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7迫 オッサンは静かに眠りたい(けど無理なモヨウ)

そしてオッサンは日常へ帰還する……。しかし。

一体いつから────オッサンが素直に帰れると錯覚していた?(誰もしてない)

なにはともあれ、まずは無事に帰れそうで、ほっとする。

お嬢さんとのあれやこれやは、自宅に戻って、寝て、起きて、

出勤したりなんたりしつつ考えればよかろうなのだ。


そう、とにかく眠りたい。


怪物と遭遇したり、〈神〉お嬢さんに連れられたり、

求婚されたりで、精神は興奮状態だが、同時に睡魔がクライマックス。


もう休みたい、休ませて。

ただでさえサービス残業の連続で、心身共に参っていたところなのだ。


このうえでさらに、お嬢さんが異次元でモンスター・ハンティングを

続行するとか言い出したら、泣いて土下座したり、

絶叫して地面をのたうち回る腹づもりであった。


「はい。帰りましょう。すぐ帰りましょう」


お嬢さんが心変わりをしてはイケナイ。

そう思い、足早に揺らめく『波紋』へと近づいた。


「そんなに焦らなくても、すぐに消えたりはしませんよ」


焦燥しょうそうに駆られたオッサンが滑稽こっけいだったのか、

お嬢さんはクスリと笑う。


「すぐに、ということは、時間が経てば消えたりしちゃうんですね?」


「ええ。この〈波曲点はきょくてん〉が消えても、

また別の場所に出現するでしょう。出現の時間間隔は不定ですが」


なるほど、仮にこの『波紋』を逃したとしても、

また別のチャンスがあるというわけだ。

いやでも、わざわざ次の機会を待つ必要はない。


即、帰りたい。


夏休みの課題とかは、早めに終わらせておきたいタイプなのだ。

まずもって、安心が第一である。


そんなオッサンの不安げな表情を察したのか、

お嬢さんは微笑んで『波紋』に手をかざした。


「心配しなくとも、すぐに現世に戻れますよ」


「あっ。ところで、この先はどうなってるんでしょうか。

この『波紋』を通った先に、他の人がいたら、面倒じゃないですか?」


「問題ありません。〈波曲点はきょくてん〉を出入りした直後の人間は、

何故か一般人には認識されないようなのです」


「……そういうものなのですか?」


「そういうものなのです。たとえば、人間は視界に他人が

入っていたとしても、意識が別の方向に向いていれば、

気が付かないでしょう? 〈波曲点はきょくてん〉を通過する、という現象が、

その感覚を一般人に引き起こすのです。

────わたくしの長年の経験による仮説ですけれど」


仮説かよ。

だがまあ、お嬢さんがそう言うのなら、

これまでなんの問題も無かったということなのだろう。


『美少女と冴えないオッサンが突如なにも無い空間から出現したのを目撃!』

といった衝撃映像が、動画配信サービスに乗って全世界を

席巻せっけんする恐れもないわけだ。


……ん?

動画?


「あ、あの、じゃあ、あれですよ。街頭の監視カメラとかには、

映り込んだりしないんでしょうか?」


「さすがおじ様です。良いところにお気づきになりましたね」


お嬢さんは、TVの解説者よろしくそう言った。


「〈波曲点はきょくてん〉を通過する、という現象。これは何故か、どの映像メディアにも

記録を残すことができないのです。……〈波曲点はきょくてん〉を通過して現世に

戻ってくる前後にひどいノイズが入って映像が乱れて記録されます。

これはわたくしのカメラを使った実験や、うちの支配下にある

街の監視カメラの映像を確認していますから、間違いありません」


ン……。

今、『うちの支配下にある街』とか、

サラッとおっしゃらなかった? このお嬢さん。


まあ、そのあたりは今はスルーだ。

追求するのが怖い。


「なんだか、随分、都合のよい感じがしますね……」


「わたくしもそう思いますが、事実ですから。わたくしはこの現象を

〈世界の辻褄つじつま合わせ〉と呼んでいます」


辻褄つじつま合わせ……」


「あちらとこちら、簡単には一般人には互いに干渉できないような、

世界同士の法則があるのでしょう」


うーん………。

そんなものだろうか?、と思うと同時に、疑問もわく。


「ですが、お嬢さんがやっていらっしゃることは、両方の世界への

干渉にあたるのではないでしょうか?」


「あら。わたくしは〈神〉パワーの持ち主ですから、例外です」


当然でしょう?、と言わんばかりの表情。

なんというか、やはり大物だ。


「そうそう。動画に記録、ということで言えば、〈禍津怪まがつか〉も同様で、

映像メディアに映して記録を残すことができません」


「あ、そうなんですね」


「ええ。ですが、昔から、心霊写真などで不可解な物が

映りこんだりするのは、〈禍津怪まがつか〉の影響が

関わっていると思われます」


「………それも、お嬢さんの仮説でしょうか」


「確信のある仮説です」


結局、仮説である。


ただまあ、心霊写真を信じているご様子は、微笑ましいものだ。

自分などは、中学校でカメラが趣味のクラスメートから、

アナログ写真におけるインチキ心霊写真のアレコレを蘊蓄うんちくと共に

解説され、夢から醒めた思い出がある。


お嬢さんには、そのへんだけは、純粋でいてほしいな、

などと勝手な願いを持つオッサンだ。


「この〈波曲点はきょくてん〉や、〈波紋境はもんきょう〉についても、現世に戻ったあとゆっくりと────」


と、そこまで言ったところで、お嬢さんの顔から笑みが消えた。

かすかに眉をひそめている。


「ど、どうされました?」


あからさまな急変に、オッサンは浮き足だってたずねた。

まさか、この『波紋』からでは帰れない、とでも言うのだろうか。


「……この〈波曲点はきょくてん〉、“閉じて”います」


「閉じ……え、それはつまり……?」


「現世とは、繋がっていない、ということです」


Oh……。

お嬢さんは明言しなかったが、ここからでは現実世界に戻れない、

ということだろう。


まさかまさか、本当に帰れないとは。


「えっと、“閉じて”いる、ってことは、

“開け”ることもできるわけですよね?」


お嬢さんの表情から、ないな、と思いつつも、一応確認してみる。


「────少々お待ちください」


お嬢さんは、クレームを付けてきた客へのテンプレ文句みたいなことを短く言うと、

『波紋』に手を当てて、目を閉じた。

なにかしら、調査している感じだ。


「………何者かが、〈神〉パワーで〈波曲点はきょくてん〉に細工を

ほどこした痕跡があります」


「えっ……。何者か、って、あれですか、怪物とかがですか?」


「────わかりません」


お嬢さんは、苦しげな表情だ。

ここまで余裕のよっちゃん的だったため、

現状がいかに深刻な状況かを想像すると、

めっちゃ不安なんだが?


「ひょっとして、こういうケースは……」


「初めてのことです」


簡潔に、正直に、お嬢さんは答えてくれた。


マジか。

それってどうなるのぉ!?


パニクってお嬢さんに詰め寄りたいのを、必死に我慢した。

どうやら、お嬢さんにとっても苦境到来のようであるからして。


下手したら自分の娘くらいの年齢の少女に、そんな対応は、

いい大人として絶対NGだ。


たとえ変態だとしても、常に紳士であるべきだと、昔誰かが言っていた。

いや、ちょっとたとえは適切ではないが、とにかく困難を前に、

大人が取り乱してはイカンのだ。


素数を数えよう。

1、3、5、7、9………あ、メンドくさいやめた。


とりあえず軽く息を吐いて、

わき起こった不安を脇へ追いやった……気分にしておく。


「では、別の〈はきょくてん〉を見つけたほうがいいのでしょうか?」


「そう、ですね。別のものを探してみましょう」


オッサンの問いに、お嬢さんはうなずいた。

それから、申し訳なさそうに小さくうつむいた。


「その、申し訳ありません、おじ様。偉そうに請け合っておいて、

ぬか喜びさせてしまって……」


おやおや、ヤンデレノリの時は一転して、しおらしくなってしまったぞ。

そういううれい顔も、イイネ。


「いえいえ! お嬢さんの落ち度ではないのですから、気になさらず」


まあ本音では早くおうちに帰りたいが、命の恩人であるお嬢さんに、

今の状況でそんなことを言えるはずもない。


「しかし、何者かの細工、というのが気になりますね……。

お嬢さんの知っている限りで、心当たりは?」


「………ありません」


我々以外の、第三者が『波紋』になにかしら仕掛けをしている。

ここが一般人のいない異次元であるのを考えれば、普通に恐怖だ。


何故かといえば、現実世界の存在である我々が帰れぬように、と、

悪意を持って仕掛けを施した何者かがいる、ということなのだから。


それは怪物たちへ抱く恐怖とは、また違う種類のものだ。

不安が入り交じるタイプの………。


「それではまた、怪物狩りの続行ですね。

お嬢さんの〈神〉パワーだけが頼りです。

よろしくお願いしますよ」


オッサンは、努めて明るくお嬢さんを持ち上げることにした。

なんにせよ、お嬢さんだけが頼りであるのは変わりない。


言われたお嬢さんは一瞬面食らったような顔をしたが、

すぐに笑ってうなずいた。

ただ、その笑みには先ほどまでのグイグイとくる勢いは消えていた。


どうやら、よほどショックを受けている模様?

初めてのアクシデントには、対処しきれていない印象を受ける。


……優等生は、イレギュラーに弱いの法則か。


腹黒美少女謀略系のワリに、メンタル自体は弱いのかもしれない。


「それじゃあ、とりあえず、またそこらを探索して回りますか?」


異次元脱出に関してはお嬢さん頼りのオッサンは、

早めに通常の精神状態に戻ってもらうべくそう提案してみる。


「ええ。……推測ですが、〈波曲点はきょくてん〉を“閉じ”る者がいるなら、

その者も〈波紋境はもんきょう〉にまだいるはずです」


「え。いるでしょうか? 外側……現実世界に

もう逃げてしまっているのでは?」


オッサンはそう疑問を口にする。

我々を異次元に閉じこめて、かつ、自分も内部にいたまま出入り口を

封鎖するということは悪手ではないのか。


と、そこまで考えて、それは相手の目的が

〈監禁〉だった場合の話だと思い至る。

もし、相手の目的が、我々の〈殺害〉とかだったなら────?


物騒な想像に、オッサンは軽く身震いしてしまった。


「大丈夫です。おじ様は、わたくしがお守り致します」


お嬢さんはオッサンの心の内を見抜いたように、そう言ってくれた。


ヤダ……イケメン……。(トゥンク)

本来なら大人のこちらが言うべき言葉を掛けられ、

オッサンはときめいてしまうのだった。


まあ、結婚はしないけどもね!


「────っ!?」


アホなことを考えていたところに、

突然身の毛がよだつものを感じて、振り返った。


視線の先、その地面が、黒く泡立っていた。

まるで黒い溶岩だまりといった様子だった。


地面だけではなかった。

ビルの壁、自動販売機、街路樹、あたり一面のなにもかもが、

黒の泡立ち状態である。


それらから、現れ出てくるものがあった。

夜鬼ナイト・ゴーント〉だ。


「お、お嬢さん……?」


今度は演技ではなく、完全にブルっての、お嬢さんへの呼びかけであった。


夜鬼ナイト・ゴーント〉の数が、多すぎるのだ。

先ほどお嬢さんが〈ホーミング・シャドウ〉で一掃したときより、

圧倒的に桁が違いそうであった。


お嬢さんは無言で、素早く周囲を見渡した。

直後、お嬢さんのマントがブワリと巻き上がる。


次の瞬間には、例の影ビームが無数に撃ち出されていた。

〈ホーミング・シャドウ〉である。

必殺技名の叫びがなかったのは、余裕の無さの表れであろうか。


そんな客観的なことを思い浮かべるうちにも、お嬢さんの影ビームは

夜鬼ナイト・ゴーント〉の群れを次々に撃ちぬいていった。

先ほどと同じく、どの個体も一撃で消滅していく。


【名前:範徒院(はんといん)夜子(よるこ)・性別:女・年齢:15歳】

【身長:164cm】【体重:55kg】

【バスト:86】【ウエスト:56】【ヒップ:84】

【属性:秩序/善】【神名:ナイアラートテップ】

【HP:11000/11000】【MP:310600/32000】

【保有スキル:怪力・身体強化・加速・影魔法・空中飛行・精神操作・高速治癒】


こっそりお嬢さんのステータスをチェックする。

MPは減っているものの、まだまだ全然余裕がある状態であった。


だが─────。

夜鬼ナイト・ゴーント〉は、お嬢さんの影ビームで撃破されていく端から、

黒い泡立ちより新たに出現していた。


これでは、キリがない。

ジリジリと、我々への包囲網がせばまっていっている。


お嬢さんは、影ビームを撃ち続けながら、オッサンを振り返ってきた。


「……おじ様! ここは一旦、戦場を離脱する他ないようです!」


「それはそのようですが、どうやって!?」


「こうやってです……!」


言うや否や、お嬢さんはオッサンの胸をトンッ!と掌底突きした。


「えっ!?」


軽い衝撃だったが、あっさりとバランスを崩したオッサンの体は、

背中から地面に倒れこむ。

────ところを、お嬢さんに両手ですくい上げられた。


お姫様だっこの格好である。


「行きますよ、おじ様!」


「えっ? えっ?」


「シャドウゥゥゥ……GO───────────!!!!!!!!!」


ズゴウッ


お嬢さんの掛け声のあと、轟音が耳をつんざき、強い重力圧を感じた。

体がひしゃげるような感覚である。


思わず、目を閉じてしまっていた。


重圧が消えてから、ゆっくりと目を開ける。


「えっ」


そこは天空、見渡せば、星空のただ中のようであった。


「えっ」


どうやらここは雲の上。

お姫様だっこ in ナイトスカイ。


オッサンは、お嬢さんと共に、夜空を飛んでいた。


「えええええええええぇぇぇぇぇぇぇ──────────!?!?!?」

ハイ、オッサンは帰れませんでした。まだ求婚ひとり目だからね、仕方ないね。

「いいね」と評価ポイント、ありがとうございます!3000回愛してる!(≧∀≦)

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