第2話 特訓
あれから少しばかり時間が経った。
ラファエルによれば、この少し先くらいに人が住めるようになっている小屋がひとつあるらしい。
初期ボーナスとして置いておいたとの事だ。
どんな風の吹き回しかは知らないが、正直に言ってしまえば、助かる。
今の俺はあまりに弱すぎる。
このショットガンを片手で振り回せないくらいには。
さっき、自分のステータス欄を見てみたがステータスは100均等だった。
こんなんじゃ邪神にも勝てやしない。
だから、俺には特訓期間が必要だ。
期間は1から2ヶ月くらい。
この間にLvを一気に跳ね上げなければならない。
そのために今回の初期ボーナスとしての小屋というのは本当に助かる。
当分は1部の場所で住み込みの特訓をすることが出来るのだから。
ちなみにこの世界ではどんな方法を使っても自分のLvをあげられる。
例えば、筋トレ、1人での戦闘に意識を向けた体を動かすイメージトレーニング、俺であればショットガンのエイム調整など。
他にもいろいろあるが、小さなことでも経験値は獲得可能なのである。
だが、あげられるだけであり、上がり幅などはやはり魔獣討伐などの方が高いが。
それでも、魔獣討伐だけでしかLvのあげられない世界よりは断然こっちの方がお優しめだ。
この世界での今回の俺の特訓方法では当たり前だが対人戦での特訓は無理だ。
そもそも人がいない。
だから、それ以外のできること全てでレベルをあげていこうと思っている。
そのために特訓のできる環境として、最適な場所を見つけなければならない。
小屋を見つけたら、その次はそれを探すつもりだ。
そんなことを考えていると、前にいたラファエルが声を上げる。
「つきましたよ?ここが最初の初期ボーナスで置いた小屋です。」
「ここか。めちゃくちゃ綺麗だな。」
見上げれば、場違いなくらい綺麗な小屋があった。
一目見ればわかってしまうくらい綺麗な新品の木材板。
その小屋のドアを開けて中を見れば、家具までもが全て新品だった。
いや、もう異質さ隠す気無さすぎだろ。
まぁ、これは1から2ヶ月くらい余裕で過ごせそうなくらいの小屋であるから文句は言わないが…。
「意外に気が利かせることが出来るんだな、おまえも。とりあえず小屋も見つかった事だし、俺は俺の特訓場所探しに行ってくるわ。留守番よろ。」
「失礼ですね。私はあなたよりも気が利きますよ、普通に。」
にこにこしながら俺よりも気がきくことを強調してくるラファエルを置いて、その小屋を後にする。
どうもこれから邪神殺しを完遂していく日々の中であいつと気が合う日は一生こなさそうだ。
理由は俺があいつのことが嫌いだからだ。
まぁ、早く離れるためにも邪神殺しを完遂させないとな。
そんなことを考えながら、特訓場所を探すのだった。
◇
しばらく歩いていると、何かが歩いたような痕跡を見つけた。
見た感じ、獣か魔物の足跡だろうか?
ここにこんなものがあるということは、この近辺には魔物か何かが住み着いているのは確かではあろう。
まぁ、随分と歩いて来て森林地帯にまで来たからな。
いても全く不思議ではないか。
少し遠いいがここなら色々な特訓が出来そうである。
ここに来るさなかでもなにかトレーニング方法を考えてしまえば、ここに来るまでにひまなく強くなれると思うしな。
「特訓場所はここで良さそうだ。」
言いながら、方向を右に転換して木々が生い茂っている大自然に入っていく。
何か生き物の声などは聞こえない。
ただ、ひたすらに俺がガサガサと歩く音や周りの草木が風で揺れる音だけが響く。
さっきの足跡が嘘のように静かだ。
「……とりあえず、一旦ここで試せることは試しておくか…。何が来るか分からんしな…。」
その場で足を止める。
まずはスキルが正常に作動するかを試さないことには何をするにも始まらない。
そうして、思考長加速を発動してみる。
と、同時に一気に時間が遅くなるのを感じた。
なるほど…思考長加速の感覚はこんな感じなのか。
一瞬の間に大量のことを考えられる。
これなら創作能力に最大限活かせそうだ。
さすがは最上位スキルなだけはある。
思考長加速の効果をとりあえず解く。
とりあえずスキルに関しては問題なく使えるし、感覚もわかった。
あとはこのラファエルから貰った、アーティファクトだけか…。
正直なところ、これが一番心配だ。
だって、ショットガンだぞ?
俺の住んでた国ではたしかに銃器は強かった。
防弾チョッキなんかもあの世界には存在したが、それでも痛いし、つけていても心肺停止する可能性があるものだった。
…が、それはあくまでも人間相手ならの話なのだ。
そう、あくまでも人間同士の話。
これはあの世界では大型のモンスター用などには作られてなんかいない。
ドラゴンやら巨人やら。
こんな大きいものもこの世界にはいるというのに、このショットガンが通用するとはどうしても俺には思えない。
だって、前世の固有概念があるから。
だから、今回でその不安が確かなものか、確かでないものか調べる。
だが、その前に一つ問題があるとするならば…。
「俺、銃器とか扱ったことねぇんだけど…これうてっかなぁ…。」
そう、銃器とか持ったの今日が初なのである。
いやよく考えてみろ。
我が国だった国では、一般人が銃器を持ってはいけない決まりがあったのだ。
その名も銃刀法違反というもの。
しかも、俺は学生だ。
そんなものを持っていたら、色々問題なのである。
だから、持ったことないのが当たり前なのだ。
本当にゲーム越しでしか見たことないんだよなぁ…。
「…こんなこと考えてても仕方ねぇか…やれるだけやってみるしかない…!」
そして、ショットガンを近くの木に向けて構える。
再び静けさの戻った森の中で、自分の生唾を飲む音だけが響き渡る。
この人差し指をかけている引き金を引けば、このショットガンは咆哮をあげる。
そう考えると、無意識に手が震えてしまう。
怖い。
今日は全てが初めて尽くしだったが、今この瞬間が今日の何よりも恐ろしい。
怖い、撃ちたくない…でも…この世界で生きていくには試さなくてはならない…だから…!
撃つぞ…撃つぞ…!
そう頭の中で2回叫んで、人差し指に力を込めた。
瞬間だった。
ガゥン!!!
そんな発砲音が静かだった森の中に響き渡る。
その後、目の前からはドカァァァアン!!という轟音が響き渡った。
「いっつつ…何が…起こった…?」
その絶大な威力のせいで、俺の小さくなってしまったこの体は後方にあった木にまで思い切り吹き飛んでしまっていた。
今のでもたれかかっている木に頭を打ったのか、意識が少し朦朧としている。
その少し朦朧とする意識の中で何とか少し顔を上げて、前方を見た。
そこには、何本もの木が倒れていて、地面が抉れている惨状が広がっていた。
な、なんつー…威力だよ…。
これ、このショットガンでできたってのか…?
「は、はは…たしかにこれはラファエルが言った通り、ただのショットガンなんかではないな…。」
こんなものを人に向けてなんて打てば、跡形もなく吹き飛んじまうや…。
これは、本当に扱えるようになるまで時間がかかりそうだ。
そう思いながら、ゆっくりと立ち上がる。
そして、ショットガンの玉を装填するために玉を入れるところを開けた。
すると、俺がよく見たショットガンと同じように、使用済みの弾が煙を上げて出てくる。
…と、同時に一瞬にして新たな弾がどこからか装填された。
なるほど…自動装填されるわけか…。
本当に、何てものをくれてくれるのか…。
「道のりは遠そうだな…。」
弾を装填し終わったショットガンを真上に掲げながら、そう言葉をこぼした。
第2回目の投稿を致しました。
前回の投稿のコメント、誤字報告をして頂いた方ありがとうございました。
とても助かります。
続いての第3話も楽しみにお待ちください。