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8話 力の差

衝撃であの瞬間に起きたことが思い出せない。


あの爺さんは?


シノは?


神千切はどうなった?


「っ……!おいおい……マジか。」


周りを見渡せば、あの頑丈だった部屋は見るも無惨に、崩れていた。


俺のスキルとあの爺さんの技がぶつかり合い、その衝撃に耐えられなかったようだ。


「……足が挟まってやがるな……。今の俺にはどうしようもできないか……。」


はぁ……とその場でため息をつく。


あの爺さん1人に、俺らがここまで追い詰められるとはな……。


あの爺さんであれなら、下にいる魔物はもっととんでもなさそうだ。


爺さんと同じか、それ以上の奴らがいるな。


このまま下に降りて俺らは最下層にたどり着けるのだろうか。


「……ちっ、何をマイナスな方向に俺は考えちまってるんだかな……。」


舌打ちをして、目の前の状況に向き直る。


俺は少なくとも今の状況では動けないだろう。


破壊の章の反動で体は言うことを効かない。


周りを見渡しては見るが、シノや神千切の存在は目視では確認できなかった。


ただ、ここで大声を出す訳にも行かない。


あの爺さんが、この程度でやられるわけは無いのは分かりきっている。


大声を出せば、俺の居場所はここだと知らせるようなものだ。


どうしたものか……。


魔力加速は使えないが、ショットガンは常に構えておくか。


ないよりはマシだろう。


気の抜けない時間が続く。


周りの些細な音も鮮明に聞こえてきた。


小石が転がる音もちょっとした風の音も。


ゴクリと生唾を飲む。


緊張で五感最寄り冴えてきている。


どこからでもかかってこい……!


と、瞬間だった。


隣の瓦礫が一気に崩れる。


それに即座に反応して、銃口を向けた。


「ナナ、まって。落ち着いて。」


聞き覚えのある声に、引こうとした引き金を止め、安堵の声が漏れる。


目の前にはシノと神千切がいた。


「脅かすなよ……撃ちそうになったぞ。」


「ごめん。思ったよりも大きな瓦礫があって、無理矢理脱出したから。」


「無事で何よりだよ。……とりあえず、俺の足が岩に挟まったから出すのを手伝ってくれ。」


「うん。」


ひとつ頷いて、神千切が岩を転がした。


「〝エクストラヒール〟」


シノの回復魔法で折れていた足が元通りに治っていく。


再生の能力に関しても破壊のスキルの影響で発動しにくくなっているから、回復魔法はかなり助かる。


「……シノ。あの爺さん、どこにいる?」


「生きているのは確実だけど、反応を上手く隠しているのか、索敵にかからない。」


「いつどこから攻めてきてもおかしくはなさそうだな……どこにいやがる……?」


俺らで周りを見回していると、どこからか声がした。


「そんな探さんでもここにおるわい。」


一斉にその方向を見れば、瓦礫の上に立つ爺さんが目に入る。


「……無傷って、まじか。」


「無傷って訳でもないぞ。破壊の呪いは受けてもうたからのぅ。おかげで一定の時間経たないと、魔力は使えんくなったわい。」


「それが爺さんにとって、どれくらいの損害になるのか分からんな。」


「結構じゃよ?仙術も魔力を使うものと使わないものがあるからのぅ。少なくとも今の状態で奥義は扱えんくなった。」


……奥義が使えなくなったとは言っているが魔力が扱えない程度、あの爺さんにとってはさほど大きなことではなさそうだな。


魔力無しで扱える仙術がある以上、俺らは爺さんのやること一つ一つに注意しなければならないことには変わらない。


下手をすれば、仙術1つで俺らの連携は半壊される可能性すらある。


「シノ、魔力の残量は?」


「まだ半分程度は残ってる。ナナは?」


「俺は破壊のスキルの影響で暫くは魔力は扱えそうにない。かなり諸刃の剣を打ち込んだからな。あれで倒す予定だったが、こうも平然と前に出てこられると困る。」


どうやって倒したらやつは死ぬ?


そもそもあいつは本当に死ぬのか?


俺やシノ、神千切の一斉攻撃を凌ぎ、俺の奥の手を奥義で相殺。


そこまでやっても魔力が使えない程度のダメージであり、仙術には魔力を必要もしないものもかなりあるらしい。


しかも、やつの放つ一撃は、俺らからしたら即KOの即死攻撃。


参ったな。


実質、今の俺らに勝ち目は無いわけだ。


俺の手数も今はもう尽きているし、こちらの手の内はほとんど見せてしまった。


同じ技を使ったところで、奴に効きはしないだろう。


「ちっ……面倒な。」


「終わりじゃよ、時に諦めが肝心の場所はあるものじゃよ。」


爺さんが姿勢を低くして構える。


諦めか……。


確かに、時に諦めというものは大切なのかもしれない。


だが、どうしようもないんだよ。


こんな状況でも……


「俺は……諦める訳には行かねぇんだよぉぉおお!!」


「カッカッカッ!ならば、抗ってみろ若いの!!〝仙術・火王炎嵐千〟」


爺さんの打ち出した手から、炎の竜巻が巻き起こる。


それは俺らに高速で向かってきた。


「ナナ……屈んで!私が何とか守りきる!!」


シノが立ち上がり、俺の前に出る。


神千切は俺を守るようにして、尻尾で包み込んだ。


どうする、どうするどうするどうするどうするどうする……!!


このままじゃ、全員死ぬ。


俺だけ生き残ったところで、やつがトドメを刺しに来るだろう。


この状況を打破するためには……そのためには…………。


思考を高速回転させ、前を見たその時だった。


〝……交代だ。〟


脳裏にひとつの声がして、そしてひとつの意思が俺の中で出現した。


……気の所為かもしれない。


ただ、窮地に陥ったための焦りが呼び起こした幻かもしれない。


それでも、今の俺達にはこれを頼る他、選択肢などなかった。


どうせ逃げ場がないなら、もうどうにでもなれ……!


「打開してみろ……!」


その一言と共に、それは起きた。


俺の体から赤紫の魔力が迸る。


同時に目の前の攻撃が掻き消えた。


いや、正確に言えば、竜巻を形成していた力の塊が消し飛んだ。


「……!」


少し顔を歪ませる爺さん。


同時に俺たちから少し距離を取った。


あの爺さんが後ずさった。


その記憶を最後に俺の意識は消えるのだった。



今目の前で、何が起きた?


あの魔物が放った攻撃が、壊れた?


なぜ?


ナナの力?


いや、そんなわけは無い。


まだ彼女にそこまでの力は無いはずだ。


なら、だれが……。


目の前にたっている彼女を見る。


でも、今までの彼女とは少し違う雰囲気を感じた。


もしかして……。


「……あなたは…………零?」


その小さな問いに彼女は少しふりかえって、申し訳なさそうに微笑んでみせた。


「すまない。久々に会えたって言うのに、今から少し酷いことをしてしまう俺を許してくれ。まだ俺たちが会うにははやすぎる。この記憶は破壊させてもらう。ヘラを倒すためには必要な事だから。」


「……そっか……生きてた。良かった、零。私、もしかしたら、あなたが本当に死んでしまったんじゃないかって……そう思ってた。」


「大丈夫だよ。俺はしなない。お前を1人置いてけぼりになんてしない。だから、まだ信じて待っていろ。必ず帰る。〝破壊〟。」


その一言で、私の意識が持っていかれるのがわかった。


そして、システムにエラーが起こる。


今さっき起きた事象の全てが私の記憶から消えていった。


「…………さて、にしてもあんた手強いな。まさか、このダンジョンにあんたみたいな生き残りがいるとは。おかげでゼウスに頼んでおいたセーフ機能が、ここで反応しちゃったじゃないか。」


「主、まさか……。」


「……すまない。ここでは長くを語るわけにはいかないから、早めに終わらせよう。手っ取り早く。」


目の前の先程までか弱かった女の子はもう存在しなかった。


その少女から放たれるのは、凄まじい威圧感と魔力の奔流だ。


この戦いは、完全にわしの負け戦になりそうじゃな。


格が違いすぎる。


だが、ワシにもワシなりの意地があるからのゥ。


「真っ向から正々堂々潰してくれるわ!〝破弾鋼〟」


「その意気はよし。……だけど、俺に近接戦闘を挑むのは間違っている。〝破壊〟」


女が一言発した瞬間に、破弾鋼を打ち出そうとしていた腕が爆ぜる。


理屈が分からない。


魔力の流れすら感じないあの攻撃。


もし触れて起こるようなものだとしても、あの女はワシに指ひとつとして戦いの中で触れてはいなかったはずだ。


「爺さん、もしかしてこの攻撃について今考えてるか?」


「そりゃのぅ。その攻撃がある限り今のワシは主に近づけもしない。」


「それはそうだな。だが、今のあんたにこれを打開できる策はない。前回の時のあんたでも無理だろう。」


「ほぅ?それはなぜじゃ?」


そう聞くと、女はにやりと口角を一気にあげる。


「この攻撃は、俺の目に捉えてる相手を無条件に攻撃できるからだ。」


「……は?」


無条件に攻撃、じゃと?


もし本当にそうだとしたら、それはもう常識を逸脱している。


それは神の領域ではないか……?


…………いや、そうか。


こやつは神を2体もその身1つで片付けたやつじゃったか。


「さすが……〝ブレイクキング〟、ということかのぅ。」


「わかってもらえて嬉しいよ。手荒な真似をしなくて済む。」


ここがわしの最後か。


このダンジョンに囚われてやや4000年近くか。


まさか、最後をここで迎えることになるとは思わなんだ。


まぁ、じゃが……いい頃合だったのかもしれんのぅ。


瞬間にわしの中の何かが壊れた感覚に襲われた。


……だが、それなのに自分の意思がまだそこにはあった。


「これでOK。さて、また少し眠りにつこうか。まだ俺が出る幕では無いからね。」


「……なぜ、ワシを殺さなかった?」


「ん?なぜだと思う?」


「慈悲とは少し違うな……お主がそんな生易しいことをするはずは無い。まさか、ワシに利用価値があると?」


そう聞くと、ニヤリと口角を上げる女。


「大正解。あんたは実力がある。手負いのシノだったとはいえ、3人相手にここまで攻めきったんだ。だからこそ、俺はあんたを利用したい。」


「利用じゃと……?ワシに何をさせる気じゃ?」


「なに、大したことじゃない。この体を俺が目覚めるまで守って欲しい。俺はまた眠りにつくことになる。魂がまだ馴染みきってないせいでな。だからそれまでシノと一緒に守ってくれ。まだまだ弱いからな、この体は。」


「敵であるワシに護衛の依頼とは舐められたものよ。ワシがお主の寝ている間にその身体を殺す可能性を全く考えてないのか?」


「いや?もちろんその可能性がある。けど、もう手を打っておいたから心配する必要がないんだよ。……全開のシノにあんたが勝てる道理がないからな。昔、近場でこいつの戦場を見ていたあんたならわかるはずだぜ?」


こやつ……あの状況でまさか、オリジナルの修復を……?


ここまで考えて、やり合っていたか……。


やはりこやつは只者じゃなかった。


昔もそうだが、いざ相手取るとよく分かる。


勝てない。


前回のワシが相手にしたとて、届かんじゃろう。


あまりにも実力の差がありすぎた。


「今日だけで色々あるのぅ。まさか、お主みたいな化け物を相手取ることになるとは……。」


「諦めろ。俺は奴を殺すまでは生きるからな。それと護衛の依頼を受けてくれる前提で呪いは全て壊しておいた。よく働いてくれ。」


そう言い残して、やつの気配が消える。


その後、女はその場に倒れた。


「……。」


無言で倒れた女の元まで歩み寄る。


そして、そのまま首元に手刀を入れようとしたが、スレスレで止めた。


「……若い命を奪えるほど、ワシもモンスターには堕ちてない、か。」


そうして、その場に座り込むのだった。

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