9迫 オッサン・ミーツ・アナザー〈神〉ガール
日間ローファンタジー部門、71位ありがとうございます!(2022/12/19・17時30分時点)
前作が日間85位最高だったので、滅茶苦茶嬉しいです!(≧∀≦)
手足をばたつかせながら、なんとか飛行をコントロールしようと、
もがくことしばらく。
だんだんと、飛行感覚が掴めてきた気がする。
一時は地上に墜落するかと思ったが、必死に念じた甲斐あって、
どうにか即死コースは免れたようだった。
夜鬼の群れも出現する気配はなく、
とりあえず地上に降りることにした。
どうにかお嬢さんと合流する手段を考えなくては。
しかしその前に、まずは地上で一息つきたい。
精神が疲弊するイベントの連続で、オッサンのメンタルはもう、
ほぼほぼ壊滅状態である。
ヘロヘロのフラフラ飛行で、ゆっくりと異次元の街に降下していった。
着陸場所は広いほうがよかろうと思い、車線の多い道路を目指す。
異次元だし、無人であるから、着陸時のもしものヘマとかは
考えなくていいような気もしたが、なにせ自分は初心者。
狭い場所に着地して失敗&大ケガとか、想像しただけでも嫌である。
ヘッポコな飛行からフワリフワリという浮遊状態になって、そろそろ着陸。
……というタイミングで、眼下の道路に、変化が起こった。
なんだかもう見慣れた光景になってしまった、黒い泡立ち。
夜鬼の群れの出現であった。
「うぉわぉっ!?」
驚き叫けびつつ、着陸降下を中止。
上昇! 上昇!
飛行に慣れてきたおかげか、念じたとおり、
グイン、と見事に急上昇できた。
だが、今回は距離が近く、相手が飛び立つのも早かった。
率直に言うと、ヤバい。
追いつかれるなら、撃墜だ!
ダメもとで、お嬢さん直伝の〈ホーミング・シャドウ〉で迎撃を試みる。
視認できる夜鬼すべてに向けて撃つつもりで、気合いを入れ、念じた。
おどりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ───────────っっっ!!!!!!!!
沈みさらせぇぇぇぇぇぇぇ────────────っっっっっ!!!!!!!
昔、なにかしらで鑑賞した任侠映画の殺る気勢くらいには、
気合いを入れたと思う。
その甲斐あってか(?)、影ビームは、勢いよく撃ち出すことができた。
〈ホーミング〉と名付けられたとおり、視認することで自動ロックオン的になる
仕組みなのだろうか、影ビームが勝手に夜鬼の群れを次々に撃ち抜いていく。
全弾命中の勢いだ。
影ビームに撃たれた夜鬼たちは、
いともたやすく光の粒子となって、消えていっていた。
ムッハー! なんだろうか、この無敵感。
お嬢さんが、自分の〈力〉ことを〈神〉パワーとか自称しているのも、
わかるような気がした。
……と、余裕ブッこいたのがまずかったか。
影ビーム乱れ撃ちの隙間を縫って、夜鬼が三匹、
こちらに向かって飛び抜けてきた。
「ほわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ───────っっっ!?!?!?
ちょ、待っ……!!!!!!」
夜鬼の急接近に、無我夢中で叫んで、左手を横に振っていた。
ブオンッ!
「えっ」
夢中で横薙ぎに振った左手から、なにかが振動音と共に伸び出た気がした。
いや、それは、気のせいではなかった。
左手から、影ビームと同質らしいエネルギーが放出されていた。
出力が大きく、ごん太のビーム剣となっている。
こちらに襲いかかろうとしていた三匹の夜鬼は、一律、腰から上が消失していた。
オッサンの影ビームソードの餌食となったらしい。
─────これは、あれか、初めて見た夜鬼・ベンジャミンを、
お嬢さんが倒した時に使った技か。
おおおおおっかねえ威力だな!
うっかり使ってしまった日には、人をあっさり殺してしまいかねない。
影ビームと違って、意識せずに出してしまったので、自分で自分の技に戦慄してしまう。
左手のごん太ビーム剣は、『収まって~! 消えて~!』と念じると簡単に収束した。
……〈ホーミング・シャドウ〉と同じように、意識して使えるだろうか?
右手をのばして、今しがた左手から出ていたようなごん太ビームをイメージ。
すると、右手からもあっさりと出た。
良かった。
非常に危険な技ではあるが、制御して使えるなら、この異次元を生き延びるのに、
大いに役立つだろう。
ともあれ、当面の危機は去った。
今度こそ着陸を………と思った時、またもやゾワリと嫌な感覚。
急ぎ、嫌な感じがした上空を見上げると、
もう見飽きた感ハンパない夜鬼の群れが。
一斉にこちらへと飛来してきているのは、確実だった。
「な、なんでじゃぁぁぁぁぁぁ~~~~~~~~~っっっっっ!?!?!?」
〈ホーミング・シャドウ〉で夜鬼の群れへと
対空砲火の影ビームをブッパしながら、泣きたくなる。
と、そこでふと、疑問がひとつ、浮上した。
………なんで自分、ずっと攻撃魔法を使えてるのン?
夜鬼を撃墜させながら、自分のステータス・ウィンドウを開く。
【名前:牛浜手ナオキ】
【性別:男】【年齢:35歳】
【身長:171cm】【体重:74kg】
【属性:中立/善】【神名:*****】
【HP:7/14】【MP:*****/*****】
【保有スキル:解析の魔眼(弱)・状態異常無効・ラーンニング・身体強化・影魔法・空中飛行・精神操作(接触)・加速・怪力】
HPがなにげに減ってるが、MPの表示に変化はない。
どういうことなのか………?
そう疑問を浮かべた時、影ビーム弾幕をかわした夜鬼たちが十匹以上、
こちらへと殺到してきた。
〈ホーミング〉仕事しろ!
ステータス画面に意識がそれたせいか!?
またも泣きたくなりつつ、接近してくる夜鬼たちを
たった今会得した〈ごん太影ソード(仮)〉で迎え撃とうする。
────そこに突如、山吹色の閃光が、幾筋も天から降り注いできた。
「うひょえっ!?」
突然の眩しさに驚いたのと、その閃光が間近を走り抜けたのとで、
情けない声が口からもれ出る。
山吹色の閃光は、どうやら夜鬼らを狙ったものらしかった。
と、いうのも、オッサンに襲いかかろうとしていた夜鬼すべてが、
閃光に撃ち貫かれ、消滅していっていたからである。
おそるおそる、上空を見る。
するとそこには、鎧をまとった、人型の存在が浮かんでいた。
『人型の存在』と思ったのは、この異次元では、人の形をしていても、
人間かどうかわからないからだ。
人型の存在は、周囲に夜鬼の姿がなくなったあと、
じっとこちらを見つめている。
……ステータス、チェックできるかな?
そう思い、こちらも人型の存在を見つめて、〈解析の魔眼(弱)〉の発動を試みた。
【名前:桶穂るい】
【性別:女】【年齢:15歳】
【身長:166cm】【体重:58kg】
【バスト:89】【ウエスト:56】【ヒップ:88】
【属性:混沌/善】【神名:クトゥグア】
【HP:15000/15000】【MP:29700/30000】
【保有スキル:怪力・身体強化・加速・幻想鎧・火炎魔法・空中飛行・状態異常抵抗・高速治癒・収納魔法】
なんの問題もなく、ステータス・ウィンドウが開示された。
────どうやら、人間らしい?
夜子お嬢さんと同じく、〈神〉パワーの持ち主のようである。
そして、夜子お嬢さんと同年代で、発育が大変よろしい。
最近の若い娘は、みんなこうなのかしらん。
オッサンがセクハラな感想を抱いていると、
鎧のお嬢さんは高層ビルの屋上を指差した。
……あそこで話をしよう、ということなのだろう。
助けてもらったので、こちらとしては断る理由もない。
コクコクと馬鹿みたいにうなずいて、その屋上を目指す。
鎧のお嬢さんの飛行速度のほうが速く、オッサンより先に屋上に降り立った。
遅れること数秒、こちらも無事に屋上に着地。
改めて、異次元の月明かりに照らされた、鎧のお嬢さんを見る。
初見では、鎧の色ははっきりと判別できなかったが、
鈍いメタリックな光沢の深紅。
形状もよく見ると女性の体つきがわかるフォルムで、鎧というか、
特撮ヒーローのようなメタルスーツに近い気がした。
頭部と顔は、そのメタルなヘルメットで、フルに覆われている。
目の部分はカッコいいバイザー型になっており、
口元の部分だけ銀光沢のマスク状になっていた。
パッと見、ロボアニメの主人公機っぽい。
つまり、カッコイイ。
『どーも~? おじさんも、〈神摂力〉持ちのヒト?』
鎧のお嬢さんは、軽い感じでそう話しかけてきた。
………〈地図〉持ち?
なんのことだろう。
夜子お嬢さんが口にしていたような、
一連の中二病ワードのような匂いを感じるが。
「はじめまして。ワタクシ、牛浜手ナオキと申します」
何はともあれ、敵意は感じなかったので、ズバッと本名を名乗ってしまう。
これはのちのち、ステータス画面で鎧のお嬢さんの本名を
知ってしまっていることについて、謝るための布石であった。
いきなりこちらが本名を名乗るとは思っていなかったのか、
鎧のお嬢さんはちょっと驚いたご様子。
『あたしが言うのもなんだけどさ。正体不明な初対面のヤツに本名バラすの、
マズいんじゃない?』
こちらの名乗りに、苦笑混じりで忠告めいたことを口にする鎧のお嬢さん。
ええ娘や……。
オッサンは、直感的にそう思った。
「いえ、あの怪物、夜鬼から助けていただいた方ですから、
悪い人間ではないと思いまして。
───先ほどの援護、助かりました。ありがとうございます」
そう言って、頭を下げる。
実際はオッサンひとりでもなんとかなったかもしれないが、
あの援護射撃は心理的に助かった。
なので、これは素直に感謝である。
『別にいいってそんなの。おじさんもあれだろ?
〈禍威魔〉狩りやってて出られなくなってるクチでしょ?』
おっと、またも聞き逃せない中二病ワードが出た。
〈ダーム〉狩り。
どうやら鎧のお嬢さんも、夜子お嬢さんと同じく、異次元で怪物を倒すことを、
使命とされているご様子だ。
「………それが、ですね。話せば長くなるのですが──────」
オッサンはこれまでの経緯を、鎧のお嬢さんにかいつまんで話すことにした。
異次元に迷いこんだこと。
超能力を持つお嬢さんに助けられたこと。
不思議パワーを使えるようになったこと。
お嬢さんとはぐれてしまい困っていること。
鎧のお嬢さんは、オッサンの話を最後まで黙って聞いていた。
こちらが話し終わると、鎧のお嬢さんはなにやら腕組みして、
オッサンを頭からつま先まで値踏みするように見る。
『へえー……じゃあおじさん、まったくのシロウトなワケ?』
「シロウト、というとなんのシロウトかわかりませんが、
私はただの会社員ですよ」
『いやいや、さっきの夜鬼を魔法で撃ち墜としてるの、あれさあ、
ワリとスゴいことなんだぜ? あいつら雑魚クラスだけど、
一般人に手に負えるもんじゃねえから』
え、今ワタシ、なんかやっちゃてました?
知らぬうちに、自分はとんでもないことを成し遂げていたらしい。
恐るべきは夜子お嬢さんの〈ホーミング・シャドウ〉である。
『で、聞いてると、おじさんの会った女、
そいつもシロウトくせえんだよなあ………』
「はあ……。でも、すごく強いお嬢さんなんですけど」
『ああいや、この場合のシロウト、ってのは強い弱いじゃなくってさ。
物事の対処方法の話。なんにも知らない一般人を〈禍威魔〉狩りに
連れ回すとか、ありえねえから』
ですよね!
思わず鎧のお嬢さんに、語気強く同意の言葉を口にしそうになった。
だがまあ、本人のいないところでそんなことを言うのも、
陰口叩くような感じがしてやめておく。
一応、夜子お嬢さんは、命の恩人であるからして。
「……そのおっしゃりようですと、お嬢さんはその、
ああいった怪物を退治するのを、
お仕事にされているということでしょうか?」
『まあ、そんなとこ。名前は出せないけど、
怪物退治専門の組織で働いてる感じ』
ん、“名前は出せない”ときた。
……これは、鎧のお嬢さんの名前をステータス画面で
確認してることがバレたら、まずいだろうか。
ひとまず、こちらが本名や神名などが見える、という事実は伏せておこう。
なんらかの専門的な組織に属しているらしい、鎧のお嬢さん。
ならば、夜子お嬢さんより不思議パワーのことや、この異次元のことなどに
精通しているような気がした。
ここは情報集めに回るとしよう。
「ところで、先ほどお嬢さんは────」
『あ、チョイ待った。……その“お嬢さん”って呼び方、
やめてくんない? 背中がムズムズするからさ』
おっと、オッサンから“お嬢さん”呼びされるのは、キモかっただろうか。
キモがられるのには慣れているけれども、十五歳の女の子から
率直に嫌悪されると、地味に傷ついちゃう。
「あ、はあ。では、なんとお呼びしましょうか……?」
すると鎧のお嬢さんは、両手を腰に当てて、胸を張って、言った。
『あたしは〈キャプテン・バーニング〉! 〈キャップ〉と呼んでいいぜ!』
…………鎧のお嬢さんは今、ヘルメットの下で、
ドヤ顔してるのではなかろうか。
まんま、夜子お嬢さんと同じ趣味嗜好な気がする。
ふたりが出会えば、速効で気が合いそうだな、と、
確信めいたものを心に抱くオッサンであった。
第2のヒロイン登場です☆
新お嬢さんの鎧のイメージは、超有名アイアンなヒーローの女性版みたいな(^∀^;