11話 依頼
ザワザワと周りの人間の囁く声が聞こえてくる。
でも、今の俺にとってはどうでもいい。
今はこの目の前の俺に喧嘩を打ってきた野郎をどうしてやろうか、考えねばならん。
この地面に沈めた男と同じ状態にしてやろうか。
それとももっと惨いことをしてやろうか。
「それで……?お前は俺にどうして欲しい?……いや、俺が考えた方がいいか?軽いものしか言い出さないかもしれないしな?」
1歩、また1歩とその男に近づいていく。
「てめ……!なんなんだよ!突然入ってきて……!」
少し男が後ずさる。
が、俺の姿を見てまた構え直す。
「ほう?構えるか。」
その姿に俺はつい口角を三日月形に曲げた。
同時に、そいつとの距離を俺は一瞬にして詰めた。
「いいだろう。そんなに死にたいのなら、殺してやるよ。」
そして、1発腹部に殴り込む。
男の腹部は想像よりも遥かに柔らかく、拳がくい込んだ。
「かっ……はっ……?!」
「……軽くやってこれだけ食い込むのか。もう少し本気だったら、俺の拳で貫いてるところだな。」
言いながら、もう1発横腹に蹴りを入れ込む。
すると、巨体の男は紙切れのように吹っ飛んだ。
そして、少し先で何度かバウンドして止まった。
「拍子抜けだな。この程度で俺に対して戦闘態勢を取ってきたのか?笑えるな。」
吹っ飛んだ男の元まで歩き、顔面近くにショットガンを構える。
「このまま殺してやるよ。そんなに死にたいのならな?」
「お、おい、アベルシュタイン……!それ以上は……!」
ヘルメロが焦って声を上げるが、それを無視してリロードする。
「しね。」
引き金をそのままひこうとする。
……が、なにかの力でその照準がずれた。
発砲音とともに男の顔横に玉は被弾する。
「なんのつもりだ?シノ。」
横を見れば、いつの間にやらシノが立っている。
「これ以上はいけない。ただの殺人にあたる。」
「殺人?攻撃をされたのはこちらだろう?」
「確かにそう。でも、相手はもう繊維を喪失している。これ以上はあなたが間違っているようにしか見えなくなる。これから先のことを考えても、これ以上はやめるべき。」
黙って、シノのことを見る。
俺の目にシノはまっすぐとした眼差しを送ってきた。
数秒の見つめ合う時間の後に俺がため息をついた。
「はぁ、わかった。今回はやめだ。……ただし、次は無い。確実にお前の命は無いと思えよ。」
ショットガンを担ぎ直して、冒険者ギルドの方面に歩き直す。
追従してシノも着いてくる。
本当に煮え切らんこの怒りはどこに向けようか……。
「……お前たちは降格処分だ。怪我が癒えたらギルド職員がそこに向かう。初心からやり直せ。」
ヘルメロの少し怒りを含んだ声が聞こえたが、俺には関係がない。
副ギルドマスターも大変な仕事らしい。
面倒な仕事だ。
◇
あれから、俺らは昨日ぶりに冒険者ギルドの中に入っていた。
昨日も見たが、ギルドは本当に広い。
食事スペースも広いし、カウンターも広い。
それだけ儲けてるのだろう。
そう考えながら、とりあえず真っ直ぐに解体所に向かう。
「まず金か?」
「ああ。当たり前だ。」
「わかった。ちょいと待ってろ。」
言って、解体所の中へと入っていくヘルメロ。
そうしてしばらく。
大きめの布袋を持って出てきた。
「またせたな。まだ裏の方にあるんだがどうする?冒険者ギルドじゃマネーバンクもあるが、そこに登録して預けるか?」
「いやいい。こっちで全部収納する。」
「そうか?なら、全部もってくるぞ?」
「構わない。」
「わかった。」
一言いい、また解体所の中に入っていった。
金はこれだけあればまぁ、当分は無くなることは無い。
依頼をこなせば使っても増えていくだけだろうしな。
そもそも宿と小道具などの使えそうなもの以外に使うことはほとんど無いかもしれない。
飯は魔物食があるし、ポーションも正直買うつもりは無い。
小道具だって、買ったら暫くは買うこともない。
そもそもこの周りの環境で使うことの方が少ないだろう。
危機的状況に陥ることがほぼ無さそうだしな。
「ほら、これで全部だ。」
ドサッと大袋に詰められた金が大量に目の前に置かれる。
凄まじい量である。
それを俺は異空間収納にまとめてしまい込む。
「また、売りに来る。使わなくなった素材やらはまだまだあるからな。」
「おいおい……さすがにギルドの金が枯れる。あのレベルの素材なら暫くは待ってくれ。」
「景気が悪いのか?」
「限度ってのがあるんだよ……。」
呆れたように言われた。
こんだけデカいギルド立てられるならそのくらいの金はありそうなものだがな。
まぁいい。
「じゃーな。依頼に行ってくる。」
「おう!初依頼、楽しんでこいよ!」
依頼に楽しむもクソもないだろう……。
はぁ……と小さくため息をこぼしながら、カウンターの前まで向かう。
カウンターに着けば、俺らのことを見て少し困惑したような顔をした女が座っている。
「昨日、冒険者試験に受かったアベルシュタインだ。プレートを貰いに来た。」
「は、はい。少々お待ちください。」
慌てたように、席を立ち上がり裏へと向かう。
その間は黙って待っていた。
……だが、それをひとつの聞き覚えのある声が邪魔をする。
「昨日ぶりね?平民!」
「……。」
この舐め腐った声。
そして異様に通る声。
名前はなんだったか……あぁ、小物すぎて思い出せんな。
「誰だか知らんが、俺に話しかけるな。気が散る。」
「なっ?!あんた、ふざけんじゃないわよ?!私はクジェスカ・ハルネムアよ?!」
うるせぇなぁ……と、小さく言いながら後ろを振り向いて、改めて言葉にした。
「……ほんと、誰だお前。」
「本気で言ってるの?!」
「嘘を言ってどうする。お前のことなど知らんし、興味が無い。」
「平民のくせに……!生意気なのよ!来なさい、ガルバス!!」
「あーあー、まーたなんか面倒事かぁ?」
その女がそう叫べば、どこからか面倒くさそうな声が聞こえてくる。
右側を見てみれば、髪を一束に結んだ男がたっている。
「ふん。見なさい?こいつが私のパーティーメンバーよ。」
ドヤ顔でそう言ってくる女。
男の首元にかけられてるプレートに視線を向ける。
Cランク冒険者のようだ。
高ランクの冒険者を雇ったか。
「それで、何の用だ。ただ、そのCランク程度の男を見せびらかせに来たのか?だとしたら、貴族の令嬢ってのは随分暇なものだな?」
「私もそれは思いましたァ。クスクス。人間って言うのは本当昔から無意味なことばかりをするものですねぇ。」
いつの間にやら俺の右側にいたラファエルが、小馬鹿にしたように言う。
こいつ、いつの間にいやがった?
いつも突然現れて消えやがる。
本当に何がしたいんだか……。
「お待たせしましたー……あれ……?あの隣の方は……?」
「ん?あぁ……こいつも俺らと一緒に受けたやつだ。」
「えぇ。このちっちゃいのの言う通りです。私の分も貰えますか?」
「あ、えっともう少々お待ちください!」
また、従業員が奥へと消えていく。
ありゃ新人か?
随分と慌ただしい。
「可愛らしい子だと思う。」
「まぁ、普通の男なら守ってあげたくなるのかもな。」
「あなたは違うんですかぁ?もしかして、器に性別も移りましたかぁ?」
「てめぇ……。」
じろりとラファエルを睨む。
ニヤニヤと俺の事を見てくるラファエルの顔が目に映った。
本当にムカつく顔をしていやがる。
「ちょっとあんた達、この私を無視するんじゃないわよ!」
「たく、うるせーぞ。俺はお前に用はない。これ以上関わってくるなら、無理やり黙らせるぞ。」
「っ!ガルバス!このバカな金髪に思い知らせてやりなさい!!」
「おい、嬢さん。さすがにギルド内ではいざこざは無理だぜ?問題になる。……だがギルド外なら、社会的にも精神的にも追い詰められるが……。」
ニヤリとゲスい笑いを浮かべる男。
気持ち悪い。
少し分からせるか?
あの男どものように、少し痛い目に……。
「……いい加減にして。そろそろ私も怒る。」
静かだが、確かな怒りと冷えきった無機質な声音が響いた。
その方向に視線をやれば、今までにみせたことの無い表情を向けているシノが居た。
「黙っていれば、好き勝手。ナナを社会的にも精神的にも追い詰める?あなた達にそんなことができると?相手の実力が見えていないあなた達が?……いい気にならないで。」
シノの重い威圧に、後ろのふたりが後ずさる。
丁度戻ってきた若いギルド職員もシノの圧でプレートを落として固まった。
さすがの俺も可哀想に見えてしまい、声をかけた。
「おい、大丈夫か?」
「ぇ……ぁ、ぇ……。」
「大丈夫ではなさそうか……。シノ、その辺にしておいた方がいい。影響が直に出てるぞ。」
シノに声をかけると、はっとしてこちらに視線を向ける。
そして、分かりやすく怯えているギルド職員を見て、慌てて殺意を引っ込めた。
「ごめん。少しやりすぎた。〝キュア〟」
精神回復魔法をギルド職員にかける。
「珍しいな。お前が取り乱すのは。」
「……不甲斐ない。」
「まぁいい。」
一言そう言って、ちらりと後ろにいるバカ2人を見やる。
シノの圧により1歩後ずさっている。
余程、シノの圧が応えたようだ。
「実力差がわかったのなら、これ以上はやめておけ。俺の気が変わらんうちにとっとと失せるか、黙ってろ。」
言い捨てて、ギルド職員にの持っているプレートに視線を向ける。
「そのプレート俺らのか?」
「……あ、は、はい!そうです、大変お待たせしました……!えっと……冒険者はSランクからHランクまであるのですが、ナナさんは冒険者試験で異例の合格点を収めて合格、そして副ギルドマスターからの推薦をうけているため、本来Hランクから始まるのが普通ですが、Dランク冒険者からのスタートとなります。」
ギルド職員がプレートを手渡してくる。
それを受け取り、まじまじと見つめる。
Dランクからの始まりとは、なかなか飛び級したものだ。
出だしは上々かな。
まぁ、無駄なHランクから始めることにならなさそうでよかった。
「続いてシノさん。シノさんはCランクから始まります。全て満点の、かつ実技試験にて異例の得点、副ギルドマスターからの推薦もあるため、Cランクとさせていただきました。」
「さすがだな。」
「ナナよりはこの世界にいるから当たり前ではある。」
「続いてラファさんですが、ラファさんもCランクとさせていただきました。シノさんと同様、異例の高得点、副ギルドマスターからの推薦があったため、Cランクとさせて頂きました。」
「クスクス……あなただけですねー?Dランク?」
ラファエルがあざけるかのようにこちらを見てくる。
こいつ……。
にしても……。
「俺だけDランクとはあいつ、俺の事を危険人物とでも思ってるのか?」
「多分、ナナの言動とプラスして色々と目の前で問題を起こしすぎたのかも?」
「……ふん。」
「えっと、今回は特例と言うことで本来なら飛び級という形でEランクになることはあってもCランクやDランクになることはありません。副ギルドマスターからの推薦によっての特例です。」
副ギルドマスターってのはそんな権限もあるのか。
副と言ってもギルドマスターとは変わらないわけだ。
ウザったいやつだと思っていたが、なかなかどうして……役に立つことをするじゃないか。
「依頼に関してですが、自分のひとつ上のランクまでの依頼を受けることが可能です。それと、パーティーが4人で構成されていたとして、もしも2人以上自分より上のランクの方がいる場合は、そのおふたりのランクのひとつ上のランクまでの依頼を受けることが可能です。」
なるほど?
要は今俺にはCランク冒険者が二人いる状態であるから、Bランクまでの依頼を受けることが可能なわけだ。
いいことを聞いた。
「とりあえず、これで依頼が受けられる。」
「そうだな。今日はひとつ上のランクの仕事ひとつを引き受けて見るか。」
討伐依頼でもあれば楽なものだが。
そうして依頼の貼りだされている掲示板に行こうとして、足を止めた。
依頼の前にしないといけない事だ。
「詫びの印に、受け取ってくれ。今回のことはこちらに非がある。」
言って、怯えさせてしまったギルド職員に2枚のコインを手渡した。
「それは俺が魔法をかけた魔法道具だ。ひとつは〝グラビティ・ルベナスト〟相手に投げつけるだけで発動するようになってる。もうひとつは〝プロミネンス〟少しでも魔力を込めれば発動する。どちらも1発限りだが、ここらで身を守るなら十分だろう。」
「え、あ、ありがとうございます!」
その返事を背に、そのまま掲示板に向かおうとする。
「お前らもそんなところで突っ立ってないで依頼でも受けたらどうだ?」
まぁ、ボンボン娘が受けられる依頼など限られてるだろうがな。
あの性格だ。
プライドが高すぎて、ほとんどの依頼をやりたがらないに違いない。
甘やかされて育てられた典型的な金持ちのお子様だ。
「行くぞ。」
「うん。」
「私も初仕事はご一緒にますね。」
「勝手にしろ。」
と、行こうとしたところ後ろからまた声がする。
「どういうことよ……!なんであんたらなんかが飛び級で、ガルバスと同じCランクに……!どうなってるのよ、ここのギルドは!」
まだ言ってやがるのかあいつは……。
「嬢さん、ここは引き下がった方がいいかもしれませんぜ……。ここでやり合うのはちと、問題もあるし、それにやり合ったとしても奴らが本気を出したら俺じゃ勝てない気がする。さっきの殺気のせいてだからだに本調子が戻らないんでね……。」
ガルバスという男はなかなかに力量差をわかっているようだ。
それなりの場数を踏んできたのだろうな。
なかなか見所があるではないか。
「何よ!あんたまでそんなこと言い出すの?!いくらであんたを雇ってると思ってるのよ!雇われた分の仕事くらい全うしなさいよ!」
「それを言われちゃァなぁ……。」
「っ!どいつもこいつも役に立たない……!もういい!」
そうして、嵐のごとくボンボン娘がギルドを出ていく。
それにガルバスという男も追従していった。
冒険者というのも大変なものだ。
俺はあんな面倒な仕事だけはゴメンである。
そう考えながら、依頼提示版の方に歩を進め直す。
ランクもDランクだし、シノたちもいるからBランクのものまではいける。
さて、どんのものがあるかねぇ……。
依頼掲示板の前に立つ。
捜し物、手伝い、採取、討伐、その他……。
この5つの欄があった。
その中の討伐依頼を見る。
ランクC、Bランクの欄にもなると、色々あるものだ。
オークの群れの討伐やらサラマンダーの討伐やら。
その中でも1番気になったのは……。
「レッドサーペントと赤いミノタウロスの調査、ね。」
これはなかなか面白そうだ。
注意事項の欄にミノタウロスが2つ名であると書いてある。
調査と書いてはいるが討伐しても問題は無いはずだ。
これはもうやるしかないだろう。
俺の経験上、歴戦の魔物はなかなかレアなスキルを持っていることが多い。
いい収穫が出来そうだ。
早速依頼書を手に取り、カウンターへと向かう。
そして、先程のギルド職員とはちがう落ち着いた女性ギルド職員の前に紙を置いた。
「この依頼を受けたい。頼めるか。」
「かしこまりました。念の為冒険者プレートの提示をお願いします。」
「俺のランクはDランクだが、後ろのふたりはCランクだ。」
プレートをカウンターに置く。
「分かりました。念の為注意事項を確認致しますね。まず、依頼は受理されてから2週間は有効になります。ですが、2週間までに達成出来なければ失敗とみなされます。依頼を失敗してしまった場合、罰則として依頼に応じた罰金が請求されます。もしも、罰金が支払えない場合は、冒険者のランクが引き下がるもしくは、冒険者登録が抹消されますのでお気をつけください。そして、依頼完了された場合は討伐ならその討伐の証としてその魔物の1部の提出、探し物なら依頼主、採取ならその依頼に書かれていた物全ての提出をお願いします。なお、討伐依頼についてですが2つ名モンスターを討伐された方には、依頼完了後ギルドから表彰と追加報酬などがあります。説明は以上です。再度お聞きしますが、この依頼をお受けになりますか?」
「受ける。」
「かしこまりました。では、依頼受理のための書類を持ってきますので少々お待ちください。」
そうして、ギルド職員は後方へと消えていく。
ギルドの依頼というのはちゃんとしているものだ。
冒険者なんて荒くれ者ばかりの集団かと思っていたが、そうでも無いし。
「さて、ここからはとりあえずSランクまで急速に上げるためにガツガツ依頼を受けてくぞ。」
「討伐依頼をメインに?」
「あぁ。そうなる。」
「血の気が多いですねぇ。」
「1番楽だ。ただ、綺麗に狩ればいいだけなんだからな。」
言っていれば、奥からギルド職員が戻ってきた。
「では、この書類にパーティー名、名前、今住んでいる場所、宿ならその宿の名前を書いてください。」
「宿の名前か……。」
「……宿には多分依頼の問題が起きた時とかに報告に来るとは思うのだけど、私たちの宿は少し特殊。それでも大丈夫?」
「場所さえ書いていただければ、大丈夫です。」
この言葉を聞いたあと、俺は名前、宿の名前、などを書いていく。
あとはパーティー名だが……。
「シノ、いいパーティー名はないか?」
「パーティー名……じゃぁ……こんなのはどう?」
シノにペンを渡すと、紙にスラスラと書いていく。
その名前に少し眉をひそめる。
「……過激……だな?」
「過激とは失礼。この名前は……私にとって大切な名前。」
〝destroyer〟
英語で書いてくるのがまた、なんとも言えない。
というかこいつなんで英語なんて知ってんだよ……。
ていうかこれが大切な名前って……もしかしなくともこいつの例の大切な人ってのは……いや、考えるのはやめとこう。
「これで頼む。」
「わ、わかり、ました。では、これで手続きをしますね。」
ギルド職員が左に置いてあった魔石版に紙を置く。
すると、魔石版が少し光りだして、少しして紙にマークが付けられた。
「依頼を受理致しました。今日より2週間までに依頼完了をお願い致します。ご武運を。」
「あぁ。これでようやく始められる。」
ニヤリと口角を上げて、ギルドの出口の方へ向き直る。
ここからスタートだ。
俺らの神殺しの旅が。




