を噛みしめていました。



「それが、すべて一瞬で奪われる…あなたという存在だけで。」



ユナはその言葉にどう答えていいのか分からず、ただ立ち尽くした。



エルサの言う通り、彼女がどれだけの苦労をしてきたか、ユナには想像もつきません。



それを奪ってしまったという事実が、ユナの心に深い罪悪感を刻み込みます。



「私は…」



ユナは何とか言葉を紡ぎ出そうとしましたが、エルサの冷たい視線に押され、次の言葉が続かない。



彼女の心の中では、言い訳をするべきではないと理解している一方で、何か言わなければならないという焦りが募っていた。



「ごきげんよう、聖女様。王太子殿下と幸せにお過ごしください。」



皮肉が混じっている言葉を言い残して、エルサは背を向けた。



彼女の歩みは速く、ユナが何も言えないまま、彼女の背中が遠ざかっていく。



ユナはその場に立ち尽くし、エルサの言葉が頭の中で何度も繰り返されました。



彼女の悲しみと怒りが、自分のせいで生まれたものであることが、ユナには痛いほどにわかっていた。



けれども、それでも何もできない自分が歯がゆく、どうしようもない無力感に苛まれます。



廊下の静けさが、二人の間に残された感情の重さを際立たせるように、ユナの胸に深く残った。



当日、ユナの聖女としての正式なお披露目が始まる。



広大な王宮の広場には、多くの国民と貴族たちが集まり、緊張感が漂う。



ユナは白いドレスを身に纏い、まばゆい光を浴びながら広場が見渡せる城のバルコニーに登場し



そのドレスには星座の金糸刺繍が施され、彼女の動きに合わせて輝きを放っている。



キャンサーはユナの近くに控え、落ち着いた態度で周囲の状況を見守り



彼は魔法の結界を張り、もしもの時に備えている。



ピスケスは広場の周辺で警護にあたる。



彼は、群衆の中に不審な動きがないか、注意深く確認していた。



その存在感は威圧的でありながらも、どこか優雅で、国民の安心感を高めている。



リディアは広場からユナの聖女としての姿を見つめ、ユナが無事にお披露目を終えられるよう祈った。



ユナがバルコニーに立ち、微笑みながら手を振ると、国民たちは歓声を上げ、彼女の存在を歓迎する。



ユナは聖女としてのお披露目の場に立ち、まばゆい白いドレスに包まれていた。



ドレスには金糸で織り込まれた星座の模様が施され、彼女の動きに合わせてキラキラと輝く。



その姿は神秘的でありながらも、自然な優雅さを醸し出している。



彼女は国民たちに向けて微笑みを浮かべながら手を振る。



その仕草は洗練されており、マナー教育で培った礼儀正しさがあり、



手を振る動作は軽やかで、しなやかな曲線を描きながら、まるで優雅な舞いのようで



指先の角度や手のひらの向きは、エルサからの厳しい指導のお陰で丁寧で完璧だ。



顔に浮かぶ微笑みは、優しさと尊厳を兼ね備え、どこか穏やかな安心感を与える。



彼女の視線は一人一人の国民にしっかりと向けられた。



全体として、その姿には聖女としての品位と、真摯な心が溢れており、見守る者たちに強い印象を残し、



聖女としての威厳と優雅さを兼ね備えたユナが、ついに彼女の役目を果たす時が来たことを粛々と伝えていた。



聖女のお披露目が終わった後、王国は一層の熱気に包まれ



街中ではユナの名が賛美され、国民たちは彼女の未来に期待を寄せる様子が見受けられた。



王宮内では、形式的な儀式が終わったことへの安堵と共に、さらなる期待と希望が渦巻く。



王国の高官たちは、ユナの聖女としての姿を見て内心の評価を交わしながら、今後の公務や国の行く末について思いを巡らせた。



聖女ユナのお披露目に際して、王太子もその場に姿を見せ、彼女と並んで国民に手を振っている姿を国民たちの目に新しい。



その姿は微笑ましく、仲睦まじい様子に見えたことから、国民の間には瞬く間に噂が広がった。



「聖女様と王太子殿下が婚約するのでは…?」


「でも、王太子殿下は確かロベリエール家のご令嬢と婚約していたはずだろう?」


「まさか、婚約破棄になるんじゃないか?」


人々の口からは様々な憶測が飛び交い、街中はその話題で持ちきりとなった。



王太子アルシオンとユナの親しげな姿が、さらに噂を過熱させ、王宮外では真実を探るべく、あらゆる意見が交錯していた。



ユナは、王宮の温室でキャンサー、ピスケス、そしてリディアとティータイムを楽しんでいた。



壁に飾られた重厚な絵画が、静かな緊張感を醸し出している。



ユナは緊張を隠せず、指先をそっと握りしめた。



「実は…」

ユナは一息ついて言葉を続けた。



「王様から、王太子アルシオン殿下との婚約を直接聞いたの。」



その瞬間、部屋の空気が固まった。



キャンサーは驚きを隠せない様子で目を見開き、



ピスケスはただじっとユナを見つめている。リディアも、眉を少しひそめた。



「でも…宰相さんから、提案があって…。星のシンボルを持つ守護者を一人でも見つけられたら、婚約は白紙になるって。もし見つけられなかったら…」



ユナは言葉を詰まらせ、視線を一瞬床に落とした。



でも、ここで立ち止まってはいけない。



自分の中で何度も言い聞かせるように、ユナは深呼吸をして再び顔を上げた。




「王太子と結婚することになる。だから…正直、すごく悩んでるの。


でも、どちらの道を選ぶにしても、自分のやるべきことをやらなきゃいけないと思う。


…この国を救うために。そして、自分自身の進むべき道を見つけるために。」



その言葉が静かに響くと、3人はそれぞれの思いを抱えながらユナを見つめた。



キャンサーは小さく頷き、ピスケスは少し考え込んだ後、何かを決意したように目を細め、リディアは優しい微笑みを浮かべ、ユナに向かって一歩近づいた。



「私たちも、ユナを全力で支えるわ」



リディアが静かに言った。



キャンサーとピスケスも、その言葉に同意するように軽く頷く。



ユナは3人の温かい支持を感じながら、心の中で決意を新たに


困難な道が待っていることは分かっているが、彼らと一緒ならば、きっと乗り越えられる。



そう信じる気持ちが、ユナの中でゆっくりと芽生えていった。



ユナは聖女お披露目が終わり少し経ってから、



王宮の廊下には、装飾が施された美しい空間が広がり、輝かしい未来を予感させる静かな空間が漂う長い廊下の一室に立ち寄る。



”星の間”



星の形に彫られた扉の中央には、彼女が運命の道を歩むことを象徴するかのように、大きな星が煌めいている。



これまで数百年にわたり、聖女が不在だったため、この部屋は閉ざされていた。



キャンサーの案内で来た時は中は見れなかったが、今は違う。



国王に王太子であるアルシオンとの婚約を言い渡された日に、12星座の守護者を見つければ婚約はなかったことにしよう



そう言われた時に星の間がふと頭に浮かび、大魔法使いレオによって、星の女神からの加護を受けていると証明されたのだから、



聖女としての権限があるはずと国王に訴えたのだ。



国王は一瞬驚いた顔をしていたが、聖女権限と星の間の使用許可を得た。



「ここが…星の間。」



ユナは深く息を吸い込み、手を伸ばしてその重厚な扉をゆっくりと押し開け



扉が開くと同時に、星が美しく割れるように開く。その光景は、まるで星々が彼女を迎え入れるかのようだった。



部屋の中に足を踏み入れると、時間が止まったかのような静寂が広がる。



星の間は、かつては聖女のための特別な空間であり、星の女神との繋がりを保つ場所でもあったという。



長い年月の間に埃が積もり、使われていない雰囲気が漂っているが、古い文献や書物が整然と並べられた棚が壁を覆っていた。



ユナはゆっくりとその棚に近づき、星の女神に関する文献に手を伸ばし



薄茶色に変色した表紙には、星の女神のシンボルが描かれており、その古めかしい装丁は、時の流れを感じさせた。



「これが…星の女神に対する文献。」



彼女は慎重にその書物を開き、黄ばんだページをめくり始めた。



星の間に保管されていたこの文献は、星の女神の教えや聖女の歴史について記されており、聖女としての役割や使命が詳細に書かれている。



ページを読み進めるごとに、ユナの胸にある決意がさらに強まっていった。



文献を調べていくうちに1つわかったことがある。



初代聖女もまた、異世界から召喚された少女だったということだ。



見た目は栗色の艶のある髪、エメラルド色の瞳。



ユナとは違う世界から召喚されたらしい。



その少女は、聖女の役目を終えると長らく傍で聖女を守ってきた男性と結婚し、



末永く幸せに暮らしたと書かれている。



文献とされている内容はまるで御伽噺の様に装飾されているような印象を受ける



全てが嘘でないにしろ、”聖女は辛いことばかりじゃありませんよ〜”と謳っている



溜息を吐きながら本を閉じ、

星の間にある他の文献にも目を通す。



”12星座の星々”と書かれた本を手に取ると埃に塗れた表紙を手で払う



表紙には12個の星座シンボルが描かれていた。



「…こっちでも、12星座の概念は余り変わらないのね…。」



現実世界のユナは星を眺めることは好きだったが、占いや魔術の西洋占術には疎く、朝のテレビの星座占いは1日の始まりとしか思っていなかった。



何となく、一つ一つのシンボルを指でなぞってみる。



星の間に漂う静寂の中、薄暗い空間に柔らかな光が満ち始めます。



文献の上に無数の小さな星が瞬き、やがてその光が一つに集まり、目の前に美しい女性の姿が現れまた。



彼女は長い銀色の髪をたなびかせ、まばゆい瞳でユナを見つめています。



「…ユナ。待っていましたよ…。あなたがここに辿り着いたのは、運命の導きです。


私はルミナリア、星々を守る女神。あなたが手にしている文献には、星座の守護者たちの秘密が記されています。


それは、あなたの使命において重要な手がかりとなるでしょう。」


アステリアは柔らかな声で、しかしその言葉には確固たる力を感じさせます。


「この星の間に来たことで、聖女としての道を選ぶことは、あなたにとって重い決断であり、多くの困難を伴うでしょう。


しかし、星々はあなたを見守り、その歩みを支えるために存在しています。」



星の女神ルミナリアはそっと手を差し伸べ、ユナの心に直接語りかけるように話を続けます。



「この国は今や星の加護が薄れ、魔物の脅威が迫っています…。我が加護を授けた初代国王の子孫たちは名誉や地位、その功績に慢心し、国民を苦しめている。


彼らを探し出しなさい。それぞれの星座には特別な力が秘められており、その力を解放するのがあなたの役目です…ユナ。


星々の導きがあれば、迷うことはありません。私もあなたの側で見守り、導いていきます。」


ルミナリアの言葉が響くと、文献が微かに光を放ち、星座の秘密がユナの前に広がるように感じられます。



「ユナ、恐れずに進みなさい。星々が示す道を辿れば、あなたは真の聖女として輝くでしょう。そして、その先に、あなたが探し求める答えが待っているのです。」



ルミナリアは優しい微笑みを浮かべ、ユナを温かく見守ります。



「あなたの決意を信じ、星の導きを受け入れなさい。私は常に、あなたのそばにいます。」



ユナは聖女としての自分を確信し始める。

そして、彼女の心の中で、聖女としての使命が徐々に明確になりつつあった。



「これで私は、もっと深く、聖女としての役割を理解できるかもしれない…。」



そう自分に言い聞かせながら、ユナは新たな知識を求め、次々と文献を手に取っていった。



彼女が探し求めるのは、聖女に関する詳細な記録、そして王国を守るための大切な力についてだった。



彼女の探求は、これから始まる新たな旅の第一歩となるのだ。



あの日、ユナに新しい選択肢を与えた人物の部屋を訪れた。



深い決意を胸にエドガー宰相の執務室を訪れる。



扉をノックすると、エドガーは冷ややかな表情で彼女を迎え入れた。



「エドガー様、お話ししたいことがあります。」



エドガーは書類から目を上げ、ユナを見つめた。



「何か問題が起きたのですか?」



ユナは首を横に振り、星の間での出来事を話し始めた。



「…星の間で、私は古い文献を手に取りました。


そして、その文献には守護者についての記述がありました。


星の女神、ルミナリア様とお会いしたんです。」



エドガーの目が一瞬驚きに見開かれたが、すぐに冷静さを取り戻した。



しかし、ユナが続けて文献に記されていた内容について話し始めると、再び驚きが彼の顔に浮かんだ。



「…あなたはその文献の文字を読むことができるのですか…?」



エドガーは信じられないというように問いかけた。ユナは小さく頷く。



「はい、何故か分かりませんが、文字が自然に心に入ってきました。まるで、私に語りかけているように。」



エドガーはしばらくの間、考え込むように黙り込んだ後、再びユナに目を向けた。



「その文献に書かれている文字は、どこの国のものでもありません。


過去何百年も、この文字を解読できる者はいませんでした。


誰もその意味を理解できなかったのです。」



ユナの心臓が高鳴る。

自分がその文献を読めたことが、ただの偶然ではないことを改めて感じた。



「エドガー様、私は…この力を使って、守護者を見つけ出したいです。星の女神様も、私にその使命を与えられたとおっしゃいました。」



エドガーはしばらくユナを見つめていたが、やがて静かに頷いた。



「…あなたがその文献を読めるということは、まさにあなたが聖女として選ばれた証です。


女神ルミナリアが直接あなたに語りかけてきたのならば、その導きに従うべきでしょう。」



彼の声には、ユナが予想していた以上の敬意が込められていた。



エドガーはゆっくりと立ち上がり、彼女に歩み寄った。



「ユナ様、あなたの決意を支持します。守護者を探し出し、王国を守るために、できる限りの協力をしましょう」



ユナはエドガーの言葉に深く感謝し、心の中で新たな決意を固めた。



これからの道のりがどれほど困難であろうとも、彼女は星の女神ルミナリアと共に進むのだと。



ユナが執務室の扉を閉め、歩き去ると、エドガーはゆっくりと椅子に戻り、窓の外に視線を向けた。



彼の目には、遠くに広がる王宮の景色が映っている。



長い間、深い考察と準備を重ねてきた彼の心が、ようやく実を結びつつあるのを感じていた。


彼は小さく、しかし確かに独り言を呟いた。



「やっと、ここまで来ました…」



その言葉には、祈りともとれる安堵とともに、ユナが聖女としての道を歩み始めることに対する長い間の期待と準備が感じられた。



まるで、彼がユナの選択を予見していたかのように、彼の目には微かな微笑みとともに、未来に対する確信と複雑な思索が交錯していた。



ユナはエドガーから借りた巻物を広げ、古びたページをめくりながら、聖女に関する情報を探していた。



ページには、聖女の祈りによって作られた結界を張る柱が、アストリア王国の四隅に存在することが記されていた。



その柱は、星の女神から賜った魔物から国や人々を守る結界が施されており、代々聖女はその柱に数時間の祈りを4つ行い、結界を強め人々を守ってきたとされている。



その夜、ユナはキャンサーと共に王宮の庭園で静かに話し合っていた。



ユナは巻物の内容をキャンサーに伝え、どうすればこの柱を見つけられるかを相談する。



「キャンサーさん、これが聖女の祈りで作られた結界を張る柱です。アストリア王国には四つの柱があるそうです。」



ユナは巻物を広げながら尋ねた。



キャンサーは考え込むように眉をひそめた。



「四つの柱は今や信仰が薄れ、何百年も聖女が現れなかったことにより遺跡化していますが…場所ならわかります。」



ユナは少し驚いた顔をした。



「でも、王宮の外に出るとなると…」



キャンサーは優しく微笑み、彼女の肩に手を置いた。



「心配しないで。…僕もついて行くから」



ユナはしばらく考えた後、決意を固めた。



「ありがとう!キャンサー」



その言葉を聞いたキャンサーは頷き、ユナは王宮の外での探険に向けて準備を始めることになった。



ユナはキャンサーと共に、アストリア王国の守護者を探すため、王宮外での探索を決意した。王宮外の旅には、キャンサーともう一人、専属護衛騎士として任命されたピスケスも同行することになった。


キャンサーとユナが王宮の馬車に乗り込もうとすると、ピスケスが静かに合流してきた。彼は鋭い目つきでユナを見つめ、低い声で報告した。


「聖女様、本日付けで専属護衛騎士に任命されました。これより、私が常にお傍でお守りいたします。…ユナ。」


ピスケスは少し照れつつもユナを見つめ微笑んだ。


ユナは驚きつつも、彼の誠実な姿勢に安心感を覚え、頷いた。


「ありがとう、ピスケス。これからもよろしくお願いします。」


三人は馬車に乗り込み、王宮を出発した。目指すは、かつて聖女の祈りで作られたという結界の柱が建つ遺跡。東西南北の四方に一本ずつ存在するというその柱は、アストリア王国の平和を守るために建てられたと伝えられている。


まず訪れたのは、東に位置する柱の遺跡。しかし、長い年月を経て荒れ果てた遺跡には、手がかりとなるものは見当たらなかった。次に向かった西と南の柱も同様に、何の成果も得られなかった。


時間は刻々と過ぎ、残るは北に位置する柱だけとなった。その柱は、深い森の中に隠されるように建てられており、三人は馬車を降りて森の中へと足を踏み入れた。


森は濃い霧に包まれ、木々はまるで生きているかのように揺れ動いていた。ユナは不安を抱きつつも、心の中でルミナリアに祈りを捧げた。そして、キャンサーとピスケスがそれぞれのポジションでユナを守りながら、三人は慎重に進んでいく。


「ここに、何かがある気がする…」


ユナはつぶやき、森の奥深くへと進んでいった。やがて、一筋の光が彼女の目に映り、その先には、荘厳な雰囲気を放つ祈りの柱がそびえていた。



ユナは祈りの柱に引き寄せられるように近づき、その美しい白を基調としたデザインに心を奪われた。ほかの三本の柱とは異なり、この柱だけが今でも聖女の祈りを受け続けているかのように、当時のままの姿を保っている。柱にそっと手を触れた瞬間、柱は黄金の光を放ち、ユナを歓迎するような温かな感触が広がった。


「すごい…こんなに温かいなんて…」


ユナはその光に包まれながら、聖女に関する情報を得ようと柱をぐるりと見渡した。しかし、特に何も見つけることができず、少し不安が胸をよぎる。その時、突然背後から禍々しい気配を感じ、ユナは思わず振り向いた。


そこには、ユナと同じ年頃の少女が立っていた。彼女は銀髪を地面に着きそうなほど長く伸ばし、黒いマントを羽織っている。古めかしい杖を持ち、すました表情でユナを見つめていた。その冷ややかな視線が、ユナをさらに怖がらせる。


ユナはその冷ややかな視線に身を縮めながらも、どうにか勇気を振り絞り、問いかけた。


「…あなたは…誰?」


「私は時の魔法使いよ。」


少女は無表情で答え、杖を地面に軽く突き立てた。すると、紫、緑、黒色の禍々しい魔法陣が大きく描かれ、その異様な力がユナを包み込む。だが、その瞬間、少女の冷めた瞳の奥に、わずかに温かみのある光がちらりと差したように見えた。


「…全く、見ちゃいられないねぇ…」


少女が小さく呟くと、魔法陣から眩い光が発せられ、ユナはその光に包まれてしまった。


異変を感じ取ったキャンサーとピスケスが、急いでユナの元に駆けつけたが、すでに遅かった。ユナと少女の姿は、光と共に跡形もなく消えてしまった。



眩い光に包まれたユナは、光が収まり、ゆっくりと目を開けた。そこには、何もない真っ白な世界が広がっていた。ユナはその異様な空間に恐怖を覚え、心臓が高鳴るのを感じた。


「ここは私が作り出した時の魔法による異空間…誰も入っては来れない」


冷ややかな声がユナを現実に引き戻す。少女の言葉にユナは背筋が凍りつくのを感じた。


「…君にはどうしても習得して欲しいスキルがあるのよねぇ」


少女の長い銀髪の中から、ひょっこりと顔を出した小さな人型が、何とも軽い口調で言葉を発した。


「…スキ…ル?」


ユナは戸惑い、言葉の意味が飲み込めないまま、呟くように問い返す。


「…私たちは膨大な魔法を習得する旅に出ている」


少女は冷たい声で言い放った。


「魔法…私には魔力がほとんどないんです!…スキルと言われても…」


ユナは信じがたく、必死に言い訳をしようとするが、その声は震えていた。


「…あなたには星の女神の加護がある」


少女は杖をコツンと鳴らしながら、事実を告げる。


「その加護を使えば魔法を使えるようになるし、女神に近い力を使うことも可能よ」


再び、小さな人型が話し、ユナに現実を突きつける。


「で、でも、こんな急に言われても…それに私はあなたたちを信用できない!」


ユナは恐怖と不安に押しつぶされそうになりながらも、勇気を振り絞り、震える声で反論した。


「それもそうねぇ…あたしはリオ。精霊見習い」


小さな人型が、リオと名乗りながら、ユナに紹介する。


「こっちが、時の魔法使いで、古の大魔女よぉ」


リオはそう言いながら、誇らしげに少女を紹介した。その瞬間、ユナの目には、リオがまるでマスコットのように見え、緑を基調とした小さな服を着て、無邪気に尻尾を振っているように感じられた。


「どうして…そんな方が…私にスキルの習得をさせるの…?」


ユナはまだ理解しきれないまま、不思議そうに問いかけた。


「…これは私の試練だからよ。…女神の力を手に入れる条件として、星の国の聖女のスキルを解放せよ」


少女は、冷たい瞳でユナを見つめながら静かに答えた。その言葉には、ただの強制ではなく、何か深い理由があるような響きがあった。


「ほんとぉ、女神様も人使いが荒いわよねぇ〜」


リオは少女の肩に軽々と乗りながら、まるで茶化すように言った。


「そういうわけだからぁ、ちょっとばかしアナタにも強くなってもらうわよぉ!」


リオはウィンクをしながら、ユナに明るい笑顔を向けた。その姿が少しだけ、ユナの不安を和らげる。


「でも…私は、本当にそれができるの?」


ユナはまだ信じられない様子で、震える声で尋ねた。


「できるわ。アナタには星の女神、ルミナリアの加護がある。それに、この力は、アナタ自身だけでなく、この国を救うためにも必要なのよ」


少女の言葉には、冷たさの中にも強い信念が込められていた。その言葉がユナの胸に響き、彼女の中で小さな決意が芽生え始めた。


「…わかりました。私、やってみます!」


ユナは不安を抑え込み、強く頷いた。これまでの彼女なら、こんな状況で自信を持つことはできなかったかもしれない。しかし、今は違う。星の女神ルミナリアの加護を信じ、そして、この試練を乗り越えることが、自分の使命であると感じ始めていた。


「よし、それでこそ聖女様だわ!じゃあ、さっそく始めましょうか」


リオは嬉しそうに飛び跳ねながら言い、時の魔法使いも静かに頷いた。


「覚悟はいいかしら?…これからアナタは、聖女としての真の力を目覚めさせるのよ」


時の魔法使いの瞳に、再び冷たさが戻り、ユナに強い視線を投げかけた。


ユナはその視線を受け止め、深く息を吸い込んでから、決然とした表情で頷いた。これが、彼女の新たな旅立ちの瞬間だった。



「今、アナタに必要なのは星の女神の加護を魔力に変換させることなの」


リオは人差し指を立ててウィンクしながら、ユナに説明を続けた。


「あたしが地球に行った時は、魔力を使い果たして、魔力を補給するにもあの星って魔力がないじゃない?」


リオは訝しげに呟きながら、過去の経験を思い返している様子だった。隣で静かに聞いていた少女も軽く頷き、リオの言葉を肯定する。


「…ち、きゅう…」



ユナは、目の前に立つリオと時の魔法使いを見つめながら、彼女たちが言う「地球」についての話を理解しようと必死だった。地球とは、ユナが生まれ育った場所で、今も両親や友人たちが、きっと彼女を心配しているであろう世界。そんな地球のことを、この異世界の存在たちが知っているとは、ユナには想像もつかなかった。



「地球って…私がもともと住んでいた世界のことですよね?」



ユナは震える声で尋ねた。リオは彼女の表情が急に険しくなったのを見て、軽く頷いた。



「そうよぉ、ユナちゃんがいた場所、あそこが地球だわねぇ。あたしも昔、ちょっと用があって行ったことがあるの」



リオはにこやかに話すが、その目にはどこか遠い記憶を思い出しているかのような陰りがあった。時の魔法使いも、リオの言葉に同意するように静かに頷いていた。



ユナは目の前にいる時の魔法使いとリオのやり取りを聞きながら、複雑な感情が胸に渦巻いていた。地球という言葉が出てきた瞬間、彼女の心はざわめき、両親や友人たちの顔が次々に思い浮かんだ。ここではない、もうひとつの世界――それはユナが今もなお懐かしさと切なさを感じる場所だ。


時の魔法使いはユナの心を見透かしたかのように、静かに言葉を紡いだ。


「ユナ、あなたを両親や友人がいる場所へ返すことができるわ。地球に戻れるチャンスは今だけ。この瞬間に選ばなければ、二度とその機会は訪れない」


その言葉がユナの心に深く響いた。両親ともう一度会えるのか?友人たちとまた学校で一緒に過ごせるのか?一瞬、胸が温かくなりかけたが、同時に今いるこの異世界での使命が頭をよぎる。星の女神からの加護を受けたこと、この世界での役割がまだ果たされていないことが、ユナを揺さぶっていた。


その時、リオが急に声を上げた。


「待って、綾子!…そんなことをしたら、女神の力はどうするの!?」


リオの目は驚きと困惑に満ちていた。まさか、時の魔法使いがユナを地球に戻そうとするとは思っていなかったのだろう。


「未来の聖女に会いに行けばいい」


淡々とした口調で応える時の魔法使い。その名前が「綾子」だと知った瞬間、ユナの心は大きく揺れ動いた。綾子…それは、ユナが知っている日本の名前だ。そして、どこか懐かしい響きを感じる。


「綾子…あなた、日本人なの?」


ユナは思わず口を開いた。綾子という名前が、この異世界で生きる魔法使いのものであることが、どうしても信じられなかった。彼女もまた、ユナと同じように地球からこの世界に来たのだろうか?


綾子と呼ばれた時の魔法使いは、ユナの視線を受け止めて、わずかに微笑んだ。


「そうよ、私もかつては日本で暮らしていた。でも今はこの世界で、時を越える魔法使いとして生きているの」


その言葉にユナは強く心を動かされた。彼女は自分と同じく、日本からこの世界にやってきた存在。だが、彼女はこの異世界で生きる道を選び、今はその力を使って他の人々を導いている。ユナは綾子の静かな瞳の中に、どこか共感できる何かを感じた。


「…もし、私がここに留まることを選んだら、あなたのようにこの世界で生きていくことになるのかしら」


ユナの問いに、綾子はただ静かに頷いた。


「そうね、あなたがこの世界に留まると決めたなら、地球には戻れなくなる。だけど、あなたにはこの世界で果たすべき役割がある。自分の力を信じて、進む道を選びなさい」


ユナは迷いを感じながらも、綾子の言葉に背中を押された気がした。両親や友人たちをもう一度見たいという気持ちも強かったが、この世界での使命を果たさなければならないという思いが、心の中でどんどん強くなっていく。



ユナは心の中で葛藤していた。地球への帰還の可能性を目の前にして、その選択に心が揺れる一方で、異世界での使命を果たさなければならないと感じていた。


彼女が異世界に召喚された理由はまだ完全には理解できないが、星の女神ルミナリアの加護を受けていることから、この世界には彼女が果たさなければならない重要な役割があると確信していた。もし今、この瞬間に地球に戻る選択をするなら、その後の自分がどうなるのか、未来がどう変わるのかは分からない。その可能性が完全に失われてしまうことも理解していた。


ユナは、自分がこの世界に呼ばれたのは単なる偶然ではないと感じた。異世界での経験が、自分自身を成長させる大切な試練であり、それに立ち向かうことで何かを成し遂げるべきだと考えていた。地球に帰る選択肢は確かに魅力的であり、家族や友人と再会できることを考えると心が温かくなる。しかし、それと同時に、この異世界で何かを達成しなければならないという責任感も強く感じていた。


「この世界で果たすべき使命があるはず…」とユナは自分に言い聞かせながら、心の中で決意を固めていった。地球に戻る選択肢が一度きりであることを理解しながらも、彼女は今、ここでの役割を果たすことが、自分にとって最も大切なことだと感じ始めていた。


「…私はこの世界に留まります」


ユナの声には、決意が込められていた。綾子はその言葉を聞いて、静かに微笑んだ。


ユナは心の中で葛藤していた。地球への帰還の可能性を目の前にして、その選択に心が揺れる一方で、異世界での使命を果たさなければならないと感じていた。


異世界に召喚された理由はまだ完全には理解できないが、星の女神ルミナリアの加護を受けていることから、



この世界には彼女が果たさなければならない重要な役割があると確信していた。



もし今、この瞬間に地球に戻る選択をするなら、その後の自分がどうなるのか、未来がどう変わるのかは分からない。



その可能性が完全に失われてしまうことも理解していた。



ユナは、自分がこの世界に呼ばれたのは単なる偶然ではないと感じた。


地球に帰る選択肢は確かに魅力的であり、家族や友人と再会できることを考えると心が温かくなる。



しかし、それと同時に、この異世界で何かを達成しなければならないという責任感も強く感じていた。



「この世界で果たすべき使命があるはず…」



とユナは自分に言い聞かせながら、心の中で決意を固めていった。



地球に戻る選択肢が一度きりであることを理解しながらも、彼女は今、ここでの役割を果たすことが、自分にとって最も大切なことだと感じ始めていた。



「分かったわ。これからの道、あなたが決めた選択を後悔しないように、全力で進んで行くのよ」



リオは少し心配そうにユナを見つめていたが、彼女が決意を固めたことに安堵の表情を浮かべた。



「それじゃあ、ユナちゃん。あたしがしっかりサポートしてあげるから、一緒にがんばりましょうね」



リオの優しい言葉に、ユナは心が少し軽くなった。



地球に戻ることはできないかもしれないが、この世界で新たな未来を切り開いていく覚悟ができたのだ。



ユナがこの世界に留まる決意を固めた後、綾子はふと遠くを見つめるような眼差しを見せた。



白い異空間が、森のように変わったのはほんの一瞬の出来事だった。



ユナはその変化に驚きもせず、深く息を吸い込んで静かに立っていた。



目の前にいる時の魔法使い綾子と精霊見習いリオの期待の視線を感じながら、ユナは心を落ち着けようとした。



「これから、あなたの星の力を引き出すわ。」



綾子の声は穏やかで、ユナの心に深く響いた。



「自分の中に流れる星の力に意識を集中させて。」



「リオ、サポートをお願い。」



綾子がリオに向かって言った。



リオは静かに頷き、柔らかな微笑みを浮かべながら、ユナの側に寄り添った。



「ユナ、まずは目を閉じて、深呼吸をしてみて。」



リオの指示に従い、ユナはゆっくりと目を閉じ、深い呼吸を始めた。



心の中の静寂を求め、周囲の音や景色から意識を切り離していく。



「良いわ、リラックスして。」



綾子の声が、優しくユナの心を導いた。



「今、あなたの中に流れている星の力に意識を向けて。感じる必要があるのは、外の世界ではなく、あなた自身の内側に流れる力よ。」



ユナは深く呼吸を続けながら、内なる感覚に意識を集中させた。



心の中にある静かな場所を探し、その場所に流れるエネルギーを感じ取ろうとする。



しばらくして、彼女は徐々に自分の体内に微細な光の流れを感じ始めた。



それはまるで、星が彼女の体の中で穏やかに輝きながら流れているような感覚だった。



「その感覚をもっと深く掘り下げてみて。」



リオの声が、彼女の瞑想をサポートするように響いた。



「星の力があなたの中でどう動いているか、どう感じられるかを探ってみてください。」



ユナは自分の体内に流れる星の力の動きに注意を払い、その力がどのように彼女の心と体に影響を与えているかを感じ取った。



微かな光が彼女の中を通り抜け、時折強く、時折穏やかに輝いていた。



その流れを意識し、星の力が持つエネルギーの源に触れる感覚が深まっていった。



「そう、その調子よ。」



綾子の声が、ユナの内なる力を引き出すように導いた。



「あなたの星の力が、あなた自身の一部であることを感じて。その力がどのように変化し、どう活用できるのかを理解して。」



ユナはその言葉に応え、星の力の流れに完全に身を任せた。



彼女の心の中で、星の光が鮮やかに輝き、彼女自身の内なる力がはっきりと感じられるようになってきた。



瞑想が進むにつれて、彼女はその星の力が彼女の一部であり、そこから生まれる力がどれほど強いかを理解し始めた。



「良いわ、ユナ。」



綾子が優しく言った。



「その調和ができているわね。これからの訓練にも、この力をしっかりと活用していきましょう。」



ユナは静かに目を開け、深い安堵の中で自分の内なる星の力を感じながら、次のステップに向けて心の準備を整えた。



しばらく経ったころ、彼女の体内に流れる星の力が次第に強くなり、波のように押し寄せてきた。



突然、ユナの体から放たれる光が激しくなり、周囲の空間が揺れ動き始めた。



星の力が彼女の内部で暴走し、白い異空間が瞬く間に不安定な輝きを放ち始めた。



星の力が予期せぬ形で彼女の体を通り抜け、暴走しているのだ。



「あ”ぁ”…っ…うぅ”」


ユナは眩い光に取り込まれ、悲痛な悲鳴を上げる



「…暴走だわ!」



綾子が警戒の色を強めながら叫んだ。



「ユナ、冷静に!自分の力を制御しなさい!」



「…そんなこと言われても…あ”ぁ”…ぐっ」



ユナは自分の身体を掻きむしるように苦しみ、眩い光は炎のように燃え上がる



リオはすぐに動き、ユナの近くで光の波動を抑えるために防御魔法を展開しユナを囲う。



その間、綾子はユナに向かって落ち着くようにと呼びかけた。



「ユナ、焦らないで。自分の内なる星の力を理解し、その流れを感じ取って。暴走しているのはあなたの力だけど、それを正しくコントロールすることで元に戻すことができるわ。」



ユナは必死に自分の内側に意識を集中させ、暴走する力を感じ取りながら、心の中で制御しようと試みた。



強い光とエネルギーが彼女を包み込み、次第に彼女の周囲は光の嵐のようになっていった。



「力を恐れず、受け入れるのよ!」



綾子の声がユナの耳に響く。



「それがあなたの力だということを受け入れるの!」



ユナは心を落ち着け、暴走する力の流れを見つめながら、冷静にそのエネルギーを自分の意志で抑え込む。



光が少しずつ収束し始め、暴走していたエネルギーが徐々に落ち着いていく様子が見て取れる。



リオと綾子のサポートを受けながら、ユナはついに暴走を鎮めることに成功した。



光が安定し、異空間が再び落ち着きを取り戻すと、彼女の呼吸は深くなり、体全体がリラックスした。



「良くやったわ、ユナ。」



綾子が微笑みながら言った。



「暴走を乗り越えたことで、あなたは自分の力をより深く理解し、コントロールする力を得たわ。」



ユナは安堵の息をつきながら、心の中で自分の成長を実感していた。



暴走する星の力を無事に抑えたユナは、深く息をつきながら、周囲の落ち着きを取り戻していった。



異空間の光が収束し、穏やかな森の景色が再び広がっていた。



リオと綾子が近づき、ユナの様子を心配そうに見守っていた。



「ユナ、大丈夫?」



リオが心配そうに問いかけた。



「う、うん。」



ユナは息を整えながら頷いた。



「でも、どうしてこんなことが…」



綾子はユナのそばに近づき、彼女の額に優しく手を当てた。



「あなたが暴走を起こしたのは、単に力を制御できなかったからではないわ。…心の弱さよ。」



「……」


ユナは驚きの表情を浮かべた。



「どういうこと?」



「あなたが自分の力に対して持っている不安や恐れが、暴走を引き起こす原因となったの。」



綾子は落ち着いた口調で説明を続けた。



「星の力は強大だけれど、それを制御するには心の中の不安を取り除く必要があるわ。」



リオがうなずきながら補足した。



「あなたが力を発揮しようとする時、その心の中の不安が力を暴走させることがある。心が揺らぐと、力も制御しきれなくなってしまうの。」



ユナは自分の心の奥底に潜む不安や恐れを思い返してみた。平穏な家庭環境で育ち、これまでの人生で大きな問題に直面することは少なかったが、異世界での聖女としての宿命。そして、己の力の疑念。それが心の弱さを生んでいたことに気づいた。



「じゃあ、どうすれば心の弱さを克服できるの?」



ユナは不安そうに尋ねた。



「まずは、自分の力に対する信頼を深めることよ。」



綾子は優しく語りかけた。



「あなたが自分の力を理解し、自信を持つことで、心の中の疑念は徐々に解消されていくわ。訓練を続けて、自分を信じることが大切よ。」



リオも励ますように言った。



「疑念を乗り越えるためには、少しずつ自分を試してみることが必要だよ。小さな成功体験を積み重ねることで、確信を深めていくことができるんだ。」



ユナは静かに頷き、自分の心の弱さと向き合う決意を固めた。



綾子が杖を軽く小突いた瞬間、白い異空間が一瞬のうちに果てしない漆黒の闇に包まれた。



周囲の景色が劇的に変化し、ユナの体から発せられる頼りない光だけが闇の中で瞬いていた。



ユナは不安そうに周囲を見渡したが、闇の中では綾子とリオの姿は見えず、時折耳にする声がただの囁きのように感じられた。闇の深さと広がりに、彼女の心は一層萎縮していった。



「ユナ、自分の心の闇と向き合いなさい。」



綾子の声が闇の中から響いてきたが、その声はどこから来るのか分からないほど遠く感じられた。



「あなたの心の弱さが、魔力の暴走を引き起こす原因になっているのよ。」



「心の闇…?」



ユナは声を出して反応したが、自分の声さえも闇に吸い込まれていくように感じた。



闇の中で、彼女の心に潜む恐れや不安が次々と姿を現し始めた。



昔の家族との楽しい思い出が、今は遠い記憶のように感じられ、心の中に潜む孤独や不安が再び浮かび上がってきた。



「恐れずに直視しなさい。」



綾子の声が再び響く。



「それがあなたの心の奥に眠る闇だわ。それを克服しなければ、あなたは本当の力を発揮できない。」



闇の中でユナは、心の奥深くに潜む弱さと向き合うことを強いられた。



彼女の心には、恐れや不安が渦巻き、闇が心を侵食していくのを感じる。



「これが私の心の中の…闇。」



ユナは震えながら呟いた。



「今、あなたの内なる闇と向き合い、それを受け入れることで、自分自身を強くするのよ。」



ユナは深呼吸し、自分の内面に集中しながら、心の中の闇と対話を始めた。



闇の中で、ユナは孤立した感覚に苛まれていた。



彼女の体から発せられるわずかな光は、漆黒の闇に飲まれて次第に弱まっていく。



周囲は完全に暗黒に包まれ、綾子やリオの姿はどこにも見えず、彼女が聞こえるのはかすかな囁きだけ



恐怖と不安が彼女の心を押し潰し、心の奥底から浮かび上がる感情が次々と具現化していく。



最初に現れたのは、過去の失敗や力不足への深い自己否定だった。



孤独感が心をさらに締めつけた。周囲がただの漆黒の闇で、誰の姿も見えない中で、ユナは一人ぼっちだという感覚に襲われた。



強い光が目の前に現れ、ユナはその光に引き寄せられるようにしていくつもの影を見つける。


その影たちは彼女に向かって手を伸ばしている。



よく見ると、それは彼女の知っている顔だった。



キャンサーの優しい笑顔、ピスケスの頼もしい目、リディアの穏やかな表情が、次第に変わっていく。



彼らの目には冷たさが宿り、笑顔は嘲笑に変わっていく。



「ユナ、君にもう用はない。」


「私たちの世界には君の居場所はないわ。」


「君はただの異物だ。」



彼らの声が、ユナの心に冷たい刃のように突き刺さる。



キャンサーが振り返り、冷たい瞳でユナを見下ろす。



その後ろには、ピスケスとリディアも無表情で立ち去る姿が見える。



彼らの背中がどんどん遠くなり、ユナの心に深い孤独と絶望が押し寄せてくる。



「いやっ…行かないで!」



ユナの声は震え、涙が頬を伝う。



周囲の景色が一層暗く、冷たくなっていく。



彼女は絶望的な闇に包まれたまま、ただ立ち尽くすしかなかった。



彼らが去っていく姿はますます小さくなり、ついには完全に消えてしまう。



目を閉じると、ユナの耳に最後の言葉が響く。


「君の存在は、私たちの世界にとって、何の意味も持たない。」


闇に飲み込まれながら、ユナは自身の孤独と無力さに打ちひしがれていった。



彼女は、自分が誰にも理解されず、ひとり取り残されているような苦しみを感じ、闇の中で心が砕けそうになった。



恐れと絶望が彼女の心に深く染み込み、次第に外見にも変化が現れた。



彼女の体が青白く、異様に鋭い眼光を放つ姿に変わり、まるで悪魔のように見えた。



闇に包まれた彼女の姿は、完全に魔物のような異形となり、その外見からも心の闇が深く刻まれているのがわかる。



彼らの言葉が闇の中で形を成し、ユナの心をさらに苦しめた。



彼女の中に潜む痛みや恐怖が暴走し、心の闇がどんどん深まっていく。



その影響で、制御不能な感情が彼女を支配し、完全に心の闇に飲み込まれてしまった。


ユナは自分の心の中にある恐れ、孤独感、自己否定を受け入れるどころか、それらに完全に飲み込まれてしまい、何もできないまま闇に溺れていた。



彼女の体は魔物のように変わり、外見からもその心の深い闇が伝わる。



闇が彼女を完全に包み込む中で、ユナの内面もまた、完全に闇に支配されていた。



彼女はその中でただ、漠然とした絶望感と無力感に囚われながら、何もできずに沈み込んでいた。



彼女の体から発せられる光は消え去り、青白い光が異様な闇の中で異常に引き立っていた。



彼女の姿は、まるで悪魔のように変わり、闇の力が暴走して空間を侵食し始めていた。



「このままでは空間が崩れてしまう!」



綾子は冷静な声で呟きながら、杖を持つ手に力を込めた。



彼女は結界魔法を発動し、闇の力に対抗するための強力な結界を張り巡らせた。



その結界は、漆黒の闇に対抗するための防御壁を形成し、異空間が崩れるのを防ぐために必死に維持されていた。



ユナの周囲の空間は、彼女が暴れるたびにひび割れ、闇の力が空間の構造を破壊しようとしていた。



強力な闇の波が結界にぶつかり、結界の一部が揺らぐたびに、綾子の額に冷や汗が流れた。



闇の力に対抗しながら、彼女は必死で結界を修復し、空間の崩壊を防ごうとする。


「ユナ、聞こえる? あなたはまだ自分の内面と向き合うことができる!」



綾子の声が闇の中でかすかに響いたが、ユナはその声に反応することはなかった。



闇に飲まれた彼女は、自分が何をしているのかもわからないまま、ただ暴れ続けていた。



その時、闇の中でユナがふと立ち止まった。



彼女の体から発せられる光が一瞬戻り、その光が闇の中で微弱に輝いた。



綾子はその瞬間を見逃さず、心の中で希望を抱く。



ユナの心が何かに気づく兆しが見えたのかもしれないと感じた。



「ユナ、あなたの中には光がある。心の奥底に眠っている力を取り戻して!」



綾子は最後の力を振り絞り、結界を強化するための魔法をさらに集中させる。



闇の力が結界にぶつかる度に、結界が輝きを増し、空間の維持が続いていた。



「ユナ、君の中に宿る光は、どんな闇よりも強いの。闇の中に必ず光はあるわ。」



意識が闇に蝕まれる中、ユナの脳裏に女神の声が響く。



彼女の心の奥底で、忘れかけていた光が再び目を覚まし始めた。



トクン…トクン…

心臓の音が心地よく暖かく響く。



「ユナ!」

「ユナ…!」



キャンサーとピスケスのユナを呼ぶ声が遠くから響き、聖女の柱の森で必死にユナを探す2人の姿がビジョンとして見える。



「帰らなきゃ…」



自分を必死に探す人たちがいる。

心配してくれる仲間がいる。



それだけで心が温かくなるのを感じ、そのビジョンに手をかざすと光の輝きが徐々に強まる。



ついに、ユナの体から発せられる光が闇の中で明るくなり、漆黒の闇を押し返し始めた。



ユナは深く呼吸をし、心の中の光を感じ取る。



星の女神の教えに従い、光を取り戻す。



「ルミスタリア!」



ユナの体から放たれる光が強く輝き始める。



ユナの足元には星のシンボルと無数の星座が描かれた魔法陣が出現し、大きな光を放つ



その光が周囲の闇を貫き、漆黒の空間が次第に明るくなり



闇は光に浸食され、完全に消え去り異空間は再び自然豊かな美しい空間へと戻っていった。



闇の力が収束し、空間が安定を取り戻すと、綾子は息をつく。



彼女は結界を解き、異空間が再び白い空間へと戻るのを見守る。



「これが…浄化の力…」



綾子は惚れ惚れした瞳で呟き、安堵のため息をついた。



「ユナ、よくやったわ。」



リオはクルクル宙を舞いながらユナの頬に擦り付く。



ユナは徐々に体から発せられる光が収まっていき、元の精神状態を取り戻したのだ。



彼女は心の闇から抜け出し、星の力の制御と聖女しか使えない浄化の力を手に入れた。



ユナが光に包まれて立っているのを見て、リオは深い感慨をこめた表情で近づいていく。


「ユナ、よく頑張ったね。」



リオは穏やかな声で話しかける。

その声には、誠実な敬意が込められていた。


ユナは目を開け、リオの姿を見つめる。

リオは優しく微笑み、手を差し出す。


「ユナ、…君の中には、まだまだたくさんの可能性が眠っている。今日の試練を乗り越えた君なら、どんな困難も乗り越えられるわ。」



リオは、ユナの手を優しく握りしめる。彼の目には温かな光が宿っていた。


「でも、そろそろお別れね。」



リオは少し悲しそうな表情を見せる。



「私たちの役目もここまで。君が自分の力で未来を切り開くのを、心から応援しているわ。」



リオはゆっくりと後ろに下がり、綾子はコツンと地面を杖で小突くとオレンジ色に燃え上がる炎に包まれ、その姿が次第に薄れていく。



「さようなら、ユナ。君の未来に幸運を。」



その言葉が静かに響く中、綾子とリオの姿は完全に消え、異空間の光が一層強く、清らかになった。



「ユナ、あなたがこの世界で歩む道には、星々の加護が共にあり、これからあなたが出会う者たちの中に、あなたを深く理解し、支えてくれる存在がいるわ。


その者は、あなたの心に穏やかな光を灯し、どんな時もあなたを導いてくれるでしょう」



ユナは綾子の言葉が胸に響くのを感じた。



それが誰を指しているのかは分からなかったが、どこか安心感のようなものが彼女の心を包んでいた。



「その者と出会った時、あなたは自分が選んだ道が正しかったことを強く感じるはずよ。信じる心を持ち続ければ、あなたの未来はきっと輝かしいものになるわ」



綾子の言葉はお告げのように響き、ユナの心の中に深く刻まれた。



「…ありがとう、綾子さん。私、これからも前を向いて進んでいきます」



ユナは綾子からのお告げじみた言葉に心が暖かくなり、彼女の思いを受け取った。



ユナの目に一瞬の疲労が見えた。

彼女の視界はぐらつき、ふらついた足元でバランスを崩し、ついには膝から崩れ落ちてしまう。



「ユナ!」



その声は、キャンサーとピスケスが急いで駆けつけたときのものだった。



二人は異空間の変化を見届け、すぐにユナの元へと向かう。



キャンサーは慌ててユナの元に跪き、彼女を抱きかかえた。



「ユナ、大丈夫か?しっかりしろ!」

ピスケスがユナの額に手を当てる。



ユナが深い眠りに落ち、キャンサーとピスケスは急いで王宮へと向かった。



王宮の医務室に到着するや否や、ピスケスはすぐにリディアの父親である医務官に助けを求めた。



「フリードリヒ!急いで診てくれ。ユナが倒れた!」



ピスケスの声には焦りと心配がにじんでいた。



フリードリヒは素早くユナの元に駆けつけ、彼女の状態を確認する。



キャンサーとピスケスが見守る中、医務官はユナの脈や呼吸を丁寧にチェックし、診断を下す。



「過労と疲労が原因だろう。彼女の体力は極度に消耗している。」



医務官は眉をひそめながらも冷静に説明する。



「十分な休息と安静が必要だ。」



フリードリヒの指示のもと、星の間に安静に眠るための措置が施される。



星の間の天井は夜空に輝く星々が煌めいており、聖女の静かな環境が整えられた。



キャンサーとピスケスは、ユナが安静に過ごせるように部屋の外で見守り続ける。



キャンサーは心配そうな表情でフリードリヒに問いかけた。



「ユナは、いつ目を覚ますのでしょうか?」



「回復には時間がかかります。しかし…星の女神様の力で自然と目を覚ますはずだ。彼女の体力が回復するまで、心を落ち着けて待つことが必要です。」



キャンサーはフリードリヒの言葉を聞きながら、深い不安と心配の入り混じった表情を浮かべていた。



彼の目はユナの安らかに眠る姿を見つめ、心の中で何度も彼女の回復を願っていた。



「星の女神様の力で自然と目を覚ますはずだ」



というフリードリヒの言葉には、わずかな希望を感じつつも、現実の厳しさが重くのしかかっていた。



ユナが聖女の柱で姿を消し、戻ってきたかと思えば目の前で倒れたのだ。



キャンサーは自分の無力感と責任感に苛まれながらも、何とか感情を抑えようと努めた。



一方、ピスケスは冷静な顔を装いながらも、心の中では焦りと心配でいっぱいだった。



彼はユナが目を覚ますその瞬間を心から待ち望みながらも、実際に目を覚ますまでには時間がかかるという現実を受け入れざるを得なかった。



星の女神様の力がその助けになると信じつつも、どうしようもない無力感が心に広がっていた。



二人は、ユナの回復を信じながらも、彼女が目を覚ますまでの間にやるべき事がある。



国王陛下へ、事の顛末を報告し、対策を得ることだ。



キャンサーは、彼女が再び笑顔を取り戻すその日まで、責任を果たすために全力を尽くす決意を固め、ピスケスも同様に、その役割を果たす覚悟を胸に秘めた。



リディアが駆けつけ、ユナの眠る立ち入り禁止の星の間の前でひざまずき、静かに祈りを捧げていた。



彼女の目には、ユナの回復を願う切なる想いがこもっており、唇は祈りの言葉で静かに動き



国王陛下への報告を済ませた二人は、リディアと共にユナの無事を願い続けることを決意していた。



時間が過ぎ、三人は祈りを続ける中で、その効果が現れることを願いながら、微かな希望を胸に抱えた。



突然、星の間のドアが音を立てて開くと、そこには血色が戻り、驚きと困惑の表情を浮かべるユナが立つ。


ユナの目が三人の姿を捉え、彼女の顔に驚きが広がった。



キャンサーとピスケス、リディアは一瞬、驚愕と喜びの入り混じった表情を浮かべ



ユナが無事でいることに心から安堵し、同時に彼女が再び目を覚ましたことを嬉しく思う。



リディアはすぐに立ち上がり、ユナに駆け寄りる



「ユナ、目を覚ましたのですね!本当に良かった!」



キャンサーとピスケスも、ユナのもとへと駆け寄り、安堵の息をつきながら彼女の回復を祝った。



ユナの再生の光景は、三人にとっての希望と安らぎをもたらし、彼らの祈りが実を結んだ証となった。



王太子アレクシスもひっそりとその場に現れていた。



彼の心は、ユナの回復を一刻も早く願う気持ちと公式にはその姿を見せることができず、密かに様子を伺っていた。


アルフォンスは、気配を殺しながら星の間の扉の近くに立ち、祈りを捧げる三人の姿を静かに見守り、



彼の表情には深い心配と焦りが浮かんでおり、ユナが無事であることを心から願っていた。



彼は普段の冷徹な顔とは裏腹に、心の奥底で強い感情を抱えていた。


そして、突然ドアが開く音が響くと、アレクシスの目が扉の奥の人物に釘づけになる。



彼は、扉の隙間から血色が戻ったユナの姿を見つけ、胸の中に込み上げる安堵の気持ちが湧く。



リディア、キャンサー、ピスケスがユナのもとへ駆け寄り、喜びの声を上げる中で、アルフォンスはその場に溶け込むように立っていた。



彼の心の中には、ユナの回復を祝う気持ちとともに、彼女に対する深い感情が渦巻いていた。



王太子の心の中で、ユナの回復は一つの希望の光となり、彼の中でも新たな決意が生まれていた。




ー後編へ続くー

第2章の物語が進む中で、桜井ユナは厳しい試練を乗り越え、星の力を身につけるべく苦闘を続けました。心の闇に直面し、それを克服することで彼女はさらなる成長を遂げる一方、異世界アストリアの中での役割もますます重要になってきました。後編では、エルサと王太子アレクシスとの確執が織りなす複雑な人間関係が描かれます。ユナの婚約者としての立場が引き起こす対立とすれ違いは、物語の緊張感を一層高め、彼女の心に新たな試練をもたらすことでしょう。さらに、ユナとキャンサーが孤児院へ向かい、そこで聖女の痕跡を発見する新たな冒険が待っています。孤児院での出会いが、新たな脅威へとつながり、闇魔法を用いた陰謀が彼女たちを脅かします。人の心の闇を利用した悪巧みが、アストリア王国に新たな危機をもたらすのです。この後編が、ユナとその仲間たちにどのような運命をもたらすのか、ぜひご期待ください。

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