3話 昇格試験その2
ヘルメロの攻撃を大鎌で受け止める。
龍擊斬・焔っていう、この攻撃はこいつが今まで攻撃してきた中で1番俺にダメージを与えられる可能性のある攻撃なのは認めよう。
現に火力はそこそこ高いようだしな。
……だが……。
「まだまだ、俺を倒すにしては足りなさすぎる火力だヘルメロ。」
ヘルメロの腹に、一発少しばかり本気のグーパンを決め込む。
そうすれば、俺からしたら軽すぎるヘルメロは紙切れのように後方に吹き飛んだ。
それなりの威力で殴ったせいか、声も聞こえなかった。
あの程度で死んでなければいいが。
そう思いながら、ヘルメロが吹き飛んだ方に歩を進めていく。
「……おいおい。まさかこいつ気絶してんのか?」
先程の腹パンは余程効いたらしい。
完全に意識が無くなっていた。
「はぁ……〝ウォーターボール〟」
威力を弱めた水魔法を頭の上から落とす。
すると、ヘルメロが一瞬で意識を取り戻した。
「な、何が……?」
「目が覚めたなこのねぼすけが。チェックメイトだ。何か言い残すことは?」
「…………そうか。負けたか。」
「無謀な戦いすぎるからな。当たり前の結果だよ。まぁ、お前のあの時の覚悟は、わからんでも無いものではあるがな。」
「?。それはどう言う……?」
ヘルメロの問いに、俺は少し笑いながら言った。
「お前の知らなくていいものだ。じゃぁな。」
引き金に指をかけ、引こうとした。
その時だった。
ショットガンが金属音と共に、天井の方に照準がいく。
引き金を引くと同時の出来事で、撃ち出した弾は天井を貫いていた。
俺も何事なのか一瞬分からなかったが、目の前を見て原因はすぐにわかった。
だから、その犯人を睨んで言い放つ。
「何のつもりだ?シノ。」
「ナナ。この男を殺すには、まだ早計過ぎると思う。ナナの考えていることもわかるけど、それでもまだ判断を下すには早すぎると思う。」
「本気で言っているのか?シノ。お前はこいつが信用できると言いたいのか?」
邪魔されたことに少しイラついていた俺は、シノにそのまま殺意を少し向ける。
その殺意に、ヘルメロは身構えるが、シノは俺の目を真っ直ぐに見据えてきた。
「私もこの男のことを全て信用できるとは言えない。私自身も信用しているわけじゃないから。でも、私たちに利点が無いわけじゃない。」
「どんな利点があると?こいつに俺らの実力がバレた。そして何より手の内がバレた。それを込みで、利点が上回るということか?」
「うん。ある。私たちには今あまりにも情報も足りないし、他の面々への顔も広くは無い。だから、そのせいで行動が制限されていることが多すぎると思う。でも、このおとこ……ヘルメロがいればその点は解決するはず。冒険者ギルドの副ギルドマスターともなれば、顔も広いし、何かと融通は聞くはず。他にも私たちの要望に、できることであれば叶えられる力がある。だから、この男を殺すのは勿体ないと私は思う。」
「俺らへの利点というのはそんなものか?だとしたら、俺はこいつを殺す方を選ぶ他ないな。そこをどけ。」
俺はまたショットガンを構える。
だが、シノは変わらずその場でヘルメロの前に出続けた。
「ナナ、少し冷静になって考えるべき。」
「俺はいつだって冷静だ。俺らの秘密を見た。その時点で殺すに値する。」
「それは冷静な判断とは言えない。」
「…………このまま邪魔し続けるなら、お前共々撃つぞ。お前がこの程度で死なないのはわかっているからな。」
引き金に再度指をかける。
それでもシノはその場を避けはしなかった。
しばらくその静寂が続き、折れたのは……俺だった。
銃を下げ、頭を抑える。
「全く……わかったよ……。これで何度目だお前に止められたのは。」
「ナナにはまだ人を殺すには早すぎる。だから、それでいいと思う。」
「あの理由はほんの一部で、大半はそんな理由だろう。分かってはいたが……はぁ……。」
ため息を漏らしながら銃を肩にかけ直し、部屋のドアにほを進め始める。
「ほら、いくぞ。ダンジョン探索に。」
「うん。」
「……は?!今からダンジョン探索って、お前らまさか……!」
「そらそーだろ。例のダンジョンにそのまま直行だ。暫くは顔を合わせることもないだろう。」
「はは……ほんと、お前らとんでもねーわ。」
頭を抑えて、そう言うヘルメロを放置して俺らはそのまま部屋を後にする。
まぁ、シノの言うように奴を生かしておくのは後々のことを考えれば、いいこともあるか。
そうプラスにでも考えてないと、やってられんな。
「シノ。」
「なに?」
「先に言っておく。俺はこの世界で多分確実に人を殺すことにはなるだろう。それお前もわかってるはずだ。」
「うん。」
「だから、その時はお前にも見極めて欲しい。今回みたいな私利私欲じゃなくて、殺すべきか殺さないべきか。利になるか、利にならないかで。もちろん、俺も今回のような殺し方はしない。そう約束しよう。だから、お前もそういう判断の仕方で頼む。」
俺の言ったことに、少し黙り込むシノ。
少しして、俺の目を見てこう言葉を続けた。
「善処する。」
「そこは、わかったって言って欲しいところだが……まぁいだろう。お前らしい。」
こいつの決意はなかなか硬い。
俺もそれを許容する他ないようである。
◇
ナナ・アベルシュタインが、立ち去って数十分が経った。
少しばかり体を癒した俺はその場で何とか立ち上がる。
「ぐっ……痛てーな……。ガッツリボコボコにしやがってあいつめ……。」
あばら骨のいくつかはいってそうだな、この痛み。
足や手の骨が折れてないのは、運が良かった。
にしても、あんな適当にあしらわれたのはあいつが初めてかもしれん。
力の差を分かりやすく突きつけられた。
元々勝てるとは思ってはいなかったが、少しくらいは俺の攻撃が通ると思っていた。
他の技係に通らなかったとしても少なくとも、俺の取っておきだけは通ると思っていた。
だが、現実を見れば取っておきでさえ、やつに届くことは無かった。
技術もステータスも魔法も全てにおいて、俺のそれを上回っていた。
「はぁ……自信なくしちまうなぁ、ったくよ。」
年甲斐もなく、気分が落ち込んでしまう。
それも仕方ないだろう。
まだ、成人したばかりの小さな女の子にボコボコにされたんだ。
元Aランク冒険者としての自信は、冒険者家業を引退しても俺の自慢できる功績だったんだが……。
「……負けたことをクヨクヨしてても仕方ねーか……!」
パチィん!と自分の頬を両手で叩く。
俺がこんなんじゃ、ギルドが機能しなくなる。
そう奮起していると、廊下の方から声が聞こえてくる。
そして、直ぐにその声の主たちが顔を出した。
「ちょ……?!ヘルメロさん、なんですかこれ!部屋の中がボコボコじゃないですか!」
「ん?おぉ、ちょうどいいとこに来たな、ノーティス。ナナ・アベルシュタイン含む、あの3人の冒険者ランクをまとめてBランクに引き上げてくれ。試験は合格だ。」
「え、どういうことですか?突然そんなこと言われても……。」
「まぁ色々あってな。ここで俺とナナ・アベルシュタインが戦闘試験を行ったんだが、結果はぼろ負け。実力も本物だった。元Aランクに勝てるDランク冒険者なんて普通は無い。だから、Bランク昇格だ。」
「ぼろ負け?!……てか、ちょ、その前に何を勝手なことをしてるんですか!わざわざBランク冒険者に依頼まで出しておいて、今更申し訳ありません、今回の依頼はなかったこととさせていただきますなんて言えませんよ?!さすがに。」
当たり前のことを普通に言われる。
「別に俺もタダで返すとは言ってないだろ。今回のことは俺の個人的な判断で行ったものだ。ギルドからは依頼料を出さなくていい。依頼通りの金は俺が自分で用意する。」
「……はぁ、分かりました。依頼を受けてくれた紫炎の翼にも私から説明しておきますよ……。ですけど!これから先勝手な行動は面倒事の発端になりますから、控えてください!しかも、冒険者の副ギルド長がDランクの冒険者にボコボコにされたなんて話、ギルド内に噂として出回ったら、荒くれ者達が面倒なことになりますよ。」
「そうだな。だが、逆にその事実はあいつらの冒険者ランクを昇格させていけるだろう。だとすれば、近いうちにあいつらは俺の冒険者ランクなんてすぐ超えるだろう。それまで俺は副ギルドマスターのしての意地と実力を見せ続ければいい。そこらの冒険者に負けるほど俺は衰えちゃいねーよ。」
「そうやって簡単に言いますが……。」
言いかけて、ノーティスはため息をつく。
「お前には迷惑をかけるが、頼む。」
「…………分かりました。分かりましたよ……そこまで言われたら断ろうにも断れませんって。」
仕方ないと言わんばかりにこちらに笑いかけてくれる。
本当、こいつには迷惑をかける。
何か今度労いを込めて、奢ってやろう
「それにしても、これをやったのがナナ・アベルシュタインですか……。本当に彼女何者なんでしょうか。冒険者試験では、実技で異例の実力を見せ、高ランクや厄災級魔獣の素材を軽々と出し、2つ名の魔獣を撃破、冒険者ギルドでも面倒だったルイントン家を失落まで追い込んだ機転。極めつけは……副ギルドマスターを倒した事といい、一体……何者なんですかね。」
「俺にもわからん。あの実力、下手をしたらうちのギルドマスターでさえ歯が立たないかもしれん。それほどに強かった。そもそも、俺の事を手を抜いて倒すんだ。普通、考えられないだろ?これでもLvは100越えなんだが。」
「ということは、彼女はそれ以上のLvがあるということ、でしょうか?でもそれはまるで、本当にギルドマスターみたいな……。」
「あぁ。あいつはSランクになる逸材だよ。」
あいつがこれからどんなことをして、何を成していくのか。
どんな偉業を達成するのか。
とことんワクワクさせてくれるやつだよ。
◇
冒険者ギルドを後にしてから、数十分。
俺らは、発見したダンジョンの前に来ていた。
これが人生初のダンジョンという訳でもないが、このダンジョンはゼルセオスが作り出していたあの地下ダンジョンと同じくらいやばい雰囲気を感じる。
あの2つ名持ちのミノタウロスもこの異様な魔力に当てられて、ここまで来たのだろう。
ここに来るまでに、この近辺にあるダンジョンを見てみたが、ちゃんとダンジョンらしいダンジョンをしていた。
多分、このダンジョンはほかのダンジョンみたいなわかりやすさがないから、今の今までバレなかったのだろう。
加えて、少しばかり認識阻害の魔法も加わっているようだ。
「このダンジョンの中には何がいるのか、少し楽しみだな。なぁ、シノ。」
「うん。気になる。」
そうして、俺らはダンジョンにはいる入口へと姿を消すのだった。




