必ず婚約破棄されてしまう呪われた家系に生まれた私。わかった! じゃあ、結婚すればいいんだ!
「マルガレーテ・ル・ミュラー! おまえのような可愛げのない女とはやっていけないっ! よって婚約破棄だ!」
「なるほど。そういう事ですのね。婚約破棄を承りました」
突如として夜会会場に響いた声に貴族たちが振り返る。
そして、さして驚きもなく貴族たちはミュラー家とオランジェ家のやりとりを見守った。
婚約破棄を叫ぶオランジェ家の次男、それを微笑みで受け入れるミュラー家の嫡女。
最近当たり前になってきた光景だ。
曰く、『ミュラー家の婚約は呪われている』『神の御気に入りの玩具』『ミュラー家と最初の婚約の約束はしない方が良い』と会場のそこかしこで貴族たちが囁きあっている。
それもそのはず、ミュラー家の特異性は貴族の間では有名なのだ。
『ミュラー家の者との最初の婚約は必ず相手が婚約破棄を申し入れる』、と。
……
…………
………………
と、そこまで読んだ私は、『ミュラー家~呪われた婚約破棄の家系~』という本を閉じた。
庶民の間に流通している安価な紙でできたゴシップ本だ。
失礼な話だな、と思う。
人の家について好き勝手に言って。
---そう、私は貴族の間でも最近特殊な評判が立っている有名な貴族家『ミュラー侯爵家』の長子だ。
正確には嫡女のマルガレーテお母様の長子だ。
名前はマリア・ル・ミュラーという。
ミュラー家は我が国デーモニウム王国でも有数の裕福で歴史のある貴族家だ。
王家に収益の何割かを献上しているダイヤモンド鉱山はずっと安定的な採掘量を誇っている。
不思議な事に、ずっとダイヤモンドが安定的に取れ続けているので、『魔法がかかっている山なのでは』と言われている。
確かにウチのダイヤモンド鉱山では鉱夫たちの間で不思議な噂が絶えない。
それはそうと、ミュラー家は本にあった通り困ったことに、
『婚約すると必ず相手側が婚約破棄を申し入れる』
と噂が立っている。
そして、それはここ最近のミュラー家の歴史において本当の事だった。
ミュラー家の大事件としては先祖に、
・夜会で盛大に婚約破棄を申し出られて、円満に婚約解消したにも関わらず、相手が逆恨みで王都で殺人未遂事件を起こして相手の貴族家が取り潰し、別の貴族男子との婚約からの結婚
・王太子様の婚約者になったものの、王太子様に婚約破棄を申し出られたが法律を盾に結婚し、その後は賢妃と呼ばれる。その後は、王太子様とは仲睦まじかったようだ……これは問題ない話か……
その他にも、今あげたほどの大事件とはならなくても、必ず最初の婚約が婚約破棄を申し出られる。
そして、私のお母様マルガレーテ・ル・ミュラーはミュラー侯爵家の嫡女だ。
マルガレーテお母様は婚約破棄を防ぐために、昔からの性格も合う幼馴染と婚約したらしい。
これは『今までのミュラー家の呪いを打ち破って結婚できる』と言われていた位、婚約を結んだ二人は仲が良かったそうだ。
だけれど、結果は幼馴染の婚約者が、
『ずっと一緒に居た幼馴染にもう異性としての魅力を感じない』
と酒場の女に目移りしての婚約破棄だった。
マルガレーテお母様は、その運命を分かっていたかのように微笑んで婚約破棄を受け入れたらしい。
そしてその後は、すぐに入れ替わるようにマルガレーテお母様を前から好きだった人が婚約を申し入れて、結婚して、私が生まれたってわけよ。
お父様はマルガレーテお母様が昔から好きだったらしい。
けれど、マルガレーテお母様が小さいころから幼馴染の婚約者が居たから諦めかけていたそうなの。
でも、諦められなくてずっと婚約者がいないなま待っていたのですって。
お母様の婚約破棄騒動は困るけれど、お父様の思いが実って良かったわ。
今のお父様とお母様が仲良しなのはいい。
でも、呪われた家系とか言われるのは困る。
私の将来の結婚的にも!
だから、今まで婚約を申し入れられても、ずっと断ってきた。
だって婚約破棄されてしまうもの。
……
………
「そこで私は考えたのよ! 婚約破棄されないためにはどうしたらいいのかをね」
私はテーブルの上に、本を置いて身を乗り出した。
「いつもながら前置きが長いね、マリア」
目の前に座っていたマティアス・フラガリア・アナナッサ侯爵令息が、溜息をついて首を傾げた。
キラキラと純金のような金髪が揺れ、濃い紫の瞳がわずかに困惑に細められる。
羨ましい綺麗な色彩の美しい顔をした友人だ。
羨ましい。
私は名門のミュラー家に生まれたのに、ミュラー家特有の銀髪と菫色の瞳が受け継がれなかった。
銀色に見えなくもない濃い銀灰色の髪に、先祖の誰かの遺伝の金茶色の目だ。
「いつも聞いてくれてありがとう、マティー。」
マティアスことマティーとは、何年か前のどこかの貴族家のガーデンパーティーで、ちょっとしたことから話が合った。
マティーとは趣味も合うし、マティーは聞き上手だから、異性なのについつい一緒に居てしまう。
時々、今みたいにお茶会をしてお喋りしている。
お互い恋愛感情は全くない。
アナナッサ侯爵家の次男だから、嫡女の長子の私とは将来的に婿に入ってもらって結婚相手的にはばっちりなんだけれども……
恋愛感情がない。
大事な事だから2回言ったわ。
今日は、久しぶりのお茶会で楽しくて、つい私が喋りすぎてしまった。
……だって、最近マティーは何か準備があるとかで、全然お茶会をしてくれなかったから……。
一人で街にお買い物に行ってるみたいなのに連れて行ってくれないし。
恋人でもできたのかしら?
紹介してくれればいいのに。
「それで? どうすればいいのか分かったのかい?」
「ええ、私。明日で結婚できる18歳になるのよ。もちろん明日の誕生日パーティーにはマティーも招待したから来てくれると思うけど」
誕生日の前の日に友達とこんなにゆったりしてていいのかって?
いいのよ。もう準備は全部済ませているから。
私は紅茶をもう一度一口飲んで、喉を潤した。
大発見を発表しなくては。
「もちろん、伺うよ。それで?」
マティーがあまり期待していないような顔をしている。
失礼な。大発見なんだから。
「婚約しないで結婚すればいいのよ」
私は、得意になって貴族らしくなく満面の笑顔で告げた。
「マリア、さすがの大発見だね。僕もそれは名案だと思うよ」
マティーもにっこりと笑い返してくれた。
さすがのマティーの美貌はなんだか良いことありそうな気がしてくる。
明日、誕生日だしこんな美しいもの(マティー)を見ておけば絶対良いことあるわ。
ーーー
……と、思っていた時もありました。
私の完璧な計画はどこにいったのかしら。
「マリア! 貴様との婚約を破棄する! 貴様のような妹を虐げる女とはやっていけない! ここで俺は心優しきルーネとの婚約を宣言しよう!」
気づくと、私の大事な誕生日パーティーで婚約破棄をされていた。
ミュラー家で開かれている盛大なパーティーの最中に、寄ってきた男が『婚約破棄』を叫んだのだ。
うんざりしてしまう。
そろそろ私も、
『婚約を飛ばしてすぐ結婚する相手を募集中です』
と皆に宣言しようと思っていたのに。
すぐに書く婚姻届も用意していたのに。
もちろん、その計画もマティーに言ったら『名案だね』って言ってもらっていたのに。
視界の隅では、その計画を知っているマティーが、
「ちょ……? こいつ……? いきなりなにしてくれてんだ」
と庶民みたいに砕けた言葉を使って、私の為に怒ってくれている。
ちなみに大事な事として私には『妹』は居ない。
いるのは、3歳下の弟だ。名前もアランという。
「私はあなたと婚約しておりません。人違いかと……」
「シラを切る気……モゴォッ」
「申し訳ありません! ミュラー侯爵令嬢様!」
男は親らしき人が現れて、すぐに回収されていった。
親らしき人は高速でペコペコとお辞儀をしながら、高速で後ずさりをしていた。
……酷い。
どうして、どうしてこんな?
「……呪われている」「神…御気に入り…玩具」「現に婚約もしていないのに…」
会場中に貴族同士のひそひそとした囁きが交わされる。
私はなんだか泣きたい気持ちになってくる。
だって、酷い。
私の誕生日パーティーなのに。
場を取り繕うような、会場の楽団の演奏が白々しく感じる。
そんな私の前に人が立つ気配がして、影が差した。
見ると、マティーが大きなサファイアの指輪が入った小箱を開けて、こちらに向けて立っている。
今までにない真剣な顔をしていた。
「マリア・ル・ミュラー侯爵令嬢! 僕と結婚してください」
「え……? 私たち友達じゃ……?」
「違う。僕は君とパーティーで会った時からずっと好きだった。ずっと婚約者になりたかった。でも……」
「あ……、婚約破棄が怖くて、ずっと私が他家からの婚約の申し込みを断り続けていたから……」
なんて事だ。
「臆病だった。ずっとタイミングを見計らいかねて、君の友人のままでいた。だけど、その臆病な卑怯さで結局さっきみたいなことが起こった」
「そんな……」
さっきの勘違い婚約破棄はマティーのせいじゃない。
私が否定するように首を振るとマティーも首を振った。
「マリア、僕は君を絶対に幸せにする。君を支え続ける。僕を選んでいますぐに僕と結婚してください」
紫色の瞳の真摯な眼差しがドキッとした。
私の事をそんな風に思ってくれていたなんて。
気も合うし、私の事好きで居てくれたなんて。
「……はい、喜んで」
私は気づいたら、そう答えていた。
「マリア! ありがとう!!」
「あ……マティー」
マティーが笑顔で私を抱きしめた。
その腕の温かさで、私はなんだか胸がぽかぽかしてくる。
つい昨日まで、私とマティーは友人だったのに結婚……。
……なんだか夢の中にいるみたい。
---
「どうやらうまくいったみたいね」
マリアとマティーを見守っていたマリアの母マルガレーテは、そう言ってにっこりと笑った。
2人は流れるように婚姻届にサインしている。
マルガレーテは2人が仲良くなってからずっと見守っていた。
年頃の男女が友人などと言っても、親の了解なしに親しくするなどあり得ない。
ミュラー家とアナナッサ家、両家の親たちは気づかれないようにずっと見守っていたのだ。
マリアが、婚約を飛ばして結婚するつもりである事を察知した時にも、婚約を飛ばして婚姻届を受理できるように手を回していた。
マルガレーテにとって、マリアは世間擦れしてないいつまでも天真爛漫な子だった。
でも、周りがフォローすれば大丈夫だ。
「マリアは婚約破棄の呪いは超えたといって良いのかしら。婚約はしてないものね」
「そうだね。先ほどの無礼な家には厳重に抗議しておこう」
「うふふっ、そうね」
マルガレーテの夫が先ほどの無礼な貴族の事で、額に青筋を立てている。
「ねぇ、あなた。私は呪いのおかげで結果的にあなたと結婚できて良かったの。呪いとは言っても最終的にミュラー家の者たちは幸せになってるし。愛してるわ、あ・な・た」
「僕もだよ!」
マルガレーテが、夫の肩に手をおいてイタズラっぽい瞳で、夫の顔を覗きこむと、マルガレーテの夫はあっという間にデレデレした表情になったのだった。
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