7話 解体長ヘルメロ・フォン・ライオット
「おらおらぁ!とっとと全員死にやがれ!!」
1人は大鎌を軽々と振り回し、次々に魔物を切り落としていく。
「〝標的セット、攻撃を開始。〟」
もう1人は、体の一部を特殊な武器に変化させ、魔物を撃ち抜き、消失させていく。
「たかだか暴れることしか能のない下等生物が、調子に乗らないで下さァい。」
そしてひとりは水を操り、魔物を切ったり、撃ち抜いたりしていく。
その壮絶な光景は、私なんかでは到底追いついていけない次元の戦いだった。
先程まで、200体以上はいたであろう魔物はいつの間にやら、たった数十匹程度にまで減らされていた。
実力だけなら、あのかのSランク冒険者にも匹敵するレベルだ。
ブライ鉱石の石版のことと言い、この冒険者たちは.........何者なのでしょうか.........。
「もうこんなに減ったのか?随分と脆いヤツらを呼んたな?ディープルート。」
「キシャァアア!」
ディープルートはその叫びとともに少女に襲いかかる。
「.........ヤケになったか。バカが。」
瞬間に内側から膨れるようにしてディープルートが爆ぜた。
一瞬すぎることに、その場にいた全員が言葉を失う。
「さて.........残るはお前らだけだが、どーする?俺らに殺されにここまで来るか.........逃げるか。」
その言葉の後、ビリビリッと電気に打たれたような感覚が全身を襲う。
背筋にヒヤリとした感覚。
こんな殺気、今までに感じたことがない。
「おい、試験官。」
「.........。」
「しっかりしろ、A級。」
べしっ!と軽く頬を叩かれ、ボーっとした頭が覚醒する。
気づけば、周りにいた魔物たちは全ていなくなっていた。
「えっと、魔物たちは.........逃げた、んですか?」
「あぁ。安心していい。恐らく、ここにはもう近寄ってくることは無いだろう。あれだけの殺気を浴びせれば、知能の低い生物と言えど、嫌でも分かるはずだ。ここに近づいたら確実に殺されるってことくらい。」
「は、はあ.........。」
「.........それで?もう試験は終わったんじゃないか?周りをよく見てみろ。これで全員のはずだぞ。」
言われて、周りを見回してみれば他の冒険者たちは全員集まってきていた。
どうやら、さっきのディープルートを引き連れてきた冒険者チームが最後のようだった。
「えっとぉ........み、みなさぁん。色々ありましたがとりあえず、ギルドの方に戻りますぅ。ネックレスは戻ったあと回収させていただきます〜。着いて来て下さぁい。」
そう言って、冒険達を誘導する。
ギルドに戻ったら、報告が大変ですねぇ.........。
突然の魔物の変化に、あの3人の冒険者について。
「はぁ.........。」
ついため息が漏れてしまうのだった。
◇
あれから、転移魔法陣でギルドの地下転移して、そのまま冒険者ギルドの広間まで戻ってきた。
にしても、あの転移魔法は非常に便利だ。
機会があればあの魔法陣を解明しておくのもありかもしれんな。
「みなさぁん、これにて試験は終わりですぅ。結果は明日報告があります〜。今日狩った魔物に関しては、ナナさん以外のは解体所に届けてあります〜。素材を貰うか、換金するかは解体所に伝えてください〜。お疲れ様でした〜。」
その言葉と共にその場にへたり込む冒険者たち。
新人っていうのは大抵がこんなものなのだろうな。
あの森に出てくる、魔獣と同レベルかそれ以下のものが多いし。
「ナナ。早速、解体所の方に行ってみよう。」
「そうだな。」
俺ら2人は解体所の方に向かって歩を進める。
あの駄天使はまたどっかに行った。
どうせどこかで職務をサボっているんだろうがな。
サボるくらいなら、天界に帰ればいいものを。
サポートとか言いながら全くサポートしねーしな。
「.........ナナ。周りの視線が集まってる。」
「ふむ。まぁ、だろうな。俺らの容姿的にまだ子供に見えるんだろう。それに新人冒険者っていうのもあるし、余計に視線を集めちまう。」
周りに少し視線を配れば、色々な冒険者がこちらを見てきていた。
まだ弱いやつならこれだけで萎縮してしまうくらいの眼力でだ。
鬱陶しい。
ここで殺気を出して、威嚇するのもいいがそうしてしまうと、シノに怒られちまうだろうしな。
仕方ない……無視、するか。
心中で溜息をつきながら、解体所の前まで歩を進めていく。
そして、解体所の受付嬢に声をかけた。
「死骸の買取を頼みたいんだが。」
「あ、えーっと……親御さん、はどこかな?ここは冒険者ギルドだから、子供だけで歩くのはあまりおすすめしないよ〜。」
「は?」
そんな間抜けな声が俺の口から漏れる。
ああ、ここでもこの幼い体の弊害が出るか。
全く、こいつみていなかったのか?
新人冒険者の中から俺が出てくるのは見えているはずだが……。
まぁいい。
「一応、成人をしているんだが?」
「え?」
「今回冒険者試験を行った試験官に聞いてみるといい。……まぁ今回は待ってるのも面倒だ。上を出せ。その方が手っ取り早い。」
「あ、わ、分かりました。少々お待ちください……!」
そう言って、受付嬢は後ろにあったカーテンの奥へと姿を消した。
まぁ、俺らは今回試験官に魔物を見せただけで預けてはいないからな。
話が通っていなくてもおかしくはないか。
「1匹くらいは預けるべきだったな。」
「上の人間が来るならさほど問題は無いと思う。」
「まぁ、そうか。」
そんな会話をしているとがチャリと扉の開く音がした。
「……お前らか、場違いなガキってのは。」
なかなかガタイのいいじじいが出てきた。
それに、ふむ……こいつ、今まで見たやつらの中じゃダントツで強いな。
「……あんたが解体所の上か?」
「そうだ。俺はヘルメロ・フォン・ライオットだ。……にしても、随分と生意気なガキ、だな。」
俺の目の前に仁王立ちで立ち、威圧をかけてくる。
ピリッと肌に電気が走ったような感覚があった。
ほほぅ……こいつ。
「くくく……。」
「何がおかしい?」
「いやなに。今日この街には降りてきたばかりだが、今日あった中ではアンタがいちばん強いもんでな。まぁ、そんなことより、だ。こいつら、買い取ってくれ。俺らにはいらん。魔石は全部抜いてある。」
「は?何言って……。」
異空間収納からゼルセオスの森にいた雑魚何体かと、今日狩ってきた雑魚モンスターを一気に引っ張り出した。
「こいつら、全部買取ってくれ。」
「んな……!おま、これ、お前が狩ったのか?!」
それらを見ながらそういう、じじい。
「当たり前だ。俺が狩ったから持ってるんだろうが。バカかお前は。」
「こいつはマジックドスファンゴ……上級モンスターだぞ、おい……。それにこっちは…………。」
「そんなに驚くことでもあるまい。大袈裟なんだよ、いちいちうざってぇ。最上級モンスター売りつけたわけじゃねーんだ。とっとと会計済ませてくれねーか。」
「その言い方、まさかお前最上級モンスターの素材も、持ってるってか?」
じじいがそう質問をして来る。
言うべきか、言わないべきか迷う。
上級モンスターでこの反応なのだ。
最上級モンスターへのこの世界の価値観としては倒せないレベルの相手っていう認識でいいのだろう。
それを倒す新人冒険者ってのは異常。
いや、だが言っておけば、あとあとが楽だろうかね。
出世のためにも。
「……最上級モンスターの素材はしまってある。ここで全て売ったら冒険者ギルドが破綻するくらいにはな。」
「そうか。」
その返事とともにまた、俺の目の前で立ち上がるじじい。
顔には先程よりも険しい顔が浮かべられていた。
コロコロと表情の変わるヤツだ。
はぁ……とひとつため息をついたと同時に、じじいからとんでもない言葉が飛び出した。
「どこから仕入れた。これら全部と最上級モンスターの素材を。」
「……なんだと?」
「これは立派な密輸だ。衛兵に言えばすぐにでもお前はとっ捕まえられるぞ。正直に言え。まだお前たちは子供だ。言って、渡せば今回は見逃しておいてやる。」
周りの冒険者達も立ち上がり、身構え始める。
いい、度胸だ。
「お前はこれをどうやって……」
「黙れ……殺すぞ。」
瞬間に一気に殺気を放つ。
すると、周りの冒険者たちは当然のこと全員がその場に倒れ伏せた。
じじいも倒れふせなかったものの、その場に立っていることはさすがに厳しかったようで、地面に跪く状態で何とか意識を保っている。
そんな状態のじじいに俺は持っていたショットガンを顔面近くに向ける。
「密輸だのと、証拠もないのによくもそんなことが言えるな。そんなに死にたいのか?じじい。」
「……っ……?!」
「俺はシノほど優しくはないぞ。俺の邪魔をするやつ、俺に対して危害を加えてくるようなやつを許さないし、必ず殺す。どうする?じじい。」
銃口を頭に押付けて、更に殺気を強くする。
すると、後ろの方からペシンッと頭をはたかれた。
「いてぇ!おい、何すんだシノ。」
「弱いものいじめはダメ。それに、この人はまだしも、ほかの人に影響が出すぎてる。これ以上、殺気を漏らすのはダメ。」
「……わかったよ。命拾いしたな、じじい。だが、次はないぞ。」
ショットガンを担ぎ直し、また再度言い放つ。
「さっさとこいつらを買取ってくれ。今俺らは金に困ってるんでな。」
「…………ふ……。」
「ん?どうし……。」
俺がそう言い出す前に、じじいは声を出して笑いだした。
「ガハハハ!いやぁ、とでもない新人が入ってきたもんだ!いつ以来だろうな、こんな化け物が入ってくるのは!」
「なんだと?」
「ああ、すまない。悪い意味で言ったわけじゃねーんだ。昔にもいた。この俺を前にして殺気を出てきたやつがな。だが、ここまでの殺気はあいつにも出せねーな。嬢ちゃん、何者だ?」
「……俺が何者だろうとあんたには関係の無いことだ。仕事を終わらせろ。」
そいつを見る目を更に鋭くして、見下ろす。
すると、そいつはまた大きな声を出して笑いだした。
「ガッハッハッ!すまないな!あんたの殺気のおかげで少し体に力が入んなくなっちまった!もう数分待ってくれねーか!何、仕事はちゃんとしてやるさ。ガッハッハッ!」
「ちっ!10分だ。10分待ってやるその間に立ち上がれ。……はぁ……喧嘩を売ってきた癖にここまで貧弱とはな……。さすがに驚きだ。」
「仕方ない。レベルも場数の数も違う。ナナ基準で考えるとキリが無くなる。」
「はぁ……。」
そう、ため息をもらすことしか出来なかった。




