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令嬢と僕と騎士  作者: 八雲 春
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眠ろうと考えれば考えるほど眠れなくなる

「ただいまー。」


学校が終わり、無事に帰路を踏破した僕は素早く制服を脱ぎ散らかすと、ベッドにフルダイブをした。

とてつもない包容力と優しい温かさに包まれた僕は、そのまま安らかな眠りに…。


当然つく訳にはいかなかった。


そう我々の敵対存在である課題があり、更にテスト前ということで復習もしないといけないのである。

学生の辛いところではあるが、致し方ない。


僕は名残惜しく、つかの間の恋人(ベッド)から離れ、冷たく硬い机に向かった。


眠気と戦い、そしてあまりの記憶力の無さに泣きたくなる自らの頭の容量のなさに嘆きながら課題をある程度進めると、時計は19時を指していた。


ググ、と背筋を伸ばし、暖かくなった椅子から立ち上がる。

バキバキと背筋から気持ちが良い音が聞こえる。


つかの間の休息という名の栄養補給、晩御飯を食べるためにリビングにいく。


「勉強お疲れ。」


先に食べていた両親が労ってきた。

こういう時は大体面倒なことを…


「明日おじいちゃんの家行くからね、朝5時起きで。」


「5時…5時…?」


早すぎて草。


「早くない?」


「遠いからねぇ」


確かに祖父の家は県二つほど跨いだところにあるが、果たしてそんなに早く起きなければならないものなのか。


「仁がテスト前だからね。一日でササッと行っちゃうって話よ。」


上機嫌に母が言う。

突然物事を決めがちな母のことだ。急に決めたに違いない。


心の中で小さくため息をつくと、黙々とご飯を食べ進めている父を見る。


無言だがアイコンタクトで諦めろ、と伝えてきた。


こういう時の母の意思は硬い。


一家の男共は重々理解しているのだ。


「早く寝た方がいい。」


父にアドバイスを貰う。

そんなことより止めて欲しかった、そういう思いを込めて父を恨めしく思うが、素直に席に着いた


「分かったよ…。」


僕は目の前にある焼き魚の隣の大根おろしに醤油をかけた。


「いただきます。」


この後しっかり食べたはずだが、早く寝ないといけないというミッションが追加された今晩の予定を組み立てるのに必死で、味なんて覚えてはいない。


「ごちそうさま。」


早々に食べ終えた僕は、食器を台所において部屋に戻る。


祖父の家にはちょくちょく行っているが、なかなか面白いというか変なものが多いというイメージがある。


「面倒だな。」


翌日は早起きということですっかり勉強へのモチベーションが無くなってしまった(言い訳)ので、今夜は動画サイトを見て過ごすことにした。


こういうの見ていると本当に時間が溶けるもので、ふと気がつけば寝なければいけない時間に迫っていた。


重い腰を上げお風呂に入ると、すっと布団に入った。


寝なければいけない。


(面倒臭いなあ…明日5時起きだっけ、目覚ましセットしたけど起きられなかったら面倒だなぁ……というかあのお嬢は週末に王女様とデートなの羨ましいなぁ…こっちは用事入れられてるのに…)


目を瞑って寝ようとすると色々と考えることが出来てきて眠れなくなる。


眠らなきゃ眠らなきゃと思えば思うほど眠れないっていうこのあるあるに名前はついてるのだろうか。


…あぁ、余計なことを考えては眠れなくなる。


……そういえば…もう一人、最近騎士団に昇進したやつは今頃なにをしてるんだろ……


………


……





-------------------------------


「隙だらけだ、バカ弟子。」


凛とした声が聞こえたかと思うと、頭部にとんでもない程の衝撃が走る。


「ッ〜?!いってぇ!!」


俺はあまりの痛みに持っていた両手剣を手放すと、頭を抱えた。


「…全く、その悪癖を治さないと強くなれんぞ、--。」


呆れたように俺が落とした剣を拾う、髪を一つ結びにした少し豪華な騎士団の正装を身にまとった女性は、こちらにその剣を投げ渡してくる。


「ほら、もう一本。」


悪魔かこの人。


「ま、待って欲しい、師匠。」


「戦場に待ったは効かんぞ。」


そういうと師匠の姿は掻き消える。


殺気を感じ、刃を背にし防ぐとその場を離れ、剣を正面に構える。



……タイミング悪く眠ってしまったようだ。

とんだ被害を受けてしまった。


確かこの人はこの国唯一の女性騎士団長で、なんか気に入られていた記憶がある。


「それ、行くぞ。」


僕がそんなことを考えていると師匠はまた突っ込んでくる。


手がジンジンと痺れるほどの剣の打ち合いに発展する。


…くそ、師匠めちゃくちゃ手加減してるな。


こっちは必死に食らいついているのに、手加減に手加減を重ねて余裕であしらわれている。


少しの悔しさと、それほど強くなれる可能性への乾きが少しの乱れを産む。


「…ほい、隙。」


師匠の姿が見えなくなったと思えば、下からの衝撃を感じ、手から剣が弾き飛ばされてしまった。


「あ〜ッ!師匠強すぎだって!」


足腰の疲れが限界まで達し、座り込む俺。


「隙が生まれすぎなんだよ、君は。」


やれやれ、と水を持ってくる師匠。


感謝を伝え、受け取るとゴクゴクと一気に飲み干す。


身体が汗まみれで乾いていた喉に染みわたる。


「才能はあるんだから、油断癖を無くせばな。」


1ヶ月ほど魔物の巣にでもぶち込むか?と恐ろしいことを口走る師匠に戦慄しつつ、つかの間の休憩を満喫する。


「てか師匠。陛下に呼ばれてなかったか?」


こういう時には話を逸らすに限る。


「ん?あぁ、そうだな。あと大体…2.3時間ほどか。」


そこで師匠はニッコリと笑顔でこちらを見つめた。


「時間もそんなに無いし、休む暇なんてないな。ほら立て立て。再開するぞ。」


「くそう!」


考えはお見通しのようだ。


チクショー。


この後めちゃくちゃ扱かれた。


………


……




-------------------------------


…スマホのアラームで目覚めた。


最悪な目覚めすぎる。


こうして僕の大したことの無い休日は始まったのである。


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