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5迫 そしてオッサン、求婚される

いったいオッサンの身になにがー。(棒③)

明かされる衝撃の真実ー。(棒④)

「………………………」


お嬢さんの無言の視線が痛い。


内心冷や汗をかきつつ、マイステータスを確認。


【名前:牛浜手(うしはまて)ナオキ】

【性別:男】【年齢:35歳】

【身長:171cm】【体重:74kg】

【属性:中立/善】【神名:*****】

【HP:8/14】【MP:*****/*****】

【保有スキル:解析の魔眼(弱)・状態異常無効・ラーンニング・身体強化・影魔法・空中飛行・精神操作・加速】


保有スキルの欄に、さっき見た時はなかった〈加速〉が追加されている。


これはもう、間違いない。

某超有名RPGにもあったアレだ。


〈ラーンニング〉スキル。

このスキルは、周囲で発動したスキルを自動的に

学習・習得(ラーンニング)してしまうらしい。


やった! チートスキル、GETだぜ!

……いや、喜んでる場合じゃないか。


突然オッサンの背に現れた黒マントも、

おそらくは〈影魔法〉のスキルによるものだろう。

その根拠はといえば、さっきの戦闘で、お嬢さんは

黒マントから影ビームを照射していたからだ。


と、なると面倒なのはお嬢さんへの説明である。

半分嘘をついていたこちらとしては今さら、

『保有スキルとかも見えて、実は〈ラーンニング〉スキル持ちなんです。テヘ』、

などとカミングアウトするのはバツが悪い。


………よし、そのへんは嘘をつき通すことにしよう。

『あれれ~? おかしいなあ~? なんでこんなことができるんだろう~?』

ってな感じでシラを切る方針だ。


お嬢さんは、いよいよいぶかしむ目でこちらを見ている。


「えーっと……これは、ひょっとしてお嬢さんと同じマント、でしょうか……?」


などと、しらじらしく問うてみるオッサン。


「…………そのようですね。わたくしの〈シャドウ・マント〉と

同質のものに見えます」


こちらへ近寄って、しげしげとオッサンのマントを見たあと、お嬢さんはそう言った。


〈シャドウ・マント〉か。

そのへんのネーミングは、一律に安直な感じである。


「……やはり〈波紋境はもんきょう〉に来たことで、異能に覚醒めざめた───?

 もしくは、わたくしの近くにいることで、なにかしらの影響が……」


こちらのマントを見つめながら、ブツブツと呟くお嬢さん。


「───ひょっとして、自分も、お嬢さんみたいに

さっきの〈ホーミング・シャドウ〉を出せたりするんでしょうか、これ?」


自分にMP表示がないのを知りつつ、やはりしらじらしく言ってみる。


「………どうでしょうね」


ふむ、とお嬢さんは腕組みをしたのち、右手の人差し指を右頬にあてる。


この仕草、さっきもやってたな。

癖なのかもしれない。


「では、実験してみましょうか」


「えっ」


「〈ホーミング・シャドウ〉を撃つ実験です」


「えっ、でも………」


MPないんですけどワタシ、とは言えない。


『ナオキは〈ホーミング・シャドウ〉を使った! だがMPが足りない!』

と、なるのは明白である。


が、なぜわかるんですか、とツッコミを受けるのもマズい。


「その、やり方とか、わかりませんし………」


「大丈夫です。何事も、やってみるものですよ」


「はあ……」


仕方がないので、おとなしくお嬢さんのレッスンを受けることにする。


「〈丹田たんでん〉、というのは聞いたことがあるかと思います」


……いや、なかなかいきなり、普通は聞き慣れない単語ですよ、お嬢さん。

幸いなことに、アニメ好きなオッサンは、

格闘バトルものの作品で知ってはいるけども。


「ええと、腹部にある、肉体の力の発生源、みたいなものでしたっけ?」


「そのとおりです。そこにエネルギーがある、と意識して、

そこからエネルギーが背骨を通って、マントに伝わっていくのを

イメージしてみてください」


イメージ、と言われましても………。

でもまあ、カタチだけでもやっておこうか。


なんとなく腹部に力をこめ、お嬢さんに言われたようなことを

思い浮かべて、マントを意識してみる。


すると、マントがバタバタとはためきだした。


えっ、嘘っ、なんか熱いっ!

出るっ! なんか出ちゃうぅぅっっ!


「いい感じですよ、おじ様! あの街路樹を狙って、ビームを撃つイメージを!」


自分でビームって言ったよこの


出そうなのを我慢するのもなんか怖いので、言われるがままお嬢さんが

示した街路樹めがけ、ビームを撃つイメージ。


ビュババババババババババババババババババババッッッ!


はたして〈影〉ビームは、あっさりと我がマントから撃ち出された。

それも、幾筋ものビームが。


標的となった街路樹は黒いビームにめったやたらと撃ち抜かれ、

ボロボロになって倒壊した。

倒壊、倒壊である。


見た感じ、さっきお嬢さんが撃ってた〈ホーミング・シャドウ〉と、

威力は遜色ないように思えた。


おかしい。

そもそも自分のMP表示から、撃ち出せるはずはないと思ったのだが─────。


「素晴らしい! 素晴らしいです! おじ様!」


お嬢さんは、興奮気味に声をはずませて拍手など送ってくれる。


それから、勢いよくこちらに走り寄ってきて、

両手でオッサンの手を取り、握ってきた。


「おじ様! 是非とも、わたくしのサイドキックになってください!」


「えっ」


「サイドキック、つまり助手、及び相棒のことです!

 〈禍津怪まがつか〉狩りの!」


「ええっ!?」


鼻息も荒い感じで、お嬢さんはキラキラと目を輝かせ、グイグイと寄ってくる。


美少女に詰め寄られるとか、嬉しいシチュエーションのはずだ。

が、お嬢さんの口にしたことは、ノーセンキューな提案であった。


お嬢さんの提案。

それはつまり、今夜、無事にこの異次元から現実世界に戻ったあとも、

お嬢さんの怪物ハンティングに付き合わなければならないということである。


無理無理無理、絶対無理。

無理無理無理、絶対無理。


大切なことなので、心の中で二回言いました。


「おじ様のヒーロー・ネームは、〈シャドウ・レンジャー〉にしましょう!

 そうしましょう!」


ちょ!?

なんでこの、こっちがもう承認した風に言ってるの!?


がっついてる、と形容してもおかしくない勢いである。

最初に会った時のクール感はどこへ行った?


そう考えて、ふと思い至った。

このお嬢さんは、今まで、ひとり孤独にヒーロー活動を

してきたのではなかったか、と。


そう、ヒーロー活動だ。


怪物の行動は、現実世界に悪影響を及ぼすという。

お嬢さんは、自分が使える魔法のことを家族や友人に相談できず、

怪物から人々を守るため、ひとりで、ずっと戦ってきたのだろう。


そこに、同じ魔法が使える人間が現れたのだ。


初めて仲間が増えるかもしれない、とういうことで、

興奮してしまっているに違いない。

たとえそれがモブ顔のオッサンであったとしても。


………自分が十代の少年だったならば、おっかなびっくりながらも、

なんだかんだでお嬢さんの提案に乗っていたことだろう。


でも、オッサンには無理。

世知辛い現実に生きる社畜には、命の危険があるヒーロー活動とか

やってらんねえのである。


お嬢さんの活動は素晴らしいものだと思うし、できれば力になりたいとも思う。

しかしそれは『安全の範囲内で』という条件がつけばの話だ。


そもそもお嬢さんのステータスのHPとMPの数値は、

自分のものとは比べものにならない。

お嬢さんの助手になるどころか、足手まといにしかならないだろう。


あと、このお嬢さん自身の厄みも問題であった。


腹黒美少女にはこれ以上関わりあってはいけない。

そうささやくのよ、私のゴーストが………!


そういうわけで、オッサンはお嬢さんの手を、

ゆっくりと、はずすのであった。

そして、キッパリと言っておく。


「………申し訳ありません。その、お嬢さんの怪物狩りのお手伝いは、

できません」


「え────」


急に落胆した顔になるお嬢さん。


……やめてー! そんな顔しないでー!

なんだかこっちが悪いような気になってしまうからー!


けれど、ここではっきりと『NO』と言っておかなければ駄目だ。

できない約束は、できないのである。


「自分には、怪物退治とかはできません。……お嬢さんと同じような

パワーを使えても、なんと言うか、荒事は無理なんですよ」


「大丈夫です。わたくしが一緒にいますから」


あ、話が通じない気配。

い、いや、ここで折れてはイケナイ。


「……いやその、お嬢さんは〈神〉パワーを持っているかもしれないですが、

私はただのサラリーマンですから。一緒にいても、お役に立てないかと………」


「おじ様は、今しがた〈ホーミング・シャドウ〉を撃てたじゃありませんか。

それだけでも、充分に助けになります」


絶対に逃がさへんでえ~!

言外に、お嬢さんのそんな強い意志を感じる。


まずい流れだ。


だが、こちらも怪物とかと戦いたくない。

絶対に戦いたくないでござる!


これはもう、自分の本音をぶっちゃけるしかないと、オッサンは判断した。

それがお嬢さんに対しても、誠実な返答になるであろう。


「────その、いやらしい話になりますが。自分にも、生活があります。

普通に働いて、少ないかせぎで、自分ひとり生きていくので

いっぱいいっぱいなんです。……情けないと思われるでしょうが、

他人のために命を張れるほど、私は強くないんです………」


うん、自分で言ってて、かなり情けない。

でもこれが、本当のところだ。


アニメ好きの、モブ顔オッサンには、ヒーローなど絶対無理。

強力な魔法が使えるようになったとしても、だ。


「─────わかりました」


「あ……わかってもらえましたか……?」


ほっと胸を撫で下ろす。

よかった、納得してもらえて………。


「ええ。無料ただで働いてもらおうなどと、虫のよい話でしたね。

────きちんと報酬ほうしゅうをお支払い致します」


違う、そうじゃない。


オッサンは慌てて先の話の補足をしようと口を開く。


「え、いや、金銭的なことではなくてですね。

もっとこう、精神的な話でして……」


「まずは契約金として、五千万でいかがでしょう」


「えっ」


「五千万円です」


「えっ」


思わず耳を疑ったオッサンに、お嬢さんはしっかりと、

金額を繰り返してきた。


HA・HA・HA、バカ言っちゃいけないよGIRL!

と、一笑に付すことのできない額である。


オッサンの年収、約十八年分相当だ。


「………いやいや、いくらなんでもそんなお金、お嬢さんがひとりで……」


「お支払いできますよ? わたくしのポケットマネーから、一括で」


ポケットマネーから一括、ときた。

どんな十五歳だよ。


そう思っていると、こちらの心中を見透かしたように、

お嬢さんは説明してくる。


「わたくしの家、範徒院はんといん()は、日本でも結構な富豪なのです。

───わたくし自身も、有名企業の株主でもあるのですよ?」


────これまでのお嬢さんの言動からして、本当のことなのだろう。

そんな背景があるのなら、目玉が飛び出るような大金を、

自由に出来てもおかしくはない。


ぐらぐらっ、とオッサンの心は揺らいだ。


けれどこっちは、それでも安全を取りたいアラフォー世代。

ここは、絶対にNO!を貫き通す。


「……大変魅力的なお話です。会ったばかりの人間に、

そのようなお話、ありがたい、とも思います。

ですが、お金の問題ではないのです」


「と、おっしゃいますと?」


『と、おっしゃいますと?』、じゃないよ。

理由はもう、とっくに言ったじゃないのよ。


物わかりの悪いお嬢さんである。

いや、ひょっとして、わかった上で、しつこく交渉を

続けているのかもしれないが。


「もう一度言いますが、私は怪物退治ができるような、

強い心は持っていません。無理なんです。お嬢さんに命を

助けていただいたことは、本当に感謝しています。

でも、勘弁してください。私は一刻も早くこの異次元を出て、

怪物のことは忘れて、普通に生活したいんです。

……だから、申し訳ないですが、

お嬢さんの怪物狩りのお手伝いは、できません」


私ってば情けない男ですよ~、チキン野郎ですよ~。

そんなダメダメな雰囲気を前面に押し出しつつ、

断固拒否の言葉を繰り出し続ける。


「なるほど。精神的な問題というわけですね」


「……! はい」


やっとわかってもらえたか。


「───それならば大丈夫です! 要は慣れですよ、おじ様。

わたくしも、最初は気分が悪かったですが、今では平気の平左へいざですから!

 わたくしと一緒なら、すぐに場慣れすること間違いなしです!」


ダメだコイツ、早くなんとかしないと……!

これだけハッキリ拒否ってるというのに、こちらの言い分はお嬢さんには

まったく通じていないようであった。


と、いうか、お嬢さんの怪物へのファースト・インプレッションが

『怖い』ではなく『気分が悪い』であることが、地味に聞き逃せなかった。

それってば、害虫への嫌悪感みたいなものではなかろうか。


お嬢さんにしてみると、怪物狩りはそのへんの羽虫を捻り潰すくらいの、

お手軽感覚なのかもしれない。

どっちが怪物だ、という話である。


「────おじ様? どうしても、わたくしのサイドキックになるのは、

お嫌ですか?」


そんな考えが顔に出てしまっていたのだろうか。

お嬢さんは、上目遣いでそう言ってくる。


「……はい。お嬢さんの力になりたいのは、

やまやまですが、やはり、できません」


心苦しいのは本当だが、自分の命が惜しいので、きっぱりと答える。

諦めてもらうまで、何度だって断り続けてやるゾ!


「そうですか………」


お嬢さんは、うーん、といった表情で目をつぶり、腕組み。

だが、それも束の間、唐突に笑顔を浮かべ、こう言ってきた。


「なら、結婚しましょう! おじ様!」


「えっ」

サブタイトルフラグ、ひとつ回収~。(゜∀゜)

評価ポイントありがとうございます♪感謝……( ˘ω˘ )人

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