2話 王都
「なぜ俺が、お前らを待たないといけないんだ?」
心底意味がわからない。
俺はこいつらと深く関わろうと思っていなかったからこそ、魔物を駆除してスルーしようと思ったのだが……。
「っ……私たちはあなた達に助けられた。だから、お礼がしたいの!」
「……礼なんて要らん。俺らは俺らが目をつけた獲物を狩っただけだ。それに今は急いでるんでな。」
「ナナ、連れていった方がいいかも。」
「なに?」
そういうシノの方を見れば周りを見回しながら、目を細めている。
明らかにいつもの様子では無い。
「何があった?」
「特に私達からしたら問題のないものばかり。でも、この人達にとっては強力すぎる相手がこの森には多い。量的にも、実力的にも。」
「俺らにはそんなの関係はないだろう。こいつらがどういう死に方をしようが、俺らに何か特別支障が出るわけでもあるまい?」
「クス……人の心まで捨てましたか、あなた?クスクス。」
ラファエルの小馬鹿にしたような態度を無視して、冒険者を見やる。
ステータスなんて確認する必要のないレベルで弱い。
おそらく、それ相応の相手としか戦ったことは無いのだろう。
先の戦闘もレベルが高かったというのもあるだろうが、俺から言えばその程度のレベル。
レベルなんて表記上の数字でしかないのだ。
作戦や立ち回り次第でそんなものは幾らでもくつがえせる。
こいつらは経験があまりにも少なすぎる。
「ちっ……俺らは他人のお守りのためにここに来たわけじゃねぇぞ、こら。」
名も知らぬ冒険者達を人睨みする。
それにびくりと身体を震わせる冒険者たち。
それにはぁ……とため息をついてから言う。
「守ってやるから、役に立て。王都まで案内しろ。それで今回のことはチャラだ。」
「わ、分かったわ。」
こくりと頷くポニテの女。
それを見た後、俺は浮遊の魔法を使って空へ飛び上がる。
一応、周りに何かいないかの偵察をしておくに限る。
まさか、こんな状況になるとは全く予想していなかった。
全く……面倒だ。
そして数分がたち女の声が下の方からする。
「準備が終わったわ。」
「……そうか。なら、すぐ出発だ。」
言って地面に降り立ち、すぐに歩き出す。
あくまで守ってやるとは言ったがこいつらのペースに全て合わせるつもりは毛頭ない。
「ナナ、これからどうする?人間の里に行った後のことは何も聞いてない。」
「ああ、そうだったな。とりあえず、冒険者がいるってことがわかったんだ。こいつらが所属している冒険者ギルドがあるはずだし、そこに行ってみるのがいいだろう。」
「わかった。」
「だったら、私たちが役に立てると思うわ。冒険者ギルドまでの案内役として。」
案内役か……。
「……わかった。お前らに任せる。」
深く信用はしないが、な。
と、思いながら俺らは森の中を歩くのだった。
◇
あれから1時間くらいだろうか。
俺らは森の外へとついた。
冒険者という足枷があったために大幅に遅れてしまった。
全く、こちらにとって不利益しか今のところ来ていない。
まぁいい。
「やっと見えてきたな、王都。」
数時間ぶりの森の外へ歩を進み出せば、目の前には広い草原と大きな石の城壁が広がっている。
中には立派な城が見えた。
思っていたよりもなかなか栄えているようだ。
城壁の中には建物がたくさん見える。
「さて、シノ。まずは王都に入ったら冒険者ギルドに行ってみるぞ。登録できるならしておくと便利かもしれんしな。依頼を受けたりすれば所持金を増やせるし。」
「わかった。」
「私も念の為登録しておいてもいいかもですねぇ。この先便利そうですし。」
「駄天使が今更何言ってやがる。どうせ登録したところで何もしないんだから無駄だろうが。」
「いいえ。登録しといて損はないでしょう?こういうのは。」
小馬鹿にするような笑顔をこちらに向けてくるラファエル。
今すぐ殺せるなら殺してやりたいくらいにはムカつく笑顔である。
だが、まだこいつと同等のレベルに俺は達してはいない。
腐っても神の側近だ。
実力はたしか。
戦わなくてもわかる。
世の中ってのはあいも変わらず理不尽の塊だ。
「ちっ……それで、お前ら。この都市の冒険者なんだろう?どこから入れば、この王都には入れる?」
「ここを真っ直ぐ行った先に門があるわ。そこから入れるには入れるんだけど、普通は簡単には入れないわ。初めて入国する際は色々な手続きだったり、門番が怪しい武器の類とかがないか調べられたりするわ。」
「怪しい武器、ねぇ。」
自身の持っているアーティファクトに目を向ける。
恐らくだが、この世界には拳銃の類の武器は無い。
弓だったり、ボウガンだったりはあれは遠距離から撃つ狙撃武器ではあるが拳銃って訳では無いしな。
多分、確実におれは門番に止められる。
身分を証明するためのものを何ひとつとして持ってないし。
まぁ早い話、門を潜らず城壁を超えていけば済む話なのだが……そんなことをしてあとから面倒になっても嫌だし、今回は正攻法で事を片付けていくしか無さそうだ。
「仕方ねぇか。まぁ武器は異空間収納を使えばいいから問題は無いとして、手続きはするしかなさそうだな。偽造ったってそんな技能は持ち合わせていないし。」
「それに関しては大丈夫だと思うわ。」
冒険者プレートを見せながら、そんなことを言うポニテの女。
なるほど。
「お前らがいれば、身元は保証できるって訳か。」
「そういうことよ。これでも私たちそれなりに上のランクなんだから。」
「お前ら程度の実力でか?」
「程度……ま、まぁ、一応Cランク冒険者やらせてもらってるわ……。」
こんな実力でCランクなら、俺が冒険者をやれば簡単にSランクくらい行けそうだな。
この世界、人間として成り上がるのは楽勝かもな。
まぁそんなものに今は興味無いが……この世界での仕事が終わったらやってみるのもありかもしれんな。
そのためにも早く仕事を終わらせなければならない。
「さっさと行くぞ。時間が惜しい。」
足早に王都に向かって歩く俺の後に全員が着いてくる。
「生き急いでますねぇ。そんなに早く終わらせたいんですか?」
「当たり前だ。お前といるって言うだけで今は反吐が出る思いをしてるんだ。さっさと自由を手に入れて、お別れしたいんだよ。」
吐き捨てるように言って、舌打ちをする。
それにラファエルがクスリと笑ったように聞こえたが、気にしない。
そんなこんなで歩いていれば、いつの間にか王都への門が見えてきた。
門の前には、人が列を成している。
旅人風のやつもいれば、後ろの4人と同じような冒険者風のやつら、そして行商人が馬車を引いていたり。
とにかくたくさんの人間が、並んでいた。
「王都ってのはこんなに並んでるものか?」
「いいえ。いつもならもっとすんなり門は潜れるはずだわ。どうして今日に限ってこんなに……。」
ポニテの女も意味がわからないというふうな顔をしている。この様子から見るに本当に珍しいらしいな。
何かあったと見るのが正しいだろう。
いつもより警備が厳しくなっているってことだろうからな。
「こういうのは他の人間に聞いてみた方が早いと思う。」
「他の人間ねぇ……聞いたところで並ぶのは変わらないんだから意味は無いと思うが……?」
「あら。あなたの容姿は腐っても私がつくりあげた最高傑作ですよ?可愛くて、凄まじいくらい美形を作りあげたんです。そこらの男ならイチコロレベルで。」
「あ?何が言いてぇんだよ。」
「だから、その容姿を使って順番を譲ってもらえばいいじゃありませんか?可愛くお願いして。クスクス。」
瞬間に一気に殺意が芽ばいた。
今すぐにでもこいつを殺してやりたいと思ったのは今日が初めてかもしれない。
可愛くお願いだと?
なんで俺がそんな屈辱的なことをしなければならない?
「……調子に乗るな、駄天使。」
ここで殺意を出すと面倒事になりかねないので、何とか殺意を押さえ込みながら静かにそう告げる。
と、裾を何かに引っ張られる感覚が生じる。
感じた方を見てみれば、シノが真剣な顔でこちらを見ていた。
「な、なんだよ。どうした。」
「私も見てみたい。」
「……は?」
「私もナナのその姿見てみたい。」
少しの無音が当たりを包み込む。
こいつも俺のその姿を見たがるとは思ってもみなかった。
可愛くお願いとか前世男だった俺にはあまりに過酷すぎる。
だが、シノのこんな顔を見てしまっては断れそうもなく……。
「っ……わかった。わかったよ!門前で出来たらやってやる!並んでる最中はさすがにやらないがな……。」
「ほんと?!」
キラキラ輝くような眩しい眼差しが向けられる。
表情はあまり変わってないが、嬉しいという気持ちは伝わってくるのだ。
今までこんな顔はあまり見た事なかったが、まさかこんなことでこの顔を引き出すことになるとは思わなかった。
「ほんとだよ。嘘は言わん……。」
「約束。」
ニコリといい笑顔を向けてきた。
そんなに俺のそれを見たいものかね……全く。
女ってのはよく分からん。
「シノにはとことん甘いんですねぇ。ロリコンですかもしかして。」
「んなわけねーだろ、この駄天使が。おめーこそロリコンだろが。俺の姿こうしたのはお前だぞ。」
「私は女だから許されるのですよ?」
「黙れ、ド変態!」
そんなくだらない会話を繰り広げていれば、俺らはいつの間にか列にまで到着していた。
「この列はそれなりに時間がかかりそうだな。」
「多分、この調子で行くとかなり時間かかるかも?」
「ちっ……面倒だな……。まぁ仕方ねーか……。全員なぎ倒していく訳にもいかんしな。」
何より、ここで可愛こぶる気は断じてない。
どうせラファエルのやつは、つまらなさそーな顔をしてるんだろうな。
そんなことを思いながら、そちらを見る。
だが、俺の予想とは違いラファエルは全く笑ってなどいなかった。
まるで人間ではない、まさに無感情の無機質な顔だった。
こいつがたまに見せる顔だ。
まさかこんな外でもそんな顔をするとはな。
まぁ、こちらを見ている奴はいないし、気にしていないのだろうが。
「とりあえず、ここで数時間は待機する。お前ら、念の為だ。いつでも動ける準備はしておけ。魔物の襲撃をここで受ける可能性もあるからな。」
全員に向けてそういえば、ラファエル以外は頷く。
こいつは動かんし……期待はしてないからどうでもいいが。
◇
2時間が経過しただろうか。
魔物の襲撃も何も無く、何かその他に起きたわけでもなく、俺らは最前列にまで来ていた。
さすがにちょっと暇な時間だった。
あまりにも暇な時間だった。
何か一つでもちょっとした問題が起きればいいと思ったんだが、なかなか起きないものだな。
「やっと入れるわね……。」
「そうじゃのぅ……何があったのか聞かなくてはな。」
「うん。もしかしたら、冒険者ギルドにも依頼として張り出される可能性もある。」
「金稼げる依頼だといいな!」
前の方でそんなことを話しているが、もしその事件の原因が最上級モンスターとかなら一瞬で殺されるだろうな、こいつら。
そもそもレベルがあまりにも低すぎるのだ。
まぁ、この世界の住人はだいたいそんなものなのだろうな。
前にいる近衛兵を見てみてもこいつらよりレベルが下のやつがいるし。
この周辺にいるヤツらの中で比べるなら、一番マシくらいか。
と、すると……
「次の方どうぞ!」
その声とともに前にいた商人が門の中へと入っていく。
いよいよ俺らの番か。
「おまえらがいれば、通れるんだろうな?本当に。」
「ええ、そのはずよ。」
言いながら、首にかけたプレートを手に持った。
「私たちはCランク冒険者パーティーの赤魔の破断よ。依頼が完了したから帰ってきた。」
「赤魔の破断……大層な名前。」
「本当ですねぇ……クスクス、おおよそ名前の通りでしょうか。」
シノとラファエルがポソりと呟くように言っている。
赤魔、ね。
ラファエルから貰った知識でその存在については一応知ってはいるが……激動の時代の化け物じゃねーか。
それを破断とは、なかなか言ったものだ。
知らないからこその目標、か。
少なくとも今のこいつらには到底無理な話だ。
瞬殺か、よくて囮に使われるかだな。
まぁ、こいつらがそいつに会えることは生涯ないのだろうが。
「赤魔の破断か。ご苦労である。……ただ、その後ろのもの達は何者だ?今まで見たことも無いものたちだな。」
「ええ。依頼中に魔物に襲われそうになってたところを助けたの。ギルドに伝えるためにもこの子達には同行をお願いしたわ。」
「この森を子連れの3人歩きとは、危険なことをしたものだな。なんのためにそんなことをしたんだ?動機は?」
「そ、それは……。」
的確に嫌なところを突いてくる門番だ。
動機をド直球に、王都に冒険者登録をするために来たとは言ったところで信用せんだろうし。何かほかに理由がある訳でもないしな。
どうしたものか。
1つあることかあたまに過ぎる。
まさか俺の頭にこれがよぎるとは思わなかったな……これも全てあの駄天使のせいか。
…………やるしかないか。
そう決意した後、俺は赤魔の破断の前へと進み出た。
すると、俺を見るや否や門番はニコリという笑顔を向けてこう言う。
「お嬢ちゃん、お母さんと妹ちゃんかな?おじさんと少しだけお話しようか。案内するからお母さん呼んできて欲しいな。」
完全に子供扱いか、この野郎。
まぁ仕方ないか。
どこもかしこも発展途上。
これでも15歳ってのが驚きを隠せない。
内心ため息を漏らしながら、門番を見つめる。
それに対して、門番は戸惑いの表情を顕にした。
「お嬢ちゃん?おじさんの顔になにか着いてるかい?」
そして、俺を見る赤魔の破断の視線が信じられないものを見る目へと変わったのは言うまでもなかった。
「……おじさん。あの、私たち、お父さんに会いに来たの。お仕事頑張ってるって聞いたから、たまには会いに行かないとって。だから、森の中歩いて王都まで来たの。お願い、通してくれないかな?」
ありったけのきゅるんとした眼差しを門番に向けていれば、後ろの方では笑いそうになるところを必死に堪えてる駄天使、言葉も出てこないと言わんばかりの冒険者パーティー、目を輝かせて俺を見つめるシノ。
シノ以外全員沈めてやりたい。まじで。
まぁいい……とりあえず今は門番か。
そうして意識を向ければ、俺を見る門番の目が気色の悪いものに変わっていた。
ぞくりっと背筋に冷や汗が出る。
き、きも!
こいつ、幼い子供に欲出すタイプのキモイやつか……こいつ……。
前世が男だからか普通以上に嫌悪感が出てくる。
「し、仕方ない……!通ってよしだ。王都へようこそ。」
門番が道を開ける。
なんとかなったようだ。
今回はこの変態に助けられたようだ。
複雑な心境ではあるが……門番が馬鹿で良かった。
さて、俺は俺の仕事をしようか。
だいぶ足止めを食らったしな。
門の中へと俺は進んでいく。
それに続き、シノ達も着いてくる。
王都ってのはどれほどのものなのか、気になるな。
賑やかなのだろうか、それとも案外静かなのか?
まずいな、少しはしゃぎすぎかもしれない。
まぁ、たまにはいいだろう。
そう考えたと同時に俺は門を潜りおえるのだった。




