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第13話 四大天使

ナナの返事がないまま、何分経ったろうか。


アヴァロンを解いて、その場にへたりこむ。


変わらず、ナナはくたりと力なくそこに倒れている。


回復魔法をかけても治らない。


ナナ自身の魔力も尽きて、超再生も発動しない。


蘇生魔法は私は使えない。


魔力譲渡をしようにも、ナナ自身に受け取れるだけのち体残っていない。


もう打つ手がなかった。


また、助けられなかった。


どうして私はいつもこんなにも……無力なの……。


「ナナ……。」


そうして、私がナナのことを強く抱き締める。


そこにライルがゆっくりと歩み寄ってきた。


「まだ若いと言うのに……惜しい人間を失ってしまったものじゃ……。」


「……。」


どこかで私はナナはしなないとタカをくくっていたのかもしれない。


今までギリギリの戦いをしてきていたことは聞いていたし、知っていた。


だから、今回も大丈夫とどこかで思ってしまっていた。


でも……そんなわけはなかった。


ナナがどんなにしぶとく強かろうと、その上を行く化け物などごまんといる。


ナナや私、ライルを軽く屠るような化け物など沢山存在するのだ。


そんな化け物のいる世界で今まで生きてこれたのは、単に運が良かった。


それだけであった。


「……へぇ、死んだんですか。その人間。」


後ろから冷たい声がした。


聞き覚えのある、今いちばん聞きたくなかった声。


「……ラファエル…………!!」


瞬時に腕を剣に変形させて、ラファエルに切っ先を突きつける。


それにラファエルは、何も言わず冷たい視線を向けるだけだった。


「お前は、ナナの担当を任された天使のくせに、なんで今更姿を表した!なんで……!!」


「……私に当たらないでくださいよ。だいたい、自分の実力も押し図らずにこんなダンジョンに潜るあなたたちが悪いんじゃないですか。このダンジョン内にかなりの化け物がいることはあなたならわかっていたはずでしょう?シノ。それをわかっていた上で入った。あなたがたの自業自得。私に当たるのはお門違いですよ。」


「っ…………!!」


ラファエルの言うことは最もだ。


私がいながらこのダンジョンに入り、助けられなかったのは私の責任。


でも……でも……。


「まぁ、私たちは他の人間を探せばいいだけですから。代わりはいくらでもいるんです。神に対抗するための力は。」


そう言い捨てて、私たちに背を向けるラファエル。


だが、同時に私の何かがそこで切れた。


「今節約してる分のエネルギーを全て魔力に変換。」


『了。予備エネルギーを全て魔力に変換します。※これにより予備エネルギーを使い果たすため、全システムを回復するまでに数日間活動を停止することになります。』


「……アヴァロン。出てきて。」


次の瞬間に私を膜のような魔力の障壁が覆う。


それと同時に先の同じようにアヴァロンが形成され、大鎌でラファエルの行く手を威嚇攻撃で阻んだ。


「………………やる気ですか?私と。」


「気になるなら試してみる?最近鍛えていないようだけど、私に勝てるのか。」


「……調子に乗るなよ……作られた人形風情が。」


「クスクス。本当に大きな口を叩くのはうまい。人間の力を借りないと何も出来ない神の傀儡程度の分際で。」


挑発を挑発で返した私に、ラファエルはものすごい殺気を向ける。


今出せる全力で、その腐った性根を叩き直す。


そして、ナナに蘇生魔法をかけさせる。


そのために私は今負けられない……!!


「〝アクアジャベリオン〟」


「やって、アヴァロン!」


「了解シマシタ、マイマスター。」


そうして、ラファエルと私がぶつかろうとした瞬間だった。


「そこまで。これ以上やったらダメ。」


間に淡いピンクの髪色をした少女が現れた。


そして、赤い大きな拳を後ろに権限させ、私たちの攻撃を止める。


「……邪魔、しないで貰ってもいいですか?ミカエル。」


「これはゼウス様が求めることじゃない。それに……。」


「ようやった、ミカエル!全くなーにやっとるねん、ラファエル。天使ともあろうものが。」


緑色の髪の女性は空から舞い降りる否や、ラファエルに向けてそう怒る。


こいつら……神のお付の天使か。


ミカエル……この女はラファエルと同じ四大天使の1人。


そしてもう1人緑髪の方はガブリエルか?


昔1度だが見たことがあるから微かに覚えてる。


なぜ、こんなとこにわざわざ来たのか。


「邪魔、しないで。そいつだけは1度ボコボコにしないと気が収まらない。」


「そういうわけには行かない。今争われてもこちらとしても困るの。」


「まぁそう言うことや。私たちにとって、シノちゃんもそこのナナちゃんも、そしてラファエルも今失う訳には行かない存在なわけ。わかってくれへんか?しっかりナナちゃんは生き返らせるから。心配せんといて。」


「……わかった。今はあなたたちのことを信用する。」


「まぁそう言うことや。ラファエル。蘇生頼むで。」


ガブリエルがラファエルの肩にポンッと手を置く。


それをラファエルは嫌な顔を見せて、振り払った。


「……わかりましたよ。面倒ですね。」


言いながら、私の元に近づいてくる。


「とっととよこしてください。蘇生を早く終わらせたいので。手間をかけさせないでください。」


「蘇生して貰えるのはありがたいけど、態度を間違えてる。お前たちはナナにヘラの討伐を申し出ている側であることを忘れるべきじゃない。」


「減らず口を。調子に乗らないでくださいね?そもそも今現時点で私がいなくては何も出来なかったくせに。」


ラファエルの物言いに反論しようとしたが、それをガブリエルにより止められた。


「今はそんなくだらないことで争ってる場合ちゃうで。早くナナちゃん生き返らせえや、ラファエル。」


私もナナをアヴァロンの手に移して、外へ出す。


そして近くにいたライルに声をかける。


「·····ライル、私は予備エネルギーを今魔力に置き換えて、アヴァロンを稼働させた。だから、アヴァロンを解けば、私はしばらく機能停止で動けなくなる。その間、私の代わりにナナを守って欲しい。あの天使たちが守ってくれるとは限らないから。」


「承知した。任せよ。お主たちの命は必ず守ろう。」


ライルが胸に手を置いて、そう誓う。


それに私は少し笑顔を向けて、ありがとうと伝えた。


そうしてるうちにラファエルの準備が出来たようだ。


ナナに手をかざして、こう唱えた。


「……ふん。〝リザレクション〟」


すると、ナナの体が淡い緑色のオーラに包まれる。


同時に傷がみるみる塞がっていった。


エクストラヒールじゃ塞がらなかった大きな穴が、塞がっていく。


そうしてしばらくして、淡いオーラは消えた。


傷がない。


大穴もない。


あった時と変わらぬ綺麗な白い肌があるだけだった。


アヴァロンが、ナナを手に取って私の元へと運んでくれる。


「ドウゾ、マイマスター。」


「ありがとう、アヴァロン。」


ナナを抱き寄せる。


心音がちゃんと聞こえる。


生きている。


それだけで緊張していた体はホッと力が抜けた。


「助かった。感謝はする。」


「次はないですよ、死ねばもう助けない。·····まぁ気をつけることです。自分の脆い体をよく考えて敵を選びなさい、人間。あなたもですよ、シノ。」


冷たく言い放ち、ラファエルはどこかに消えた。


残ったガブリエルとミカエルが私たちの方へと近づいてくる。


「やっぱり、今のラファエルに人間のお守りは無理なんや。私たちが来たからええが、来なかったらそのまま放置してた可能性大ありやな。」


「多分100パーセントの確率でそうなってたと思う。今のあの子にそんな慈悲は無いはずだから。」


「それがわかっていながら、なんでラファエルを人選に選んだの?」


「そら、うちらの上司·····ゼウスはんが選んだからやなぁ。言ったんやで?一応。ラファエルには無理なんとちゃうかってことは。」


「それでもゼウス様は、ラファエルを選んだ。それには多分理由があるんだろうけど、その理由までは教えてくれなかった。」


理由は何となくわかる。


ナナは多分、零の生まれ変わりだから。


あのゼウスがそれに気づいていないとは思えない。


伊達に全知全能神などと呼ばれてはいないから。


だが、なぜラファエルを選んだのかだけは私にも分からない。


今のラファエルにお守りなんて無理なことくらいはわかるはず。


ほかの天使も知らないということは、あの様子のラファエルが、生まれ変わりだという情報を知っているわけもない。


ならなんで半ば強引に、ラファエルを人選したのか分からない。


ほかの天使と二人係でサポートに当たらせても問題は無いはずだ。


今回のナナから聞いた神の案件とは、それほどの難易度のもの。


魔王討伐のために勇者が召喚、誕生させられるのとは全くわけが違う。


相手は神だ。


下手をすれば、他の世界線にも影響を今からでも及ぼすかもしれないレベルの相手。


なぜ·····。


と、思考を巡らせていたが、急に頭にアラートが鳴り響く。


『稼働限界に達しました。これよりスリープモードに移行します。』


時間切れだ。


アヴァロンが強制解除され、光の粒子となる。


形を保つ魔力もなくなった。


そして、順に体が動かなくなるのがわかった。


「!。大丈夫か、ナナ。」


「ライル·····もう時間切れみたい。あとはよろしく。」


「·····うむ、承知した。ゆっくり休め。」


その言葉に安堵し、私の意識はプツンッと切れた。



「ぐぅ……!」


「起きたか、ナナ。」


「……あ?ぁぁ、ライルか。何があったかやられたあとのこと覚えてねーんだけど、説明頼めるか……?」


「ふむ、どこから話せばいいやらな。まぁ、時間はあるし、ゆっくり話そうか。」


ライルが語り出す。


俺がやられたあとのリビング・リーパーとの死闘。


そして、俺の状態が大変だったこと。


そこにラファエルを含めた天使達がやってきていて、俺のことを蘇生したこと。


シノが機能停止を一時的にしていること。


全て聞いた。


にしても、あのラファエルでも他の天使から言われたりすれば、言うことは聞くらしい。


駄天使もやる時はやるのだな。


さて、あとの問題は。


「シノをどうするかとリビング・リーパーの使い道だな。」


リビング・リーパーとの自動でわかったが、今の俺にこのダンジョンを攻略できるレベルの実力はない。


この下にはリビング・リーパーよりもやばいのがうようよ居そうだしな。


異様な雰囲気をここからでも感じ取れる。


それに、シノも機能停止中で戦力も削がれている現状。


どうやっても進むことなんてできやしないだろう。


·····ここは、諦めて地上に帰還するしか無さそうだな。


「俺らは今回はここまでで、このダンジョンの攻略を断念する。深層とはいえ、このリビング・リーパーより強いボスモンスターは下の階にかなりいるようだし、多分このままやり合おうとするのは自殺行為になる。実際、俺はお前に勝ててなどいなかった。要はここから先多分このまま進めば死ぬ。」


「たしかに、そうじゃな。それが一番良さそうじゃ。」


「お前の呪いもついでに解いてやろうと思ったが、しばらくはダメそうだ。すまんな。」


と、俺がライルに言うとライルはキョトンとした顔で、俺の方を見ていた。


その反応に俺もはてなマークが浮かぶ。


「なんだその反応·····呪いはどうでも良くなったのか?」


「あー·····いや、なんというかな·····もう呪いは解けた、というかな。」


·····呪いが解けた·····?


「そらどういう意味だ。」


「詳しいことは言えないんだが、解けた、と言うよりは呪いが根源ごと破壊されたというほうが正しい。お主のその破壊の力でな。」


「俺の破壊の力で?」


「あぁ、そうじゃ。まぁこれ以上のことはワシにも話せんから我慢してくれ。すまんな。」


俺の破壊の力でライルの呪いが壊れたってのは一体どういう·····。


ライルを見るが、それをライルが言うつもりは無いようだ。


言うつもりがないと言うより、言えない事情が深くある、か。


「まぁいい。別にこれからの旅に少なくとも支障はでなさそうな問題だしな。まぁ良かったじゃねーか、呪い解けて。これであんたも晴れて自由の身ってわけだ。」


「そうなんじゃが……ワシにはまだやることがあってのぅ。」


と言って、俺の方を見てシノのことを見る。


「わしはお主らについて行こうと思う。」


「……は?何言ってんだ。お前俺らについて来るって……どういうことかわかって言ってんのか?」


「もちろんだとも。お主らが何を目的として、旅をしているのかもだいたいだが把握している。シノから聞いているからな。その上でついて行くと言っておるんじゃわい。」


その場で立ち上がり、俺の方に向き直るライル。


そして、自身の胸をどんっと叩いた。


「わしは多分お主らの旅において、相当な役に立つはずじゃぞ。まぁ戦闘面においては当たり前として、今の世の知識はわからんが、お主らが戦う相手の知識はシノとは別の視点から意見できる。それだけで、この戦いは相当な違いが出るはずじゃ。」


確かにライルの言う通りだ。


俺はヘラと相対するのは初めてだ。


だが、シノはやつと対峙したことがあるし、ライルがいれば、シノが分からないような相手側の動きというものが分かるかもしれない。


だとすれば·····ライルを連れていくというのは得策だ。


…………。


長い思考の後に、俺は口を開く。


「わかった。あんたには同行してもらおうか。……この短期間だが、あんたのことも少しはわかったからな。」


「それなら良かったわい。」


ライルは俺の返答にニカッと笑う。


ライルが加わることで大きな戦力補充はできたか。


あの駄天使が使い物にならない以上、今までの戦力が俺とシノ以外いなかったからちょうど良かった。


激動の時代を生きていたって言うのも儲けものだ。


神を倒しに行く以上、戦力は多いに越したことはない。


今の俺の戦闘力を加味するとまだ足りないくらいだ。


まぁこれから強くなっていくにしろ、今のうちに信頼できる戦力も集めておきたい。


「さて……ここを出たいが、どう出たものか。深い所まで落ちたからな。クルルに乗っていくのもありだが……。」


「そこは安心せい。ここは深層と中層の丁度中間点に位置している。ここを出るための魔法陣があるから、そこから出られるわい。」


「魔法陣?」


見渡す限りどこにもそれらしきものがない。


俺の様子をみて、ライルが扉のあるらしいほうに指を指した。


「多分あの瓦礫の下に埋まっとるだろう。」


「なるほどな。瓦礫に埋まってるのとプラスして、隠蔽の魔法でもかかってるのか?この部屋に来るまではなかったはずだしな。」


「いや、隠蔽の魔法と言うよりは、ここにある魔方陣の魔法は置換魔法じゃからな。フロアボスを倒すことによって出る魔力を、設置されてる魔法陣が吸収して発現するようになっている。」


「随分と人為的な力が入ってそうなダンジョンだな。」


「ここは特殊じゃからな。わしが潜り始めた頃はもっと階層が少なかったはずなんじゃ。だが、ある日を境にどんどんと階層が増えている。これも全て最下層にいるダンジョン主の仕業じゃろうな。やつは桁違いの化け物じゃよ。」


ダンジョン主か。


随分と強いのだろうな……それは。


今の俺では到底敵わない程に。


「待っていろよ。近いうちに必ずぶっ壊しに来てやる。」


言って、シノを担ぐ。


そして、ライルの言っていた出口の場所まで歩き出す。


「お主の体では持ちにくいだろう。わしが担ぐぞ。」


「あー、頼む。本当にこの体は不便が多くて困るな。これも全てあの駄天使のせいだ。」


文句を言いながら、ライルにシノを渡す。


と、シノを受け取ったライルが不意にこんなことを聞いてきた。


「ナナよ。お主は一応転生者なのじゃろうか?」


「ん?あぁ、そうだぞ。元の世界はこんな魔法なんてもんもないところだった。ここにも勇者がいるんだとしたら、そいつらと同じ故郷から来たって言った方がわかりやすいか。なんかあったかそれが。」


「…………いや、少しな。気になることがあったが解決したから大丈夫じゃ。」


「?。そうか。ならいいが……。」


突然変な質問してきて、何考えてんだか。


そんなことを思いながら、瓦礫を退かす。


そうして、見えてきた光る魔法陣。


これが出口か。


「出るぞ。」


「おう。」


光る魔法陣の上に立つと視界は白い光へと包まれるのだった。



目を開ければ、目の前には木々が広がっている。


「出れたか。」


「ふむ、昔とは随分と自然が豊かになったものよな。」


ライルが顎を擦りながら、周りを見回している。


「そんなに激動の時代は荒野が広がってたのか?」


「それはもうのぅ。ここら辺は戦闘も激しかった。戦闘のせいで、地面はえぐれていたし、木々も燃え、消滅していたものじゃ。自然環境が構成される要素は何ひとつとしてなかった。」


「それほどか……自然ってのはしぶといもんだな。」


「そうじゃのぅ。あの戦闘も植物にとってはあまり意味をなさなかったのやもしれんな。」


カッカッカッと軽快に笑うライル。


植物からしたら、溜まったものじゃないだろうにな……。


このしぶとさは本当に感嘆の声が出る。


「さて、ここから真っ直ぐ行けば、街に出る。行くぞ。」


「ふむ、街がこの道の先にな。でかいのか?」


「でかいぞ。王都とかがどんなものかは知らんが、負けず劣らずなんじゃないか?」


「ほぅ!それは楽しみじゃのぅ!はよぅ、見てみたいわい。」


パァっと無邪気に顔を輝かせるライル。


その子供のような無邪気さにさすがの俺も少し引いた。


この歳になってもここまで童心に返れるものか。


「はぁ……バカ言ってないで早く行くぞ。」


帰ってきたはいいが、ヘルメロにはどう説明すればいいかねぇ……。


ダンジョンを攻略できなかったからには、秘匿しようとしても聞かれるだろう。


何より、ダンジョンの情報の秘匿はギルドの規約違反にも繋がる。


少なくともこのダンジョン、俺で攻略できなかったということはあの街にいるやつらが攻略できるわけがねぇ。


もし入れば、はじめの魔物に殺されるだけだろう。


だが、それをわからんやつがいるのが人間ってものだ。


何よりも、俺が発見したダンジョンで、俺が必ず攻略しようと思っているダンジョンだ。


そう易々と他の連中に教えたいとは思えない。


「どうしたもんかね……。」


「何がじゃ?」


「いや、このダンジョンのことだ。俺は一応、冒険者やってんだがよ、ダンジョン発見時は必ず報告が義務付けられてやがるんだ。とはいえ、このダンジョン明らかに俺以外の奴らが入るにはレベルが高すぎる。多分、ダンジョンのランク付けのためにも他の冒険者を調査に出すだろうが、確実にしぬ。そんなことをすれば。そこも問題点のひとつなんだが、何よりも俺はSランク冒険者じゃない。このダンジョンは確実にSランクか、それ以上のものに分類される。そうなったら、俺らが入れなくなるのも問題だ。正直、面倒なことこの上ない。」


はぁ……とため息がひとつ漏れる。


街のギルドの決まりというのはなかなか面倒なものだ。


こんなことなら登録などするんじゃなかったな。


ギルドからの保証は消えるとはいえ、所詮その程度だ。


保証云々はぶっちゃけ俺からすれば、どうでもいいものである。


国の政治に深く関わるつもりもないし、もし巻き込まれたとしてもそれなりの力があるためそこまで問題にはならないだろう。


もし何かあれば、逃げればいい。


前の貴族を見たところ、それほど強い人間もいなかった。


帰属に関しては小物も同然。


この国の貴族は少なくとも俺らに危害を加えることはできない。


できて、いいとここの国を追い出すことくらいか。


それはそれで面倒ではあるが、大した問題はないだろう。


ほかの街に行くだけだしな。


「そんなものが今の世にはあるのか。ふむ……ということは他にも街があるのか。人間の生活領域は今の世界だと相当広がっていそうじゃのぅ。それもこれもブレイクキングがなし得たことか。すごいものじゃ、あの若造。」


「ブレイクキングって確かシノのパートナーだっけか?」


「その通りじゃな。そしておそらくこの平和な国々がこの世界にできたのはやつのおかげじゃよ。激動の時代の人間の肩身というのは酷く狭かったからな。」


「それほどか。」


「あぁ、そうとも。」


周りをまたキョロキョロ見回しながら、感慨深そうに顎をさすっている。


この表情を見れば、激動の時代がどれ程のものだったのかは容易に想像できる。


今より過酷なのだろう。


俺が相手してきた、どんなものよりも強力な化け物共が蔓延っていた。


そりゃぁ、人がまともに暮らせるような環境なわけがない。


常に死と隣り合わせの、地獄のような世界だ。


逆によくもまぁ、そんな世界で人間は生きていたものだ。


ある意味化け物よりも生への執着は、化け物だ。


「さすがは、人間様々だな。」


「神だって倒すからのぅ。カッカッカッ!」


そんなことをのんきに話しながら、街へと向かっている最中、突然俺らを大きな影が被った。


「ん?」


「ほぉ!こりゃたまげた。でかいワイバーンじゃなぁ!赤竜と同等くらいはあるんじゃなかろか?」


ライルが上を見上げて、感嘆の声を上げている。


それにつられて、上を見あげれば大きな竜の腹が目に入った。


そして、すごい速度で飛び去っていく。


「たしかに、あれはデカイな。ほんとにワイバーンか?あいつ。」


「ワイバーンじゃよ。赤竜は翼とプラスで手足が着いとるが、やつには翼と足しか無かった。紛れもなくワイバーンじゃろう。……だが……あのワイバーン、普通の個体よりも強さのケタが少し違うようじゃな。あれは普通の赤竜よりも強いやもしれんぞ。」


「……2つ名個体か。」


「なんじゃそれは。」


「通常個体と違って、強さのレベルが違う。そして、姿形が普通の個体とは全く違うものを、2つ名個体って呼ばれてんだ。俺も2つ名個体とはやり合ったことはあるが、確かに普通の個体よりは遥かに強かった。比にならないくらいにな。」


なるほどのぅ、とライルは声をあげる。


こいつの現代知識はほぼ皆無と言っても良さそうだな。


まぁ、ほぼ5000年近くダンジョン内に囚われていた身だから別に驚きはないが。


こいつの同行を許可したのは、あくまで激動の時代の知識の量とその実力にある。


それ以外は大して期待はしていない。


「にしても、良いのか?ナナよ。」


「何がだ。」


「あっちは確か、お主が言っていた街の方じゃろう?」


「あ。」


ライルの指摘にそんな声が出るのだった。

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