第16話 緑神竜ゼルセオス
何が起きた……?
転移しようとした直後に爆発が起きて、それで……。
「…………ナ」
なんだ声がする。
聞き覚えのある声だ。
誰だ。
「……ナナ!」
「ぶはっ?!」
べチン!っとすごい力でビンタを食らう。
目覚めの一撃にはあまりに威力が高すぎたそれは、俺に寝起きの多大なダメージを与えてきた。
何事?!
「ん、起きた。良かった。」
「いや、起きたじゃねーよ?痛いんだけど?もう起こすレベルの攻撃じゃなかったけど?殺す気だった攻撃だけど?」
「起きないナナが悪い。仕方ない。」
「理不尽が過ぎる!」
シノはなかなか鬼畜精神を持っているようだ。
行動の一つ一つに気をつけていかないといつ死んでもおかしくはない気がする。
恐ろしいの一言である。
「んで……ここは外か。」
立ち上がりながら、シノにそう聞けば頷きながら答える。
「うん。見ての通り、私たちはダンジョンを攻略した。最後の最後でハプニングはあったけど。」
見覚えのある木々と聞き覚えのある自然の音。
今まで見ていなかった青空が木々の隙間からは見えた。
久々の外で目が霞む。
いい天気の日に出てこれたらしい。
「……こんないい日に出てこられたのは運がいい。さっさとやつをやりに行くか。」
ショットガンを片手に不敵に笑ってみせる。
それを見たシノがクスリと笑って、こう言った。
「あなたなら、目の前に来たもの全てを本当になぎ倒していきそう。」
「あ?当たり前だろう?目の前に来たならなぎ倒す。そりゃ基本中の基本だ。」
何を言っているんだ?こいつは。
そう思いながら、歩を進めようとしたその時だった。
『まさか……本当に出てくるとは思わなんだ。恐ろしいまでの執念だな、人間。』
「……ほう、本命が自分から出てきてくれたぞ。好都合だ。」
担いでいたショットガンを下ろす。
「助かったよ。出てこなかったら、この森燃やしてたところだ。」
『いい度胸をしているな、人間。』
今の挑発はなかなか効いたようだ。
声に少し怒気が混じった。
「ははは、いいからさっさと姿を見せろ、トカゲ。」
ショットガンをフレア・ベレトに変化させて、空に向けて放つ。
それは木々に引火しながら、真上にいたゼルセオスに直撃した。
だが、全く応えた様子もなく羽ばたくゼルセオス。
『……やはり人間とは愚かで小賢しい生き物だ。』
「その愚かで小賢しい人間様に、てめぇは今から負けんだよ。〝ウインドストライク〟!」
上級風魔法を打ち込んで、すぐさまその場を離れる。
『私にその程度の風魔法が効くと思ったのか?』
「風魔法は意味無いか……。」
とにかく撃ったら離れることが重要視されるな、これは。
止まっていたら確実にやられる。
「ゼルセオス。あまり調子に乗りすぎない方がいい。〝サン・ハマー〟」
『むっ……?!』
白い光の光線がゼルセオスを飲み込む。
あれを喰らえば、さすがのゼルセオスとてタダじゃ済まないのは確かだ。
まぁ、あれで倒せるような簡単なやつなら、もっと良かったんだが……そう上手くいくわけもない。
『今のはなかなか効いたぞ。だが、まだまだだ。本物の攻撃というものを見せてやろう。』
瞬間に風が強く吹き荒れ始める。
『〝エアロドラグーン〟』
風が具現化したかと思えば、ドラゴンの顔を形作ってこちらに向かってくる。
「そんな魔法もあるのか!初めて見たよ!〝空間障壁〟!」
肉眼では見えない空間障壁を自身の周りに展開する。
ゼルセオスのうった風魔法はそれにあたるや否や轟音を鳴り響かせる。
かなりの威力だが、空間の障壁を破れるほどでは無い、か。
「口ほどじゃないじゃねーか……自称、神の柱さんよ。〝石化の魔眼〟」
『……私の攻撃を防いいだのは褒めてやろう。だが、残念だ。そんな小細工が私に効くか!!』
俺が見ていた方向からゼルセオスが消える。
どこに行った?!
魔眼で目もあっていたはずだ。
一瞬で固まることは無いとはいえ、鈍るくらいはしてもいいはずだろう?!
「化け物め!〝イグニス・ザ・オルテン〟」
8羽の火の鳥があちらこちらに飛んでいく。
それと同時に俺は走り出す。
「シノ!援護を頼む!」
「わかった。」
返事とともにシノも俺の真上を飛んで着いてきた。
とりあえずの現状としては1番最善だと言える。
俺では、やつの攻撃をどこまで防ぐことが出来るかわからんしな。
とにかく攻撃を色んな方向から仕掛けることがいい。
「〝グラビティルベナスト〟!」
俺の周りを重力魔法で囲む。
どう仕掛けてくる。
準備は万端……
『死ね。』
瞬間にドスリと鈍い音が聞こえる。
聞こえた方を見れば、ゼルセオスの鉤爪がれ俺の腹部に突き刺さっていて……
「!。ナナ!」
そのままの勢いで俺ごと空へ飛び立った。
「ぐっ……ぁぁ……!」
『どうだ?苦しいか?激痛であろう?人間ごときがこの私を舐め腐っているから悪いのだ。下等生物めが!』
その場で止まったかと思えば、地面へと投げ飛ばされる。
激痛で意識が遠のきそうになるのを何とか持ちこたえる。
今意識を飛ばしたら、さすがにまずい。
やつがどんな攻撃手段を持っているかも分からない今、それが一番危険だ。
ほんとに消し炭にされるかもしれない。
「っ…………!〝空間……障壁〟!」
『〝緑神竜の伊吹〟』
ゼルセオスが放ったブレスと障壁が直撃した時、障壁はいとも容易く割れた。
「はは……おいおい、マジかよ……」
その言葉を最後に轟音が鳴り響くのだった。
◇
間に合わなかった。
全速力で追いかけたが遅かった。
「……よくも……ナナを……!」
『ガラクタ風情が怒りを覚えるか。』
「黙れ!〝パワーサイトスタイル〟」
姿が変われば、自身の攻撃力のステータスが跳ね上がる。
「〝レイト・オブ・マキナ〟」
右腕が長い銃へと変化。
そのまま発射する。
瞬間にそれはゼルセオスの右横腹を抉りとった。
『むっ……?!』
「まだまだ、いく!」
一瞬にして距離を詰める。
同時に左手を剣に変えて、斬りかかった。
『調子に乗るなよ……ガラクタ!』
私の降り下ろした剣をがしりと掴まれる。
「なっ……?!」
『愚か……。貴様の力は強い。それは、認めよう。だが、その力の使い方を貴様はまるで間違えている。本当に残念だ。〝エアロブラスト〟』
「っ!」
ギリギリで剣を引き抜いて、その攻撃を避ける。
が、少しだけ右肩をかすった。
それだけで凄まじい衝撃が体を伝わる。
「あぐっ?!」
後方に大きく吹き飛ばされて、地面に墜落する。
『右肩破損。自己治癒を開始します。』
「く、ぅ……〝レイト・オブ・マキナ〟」
右腕を剣から銃器に変化させる。
負けられない。
負ける訳には行かない。
ゼルセオスを倒すまでは絶対に倒れる訳にはいかない!
「あああああ!」
銃器の乱れ打ちを始める。
それは周りの木々を折り、地面を抉りとる。
だが、ゼルセオスにはかすりもしない。
『血迷ったか、ガラクタ!〝ドラブロア〟』
緑色のオーラがゼルセオスを包み込む。
瞬間に今までにないほどの速度で、私との距離を詰めてきた。
『死ね!』
ゼルセオスの右ストレートが私の体全体を襲う。
声にならない声と共にまた、私は吹き飛ばされて、木に叩きつけられる。
ダメだ……。
このままじゃ勝てない。
やっぱり、今の私じゃゼルセオストとタイマンで戦うのは難しいようだ。
……あなたみたいにはいかない。
ゆっくりと周りを見る。
微かだが生命反応を私とゼルセオス以外に感じた。
生きてる。
きっと今ここで死んでしまったら後悔が残る。
だから、ここであなたを残して死ぬくらいなら……今出せるだけの本気を出す。
「〝ゼノリアルスタイル・起動〟」
『了。ゼノリアルスタイルを起動します。起動まで残り5秒。4、3、2……。』
カウントダウンが終わる。
同時に私の背後に100を超える銃器が出現した。
そのいくつもの銃器は細い線で結ばれている。
そして、背中には太いコードが繋がれ、銃器と私の後ろには自身の体より少し大きいくらいの機械が浮いている。
『ほう……随分とこじんまりしたものだ。昔はもっと大きかった。的が狭くなったな?』
「〝目標捕捉、これより全方位射撃を開始する。〟」
『了。全方位射撃を開始します。』
一瞬のうちに大地が爆ぜた。
私の一つ一つの攻撃が山を削り取っていく。
木々は燃え、水は枯れる。
あぁ……昔と全く同じ光景だ。
私が戦うと周りのものが多く壊れていく。
まるで激動の時代が戻ってきたみたいに……私の目の前の光景は荒地と化していた。
「……さっさと、死んで!〝対巨獣専用砲撃・ギャリントゥス〟」
いくつもの銃器の中で一際大きい銃口の銃器が出現する。
それに銃器に変えた右腕をはめ込めば、ゲージのようなものが光り出した。
『対巨獣専用砲撃・ギャリントゥス、エネルギーチャージ中。フル充填まで約10秒。』
そんな言葉が安定的に頭の中に流れる。
「これで終わりにする。」
『大きく出たものだ!それを終わりまで見ていると?』
凄まじい勢いでこちらに向かってくるゼルセオス。
それをいくつもの武器で迎え撃つ。
だが、あの巨体のわりに動きが素早すぎて全く当たることは無い。
『乱れ打ちをしてもあたらんぞ?』
「…………〝アルティメットエンド〟」
ゼルセオスの少し手前に赤い大きな魔法陣が出現する。
『むっ?』
瞬間に目の前が赤く染る。
炎系最上級魔法の〝アルティメットエンド〟。
最上級魔法の中でも圧倒的高火力を誇る大魔法だ。
威力も何もかもが桁違いではある、がこれじゃゼルセオスを倒すことは不可能だろう。
ほぼ効いてすらいないはずだ。
だから、これはあくまでも時間稼ぎ。
警戒して少し止まりさえすればこっちのもの。
『足止めのつもりか?』
その言葉と共にそのまま真っ直ぐこちらに向かってきているゼルセオスが現れる。
止まる気配は全くない。
「っ……!早く、溜まって……!」
『残り5秒。』
このままだと間に合わない。
「っ!来ないで……!」
とにかく周りに浮いている銃器で応戦する。
だが、やはりそのどれもがゼルセオスに当たることは無い。
『撃たせはせんぞ!』
そして、私とゼルセオスの距離が近くなった瞬間だった。
「てめー、俺の事忘れたわけじゃあるめーな?」
ゼルセオスの真横に突如として現れるナナ。
そのまま流れるように大鎌をゼルセオスに振り下ろせば、地面に向かって吹き飛んでいく。
『がはっ?!』
「愚かで小賢しい人間様に殴り飛ばされる気分はどーだ?トカゲ。」
『き、さま……!』
ドがァァァん!という轟音と共に地に墜落した。
「……あれを喰らってどうやって、そんなすぐに……さすがのナナでも……」
「さすがにあれはうん。まずかったぞ。あれのせいで俺の体の半分は持っていかれたしな。」
「半分だけ……?」
「ああ。ディクシオンを上半身に集中して、展開したからな。何とか防ぎきった感じだ。」
平然とそう言ってみせるナナ。
普通の人間ならそんな対応なかなかできないものだ。
どんなに強くても、だ。
驚くほどの生命力と意地と言える。
昔の彼と全く同じだ。
やっぱり、ナナで間違いない。
そう確信めいたものがそこにはあった。
『対巨獣専用砲撃・ギャリントゥスのフル充填が完了しました。』
「充填完了。いつでも撃てる。」
「さて……ゼルセオス。どうする?うちの相棒はもういつでも打ち込む準備は整ったらしいが?」
『一撃を入れて、私を地に突き落としたからと言って調子に乗るなよ、人間!』
「ははは、そうかよ。だが、すくなくともお前はここで負けることになる。愚かで小賢しい人間様に負けることを良く悔しめばいい。」
言ってナナが私の方に目配せをしてくる。
それに応じるように私は充填を完了させたギャリントゥスの銃口を、ゼルセオスに向けた。
そして……いざ、引き金を引こうとした時だった。
「そこまでです。」
◇
冷ややかな声と共に私達とゼルセオスの間に現れたのは天使の翼を4つ生やした青髪の女だった。
私はその女を見て動きを停止させた。
なぜ、あの女がいる?
最初に頭の中で思ったのはその言葉だった。
私はあの女をよく知っている。
「随分と酷いやられようですね、ゼルセオス。」
『なぜ、ゼウス様の仕えがここにいる?仕事はどうした。』
「そういうあなたこそ、仕事もせずにそこに倒れているのはなぜですか?」
その女はゆっくりとゼルセオスの目の前まで降りる。
「まぁ見てたのでだいたいわかるんですけどね?ボコボコにやられていましたね。腐っても神の柱のはずなのに。何か言い訳があるのならお聞きしますよ?」
『ボコボコにやられていただと?ふざけるな。どこがボコボコに負けていたことか。私はただ一撃を受けて倒れただけで……。』
「ギャンギャンとうるさいですよ。」
冷りとする低い声音でそう言い放つ。
それに対してゼルセオスはビクリと体を震わせた。
「吠えるだけなら犬でもできます、ゼルセオス。……消されたくなかったら、あなたのやるべき仕事をなさい?次はありませんよ。」
『……わかり、ました。』
「……ちなみになんですけど、そこのオタク君は最近この世界に来たばかりなんですよ?だから確実にあなたなんかよりもステータスが劣っているはずなんです。それでも負けたあなたにそんなに大きく出る権利なんてないんですよ。わかったなら、初心に返ってみてはいかがでしょう?」
同時にバガァン!という音が木霊する。
見れば、ゼルセオスの顔がある少し手前にボッコりと穴が空いていた。
「何しに来た駄天使。お前の出る幕じゃねーぞこら。」
「……はぁ……あなたは馬鹿だから分からないでしょうね。神の柱は世界にとって大切な、なくてはならない存在なんですよ。欠けてしまえば、それこそヘラの思惑のままになってしまいますからねぇ。」
「知るか、んなこと。喧嘩を売ってきたのはそいつだろうが。教育がなってねーんじゃねーのか、駄天使。」
「へぇ、言いますね。このクソオタク。」
バチバチとナナと女の間にイナズマが走る。
なかなか険悪な仲らしい。
私もこの女とは馴れ合えないだろうけど。
「……それで、そちらの子はどうしたんですか?まさか、ナンパでもして成功しちゃったんですか?あらあら、良かったですねぇ。今の容姿あってこその賜物ではないですか。」
「んだとこら。」
「あなたもあなたですよォ。こんな駄目人間のどこが良かった………………。」
言いかけて、ピタリと女の動きが止まった。
ニコニコとした笑顔が一瞬のうちに感情のない顔に変わる。
声音もそれと連なって冷ややかなものへと変わった。
「まだ、生きてらしたんですね。」
「久しぶり。元気そうでよかった。ラファエル。」
「ええ。とっても元気でしたよ。元気がありあまっちゃってます。」
「そう。それは良かった。」
目を細めて、少し圧のある声音でそういうとラファエルはまたもニコりと胡散臭い笑顔を向けてきた。
あの笑顔が私は昔から嫌いだ。
無理やり貼り付けたようなあの笑顔が。
と、隣にいたナナが私の方を見てこう聞いてくる。
「お前ら知り合いだったのか?」
「知り合い……と言うよりは犬猿の仲と言った方が正しい。」
「へぇ。」
少し興味深げに私とラファエルを見たあと、武器を異空間にしまい始めるナナ。
「おい。ラファエル。今日のところはそいつを殺さないでおいてやる。神の柱がどうなろうと知ったことじゃないが、仕方あるまい。次、俺に突っかかってくるようなら必ず殺す。」
「あなたにできるんですかぁ?そんなこと。」
「できるかできないじゃない。殺るんだよ。シノ、行くぞ。」
「うん。」
私もギャリントゥスを解除してナナのあとをついていく。
少し後ろをふりかえって見た時のラファエルの背中は少し暗さを感じた。
◇
あの場から離れた俺らは最初の拠点にしている小屋にまで来ていた。
久方ぶりに戻ってきた。
「ここは?」
「俺の最初の拠点だ。と言っても、あの駄天使と同居になっているがな。」
「ラファエル……。」
駄天使のことを話すと少し暗い顔をするシノ。
「正直、お前とあいつに昔何があったのかなんて興味は無いし、知ろうとも思わん。そのうえで俺はお前に言いたい。」
「?」
「俺と一緒に無双、しねーか?」
その言葉に少し驚き、クスリと笑いが漏れる。
随分久しぶりにこの言葉を聞いた。
本当、懐かしい。
「わかった。ついて行く。」
「随分と即決だな?聞いといてなんだがお前の待ってるやつのことを考えるともう少し迷うかと思ったが?」
「それに関してはもう解決してるから大丈夫。」
「?。どういう意味だ?」
「気にする必要ない。特に意味は無いから。」
微笑みながら、そういうシノ。
まぁ、解決したならいいのだろう。
俺がそこをとやかく言う筋合いもないしな。
「……ならいいか。早速で悪いが、明日にはここを発つ。ここで得られるものもだいぶ少なくなったしな。ついでに出る時にゼルセオスからスキルとかでも奪ってから行く。」
「わかった。意見は無い。」
「決まりだな。」
「あら、もうお話し終わっちゃいました?」
そんな声と共に横に亜空間が出現。
そこからラファエルがひょこりと出てきた。
「なんだ、もう終わったのか駄天使。」
「終わったも何もほとんどやること無かったですよ。あなたたちがコテンパンにしたから。」
「それは良かった。」
そう言って、俺は小屋の中に入っていく。
あとは本当に明日に向けて準備をするだけだ。
食料も大量に有り余っているし、問題は無いだろう。
明日が楽しみである。
そうして、一日はあっという間にすぎ………………
出発当日がくるのだった。




