第3話 強者
スキルの発動やアーティファクトの発動が正常かどうかなどを確かめ終わったあと、俺はまた森の奥に歩を進めていた。
さっきの試し打ちなどで強くなるにはまだ道のりは遠そうだと少し項垂れてしまったが、それでも受けてしまった邪神殺しの仕事を完遂するためにもそう簡単に諦める訳にはいかない。
…が、諦めないにしろ、それを完遂させるためにはもっと高みを目指さなければならないのだ。
そのためにはLvと一緒にスキルも手に入れなければならない。
そして、スキルを手に入れたり、レベルをあげるには今のところ、魔物を倒したりするしかない訳で…。
「…あいつが、丁度いい…だろうか…?」
その場に足を止め、上を見上げながらそんなことをつぶやく。
目の前には、前世で言う象くらいはあろうかという程でかいイノシシがいた。
額には紫色の大きな石をつけており、その石は微かに光を放っている。
見るからに少しヤバそうなやつだが、今のところ近くにこいつしかいないものだから、こいつを倒す以外にLvを一気にあげたり、スキルを試したりする相手がいないのだ。
…にしても…さすが異世界…。
何もかもの話のスケールが違う。
象くらいあるイノシシとかどんな神話級の生物だよ…。
「……はたして、今のこの状態でこいつに挑んで…俺は生きて帰れるんだろうか…。」
超不安である。
でも…やるしか、ない…!
近くにあった石ころを手に持つ。
こいつをあいつに当てたら、恐らく戦闘は直ぐに始まる。
もうこの際だ。
ヤケクソでやるしかぁない。
「さて…お前は、どんだけ俺の事を強くしてくれるのか、な!!」
思い切り、持っていた石ころを投げつける。
それは見事にペチンとイノシシのケツあたりに当たる。
と、同時にイノシシから凄まじいオーラが吹き出てきたのを感じた。
あれ…これ思った以上にヤバいやつに喧嘩売っちまったかな…?
ちらっとイノシシの顔の方を見上げれば、イノシシはズシンズシンとこっちをゆっくり振り返っていた。
そして、俺と体が向き合った瞬間に咆哮をあげた。
「ブモォォォォォォオオオ!」
「うおぉ?!」
イノシシが足を思い切り地に叩きつけた瞬間に俺の体が地から空へ浮き上がる。
なんつー力してんだ、このデカブツ…!
浮き上がりながら、そんな苦言を頭の中で漏らす。
が、その間にイノシシはこちらに突進してくる準備をしていた。
「っ!せっかちな野郎だな、コノヤロウ!」
浮き上がりながらも、何とかショットガンをイノシシに構えて、引き金を引く。
ガゥン!!という、発砲音と同時にイノシシに向かって、弾が放たれる。
それはイノシシの額に当たり、バガァン!という轟音を響き渡らせた。
「か、硬?!頭おかしいくらい硬いじゃん!?」
ショットガンの発砲の威力で後方に吹き飛びながら、絶叫と言っても過言ではない声で叫んでしまう。
いや、そりゃこうなるでしょ?!
あの絶大な威力を見た後に、普通に平然と耐えられるとビビるって?!
少しして体の飛ぶ勢いがなくなり、そのまま地面に落下する。
「ぐっ!ち…っくしょうが…こんな小さい体なんかじゃ、このショットガンを扱えるわけないだろが…。」
倒れた体を何とか起き上がらせて、そんな愚痴を零す。
どうする…明らかにレベルもちがければ、こっちは自身の武器すらまともに扱えていないような弱弱な人間だ。
しかも、あの1発だけでもう既にショットガンを打てそうにないくらいには反動で手に限界が来ていると来た。
確実に今のままいけば、少ししてすぐ死ぬのは明白だ
「あと、何発撃てっかなぁ…てか、どうすりゃァいいかなぁ…。」
額から冷や汗をかきながら、イノシシの方を見れば、前足の片方で何度も床を蹴りつけながら、唸っている。
あれは大変ご立腹ですな…。
確実に俺を殺すまで襲ってきそうである。
こっちはこっちでもう万策なんかとっくにない。
そもそも初めから考えてもいなかった。
思考長加速を使って何かを考えればいいのかもしれないが、今から思考長加速を使ったところで何か万策が出てくるかと言われれば、否、きっと出てこない。
だったら…。
「…はっ…!もうこっちも万策なんて考えてらんねぇな、やれること全てでやってやらぁ!」
ダッ!と地をけってイノシシの斜線から外れる。
あんなのに突進なんてされたら、本当に死ねる。
即死である。
それにさっきので頭は効かないというのはわかった。
だからやつの正面にいたってやれることなんてない。
玉が通らなかったしな。
だが、それはあくまでも頭の話だ。
あの頭の石はとても硬い。
このショットガンの威力を持ってしても、貫けなかったくらいには。
でも、見たところだが他の部位にあの石は着いていない。
ということは、もしかしたら他の部位ならこのショットガンの攻撃が通る可能性がある。
いや、今の状況ではその可能性に頼ることしか出来ない。
「ブモォォォオ!」
その雄叫びの後、突進したかと思えばその勢いのまま俺のいる方向にカーブしてくるイノシシ。
「チッ!なんつー野郎だ…!」
足を止めずに走り続けながら、舌打ちをする。
まずいな…。
あの突進、俺より速度が早い。
このままじゃ確実に当たる。
「一か八かか!」
そう言って、俺はショットガンを先程と同じようにイノシシの額に構える。
…だが、今回はあの魔石狙いじゃない。
狙うは…目だ。
刻一刻と自信に迫ってくる脅威を無視して、その脅威の目に冷静に狙いを定める。
これで外せば俺が死に、これで当たれば俺の勝ちだ…!
「……頼むから…当たってくれ…!」
瞬間にガゥン!!という発砲音が響く。
それは見後、狙い通りイノシシの目に当たる。
「ブモォォォオ!?」
「はっ!ざまぁみろ!」
そうして立ち上がりすぐさま、また走り出す。
これで少しは勢いも落ちただろう。
あとは横に回り込むだけだ。
…が、その考えは甘かったことを後になって自覚させられる。
魔物は俺が今まで見てきた動物なんかとは全く別物であるという自覚をまだしきれていなかった。
そう。
俺の何もかもの基準に魔物は当てはまらないのだと。
「グゥルルルルルル…ブモァオオオオオオオ!!」
イノシシは先程と同じスピードどころか、もっとスピードを上げて突進し始めた。
「なっ…?!なんで、そんな…!がはっ?!」
同様で足を少し止めてしまったことが命取りだった。
イノシシの突進により、体が大きく後方に吹き飛ぶ。
そして、その勢いのままに、木に激突。
太めの木の幹が横腹を抉りとった。
「んぐ…あぁぁぁ……!かはっ…い…てぇ…。」
やられた。
相手を侮っていた。
目を撃ち抜いたくらいで止まるような、そんなやわな相手なんかじゃなかった。
イノシシはゆっくりとこちらに歩み寄ってきている。
どうする…どうするどうするどうするどうするどうする。
自動超速再生があったおかげでさっきの怪我はもう完全治癒された。
だが、脳震盪までは直しきれていない。
フラフラとしながら、ゆっくりと立ち上がる。
あぁ、まずいな。
酷い脳震盪だ…。
真っ直ぐに立つことが出来ない。
……やつを殺すにはどうしたらいい…。
目を狙っても止まらなければ、スピードでも勝てやしない。
なら、何が効く?
考えろ…考えて考えて、やつを殺せる道を探せ。
……そう、か。
そうだ。
なんで俺はこんな単純なことをおもいつかなかった?
やつの図体を見れば、普通は思いつくものなのに。
どうやら、俺は随分と焦りすぎていたようだな…。
「く、くくく…。」
未だフラフラとする体で、前へとゆっくり歩いていく。
それに気がついたイノシシは荒い鼻息を出したかと思えば、先程と同じように俺の方に突進で向かってくる。
そして、俺の前までその勢いのまま突っ込んできたその瞬間に、俺はその場で崩れ落ちた。
「……チェックメイトだ、この頭でっかち。」
ガゥン!!っと1発、発砲音が響く。
ショットガンから放たれた弾は、イノシシの腹を貫き、拳1つ分の空洞を開けた。
「ブモ…オォォ………。」
ズシィンという音と共にイノシシは崩れ落ちる。
ギリギリでその死体の下敷きになることを回避していた俺は、イノシシが倒れると同時にその横で死体に凭れ掛かる形でその場に座り込んだ。
「つ、疲れたぁ…痛かったし、怖かったし、死ぬかと思ったァ…。」
言いながら、空を仰ぐ。
生きてる。
今この地に足をちゃんとつけている。
土の冷たさも、草木の音もちゃんと聞こえる。
本当に死闘だった。
ひとつでも何かをミスすれば、その場で普通なら即死するくらいの気の抜けない戦いだった。
まぁ、自動超速再生の効果がわかった以上、恐らくだがそう死ぬことはないのだろうが…。
「…今の戦いで、俺のステはどうなったのやら…。これで1とかしか上がってないとかだったら、この先女神以前に、その前の段階の雑魚に殺されて終わるぞ…。」
言いながら、自分のステータス画面を開く。
するとそこにはさっき言っていたようなことはなく、ちゃんとレベルが上がっていた。
「…ちゃんと問題なく上がってるな…。ただ…上がりすぎじゃぁないか…?普通、初期でたった1匹倒した程度じゃこんなに上がらんだろう…。」
ステータス画面には、レベル20と書いてある。
しかも、ステータスの上がり幅もおかしい。
レベル1の時は全て100で揃っていたのに、たった20上がった程度で、2000から3000くらいにまで上がっている。
このイノシシどんなレベルしてたら、俺のレベルがこんなに上がるんだ?
てか、新しいスキルも手に入れてるし…。
「なになに…?鑑定…相手のステータスを覗くことができる…ほう…。てことは、このイノシシのも覗くことができるってことか?」
気になり、早速イノシシに使用してみることにする。
そうして、鑑定のスキルを発動すれば先程倒したイノシシのステータス画面が表示される。
マジック・ドスファンゴ Lv50
体力 8000
攻撃力 84632
防御力 10000
すばやさ 2000
体力 4000
魔力 0
魔法防御 0
スキル
馬鹿力
魔法
なし。
Lv50?!
てか、攻撃力たっか?!
8万?!
こんなのを俺は倒したのか?!
こんなの初期で相手するような相手じゃねぇじゃねぇか
しかも上位の魔物なのな…。
たしか上位のランクったら…この世界じゃAランク冒険者が討伐するような魔物だよな?
この世界の魔物にもちゃんと、下位、中位、上位、最上位とランク付けされている。
まずは下位ランクの魔物。
GからFランクの冒険者が対象として討伐するような魔物ランクだ。
これに俺も本当は加わっている。
そして、中位ランクの魔物。
これはEからCランクの冒険者が対象として、討伐クエストを受けられるレベルの魔物。
そして、問題の上位ランクの魔物。
これは本来であればBからAランクの冒険者が相手をするような凶暴な魔物だ。
このイノシシが例である。
普通は倒せないし、ギルドではクエストを受注できないくらい危険なことを俺はなしとげてしまったらしい。
最後に最上位ランクの魔物。
これはSランク冒険者が相手するような災害級の魔物である。
と、そんな感じに別れている。
だから何度も言うが、このイノシシは俺が相手できるようなものでもない。
あの時点で俺が死んでいてもおかしくはなかったのだ。
転生ボーナスがあったおかげで死なずに済んだ。
転生ボーナス様々である。
…そういや…このアーティファクト使えば使うほど強くなるんだったよな?
今の戦いでレベルとかどうなったんだろうか?
気になってステータスを開こうとする。
…が、上手く開けない。
「…あれ、これどうやってステータス開くんだ…?」
自分のステータスを見る感じで見ようとしても、上手く出てこない。
「ん、ん〜?ちょっと、難しいな…。もしかしてこうだったり?」
そうして、ショットガンに魔力を流す感じでステータスを開いてみる。
すると、突然目の前にモニターが開かさった。
「おお?」
これは…ショットガンのステータスか?
そうしてまじまじとそのモニターを見る。
ショットガン レベル20
体力 +7000
攻撃力 +2000
防御力 +4000
素早さ +2000
魔力 +4000
魔法防御 +6000
インベントリ
ショットガンの弾×∞
…とんでもないアーティファクトだな…。
イノシシ倒せたの、これのおかげ説あるぞ…。
「やっぱ…転生ボーナス様々だな…。」
そう小さくつぶやくのであった。