9話 ライル・シュレイダー
俺は真っ暗闇の中、ゆっくりと意識を覚醒させる。
そして、瞼を開けば薄暗い大きな部屋の天井が目に映った。
ここは……。
「ようやく起きたか。」
俺が寝転ぶ横にじいさんが腰を下ろしていた。
「っ?!」
瞬時に近くに置いてあったショットガンを手に取り、銃口を突きつける。
だが、爺さんはその状況でも黙って俺の事を見ていた。
「大丈夫じゃよ。ワシにもう戦う意思は無い。」
そうして、手を上にあげる爺さん。
「なんの真似だ?」
「降伏じゃよ。ワシはもう主らに手は出せん。手を出せば、ワシが死んじまうしのぅ。」
先程まで死闘を繰り広げていた爺さんが、おかしなことを言い始める。
先程の崩落でどっか打ったのか?
警戒を緩めずに、その場で何とか立ち上がる。
まだ、体は本調子では無さそうだ。
倦怠感と目眩が少しする。
「っ……何が目的だ。俺はお前のことを全く信用出来ない。」
「まぁ、そうじゃろうて。先程までは死闘を繰り広げていたんだからな。だが、事実今のお主らを殺せないのはもうわかるじゃろう?……現時点で殺してないのだから。」
「それで信用を勝ち取れないことくらい分からないのか?」
「そうか。まぁ好きにすると良い。わしはとりあえずは、お主らと行動を共にするとしようかのぅ。」
……こいつ、何を考えてやがる?
まったく、思惑が読めない。
「ん……。」
思考に入り込んでいると、横から少し呻き声が聞こえる。
そちらに視線をやると、横にシノが倒れていた。
「!。シノ、おい大丈夫か。」
ゆさゆさと体を揺する。
すると、少ししてゆっくりとシノが目を開いた。
「ナナ……?」
「あぁ、俺だ。」
ゆっくりと上体を起こすシノに手を差し伸べる。
そうして、俺の手を取ると同時にその存在に気がついたようだ。
「……なぜ、私たちを殺さなかったの?どういう風の吹き回し?」
「こちらにもこちらの事情というものがあるんじゃよ。主にもまだ言えていない自身の事情くらいあるじゃろうて。わしから言えることは、ワシは主らについて行かねばならんくなった。そして、主らを守り抜かねば並んくなった。不本意ではあるがのぅ。」
「…………。」
シノはジッと爺さんを見つめる。
そうして、少しして俺の方を見てこう言った。
「とりあえずは、嘘はついていなさそう。でも、これから先何があるか分からない。気を抜かないで行こう。」
「こいつを連れていくのか?」
「私も怪しいとは思う。けど、このお爺さんは断っても着いてくると思うから無意味。」
それもそうかもしれんな。
何を考えているのかよく分からんが、この感じだとシノの言うことは全て正しいかもしれない。
「ちっ……いいだろう。着いてきたければ、勝手にすればいい。だが、邪魔だてするようなら、確実に殺す。」
「邪魔はする気はないから安心せい。改めて、わしの名はライル・シュレイダーじゃ。よろしくな。」
爺さんがそう言って手を差し出してくる。
それを俺は握り返さず、名前を口にした。
「俺は、ナナ・アベルシュタインだ。」
「知っているとは思うけど、私の名前はシノ。ただのシノ。」
「手厳しいのぅ。まぁ良い。」
そう言ってライルはその場で立ち上がり、あたりを見渡す。
「天井に穴が空いたせいか、上の階層のまものがながれてくるのぅ。ここは早急に移動した方が良さそうじゃ。」
「うん。ライルの言う通り。ここの空間は、上の階層と同化してる。早めに移動した方が良さそう。」
「わかった。」
だが、瓦礫が邪魔でどこが次の階層に移動する階段なのか全く分からない。
「おい、ライル。次の階層への階段はどっちだ。」
「恐らくじゃが、あっちじゃろう。」
「急ぐぞ。今の疲弊している状態で大量にこられても対処のしようがない。急いで向かうぞ。」
そうして俺らは、下の階へと向かうのであった。
◇
「はぁ……。」
1人、書類と向き合いながらため息をこぼす。
ナナ・アベルシュタインについては、何度探ってもやはり謎が多い。
この街の情報屋に依頼して、情報を集めさせても何ひとつとして出てこなかった。
出自も何もかもが不明。
一体、どこからやってきたんだ……。
まさか、帝国からのスパイ……ではないか……。
さすがに考えが飛躍し過ぎだな……。
「本当に謎だな。よりによってまさか、うちのギルドマスターが留守の時に現れるなんてな。着いてないやほんと。」
アベルシュタインについての調査は近いうちに本部の方から来そうだ。
冒険者ギルドは確かに身元が不明であろうとなかろうと、登録はできてしまう。
だから、良く馬鹿な犯罪者なんかは冒険者登録をして隠れて金を稼ごうとするやつも少なくない。
だから、よく身元を下調べされて捕まるやつは珍しくないのだ。
なんたって、冒険者ギルドはあくまで誰でも個人情報を明かさず登録できるだけであり、きっちり本部がその身元を裏で下調べしているんだからな。
アベルシュタインが身元を伏せようが冒険者ギルドにはお見通しなわけだ。
「だが、俺がここまで探して身元を特定できなかったとなると、本部だろうと特定できない可能性が出てくるな。そうなると、色々面倒なことになりそうだが……。」
「その心配はないんじゃないかな。」
「何を根拠に…………っ?!」
真後ろから声がして、少し遅れて机を飛び越え、その方向に剣を抜く。
「だれだ!!」
「歳の割にいい反射神経だなぁ、相変わらず。ヘルメロ。」
「!。……はぁ……お前なぁ、心臓に悪いわほんとまじで。」
「久々に帰ってきたギルドマスターへのことばがそれかい?」
「久々に帰ってきたやつが、50超えてるおっさんを驚かすものじゃねーぞ、ラインハルト。」
目の前の男……このギルドのギルドマスターであるラインハルトが笑いながら、すまない。と謝ってくる。
絶対思ってないだろこいつ……。
「それで、そうはならないってどういう意味だラインハルト。」
「そのままの意味さ。彼女、私たちが思っている以上に大物だよ。」
「面倒事にはならないってか。」
「うん。まぁ、正確に言えば面倒事にならないじゃなくて、なる前に対処されるかもね。」
「対処だと?」
ラインハルトはそう言って、俺の机にあったアベルシュタインの書類を手にする。
「うん。このラファっていう女性……只者じゃなさそうだし。……まぁ、ただの私の勘ではあるけど、私の勘が今までに外れたことはあるかい?」
「ないが……。」
「まぁ、彼女らが戻ってくるまでに動きはあるはずだ。私たちは傍観者として成り行きを見守ろう。下手に首を突っ込むと火傷してしまうかもしれないからね。」
そう言って、ラインハルトは机に書類を戻す。
そうして、俺の部屋のドアへと向かった。
「とりあえずは、私はギルドの面々に顔を出してくるよ。私が留守の間ご苦労だったね。助かったよ、ヘルメロ。」
「副ギルドマスターとして仕事をしたまでだ。お前の留守は仕事を代わって回すのが俺の仕事だからな。……それで?例の話は上手くいったんだろうな?」
そう聞くと、ラインハルトはうっすら笑みを浮かべる。
「私を誰だと思っている?ヘルメロ。」
「はは……そうだな。短期間でギルドマスターまで登り詰めた偉業者だった。」
分かればよろしいと言い残して、俺の部屋から出ていくラインハルト。
やつがああいう以上、恐らく大事にはならないのかもしれない。
だが、ラインハルトの言うことが本当なのだとしたら、アベルシュタインの背後には何か大きな存在が着いていることになる。
神か悪魔か……。
「はぁ、もしそんな存在が着いているのなら、あまり深入りはしたくねぇなぁ……面倒事の匂いがしやがるしよ……。」
俺はそう1人頭を抑えることしかできないのだった。




