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8迫 オッサン・イン・ザ・スカイ

「邪神転生ガール」で水着JKを夜空に飛ばしたように……。(宣伝)

黒セーラー服JK、空に飛ばしたかったんだ……。(ノ∀≦)

「落ち着いてください、おじ様。あまり騒がれると、

飛行に集中できなくなります」


オッサンの驚嘆声が不快だったのか、お嬢さんはたしなめるように言ってきた。

いやいやいやいやいや、落ち着けと言われても!?


飛行機に乗ったことは数回あるが、生身で空を飛ぶなんて、

夢でも見たことがない。


お嬢さんが〈空中飛行〉のスキルを持っていたことを、遅れて思い出す。

お嬢さんの落ち着き具合からすると、この高度の空を飛行するのは、

日常茶飯事のようだ。


だからといって、凡人のオッサンに同程度のメンタルを

求められても困るのですが……!


「す、すいません……でも、率直に言って、生身でこの高さは、

真剣に怖いです……!」


もう、どストレートに本音を告白。

だってヤバい、マジ怖い。


「でも敵から逃げられたのですから、そこは我慢してください」


ピシャリとお嬢さんはおっしゃった。

それはそうですけれども……!


と、そう思ったところ、改めて自分の今の格好を客観視する。

お嬢さんに、お姫様だっこされている状態であった。


絵ヅラ的に、恥ずかしいことこの上ない。

他にこのさまを見る人間がいないことだけが、救いであった。


「………あ、あの、重くないですか?」


まるで乙女が言うような台詞を口にしてしまった。

お嬢さんもそう思ったのか、クスリと笑う。


「大丈夫です。わたくしには、〈神〉パワーがありますから」


そういえば、お嬢さんには〈怪力〉のスキルがあったな。

それが発動しているのだろうか。


もし発動していたら、オッサンの〈ラーンニング〉が

自動取得してるかもしれない。

────マイステータス、カモン!


【名前:牛浜手(うしはまて)ナオキ】

【性別:男】【年齢:35歳】

【身長:171cm】【体重:74kg】

【属性:中立/善】【神名:*****】

【HP:8/14】【MP:*****/*****】

【保有スキル:解析の魔眼(弱)・状態異常無効・ラーンニング・身体強化・影魔法・空中飛行・精神操作・加速・怪力】


おお、やはり追加されていた。


しかし、なんだかひとの大事なものを、コソコソ盗んでいるような気分だ。

自分の意志に関係なく、取得していってしまうスキルのせいとはいえ、

お嬢さんに対して申し訳ないような気持ちになる。


………まあ、だからといって、

怪物狩りの仲間にはならないけどね!(再確認)


「────ところで、どこまで飛んで行く予定なんでしょう?」


なるべく眼下の光景を見ないようにして、お嬢さんにたずねてみる。

いくらお嬢さんでも、一晩中飛び続けるわけにもいくまい。


「地上があの調子で〈夜鬼ナイト・ゴーント〉であふれかえっているとなると、

わたくしでも手こずります。広域殲滅(せんめつ)魔法を使えば、

きゃつらごとき全滅させることは容易でしょう。

が、ほんの少しだけ、時間を要しますので、すきが生まれてしまいます。

おじ様をかばいながらだと、安全面で保証ができません」


「……はあ」


〈広域殲滅(せんめつ)魔法〉。

聞くだに、物騒な単語であったが、とりあえずそこはスルーした。


世の中には、知らなくてもいいこともあるのである。


オッサンは、空気を読んで短くうなずき、夜子お嬢さんの説明の先をうながした。


「……なので、空中で〈波曲点はきょくてん〉を探すことにします」


「えっ、空中でも……っていうか、こんな空の上にも、あるんですか?」


「ありますよ。次元と次元の境目ですから、どこでも、どこまでもつながります」


ううむ、言っている意味はわからんが、凄い断言をされてしまった。

ならば、空中にも現実世界へつながるあの『波紋』もあるのだろう。


しかし、問題は、その『波紋』が、また何者かの手によって

封鎖されているかもしれない点だ。

今、お嬢さんにそのことを訊いても、モチベーションを

激しく下げてしまうだけなので、黙っておく。


封鎖されていたら、それはまたその時に考えればよいのだ。

主に考えるのは、お嬢さんなのではあるが。


……どうでもいいが、けっこうな速度で飛行している気がするのだが、

あまり風圧とかを感じない。

高々度なら気温の低下もありそうなものだが、

地上にいた時と体感温度に変わりはなかった。


どうも、周囲に特殊な力場りきばが発生して、

それが通常の物理法則に干渉しているっぽい?

そもそも、お嬢さんと普通に会話できているのも、

本来ならありえないことのはず。


まあ、深く考えるだけ無駄か。

〈神〉パワーの為せるわざだしな。


呑気のんきにそんなことを考えていると、突然、飛行にブレーキがかかるのを感じた。


何事かと前方を見やり、戦慄する。


「お、お嬢さん……!」


「……」


我々の飛行直線上に、あの暗黒の溶岩溜まりが出現していた。


それも、途方もない大きさだ。

巨大な城壁のように夜空の上に広がり、我々の行く手を阻んでいた。


『『『『『『『『『───────────!!!!!!!!!!』』』』』』』』』


声ならぬ叫びを虚空に轟かせ、無数の夜鬼ナイト・ゴーントが次々に姿を現してくる。


「逃げます!」


短く、だがはっきりと宣言して、お嬢さんはギュギュン!と飛行転進した。


「ぷぐぉっ」


急激なターンと加速による反動のせいで、変な呻き声を上げてしまった。

だが、お嬢さんはオッサンの奇矯ききょうな声など気にも止めずに、

意識を集中しているようだった。


ドンッ

そんな轟音と共に、高速飛行が再開された。


飛行のため体にかかってくる加重《G》を感じながら、後ろを見やる。


夜鬼ナイト・ゴーントの群れも、背に生えた翼で飛行し、こちらを追ってきているように見えた。

が、お嬢さんの飛行速度のほうが、断然速い。


あっと言う間に、夜鬼ナイト・ゴーントの群れからぐんぐんと離れていく。

あばよー! とっつぁ~ン! ってなもんである。


「や、やつら、飛ぶのは速くないみたいですね!」


またたく間に戦闘圏を離脱できた安堵から、そんなシロウトの感想を口にしていた。


「はい。ですが、油断は禁物です。どうも〈波曲点はきょくてん〉が封鎖されていたことといい、

あの夜鬼ナイト・ゴーントたちの───っ!」


言葉の途中で、お嬢さんは表情を険しくして、視線を上に向けた。

つられてオッサンも上を見上げる。


「ファっ!?」


思わず、またも変な声を出してしまった。

夜鬼ナイト・ゴーントの群れが、高々度上空より、我々目がけて急降下してきていたのだ。


先ほど出現してきていた群れより、距離が近い。


「〈シャドウ・索敵〉に、気配すら引っ掛からなかったなんて……!」


おっと、お嬢さんの口から上空の夜鬼ナイト・ゴーントの群れの接近が、

本当のホントに想定外であることがもれた。

イレギュラーなことに弱いお嬢さんである。


……などと呑気に感想を抱いている場合ではなかった────!


お嬢さんは、グン、と制動をかけ、飛行を停止。

それからそのまま、上空を見上げる格好で垂直に急降下を始めた。


落下ではなく、お嬢さんの意志で、下方向へ加速飛行している。


めっちゃ速い。

そして怖い。


その最中さなか、金属音めいた響きが発せられた。

上空から迫りくる夜鬼ナイト・ゴーントの群れへと、

お嬢さんが影ビームを無数に撃ち放ったのだった。


〈ホーミング・シャドウ〉という技名を叫ばなかったのは、

またまた余裕がないためであろう。


だが、〈追尾ホーミング〉の呼び名は伊達ではなかった。

地上方向へマッハダイヴしながらのビーム照射でも、

次々に夜鬼ナイト・ゴーントの群れを撃破していっていた。


この勢いなら、退避しつつ夜鬼ナイト・ゴーントの群れを駆逐できるのではないかと思われる。


「……っ!? しまっ……!」


えっ。


お嬢さんが突然、危難の色を含んだ短い叫び声をもらした。

視線は加速落下方向、下に向かっている。


同じように下へと目を向ければ、またも変な声を出しそうになった。


下からも、夜鬼ナイト・ゴーントの群れが飛翔してきていたのだ。

そのさまは、まるで雲霞うんかのごとく、であった。


上から下から、我々は、挟み撃ちの格好になっていた。


お嬢さんは加速落下を中止した。


ドンッ

またもそんなロケット噴出音を響かせて、挟み撃ちから逃れるべく、

水平方向に離脱飛行を開始した。


今回は、これまでよりもずっとスピードを出している気がする。

空気抵抗が強い。


……不思議パワーである、魔法による飛行であるため、

現実の物理法則下ほどではないようだが。

この超加速飛行には、夜鬼ナイト・ゴーントの群れも追いつけまい。


そう油断したのがまずかっただろうか。


「っ!? また……っ!?」


今度は進行方向に、黒い泡立ちがわき起こっていた。

即座に夜鬼ナイト・ゴーントの群れがそこから飛び出してくる。


「く……っ!」


お嬢さんは急制動を掛けたようだったが、超加速していた我々は、

すぐには停止できなかった。

形として、夜鬼ナイト・ゴーントの群れへと、腰砕けな突撃をする格好になる。


一匹の夜鬼ナイト・ゴーントが、我々に向かい飛翔してきた。

拳を振り上げて、お嬢さんめがけ頭上から襲いかかってくる。


対するお嬢さんは、その夜鬼ナイト・ゴーントに向かって右手を突き出した。

するとお嬢さんのマントの一部がその動きに従い、

大きな盾状に変化して夜鬼ナイト・ゴーントの拳を防ごうとする。


ズガッ!

鈍い音が響き、マント盾が夜鬼ナイト・ゴーントの拳をはばんだ。


が、その衝撃は消すことはできなかった。


「くぅっ!?」


強い衝撃を覚え、お嬢さんの苦しげな声を耳にしたあと、

オッサンの体はお嬢さんから離れていた。

左手オンリーで、オッサンの体を掴み続けるには、

衝撃の強さに耐えきれなかったのだろう。


……って、冷静に状況を分析してる場合じゃないよ!?


「おじ様っっっ!?」


お嬢さんが叫び、こちらに手を伸ばして接近しようとしたが、

夜鬼ナイト・ゴーントの群れがそれを許さなかった。

次々に、お嬢さんへ襲いかかっていく。


そうしているうちに、オッサンはどんどんとお嬢さんから離ればなれに。

凄い速度で、フリーフォール。


「ほわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ──────────っっっっ!?!?!?」


知らず、人生史上最大の悲鳴が、自分の口から発せられていた。


これまでなんとか肩に掛かっていたショルダー・バッグも、

今の衝撃で、どこぞに吹き飛んでしまったようだった。


いや、いい。

そんなことはどうでもいい!


死ぬ!

死んでしまう!


このままでは地上に激突し、オッサンの肉体は爆発四散したカンジに!?


上空ではお嬢さんが影ビームを撃って夜鬼ナイト・ゴーントの群れを

撃滅していっている様子だが、

こちらへの救助は望めない状況のようだった。


バタバタと自身にまとった黒マントをはためかせて、

オッサンの体は、なすすべなく夜空の中を落ちていく。


……ん?

黒マント?


そこでようやく、〈空中飛行〉のスキルを習得ラーンニングしていたことを思い出した。

お嬢さんの影ビームを苦もなく再現できたのだから、

〈空中飛行〉も可能のハズ。


なんだっけ。

こう、お腹に力を溜めて……いや、ビームの時とは違うのか?


とにかく、飛ぶ!

空を!


アイキャン☆フラ─────────────イッッッッッッ!!!!!!!


ボヒュッ


「ほげっ」


空を飛ぶことを強く念じたところ、突如として強い空圧を顔に感じた。

気が付けば、オッサンの体は、きりもみしながら横一直線に

超加速飛行をしているようであった。


やったぜ!

……は、いいけど、これ、ちょっと、

飛行制御、難し……お、わ、ほぅっっっ!?


………お嬢さんの援護へ向かうため、飛行方向を変えようとしたら、

ななめに飛んだり、ジグザク飛行したりで、大変なことに。


お嬢さんと合流するどころではない。

ブザマな飛行をようやく停止させ、空中浮遊状態にするのがやっとであった。


結果、自分が今どこを飛んでいるのか、わからなくなってしまった。

上空を見上げるが、お嬢さんがどのあたりなのか、見当もつかない。


距離のこともあるし、ましてや夜空の中。

黒セーラー服と、暗灰色の怪物を視認するのは、至難の業である。


と、そうだ!

〈解析の魔眼(弱)〉ならば、空を見上げ回すだけで

位置情報がわかるのでは!?


そう思い至り、ぐるりと上空を見渡したが、

青いステータス画面は浮上しなかった。

どうも、明確に対象を視認しないと、このスキルは発動しないらしい。


どうしたものか、と悩んでいると、背中になにか、

ゾクリと感じるものがあった。


慌てて振り返ると、虚空にあの黒い泡立ちが起こっていた。

もれなく、夜鬼ナイト・ゴーントの群れが姿を現す。


嘘ン。


心境は、ムンクの「叫び」みたいな、オーマイゴッドヘルプミー状態である。

戦闘できない系童貞のオッサンは、即座に逃亡を選択。


その場を離れるため、飛行能力の発動を全力で念じる。


ドンッ


ロケットスタートの加速で、みるみるうちに夜鬼ナイト・ゴーントたちを引き離していった。

……のはいいのだが、やはり飛行制御がうまくできない。


まっすぐ飛ぶことも、次第に怪しくなってきた。


「もうちょい、普通にこう、ビューンと……」


思わずブツブツとグチっぽいことをもらしつつ、水平飛行を意識。

────したのだが、何故だかフラフラとバランスが取れなくなってきた。


「飛んで~! 飛んで~! 回らないで~! まっすぐ~っ!?」


自分でも効果があるかどうかわからないことを口走って、

必死に飛行を続行しようと念じる。

だが、なにがいけなかったのか、突然ガクンと失速した。


そのまま、フォークボール調に、進行方向が斜め下になってしまう。

スキーで言うところの、直滑降ちょっかこう待ったナシ。


大惨事が起きてようやく止まるヤーツである。


「お、わ、ああああああぁぁぁぁぁ────────────っっっっ!?!?!?」


制御不能の飛行となりながら、今日はよく叫ぶ日だな、

と他人事のように思うオッサンであった。

オッサン、墜落!

「主人公死亡!完!」になってしまうのか!?次回に続く!(古典的予告②)

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