とある王立魔法学院生の午後~密室のスライム~
王立リンドール魔法学院。
そこは、国中から高い魔法への適正が見られた子ども達が集められる、巨大な学院である。生徒数は1学年で1000人を超え、クラスの数は10つに分かれる。クラス分けは、貴族と平民、貴族階級などの身分差に関わらず、ただ魔法への適性や実力によってのみ決まる。
そして、クラス分けの参考となる実力を測るために、年に2回、それぞれの期の集大成ということで期末試験が実施される。試験内容は生徒によって変わり、魔物の討伐のような実技試験や魔法理論の発表といった試験も存在するが、ほとんどの生徒が行うことになるのは、得意な魔法の披露である。その為、試験が近づくにつれ、生徒達が訓練に明け暮れることとなるのは、毎年恒例のイベントであった。
前期末試験がいよいよ明日から始まるからなのか、去年と同じく学院中がいつもより騒がしい。
訓練場で必死の形相を浮かべている生徒達を横目に、僕はいつものように部室へと向かっていた。
広い学院の廊下を歩き、いくつか別の部活動の施設を通り過ぎると、少し場違いにも見える小さなログハウスに辿り着いた。ドアの斜め前にある黒っぽい木の看板(確かトレントという魔物の素材が原料だと聞いた)には、白い文字で「魔法研究部」と書いてある。
ふと、普段の部活動の内容を思い出してみるが、どうにも魔法の‘研究’を行った記憶はない。とはいえ、部活動への所属が義務となっているこの学院では、部活動の名前と実際の活動内容が一致していない(というか適当な部を作って、仲間内で自由に過ごしている)、いわゆる幽霊部活動はそれなりに多く存在している。
「どうぞ~」
扉をノックすると、そんな声が聞こえてきた。どうやら先客がいるらしい。
僕は、先日の出来事――誰も入っていないと思い、扉をノックせずに入ったところ説教を食らってしまったのだ――を思い出し、ノックを忘れないでよかったと安堵しながら扉を開いた。
扉の先には、腰近くまで伸びた金色の髪を揺らしながら、碧い瞳が特徴的な少女が立っていた。というか、何故か料理をしていた。
「こんにちは、レナルド君」
「どうも、プラタナさん」
挨拶を返しながら、テーブルをはさんで、扉の反対側にある椅子に座って一息ついた。ここが僕の定位置である。テーブルの上には本が2冊置いてある。ここで気の向くままに読書をしたり、雑談をしたりといったものが、この部の活動内容である。
昨日はようやく本の半分の章まで読めたため、キリのいいところで読書を終え、分厚い本の真ん中あたりに栞が挟んである。今読んでいる本は、王都でも有名なミステリ小説で、あまりの本の分厚さに、衛兵の持つ盾よりも防御性能が高いなんて言われるほどの長編小説となっている。
一方で彼女が呼んでいるのは……恋愛小説だろうか? 本の表紙を見ると、恐らくだが昨日とは違う題名が書いてあった。栞も挟んでないし、きっと新しい本だろう。僕の読んでいる本ほど分厚くはないが、昨日の本よりかはページ数が多そうだ。部活動の時間や彼女の読書のペースを考えると、彼女は今日も本の半分あたりまで読んで帰ることになるだろうか。
「ところで何で料理してるの?」
「授業が早く終わり、本を読んでいましたが、読み終えると暇になってしまいまして。良ければ、このパンケーキを食べませんか?」
「それじゃあせっかくだし、頂こうかな」
その言葉に微笑むと、彼女は背後の棚から皿を取り出して、パンケーキを盛り付け始めた。
そう言えばと、僕は頭の中で疑問符を浮かべる。彼女の授業はどれほど早く終わったのだろうか?
僕は授業終わりの鐘の音と共に教室を出て、真っすぐにこの部室へやって来た。彼女もそうだと考えても、少なくとも「パンケーキを作る時間」の分、早く授業が終わっていなければならない。およそ20分程度だろうか。
それに加えて、本を読む時間も考えようか。彼女は昨日、本を半分まで読んで栞を挟んでいた。そして、それを今日読み終えたということは、昨日の本の厚さを考えるに、おそらく1時間程度はかかったはず。
ってことは、合わせて80分、授業時間は90分だから、授業は10分で終わったことになる。いくら何でも早すぎる。何かあったのだろうか?
「早く終わったのは何の授業だったの?」
そう聞くと、彼女は少し苦笑気味に微笑んで言った。
「契約魔法の授業です。何でも、練習用に用意していたスライムが居なくなってしまったそうで、それで授業は中断になったのです」
「なるほど。ん? じゃあ、もしかして明日の期末試験は延期になるのかな?」
期末試験は各期の集大成を示すものだから、全生徒のカリキュラムを終えていないと不公平になる。という事情もあり、試験の延期は何回かに一度は起きるくらいの小さなアクシデントだ。
「はい、期末試験は来週になるようです」
なるほど。明日の金曜日の試験が延期するのだから、期末試験は土日を挟んだ来週の月曜日から始まることになるのか。きっと今頃、期末試験の対策が追い付いていなかった生徒は、歓喜の声を挙げながら、訓練に励んでいる事だろう。あるいは、普段から試験対策を怠っている生徒なら、油断して遊び惚けているかもしれない。
そうした試験対策については、試験前になっても部室に入り浸っている僕と目の前の少女にはあまり関係のない話であった。自画自賛にはなってしまうが、僕達は幸いにも魔法適性が高く、普段から復習もある程度こなしているので、クラスの維持は難しくないだろう。特に、目の前の少女――プラタナさんは、僕達が所属するAクラス(クラスはA~J成績順で分かれている。Aは最も好成績を収めた生徒が所属するクラスだ)の中でも、トップレベルの魔法の実力があり、彼女にしてみれば試験など特段の意識すらしない小さなイベントだろう。何しろ、彼女は6属性持ち(6属性の魔法が使える。属性の数と魔力量は比例するため、平均は2属性に対して、6属性のプラタナさんは魔力量もトップクラスとなる)なのだから。
「出来ました。メープルシロップはお好みでどうぞ」
「ありがとう」
魔法だけでなく、基本的に何でもできる完璧超人の彼女は、その例にもれず、料理の腕前もすごい。料理部の部長にアドバイスを求められることもあるという噂も耳にしたことがある。
メープルシロップを少し垂らし、ナイフとフォークを使って、一切れを口にした。その瞬間、メープルシロップとパンケーキのほんのりとした甘味と、羽毛布団のようにふんわりとした触感が口の中に広がった。
「美味しい……!」
「ふふっ、お口に合ったようで良かったです。フライパンが新しくなったこともあって、以前よりも美味しく作ることができました」
そう言えばそうだった。実は先日、これまで愛用していた鉄製のフライパンが壊れてしまったのだ。犯人は、少し天然の要素を備えた後輩である。その後輩は、鉄フライパンの取っ手が熱くなることを知らずに触ってしまい、咄嗟に魔法で手を冷やそうとしたところ、フライパンごと冷やしてそこにヒビが入ってしまったのである。何と間抜けな話であるが、まあこの際ワンランク上のフライパンに買い替えようということになり、新たに買ったのが今日彼女が使ったフライパンである。
「どうだった? 魔鉄製のフライパンは。やっぱり、熱の入りは全然変わったりした?」
魔鉄とは、魔力を含んだ鉄鉱石から作られた特殊な鉄の一種で、その特徴は、鉄よりも高い強度と、魔力、熱への伝導性である。それを材料に作られたフライパンは、すぐに温まるし、魔力の通りが良いということで、魔法でのお手入れも簡単(魔法の影響が強く出やすいため、例えばクリーンというモノを綺麗にする魔法を唱えるだけで全体が新品に近い状態になると言われている)というわけだ。それに温度変化にも強い。
「そうですね、油断してると逆に焦がしてしまわないか心配になるほどでした。慣れるまでは注意して料理しないといけませんね。あとは、取っ手が熱耐性のある革で包まれているので、カンナさんも安心して料理が出来るでしょう」
「いや、あいつはまた何かやらかしそうだし、あまり火を扱わせたくはないかな」
この部室にあるコンロは、魔石に対して魔力を注ぐことで、熱を発生させる火魔法の『温熱』が発動するという一般的なコンロの旧型だ。魔力を注ぐ量によって魔法が与える熱量が変わるが、最新型とは違い、安全装置などは付いていない為、魔力を注ぎすぎると超高熱により、コンロが壊れる危険性がある。というか、元の魔法がかなり魔力効率の良い魔法である為、気を抜いていると直ぐに高熱になってしまう。その点は何度も、その後輩――カンナに注意しているものの、この前の出来事もあり何となく不安を感じているのは、部長であるプラタナさんを除いた全部員の共通認識である。
「まあ彼女も反省していましたし、大丈夫ですよ。成績も優秀なのですから」
そう、あの後輩は何故か成績は優秀なのだ。というか高い魔法の実力がないと、咄嗟の行動として、一瞬でフライパンを冷やすための氷魔法『冷却』を使うことは出来なかっただろう。そんな高い実力と天然を併せて持っているからこそ、余計に厄介なのだが。
パンケーキを食べながら、ちょっとした雑談をしていると、外からバタバタと騒がしい足音が聞こえてきた。
「こんにちはー! 部長! 先輩!」
入って来たのは、橙黄色の髪を短く切りそろえた、如何にも活発そうな出で立ちをしている少女――件の天然後輩のカンナだ。
カンナもまた、成績優秀なため、試験前でも関係なく部室に来ることが多い。最も、彼女の場合はいくつか別の部も兼部しているので、毎日来るわけではないが、今日はこちらにやって来たようだ。
「先輩先輩! 聞いてください! 私、面白い話を持ってきたんですよー!」
「何だよ、どうせまたこの前みたいな、どうでも良いドロドロした恋愛話だろう?」
この後輩は交友関係が広く、学院内の様々な事情に精通しているため、偶に部室にやって来ては、こうして自称面白い雑談を始めるのだ。彼女も女子ということで好んでいるのか、多いのはドロドロとした恋愛話であり、こっちにしてみれば何の面白みもない、というか時に笑顔で圧を放つプラタナさんが怖いため、ビクビクしながら聞くことになる大変な時間だ。
「いえいえ今回はどちらかと言えば先輩好みの話ですよー。なんたって密室殺人についての話なんですから!」
「密室殺人?」
いや、そんなやばい事件が起きていたなら、流石に学院は休みになっているだろう。学外で起きたにせよ、噂くらいは聞こえてくるはずである。
「もしかして……スライムの件ですか?」
プラタナさんは、思い当たることがあったようで、少し考えたのちにそう尋ねた。
スライムと言えば、例の、授業が中止になったことと何か関係があるのだろう。確かプラタナさんは、契約魔法の練習用のスライムが居なくなったと言っていた記憶がある。
「そうですそうです! そういえば、部長は契約魔法の授業を取っていたんでしたっけ? 実はその練習用のスライム、居なくなったんじゃなくて、正確には殺されたそうなんです」
なるほど、殺されたのはスライムだったのか。
「って、なら密室殺人じゃなくて、密室殺スライムじゃないか?」
「それは語呂が悪すぎますって! それなら密室殺魔物の方が良いです!」
「それも大概な気もするが……。いやそれは良いんだけど、何があったんだ?」
小説の中では聞いても、日ごろ現実では滅多に聞かない(というか聞かない方が良い)単語であったため、少し怖いもの聞きたさで興味がわいてしまった。
目の前の後輩は、それを察したようで、少し得意げに語り始めた。
授業で使う予定だった練習用のスライムは、昨日の15時過ぎに魔物専用の一時保管庫に入れられたそうだ。しかし午後になって、授業の準備のために教師が倉庫の扉を開けたところ、中に残っていたのは、全体的にヒビが入ったスライムの魔核だけだったという話だ。
保管庫は、変形して外に逃げる魔物、まさにその代表のスライムでも閉じ込められるように、一切の隙間はなかったという。そして扉の鍵は教師が管理していて、それも物理的な鍵ではなく、魔法によって施錠できる魔法道具の「魔法鍵」を使っていたらしい。それなら、扉を閉めた教授以外には絶対に開けられないことになる。
確かに密室だが、そもそもスライムは本当に他殺なのだろうか? 密室のトリックでは定番だが、自殺や殺害未遂の後の密室なども考えられる。とはいえ、スライムが自殺とは考えにくいし、恐らく不可能であるから、あり得るなら後者だろう。
「保管庫に入れる前に弱っていたんじゃないか? 野生のスライムの捕獲は大変だと聞いたことがあるし、大方その段階で何かミスでもしたんだろう。そして保管庫の中でそのまま弱って死んでしまったとか。魔核はもともとヒビが入りかけていて、スライムが死んだ後に液状化した体の圧力で完全にヒビが入ったとすれば説明がつく」
スライムの体は、魔核の周りを包むように、透明で柔らかい粘土のような物質で構成されているが、スライムが死ぬとその物質が液状化して、残るのは魔核だけというのは去年の授業で教わった。重くはない液体とはいえ、その下にある魔核には多少なりとも圧力がかかる。魔核は素材としては水晶に分類され、そもそも頑丈ではなく、ヒビが入りかけていたり、もしくは小さなヒビが既に入っていたのなら、その隙間から更にヒビが広がっていくこともあり得ない話ではない。少し、いや割と無理がある気もするが。
故意で起こすとするなら、相手を衰弱させる闇魔法の『衰弱』なら可能だろうか。
「それは少々考えにくくありませんか? スライムは最弱の魔物ですし、ちょっとした圧力でヒビがはいるほど魔核が傷ついていたなら、運搬で揺れた際にそのまま死んでしまう気がします」
うん、そうだよね。
続けてカンナが言う。
「それに、少しおかしな点があるんですよ。少し状況に疑問を感じた先生が、スライムの直近の魔力反応を調べたんですけど、それが2つあったそうなんです」
魔力反応とは、モノや人に対して使用された魔法の履歴を示す痕跡である。とはいっても、特殊な魔法道具を使わない限りでは、魔法の種類などは判別できず、あくまで対象に使われた魔法の回数を調べられるだけだ。特殊な魔法道具は、衛兵などの一部が事件解決のために使うことがあるくらいで、当然学院の教授はそんなものは持ってはいない。
そして、魔力反応は『探知』と呼ばれる魔法で調べることが出来るが、遡ることが出来るのはおよそ24時間まで。つまり今回でいえば、24時間以内に使用された分の魔法の回数が2回だったということになる。
「それが何かおかしいことなのか? 捕獲する時に2回くらい何かの魔法を使ったんじゃないか?」
「いえ聞いた話では、捕獲に向かった従魔部の部員の1人が、スライムを連れて帰るために1つだけ魔法を使ったらしいんですけど、それ以外には何も使っていないそうなんです」
ふむ。スライムが捕まえられる前に何らかの魔法が使われたという線はないだろうか。魔物の中にも魔法を使う奴はいるし。
「昨日捕獲に向かったのは昼から空き時間があった従魔部の3人で、午後の14時頃には捕まえて、その1時間後には学院まで戻ってきていたそうです。そして、先生が『探知』を使ったのが、教の大体14時直前って聞きましたから、そこから24時間前、つまりちょうど従魔部の人がスライムを捕まえたくらいの時間からの魔力反応ってことになるんです」
「それだと時系列的に、捕獲前に何らかの魔法を使われたって線は、魔力反応が残っていないはずだからあり得ないのか。そもそも流石に捕獲直前に異変があれば気づきそうなものだし。となると、魔法が使われたのは従魔部3人による運搬中、あるいは例の保管庫にいる時になるってことか……」
「そういうことです! 付け加えると、運搬中には何の異変も、人影もなかったという話ですから、魔法が使われた可能性が高いのは、やっぱり保管庫に居た時になっちゃうんですよね」
魔法の発動には、対象を目視する必要がある。それに射程も思ったほど長くはない。確かに運搬中に隠れた誰かから、こっそり魔法を使われたというのも、考えづらいか。
というか、やけに詳しいな。
そう思って尋ねると、どうやらその従魔部で運搬を手伝った人間の1人が知り合いだったらしい。相変わらず広い交友関係である。
「ただ、保管庫の方がもっと不可能なんだよなぁ」
「そうですね。魔法の発動には対象を目視するか、接触することが必要ですから、隙間が一切ない密室である保管庫の外からスライムに対して魔法を使うのは不可能ということになりますね」
プラタナさんが飲んでいた紅茶を置いて、そう呟いた。
そう、魔法の発動プロセスには実はかなり厳しい制約がある。魔法の発動に必要なのは、「魔法の選択→対象の設定→魔力使用→発動」というプロセスである。ここでの「対象の設定」が曖昧だと、魔法がそもそも発動しないのである。
例えば、『火球』という火魔法を使うケースを考えると、目の前の木や壁を対象に設定することは可能である。しかし、例えそこにいることが分かっていたとしても、目視できないモノ――例えば壁の裏にいる虫を対象には出来ないし、そもそも目隠ししていた場合には、モノに触れてそれを認識していない限り、対象に出来ず魔法も発動しない。
ちなみに、この「対象の設定」は一定時間痕跡が残り、それが一般に魔力反応と呼ばれるモノである。
今回の密室においては、その外からスライムを見ることも、触れることもできない。つまり、魔法における「対象の設定」というプロセスが一切できず、魔法を発動できないはずなのだ。
しかし現に、スライムは捕獲用に用いられた魔法とは別の、何らかの魔法の対象となっている。そして、スライム自身は魔法を使えず、自我の薄いスライムの自死を考えづらい以上、その魔法とはスライムを殺害するために用いられたものだと推測することが出来る。つまり……。
「んー、考えてても分からないですし、実際に保管庫を見に行ってみませんか?」
「え、でも明日の授業で使う魔物が入っているんじゃないか? 今日できなかった分の授業を明日やるんだろうし」
「それなんですけど、また捕獲してくるのは大変だからってことで、急遽飼育部の弱い魔物を借りることになったらしいです」
それなら、保管庫は使われないまま空いていることになるのか。
保管庫は普段使われないときは空けっぱなしになっている。その理由は「魔法鍵」にある。「魔法鍵」は性質上、扉を閉めた本人にしか開けられない。そのため、施錠した教授が外出しているときに、他の人間が保管庫を使う必要があった場合、扉を開けられなくて困るという事態が発生してしまう。それを防ぐために、保管庫は普段は空いているのだ。
ちなみに、学生には「魔法鍵」の使用権限がないため、開けることも閉めることもできない。
「というか、最初からそうすればよかったんじゃないか? スライムをわざわざ捕まえてくるのは面倒だし」
「きっと先生が気を遣ってくださったのでしょう。私たちが予定していた授業では契約魔法の『小さな契約』を使用すると聞いていましたが、そうした魔物を対象にする魔法は、魔物が弱ければ弱いほど発動成功率が高いそうですから。それに、失敗しても危険がないですし」
ああ、だからスライムなのか。子どもでも簡単に狩れる魔物の代表格であるスライムには、うってつけの役だろう。
「うん分かった。それじゃあ行ってみようか」
「そうですね」
「はい! じゃあ案内しますね!」
「ここか……」
カンナの案内の下やって来た先にあったのは、黒っぽい鉄のような物で出来た、如何にも頑丈そうな建物だった。広さは一部屋くらいで、高さは3mくらいはあるだろうか。周囲に草も生えていないこともあり、何とも殺風景な印象を受ける。
スライム以外にも、普段から魔物や気性の荒い生物を一時的に保管するのに使われることもあるらしい。その為なのか、壁の厚さは20cmほどあり、軽くノックした感触からも中に空洞はなさそうだ。
「地魔法の『地操作』で、壁を変形させて穴を空けたって可能性も考えていたけど、これはちょっと無理そうだ」
「そうですね。モノに干渉する魔法では、その硬度や大きさによって成功率や魔力消費量が変わりますが、この保管庫の壁を空けるほど変形させるのは、恐らく先生方でも難しいはずです」
「それに穴を空けたとして、それをバレない様に元に戻すのも大変ですよね。一面何の飾りもないヘンテコな壁ですし、ちょっとでも形が変わっている部分があったら絶対目立ちますよー」
「ヘンテコって……」
一応、全方位から保管庫を見渡してみたが、特に目立った部分はなかった。
やはり、この壁に穴を空けるなりするのは不可能と言える。床も、壁と同じ材料で出来ているみたいだし、穴を掘って床から……というのも無理だ。
「そういえば、魔核は残っていたと言っていたけど、どの辺りにあったんだ?」
「確か、扉とは反対側の壁際にあったそうです」
カンナは保管庫の中に入って、「この辺じゃないですか?」といって指を指した。口頭で聞いただけだからか、少し自信なさげな表情を浮かべている。
「まあ正確な位置はどうでもいいんだ。大事なのは壁際にあったということだろう」
「もう何か分かったのですか?」
「いや、全く。ただ、少し気になっただけだよ」
「……もう、相変わらず勿体ぶるのがお好きですね」
少しだけ、拗ねたように口を尖らせたプラタナさんに、そんな事はしてないと否定する。単純に、事件?の情報が少ない為、ちょっとしたことでも気にしてしまっただけである。実際、今の段階では、ほとんど何も分かっていない。
それに、普段から勿体ぶった記憶などないのだが……。そう言うと、「まあレナルド君は頭は良いですが、鈍感なところもありますから」と呆れたように呟いた。
「とはいえ、これじゃあ手詰まりだな。これ以上は調べようがないし」
「えぇー、もっと頑張りましょうよー。 先輩、こういうの好きですし、得意ですよね!?」
駄々をこね始める後輩。元はと言えば、カンナが持ってきた話だが、今更ながら、事情を知りすぎているような気がしないでもない。
もしや……。
「そう言えばカンナ、この事件の報酬はどうなっているんだ?」
「それは勿論! 最近王都で流行りのチョコレー……って、は!?」
「美味しいですよね、ガーデン商会のチョコレートパフェ。ところでそんな報酬があったんですか?」
喧しい後輩は、「ギクッ!?」と声に出して、明らかな焦りを表情に浮かべた。
やはり、誰かからの個人的な依頼を受けていたのだろう。事件の時系列や、残された魔核の位置など、かなり細かい情報を知りすぎている。関係者である従魔部の部員に聞いたとはいえ、それは世話話程度ではなく、かなり事件に踏み込んだ内容まで聞いて来ていたように思える。
いきなり「密室殺人」といったキーワードを出したのも、僕に興味を抱かせるためだったのだろうか。
「うぅ、流石は先輩です。仕方ないですね、アラン先輩にはチョコレートパフェを成功報酬として、3人分で手を打ってもらうことにします。その代わり、絶対に事件を解決してくださいね?」
「いや、別にパフェはいらないが」
現状そこまでの事件解決の意欲はないし、そもそも事件を解決できる絶対の保証はない。と、苦い表情を浮かべていると、存外に乗り気なプラタナさんが言った。
「良いですね。私、実はまだ食べたことがなかったのです」
「そうですよね! あそこ、普段は並んでいて中々買えませんし。今回は店員さんがアラン先輩の知り合いということで、特別に融通してもらえるという話なんですよー」
しばらく女子トークが続いた後、やっぱりチョコレートパフェを食べたいという方向に話が進み、多数決の結果、3人で事件解決に取り組むこととなった。試験前の学生が取るべき行動からは、明らかに離れているような気がしないでもないが、まあいいか。特別な試験対策は必要ないし、試験も延期したことだしと、諦め半分に自分を納得させた。
まあ、ミステリ好きとしても、今回の事件?には気になる点も多い。偶には、リアル謎解きゲームに洒落こむのも悪くはない、か。
「それじゃあ改めて事件解決に取り組むということで! 次はどうしますか?」
「聞き込みかなぁ。カンナに依頼してきた従魔部の部員も、そこまでして事件を解決してほしいなら、多分協力してくれるだろう」
この場所に、何か事件の痕跡が残っているわけでもなさそうだし、何を推理するにしてもまだまだ情報が必要だ。
「何かわかったことはないんですか? 動機とか?」
「動機は……まだ何も分からないけど、もしこれが誰かによって起こされた事件だという前提に立つなら、恐らくは試験の延期だろう」
「試験の延期」
「流石に練習時間を確保したいってだけで、こんな面倒なことをする訳ないはず。となると、可能性として高そうなのは、魔法を発動するための道具が用意できていなかったから、かな」
例えば、魔法発動補助具。よくあるのは、杖だったり、僕やプラタナさんが身に着けているような指輪だろう。これがないと魔法を発動できないわけではないが、難易度の高い魔法を発動しようとする場合には、使用の有無で成功率が変わってくる。試験では失敗をすると減点となってしまうため、何らかの補助具を用意するのは全生徒にとって必須の事である。
他にも、触媒が必要な魔法もあるし、魔法陣を書く必要がある魔法なら、そのためのインクも必要だ。魔法使いといえども、前もって準備が必要なことも多いのだ。
「なるほど。そういえばこの間、魔法触媒を運ぶ馬車が火事にあったと聞いたような、聞かなかったような?」
「それでしたら、私も聞きましたよ。確か触媒だけでなく、杖などの補助具も火事の熱で駄目になってしまったという話です」
なるほど、それは動機としてあり得そうだ。触媒や繊細な補助具は、火というか熱に弱い事が多い。もし、その事故に巻き込まれて頼んでいたモノが試験までに届かないとなれば、焦って事を起こすこともあり得る、か。
「考えていてもキリがないし、とりあえず当事者の話を聞きに行こうか」
そうして、やって来たのは従魔部の活動場所。学院の裏にある山と、学院の間にある牧場エリアの一部がその活動場所である。
従魔部の部員は、試験では従魔との連携や従魔の実力を見られる事が多いそうで、試験前でも部の活動場所で従魔と触れ合ったり、連携の訓練を積んでいたりすることが多いことは聞き込みにおいて幸いだった。
早速、カンナが依頼人の部員――アランを見つけて、声をかけに行った。そして少しの事情説明を終え、2人はこちらへやって来た。
「どうも、2年Bクラスのアランです。お二人の噂は聞いてるよ。今回は解決に取り組んでくれるようで、ありがとう。報酬は期待してもらったらいいよ」
噂? と一瞬思ったが、記憶を辿るといくつかの心当たりがあった。実は、今回のようにカンナが何処かしらで相談を持ってきたり、あるいは完璧超人で人当たりの良いプラタナさんが頼られて相談を受けることは、前々からあったのだ。時には、何らかの謎が絡んだり、知恵を絞る必要がある内容の相談事もあり、そんな時には部員が(というか主には僕が)協力していたという事情があった。
「2年Aクラスのレナルドです。どんな噂かは分からないけど、まあやれるだけやってみるよ」
「同じく2年Aクラスのプラタナです。私は今回はあまり役に立ちそうにはありませんが、頑張ってレナルド君の補助をこなしたいと思います」
と、一歩引いた様子のプラタナさん。いや、君はやろうと思えば推理もこなしてしまう超人だと思うけど……。まあいいか。とりあえず、アラン(呼び捨てでいいと言われた)に、事件内容の大まかな確認を取ったが、カンナから聞いた話と大きな違いはなさそうだ。
ただ少し細かい話が聞けたので、改めて整理してみる。
昨日の午後、教授に頼まれて学院裏の山に、スライムの捕獲に向かった従魔部の3人は、2年のアランと、3年のヴァン先輩とメアリー先輩という面子だったそうだ。
そして、スライムに対して捕獲のために魔法を使ったのがヴァン先輩で、それからは3人で箱にスライムを入れて、従魔を使って運ばせた。保管庫の少し手前で教授と合流し、保管庫まで一緒に行った後は、中にスライムを放り込んでから解散した。というのが、アランがカンナや、念のためと事情を尋ねてきた先生へ話した内容らしい。
ただ、どうにもその時には言い忘れていたことがあるそうだ。
「さっき思い出したんだけど、スライムを運んでいる途中で、触媒研究部の部長さんがやって来てたんだよ。確か、学院に入って、先生と合流する数分前だったかな? 数秒だけ先輩と話して、そのまま去っていったもんだから、すっかり忘れていたよ」
「なるほど、ちなみにその時に魔法が使用された可能性は?」
「いやぁ、流石にそれはないはずだよ。数秒だったし、俺はスライムを、先輩は部長さんを見ていたから、何か変な動作があれば流石に気付いたと思う」
うーん。たった数秒で、かつ見られながらだと、確かに厳しいか。後で念のため、話は聞きに行くとしても、とりあえず容疑者候補としてはかなり弱いな。となると……。
「そういえば、何でアラン先輩たち従魔部がスライムの捕獲を任されたんですか? 裏の山に行ったんですよね? 山の作業なら、冒険部や狩猟部の方が得意そうなのに」
「ああ、それはスライムを連れて帰るのはうちの部の方が得意、というか簡単で確実だからだよ。まあ手が空いていたのもあるんだろうけど」
話によると、大まかには聞いたことはあったが、どうも野生のスライムを捕獲するのはかなり面倒だということだ。まず、簡単に見つかるような場所にいるスライムは、他の生物(特に気性の荒い魔物)によってすぐに殺されてしまう。だから自然と、「生きているスライム=見つけにくいスライム」という図式が成り立つそうだ。
また、スライムを捕獲した後も、箱に入れて移動していたとしても、スライムはその変形能力を駆使して、小さな隙間からも外に出ることがあるのだとか。だから、捕まえて普通の箱に入れるだけでは、いつの間にかいなくなってることもあるそうで、時に飛び跳ねたり木に登ることもできるほど意外と移動能力を備えたスライムに対しては、特注の箱が必要になるとのこと。そういう事情もあって、スライムの捕獲と聞けば面倒な仕事だと感じるのが有識者の共通認識らしい。
「でも、両方ともうちの部なら解決できるんだよ」
まず、見つけにくいスライムについては、人の眼からは探しにくい場所も、従魔に命じて探索させるという高い索敵能力で、どうにかなるという話だ。本業の狩猟部のように痕跡から辿るといった特殊な索敵のスキルはないものの、痕跡をあまり残さないスライム探しにおいては、従魔部のほうが向いている点も多いというのは納得だ。
そして、箱に入れて脱出される可能性も、契約魔法を用いて限りなく小さくすることが出来るのだとか。
「『小さな契約』っていう魔法を使うんだけど」
「ちょうど、私が次の授業で教わる予定だった魔法ですね。魔力を対価に簡易な命令を一定時間遵守させるというモノだと聞きましたが、それをどのように使うのでしょうか?」
「そうだね……やって見せた方が早いかな」
アランはそう言って、すぐ隣にある飼育部のスペースに行って、そこにいた動物を対象に『小さな契約』を発動させた。
魔法の発動には、詠唱をする方法、魔法陣や触媒を使う方法など、いくつかの種類があるが、流石に2年のそれもBクラスということもあって、無詠唱の魔法発動を習得しているようだ。
無詠唱による魔法の発動は、詠唱する場合よりも、個人差はあるがおよそ(体感で)数%ほど魔力消費量が増えることと発動にコツがいること以外は、特にデメリットのない魔法発動技術である。規模の大きな魔法になるほどその消費量の差が効いてくる側面はあるが、小規模な魔法においては、数%の消費量が増えたところでほとんど誤差であるため、この無詠唱は多くの魔法使いに愛用される技術の1つなのだ。
ともあれ、魔法は無事に発動して、アランがこちらへ歩いて戻ってくる。すると、何故かその後ろをついてくるように、ヤギ?のような動物もトコトコと歩いてきた。
「まあこんな感じだよ。今出した命令の内容は、『俺に近づけ』だ。するとこいつは、こうやって意味もなく俺についてくるってわけだ」
「命令は口にしなくても大丈夫なのか?」
「頭の中で念じるだけでいいんだよ。便利だろ?」
続く話によると、スライムも同じように、こうして『近づけ』と命令して離れないようにしてから運搬用の箱にいれて運んできたそうだ。近づくといっても、あまり複雑な命令が出来ない初級の魔法というのもあり、あくまで直線的にしか近づくことが出来ないらしく、箱に入れても魔法の使用者の方向に向かって動くため、その方向に隙間さえなければ逃げられないという寸法だ。
「ん、箱に入れてもスライムは命令者の方向が分かるのか?」
「ああ、この魔法は『従魔契約』に近いからね。命令側とそれをされた側の間に、ちょっとしたパスができて、互いの状態や方向くらいは何となく本能で分かるんだ。これも見てもらった方が早いかな」
そういって、アランは推定ヤギ(いやもうヤギでいいか)から少し離れると、地魔法の『地壁』を使って、ヤギと自分の間に互いが見えなくなるくらいの大きさの壁を作った。すると、ヤギは壁に向かって歩くが、壁にぶつかると頭を擦り付け、立ち往生したとばかりに「メェ~」と情けない声を上げる。
少し、かわいそうにも思える光景だ。
『小さな契約』の効果は、24時間の経過か、契約者本人による契約破棄の魔法を使わないと消えないらしく、契約解除用の別の魔法を使って先の契約を解除した後、用が済んだヤギには飼育スペースに戻ってもらった。
「というか契約魔法って普通に解除するだけじゃなかったのか」
「そうそう、それもあって授業ではスライムを使う予定だったらしいよ。先生が言ってた」
契約魔法の『小さな契約』は意外と難易度の高い魔法ではなく、発動を成功させる者は多い。一方でそれを解除するための契約解除の魔法は少し難易度が高く、教授の見立てでは3割ほどの生徒は出来ないだろうとのこと。
その場合、契約が解除されないまま別の契約魔法が発動すると、どうなるのか。答えは、「最優先されるのは、認識できる命令者の中で最も魔力量が多い人間の命令」だ。つまり10人が『自分に近づけ』と契約魔法で命令した時には、その中で最も魔力量が多い人間のもとに駆け寄ることになる。
ただ、このままだと授業が滞ってしまう。何故なら、1人が契約破棄の魔法を発動できなかった時点で、その者よりも魔力量が少ない生徒たちは魔法が発動しても命令が実行されず、無事成功したかどうかが分からない。そこで、利用されるのが“認識できる命令者の中で”という点である。
先ほどアランが言っていたように、契約魔法の当事者同士は、小さな繋がりが出来る。しかしこの繋がりには限界があり、その有効距離は基本的には生物としての強さに比例するとのこと。例えば最弱の生物であるスライムだと数メートル離れれば無くなるらしい。「繋がりが無くなる=認識できなくなる」ということであり、その場で最大の魔力を持つ人間がいなくなることで、スライムが優先する命令は更新されるわけだ。
「話がややこしくなってきて、分からなくなりました! 先輩、まとめて下さい!」
「はぁ、お前なあ」
それでも商人の娘か。
まとめるならこんな感じだろうか。
①契約魔法は複数人から重複してかけられると、その中で最大の魔力量の人間による命令が優先される。
②契約相手が互いに認識しなければ、命令が実行されない。
③契約魔法の当事者同士は、その繋がりにより目視せずとも互いに認識をできるが、一定以上の距離が空くと繋がりが消え、互いの状態や場所を認識できなくなる。
④繋がりが保たれる距離は生物の強さによって変わり、(魔力を持つ生物の中で)最弱クラスのスライムだと、少し離れただけで繋がりが無くなる。
というわけで更に短く言えば、契約破棄をせずとも距離を取れば、契約魔法による命令は実行されない。この性質が授業で利用される予定だったというだけだ。
「ふーん、契約魔法って結構不便なんですねー」
「まあ初級の魔法だからね。上級の魔法に近づくにつれて、そういった点も解決していくんだよ」
って、いつの間にか契約魔法の講義を聞いているような状態になってしまった。話を元の方向に戻そう。
「話を戻すが、他に何か事件に関する情報はないか?」
「うーん、強いて言うならスライムを運んだ箱はあれだよ」
そう言って指を指した先にあるのは、周りに縄だったりが巻き付けられた灰色の四角い箱だった。石をくりぬいて作られた箱のようで、確かにあれなら隙間はないだろう。蓋はないが、先ほどの説明にもあったように、魔法で移動方向を誘導するため、スライムに逃げられる心配はないということだろう。ただ……。
「あの箱を運ぶのがまず大変はじゃないか? 重そうだし」
「うん、そこは従魔部の腕の見せ所だね。従魔には力持ちが多いから」
昨日は従魔部のヴァン先輩の従魔が、あの重そうな箱を背負っていたらしい。そして、メアリー先輩とアランが小さな従魔を連れて行って、スライムを探す役といった役割分担だ。
アランから聞けそうな話はこんなものだろうか。そう思い、次の関係者に話を聞きに行こうと居場所を尋ねたところ、どちらも不在だという。
ヴァン先輩は何かを買いに行くと言って街に出ているらしく、メアリー先輩は、相棒の従魔が別の場所にいるからここにはいないそうだ。
「なるほど、とりあえず別の関係者に話を聞きに行ってみる。付き合ってくれてありがとう」
「こちらこそ。その調子で解決を頼むよ」
「はは、まあ善処するよ」
そういえば、どうしてそこまで事件解決に拘るのか、と聞いてみた。するとアランは「相棒が少しうるさくてね」と苦笑すると、服の中から黒い何かが現れた。
「紹介するよ。こいつは僕の相棒の従魔のダークスライム。事件に対して怒っているみたいで、これを解決して、仲間の無念を晴らして欲しいと頼まれてね」
何でも、スライム達の間にも互いの状態が何となく分かる繋がり(それも多少の距離が離れてもなくならないモノ)があるらしく、この従魔のダークスライムは同種族であるスライムが苦しがっていたことを知ったそうだ。
「ん? ちょっと待った。それっていつ頃の事?」
「え、っと確か今日の午前中、2限の中頃あたりだよ。急に相棒が騒がしくなってね」
今日の午前にスライムが苦しがったいた、急に騒がしくなったということを考えて、その時点から苦しみ始めたと解釈して問題ないだろう。
そうなると、スライムに対して何かが為されたのは、今日の2限の中頃あたり、つまり11時過ぎということになる。その時間、スライムは例の密室にいたはずで、つまり密室に対して外からのアプローチが必要になる。てっきり、密室に入る前に何らかの細工をされたものと疑っていたため、その前提が覆った気分だ。
そんな内心はさて置き、とりあえず従魔部のスペースから離れて、次なる関係者に話を聞きに行く事にした。
「レナルド君、次はどこに行きますか?」
「次は……触媒研究部の部長さんに話を聞きに行こう。多分、あの人なら部室にいるはずだ」
「それで、話を聞きに来たという訳だ。ふむ」
部室には、予想通り部長さんとその他の部員が、(僕たちが言えたことではないが)試験前にも拘らず、なにやら怪しげな素材を触ってにやにやとしていた。いや、試験前だからこそ、普段使わないような高い触媒を使える機会が来たということで、喜んでいるということだろうか。
部長さんとは知り合いである為、奥の個室に移動し、まずは事情を説明した。
「昨日は、確かにそうだね。従魔部の3人組に声をかけに行ったよ。僕の触媒レーダーに反応があったからね」
相変わらず、よく分からない感知能力があるらしい。確かに、スライムの魔核は触媒として用いられることもあるが、その品質はあまり高いものではない。そのレベルの触媒にすら反応して見に行っているようだと、学校中をせわしなく移動し続けることにならないのだろうか。そう尋ねると、部長さんは、分かってないねとも言いたげな表情で、首を横に振った。
「スライムの魔核はどうでもいいのだよ。レーダーに引っかかったのは、スライム本体さ。今は触媒の在庫が少なくてね。触媒を作る際の燃料になるスライムジェルがあれば嬉しい状態だったのだよ」
スライムを構成する物体は2種類あり、1つは魔核。もう1つはその魔核を覆う半透明の物体――スライムジェルである。後者には強い可燃性があり、さらに微小の魔力を含むという特徴もある。それによって可能となるのが、低温での燃焼だ。
からくりは、発火点(炎がなくても自ら燃焼を始める温度)の低さと安定した熱供給にある。スライムジェルは魔力を含むため、魔法による影響を受けやすく、発火させるのに使用した魔法の温度と同程度の熱を保って燃焼し続ける。つまり、魔法や魔道具を用いて与える熱をコントロールすることで、炎の温度もコントロールできる。言い換えると、魔法により低温で発火させれば、低温の炎が出来上がるという訳だ。
これは、熱に弱いが一定の温度までは熱する必要がある作業に適し、特にそれに該当する作業が触媒の作成である。あまり詳しくはないが、触媒の多くはそうしたデリケートな面(特に温度変化等に)があると聞いたことがある。
「あ、もしかして、例の事故で触媒が少ないんですかー?」
「そうなのだよ。燃える原因になったのは運んでいた食材だったと聞いたが、全くどんな管理をしているのやら。そもそも水晶触媒は熱に弱いのだから、断熱容器に保存しておくべきで……」
カンナの言葉に、何やらスイッチが入ってしまったのか、機嫌を悪くしたようにブツブツと呟き始めた。そう言えば、部屋の隅には、粉々になった水晶の欠片のようなものが、少し大きな壺に入れられていた。
「もしかしてそれが」
「ああ、事故でひび割れてしまった水晶触媒の残骸さ。今は再利用のために更に粉々にしてあるがね」
一応それらは触媒としては使えないものの、魔法陣を描くための塗料の材料になったり、別の触媒を作成する際の原料として使うことは出来るらしい。まあ、そう言った用途についても普段は別の素材で代用できるため、貴重な触媒をわざわざ用いることは滅多にないそうだが。
と、これ以上の余談は話を脱線させそうだったので、改めて昨日の状況の詳細を尋ねた。
「昨日は、数秒だけ話を聞いただけだから、あまり大した情報はないのだがね。そもそも箱の中身のスライムが授業で使用されるモノだと聞いた時点で興味はなかったから、スライムの様子についてもあまり把握していないのだよ」
昨日はスライムを見て譲ってもらえないかと思い、ヴァン先輩達にスライムの用途を尋ねたが、授業で使うと聞いて諦めて去った。その間は数秒程度であり、部長さんの主観では誰かが魔法を使ったりした様子はなかったの事。
話に聞いていた通り、数秒かつヴァン先輩達と話していた部長さんには魔法を使うタイミングはなさそうだ。
念のため話は聞きに来たが、これ以上の収穫はなさそうだ。というか、そもそも部長さんは全く事件に関わっていないことがほぼ確定した訳だし。
部長さんにお礼を言ってから部室を出る。
「レナルド君、そろそろ何か分かったことがあるのではないですか?」
「いや……、あと少し情報が欲しい。もう少しで何か分かりそうなんだけど」
そう考えて、やって来たのは職員室。第一発見者でもあるウェルン教授に話を聞くためだ。
「でも試験前なのに、そんな質問をしていたら、何だか呆れられそうですね!」
「仕方ないですよ。事件解決のためですから」
確かに、試験前における普通の生徒の行動とは言い難いだろう。とはいえ、実力主義のこの学院では、結果さえ示せば何かを言われることはない。
職員室の扉をノックして、教授を呼ぶ。
「どうしたんだい? 試験前に職員室に来るのはあまりよろしくないのだが」
それもそうである。手早く用件を伝える。
「なるほど、そんなことをしているのか」
「知り合いの先輩から頼まれたんです!」
案の定、教授は呆れたような笑みを浮かべた。しかし教授も、授業で使う予定のスライムが故意に殺害されたのだとすると、無視することは出来ない。今後の授業の準備に支障が出るかもしれないし、今回のようにテスト等の行事の日程も狂う可能性もある。そうした思惑もあってか、当時の状況について話してくれた。
発見時は、カンナが言っていたように、扉とは反対側の壁のすぐ近く(壁から手のひら1つ分程度の距離)にスライムの魔核の残骸が落ちていたそうだ。保管庫には他に変わった点はなく、魔力反応や施錠についても、カンナの話と同様だった。スライムの様子も特に変わったところはなかったという。
「そう言えば、保管庫の壁を地魔法で変形させるのは、先生なら出来るんですか? 例えば穴を空けるとか」
「あの壁は魔力伝導性が高い魔鉄で作られているから、出来なくはないね。ただその変化の跡を残さない様にするのは、かなり綿密な魔力操作が必要になるだろうから、生徒達にとっては不可能と言っていいね」
「ほんの小さな針を作るのはどうでしょう? スライムを殺害する程度なら、針で魔核を指せば可能だと思われますが」
「小規模であっても難しいとは思うよ。というかそもそも魔核の残骸は、全体的にひび割れていただけだ。どこか1箇所を起点にヒビが入っていたわけじゃない。だから、針で刺すといった殺害方法でないのは確かだね」
なるほど、いや、そうか。それなら殺害方法も絞られてくる。
いや、待て。だとすると……。
「話はこんなものでいいかな。私も試験前で忙しくてね。何か進捗があったら是非教えて欲しい。それと、君たちが成績優秀なのは知っているが、油断は禁物だよ」
「あはは、気をつけます」
教授はそう言って職員室へ戻って行った。
「レナルド君、今度こそ何か分かったんですね」
「まあね。僕の予想が正しければ、保管庫にはまだ痕跡が残っているはずだ」
「ええ!? 事件の謎が分かったんですか? もうちょっとだけ待ってください! 私も考えたいです!」
「私も挑戦してみましょうか。何かヒントはありますか?」
ヒントか……。
まず、情報を整理しよう。
使われた魔法は僕たちが知っている(※作中で名前が登場した)魔法だ。
各証言もとりあえず当てにしていいだろう。というか、それを疑いだしたらキリがない。
そして容疑者候補は、従魔部の2人――ヴァン先輩とメアリー先輩だ。部長さんは限りなく不可能に近いため、ここでは除外している。因みに、アランからの情報によると、ヴァン先輩は地と闇と氷の3属性持ちで、メアリー先輩は火と風の2属性持ちだそうだ。
アリバイは今は考えないでもいいだろう。それを抜きにしても事件の謎は解ける。
ヒントを出すなら……。
「やっぱり魔核の位置かな。何で壁の端にあったのかってところを考えるべきだと思う。勿論偶然だと考えることもできるけど、ただし故意的なものだとするなら、それは何故なのか、そしてどうやったのか」
事件の一部についてではあるが、いわゆるファイダニットとハウダニットである。
「とりあえず考えながらでいいから、保管庫まで行こう。そこで答え合わせも出来るはずだよ」
≪※改行の下からは解答編となります。「推理したい!」という方がおられましたら、是非これより上の文を参考に推理してもらえたら嬉しいです。物語中に失礼しました≫
「やっぱりあったね」
「それは……」
「魔力反応ですね?」
対象は保管庫の壁、予想通り魔力反応が1つ検出できた。まあ、保管庫自体が材質が同一のもので作られた1つの物体であるため、正確には保管庫そのものに反応があったということになる。
「これこそが密室のトリックだよ。犯人はスライムを対象にではなく、壁を対象に魔法を発動させて、それでスライムを殺害したんだよ」
「なるほど……。だから、壁の際まで寄せたということですね? 『小さな契約』を使って」
流石はプラタナさん。恐らく事件の全体像が掴めたのだろう。少しすっきりしたような表情を浮かべている。
「えぇ、ちょっと待ってくださいよー。それなら犯人はヴァン先輩ってことですか? 運搬するためにその魔法を使ったってアラン先輩が言ってましたし」
「いや、それは違う」
それだと、魔力反応が2つあったことに説明がつかない。ヴァン先輩が使った『小さな契約』以外に、もう一つの魔法がスライムを対象に使われているはずなのだ。
当初話していた通り、時系列から考えて反応が残っていた魔法が使われたのは、運搬中か保管庫の中にいるタイミングの2択だ。ただ、完全な保管庫が密室であり、魔法で穴を空けるのが困難(というか生徒達には不可能)なことを考えるとタイミングは1択となる。つまり、魔法が使われたのは運搬中だ。
だが、各証言ではスライムに異変は見られなかった。そのことからスライムに使われた魔法は、外見的な変化が見られない魔法ということになる。
「なら、闇魔法ですか? 『衰弱』なら、時間差で衰弱死させることも出来ますよね?」
それも違うだろう。スライムの魔核の残骸は全体的にヒビ割れていた。衰弱死だけではそう上手く全体にヒビが入ることはない。それに、その魔法を使って殺害するなら、壁に対してわざわざ魔法を使う必要はないし、時間ももっと早くに衰弱するだろう。
となると候補は限られるが、外見的に変化がないどころか、一定条件で魔法の効果すら現れない魔法が1つある。『小さな契約』だ。
属性の数がヴァン先輩よりも少ない――つまり魔力量が相対的に少ないメアリー先輩なら、その魔法を使ったとしても魔法の効果は表れない。何せ、『小さな契約』では近くにいる魔力量の大きな者の命令が優先されるのだから。
つまり、メアリー先輩が『小さな契約』をスライムを対象に使ったのである。運搬中で周りに2人がいるとしても、無詠唱なら気づかれずに魔法を発動させることも出来るだろう。2年生であるアランも出来るのだから、恐らく3年生のメアリー先輩も無詠唱の習得はしているはずだ。
「アラン先輩が見せてくれた時みたいに!」
そういうことだ。『小さな契約』は壁越しであっても魔法の効力が現れる。メアリー先輩は、この魔法によってスライムを壁に近づけさせたのである。この時点で、暫定的にも犯人は確定したようなものだが、続けよう。
これで、2つの魔力反応の謎は解けた。次は密室での殺害についてである。
「でも、どうして壁に寄せる必要があったんですか?」
そう、そこだ。それこそが今回の密室トリックを作り出した最大の謎。だがそれも、壁に対して使われた魔法の存在の明らかになったことで解決する。
「壁に対して使われた魔法は一体何だと思う?」
「地魔法、じゃあないんですよね……」
うーん分からない、とカンナが首をかしげて言った。そこに、プラタナさんが言う。
「火魔法ですね?」
「うん、その通りだよ。犯人が使ったのは『温熱』だ」
犯人は『温熱』によって、壁を高温に温めた。20㎝ほどの厚さがあるとはいえ、ある程度高温まで温めることは出来るはずだ。何故なら、保管庫の壁は魔鉄で出来ており、魔力と熱の伝導性が高い。魔鉄とは魔法で温める為にある金属と言っても過言ではないほどだ。
そして、スライムの体であるジェルは特殊な燃料にも用いられるほど、発火点が低い。そのため、壁をある程度の高温まで温めてしまえば、それに触れたスライムは発火し始めるのだ。つまり、魔法を使ってスライムを壁に寄せたのは、確実に高温の壁に触れさせるためだ。
さらに、スライムが焼死だとするなら魔核の様子にも説明がつく。スライムの魔核は触媒であり、水晶のような素材である。そうした素材が熱に弱いというのは、触媒研究部の部長さんが言っていたはずだ。実際に火事にあった触媒も、ひび割れてしまっていたと聞いた。スライムの体が燃えたということは、全方向から魔核に対して熱が加えられたということ。それによって全体的にヒビが入ったのだろう。
つまり、犯人は火魔法が使える人物ということになる。『小さな契約』も使用している者でないとこのトリックは成立しない為、犯人はたった1人に絞られる。
「犯人はメアリー先輩だよ」
「ほえー、流石は先輩です。これで事件は解決ですね!」
「まあ、アリバイとかは確認していないから確実ではないけど。ただ、事件にまつわる謎は今説明した通りだと思う」
『温熱』を別の人物が使ったという線も考えられなくはないからなあ。まあ、状況的に考えてあり得ないとは思うが。
ともかく、アランへ説明しに行こう。まだ時間的にも学院内にいるはずだ。
後日、期末試験も無事に終了し、僕たちは例のチョコレートパフェを食べに来ていた。試験については、3人とも無事にAクラスの維持することができた。備えあれば憂いなし、ということである。
「そう言えば、事件の最終的な顛末はどうなったんだ?」
「あ、先輩にはまだ話してなかったですかね」
動機なんかは聞いた覚えがあるが、それからどうなったのかはまだ聞いていない。メアリー先輩は、相棒の従魔が怪我をしていて試験までに回復が間に合わなかった為、試験を何とか延期にさせようと咄嗟に思いついたそうだ。最終年ということもあり、進路に成績がかなり影響するため、焦っていたのだろうか。あまり、過大な処分を受けていないといいが。
「結局、夏休みの間の10日間、学院の仕事を無償で手伝うことになったそうです。本人も反省していて、自主的に代わりのスライムも捕まえに行っていたこともあって、そのあたりの事情も考慮して緩い処分になったそうです」
「そっか。まあ、あまり大事になってないようで良かったよ」
僕は別にちょっとした悪事でさえ許さないといった正義感を持ち合わせているわけではない。事件の解決には手を貸したが、その結果が後味の悪いものになっていなかったのは幸いだった。スライムを殺害する程度の事件でも少し重みを感じていたのだから、小説のように殺人事件を解決している探偵たちは、きっと更に強い重圧に晒されていることだろう。
やっぱり、僕には探偵の真似はできないな。せいぜいが日常の謎を解く程度なものだ。
「レナルド君、パフェは美味しいですか?」
「ああ、うん美味しいよ。僕は甘い物が好きだからね」
「まあでも、プラタナさんが作ってくれたパンケーキの方が僕好みかも」と呟くと、彼女は「相変わらず、口がお上手ですね」と口元を隠して微笑んだ。
「そう言えば! 友達から夏休みの2日間、別荘に来ないかと誘われているんですけど、よかったらお二人とも行きませんか?」
と、カンナが切り出した。
試験も終わり夏休みに入った今、特に積極的な部活動に取り組んでいるわけでもない僕は、予定が空いていた。せっかくなら、数日程度の別荘で過ごすというのも悪くないだろう。とはいえ、僕とは違いプラタナさんは忙しそうな気もするが。
「でも知り合いじゃない僕が行っても良いのか?」
「はい! 先輩なら大丈夫です!」
「いや、どこから来るんだその自信は……」
まあ、本人が良いというのなら良いのだろうか。ただ、1人でというのは何となく心細い。せめて同学年の気が知れた友人が来てくれたらいいなと、情けない事を考えていると、プラタナさんと目が合った。
「私も予定は何とか調整してみますので、行きたいです。レナルド君もせっかくですし、一緒にお邪魔しに行きませんか?」
「うん、僕も行くよ。2年の夏休みだし、今のうちに遊んでおかないと。来年は忙しそうな気もするしね」
「なら決まりですね!」
別荘といえば、やっぱりクローズドサークルだろうか。そんな考えが思い浮かんでしまう僕は、きっとミステリ小説をよく読むからだろう。とはいえ、現実ではそんなことは滅多に起こりえない。状況的にも、動機的にもだ。
って、こんな風に考えるとフラグが立ってしまいそうだ。駄目だ駄目だ。ついさっき、物語の探偵みたいに大きな事件に巻き込まれるのは勘弁だと思ったばかりなのに。
考え始めると、思考が回転を続け、混乱しそうだったので、僕は気を紛らわすためにチョコレートパフェを一口食べた。
うん、甘い。流通量が少ないからか、品番に口にするものではないが、やっぱり久しぶりに食べると何となく安心した気分になる。懐かしい味だからだろうか。
「って、先輩聞いてますか?」
「ああ、ごめん。考え事してたから、聞いてなかったかも」
どこから、と聞かれたので多分最初からと答えておいた。
店の時計を見ると、時刻は12時を過ぎようとしていた。もうすぐ午後が始まる。この後は、この前みたいに買い物に付き合わされるのだろうか。今いるガーデン商会は、レストランと雑貨屋が併設している店舗で、どちらも特に女子に人気のお店だ。きっと彼女たちにとっても例外ではあるまい。これから何故だか、夏休み以前よりも忙しくなる予感もするが、気を取り直して、パフェを食べよう。
あ、美味しい。
学院生の午後は、まだ始まったばかりだ。
あとがき
拙い文章だったかもしれませんが、最後まで読んで下さり、誠にありがとうございます。今回、初めてのミステリ小説の執筆となりますが、私がこれまで読んできたミステリ小説を真似て、生意気にもあとがきを書かせて頂きます(笑)
今作では、魔法と推理の両方の要素を含めたいというコンセプトで、作品を作ることとなりました。魔法という、一見何でもありでミステリと相容れないような印象を受ける要素であっても、魔法自体に発動の為の縛りや、そもそも出てくる魔法の種類を少なくすることで、可能な限りフェアな作品が出来上がるようにと工夫しました。ミステリ作品もファンタジー作品も両方とも好きな私にとって、こういった作品が増えて欲しいという思いもありつつ、一方で世間ではあまり一般的なジャンルとはされていません。もし、今作のようなニッチ?なジャンルが好きだという人がおられた場合に備えまして、以下に代表的な作品を挙げさせて頂きます。
魔法とミステリと言えば米澤氏の『折れた竜骨』
特殊設定ミステリという枠組みでは斜線堂氏の『楽園とは探偵の不在なり』
などが個人的にはおすすめです。
また、今作のようなライトな雰囲気の作品が好きだという方がおられましたら、
青崎氏の『体育館の殺人』なども是非おすすめです。
紹介させていただいたいずれの作品も、かなり論理的な推理となっていまして、今作の謎を解けた方も、解けなかった方も、次のステップあるいは論理的推理の練習としておすすめです。
と、何故か好きな小説を紹介するコーナーとなってしまいましたが、あとがきは以上になります。今作を通して、少しでもミステリが好きになったという方がおられましたら、是非とも推理小説を読んで欲しいですし、ファンタジーに興味がわいたという方がおられましたら、そちらの作品を読んで欲しいです(この、小説家になろうにも沢山ありますよね)。
最後に、ご自由に感想・批評をお待ちしております。また、おすすめのミステリ作品があれば是非紹介していただけると、ありがたいです(笑)