4迫 オッサンは、一狩り楽しめる年齢じゃない、っていう
「オッサンのスリーサイズはいらんだろう」
ということで、ステータス除外してます。(^∀^;)
【名前:牛浜手ナオキ】
【性別:男】【年齢:35歳】
【身長:171cm】【体重:74kg】
【属性:中立/善】【神名:*****】
【HP:9/14】【MP:*****/*****】
【保有スキル:解析の魔眼(弱)・状態異常無効・ラーンニング・身体強化・影魔法・空中飛行・精神操作(接触)】
自分のステータスが、表示された。
あー自分の属性が〈善〉に入ってるんだー。
HP、低いなー、お嬢さんと比べて桁が違うぞー。
神名の表示なしは当然として、MP表示なしワロスwwwwww。
ってゆーか、HP削れとるやんけ! サービス残業のせいか!?
などなど。
他人事のような感想を抱きつつも、気になる表示が保有スキル欄。
〈解析の魔眼〉、これはまあ、ステータス表示のぶんだろう。
続く五つのスキル名、これは──────?
うち四つのスキル名は、お嬢さんのステータス・ウィンドウで
確認したものである。
とすると、それ以外の、〈ラーンニング〉スキル。
これはどうやら、自分独自の保有スキルであるらしい。
ということは、〈ラーンニング〉、これってば、ひょっとして………。
「おじ様、ストップです」
先行するお嬢さんが声を潜めてそう言うなり、立ち止まった。
何事かと思いお嬢さんの視線の先を追うと────いた。
距離、50メートルくらい先の電柱。
その電柱の上に、明らかに普通じゃない存在が、
こちらに背を向ける格好でたたずんでいる。
全体の大きさやフォルムは人型のものだが、その背中には
巨大なコウモリのような翼が生えていた。
加えて、腰のあたりには、巨大な爬虫類系のしっぽが生えている。
電柱の先端という、ほぼほぼ足場のない場所で、
猿のように両手両足をついて器用に止まっていた。
どうやら、こちらには気づいていない様子。
「────おじ様、“あれ”の名前は、見えますか?」
言われてオッサンは、自分の役割を早々に果たすことにする。
なぜなら、一刻も早くおうちに帰りたいから。
……ステータス・オープン!
【名前:ベンジャミン】
【性別:*】【年齢:3歳】
【身長:198cm】【体重:90kg】
【属性:混沌/中庸】【種族名:夜鬼】
【HP:250/250】【MP:80/80】
────んー………?
見えることは見えたが、名前、これ………固有名とか、あるんだ。
どうでもいい発見と驚きである。
が、まあ、おそらく、お嬢さんが知りたいのは、種族名のほうだろう。
「……夜の鬼、夜鬼という文字が見えます」
「夜鬼……。わたくしは、
〈鳥鬼〉と呼んでいました」
オッサンの囁きに、お嬢さんはどこか悔しそうに声をもらす。
翼が生えてるから、〈鳥鬼〉か。
そういう安直なネーミング、嫌いじゃないよ。
「……見ていてくださいね、おじ様」
お嬢さんは不敵に笑うと、やおら夜鬼へと突進した。
かと思った次の瞬間には、お嬢さんは地を蹴って飛んでいた。
夜鬼は、背後から迫りくるお嬢さんに、振り返ることもできなかった。
お嬢さんの左手が、横薙ぎに振るわれる。
闇の中でなお黒い影が、お嬢さんの左手からのび、一閃。
ボシュッ
そんな音共に、夜鬼の首が、夜空に舞った。
【名前:ベンジャミン】
【性別:*】【年齢:3歳】
【身長:198cm】【体重:90kg】
【属性:混沌/中庸】【種族名:夜鬼】
【HP:0/250】【MP:0/80】
夜鬼のHPとMPは、一瞬でゼロに。
お嬢さんが着地する間に、夜鬼の首と胴体は、
オレンジ色の光の粒子となって、消滅していった。
背後からの不意討ちとはいえ、一撃かよ!?
本当に強すぎだろ。
大きな口を叩くだけはあった。
〈神〉お嬢さん、マジ神だわ。
………と、思うと同時に、怪物相手とはいえ、躊躇なく首を
刎ねてしまえるお嬢さんに、ドン引きする自分がいる。
「────どうです? まあ、今の夜鬼は、
さして大物とは言えませんけど……。
わたくしの強さ、少しは理解していただけましたか?」
マントを颯爽とひるがえしながらこちらに戻ってきて、ドヤ顔なお嬢さん。
これは、あれだな。
今までずっと、ひとり孤独にヒーロー活動してたんで、
自慢したいシチュエーション到来なのだな。
ベンジャミンは、その犠牲になったのだ………。
お嬢さんのご機嫌を損ねるのもまずいので、ここは素直に賞賛しておこう。
おべっかになりすぎない程度で。
「たった一撃で倒せるなんて、凄いですね……。本当に、お強い………」
お世辞に聞こえない感じなら、こんなところか?
まあ、実際に思ったことを口にしただけになったが。
オッサンの静かな賛辞を受け、お嬢さんは、まんざらでもないご様子だ。
発育のよろしいお胸を張り、ふふ、と口元に笑みを浮かべ、得意げである。
「夜鬼はこの〈波紋境〉でよく見かける個体で、
いわば雑魚モンスターですから。造作もないことです」
……そう言いつつも、お嬢さんは鼻高々な感じ。
ちょっとチョロいかもしれない。
謀略系美少女のくせに、悪い大人からコロッと騙されそうで心配である。
「……むっ」
お嬢さんが、唐突に少し険しい顔になって、そんな劇画調の声をもらした。
「どうしました?」
「〈禍津怪〉の気配を感知しました。────少し、数が多いですね」
「えっ、た、大変じゃないですか?」
お嬢さんの報告に、オッサンは浮き足だってしまう。
どれだけお嬢さんが強かろうと、数の暴力には勝てないかもしれない。
戦争は数だよ、ってエライひとも言ってた。
どっこい、お嬢さんは余裕そうに、ふふ、と不敵に笑う。
「おじ様。わたくしの〈神〉パワーはまだ、その片鱗しか見せていません。
敵の数が多いほど、その圧倒性を披露できるというものです」
「え……と、いうことは………」
「はい。殲滅していきましょう」
で、ですよねー。
どうやらやっぱり、お嬢さんの気の済むまで付き合うしかなさそうだった。
せっかくの美少女との随伴も、命の危険があっては、まったくもって嬉しくない。
お嬢さんはお菓子でも買いに行くかのような、楽しげな足取りで歩き出した。
オッサンは無言でそのあとを追う。
意気揚々、気分上々。
そんな調子で歩くお嬢さんに付いていってほどなく、
我々は大通りの十字路へとたどり着いた。
お嬢さんは、歩みを止めることなく、
車道へ出て、十字路の中心に向かう。
え、ちょっと、どこまで行くの。
車など通らぬ異次元ではあるけれど、
そんな開けた場所に堂々と行って大丈夫なのだろうか。
そう思ったが、まるでこちらを振り返らぬお嬢さんに、
声をかけることに気後れする。
結果、オッサンもそのままお嬢さんのあとを追い、車道をグイグイと進むことに。
そして、お嬢さんは十字路のど真ん中で立ち止まった。
お嬢さんはバサリとマントを大きくひるがえして、くるりとこちら向き直る。
右手を芝居がかった手振りで広げ、一言。
「さあ────ご照覧あれ」
「えっ」
なにを、と言いかけて、こちらを見つめる視線に気づく。
あたりを見回すと────いた。
先ほど倒したのと同様の怪物、夜鬼であった。
ただし、一体ではない。
歩道にうじゃうじゃと……間違いなく、五十体以上はいる。
『少し数が多い』どころではない。
十字路の中心に立つ我々は、完璧に囲まれていた。
「い、いつの間に……?」
オッサンはびびって、思わずそんな声をもらしてしまう。
いやだって、さっきまで歩道にはマジでいなかったもの。
「影に潜んでいたのでしょうね」
一方、お嬢さんは、楽しくて仕方がないといった様子。
頼もしいけど、やっぱ怖ェよこの娘。
『『『────────────────』』』
夜鬼の群れは、声ならざる声を発して、
取り囲んだ我々ににじり寄ってきていた。
……先ほどは背後からの観察だったのでわからなかったが、
夜鬼には顔がなかった。
たとえるなら、頭に二本のツノが生えたのっぺらぼう。
目はないというのに、こちらを捉えているであろう、という感覚が、めっちゃ怖い。
「お、お嬢さん? だ、大丈夫なんですよね……?」
気分的には
『お嬢さぁぁぁん! 無敵の〈神〉パワーで
やっちゃってくださいよぉぉぉっっっ!』
と泣きつきたいところ。
そんな心境で、お嬢さんを振り返ると。
お嬢さんは、両腕を組んで仁王立ち、
いや、ガ●ナ立ちで、宙に浮いていらっしゃった。
黒マントが、格好良くザワザワとはためいている。
そのお嬢さんの姿を見て、夜鬼の群れは、どんどん接近しはじめた。
空中5メートルくらいに達した時、お嬢さんの口が動いた。
「─────ホーミング………」
夜鬼の群れも、その時、一斉にその翼で飛翔を開始。
お嬢さんめがけて、殺到してきた。
「……シャドォォォォォォッッッ──────────!!!!!!!!!」
お嬢さんが叫ぶと同時に、黒マントから幾条もの〈影〉が閃いた。
さながらそれは、黒いレーザー・ビーム。
それらが飛翔してくる夜鬼すべてを、撃ち貫いていく。
『『『───────────!!!!!!?!?!?!?』』』
夜鬼の群れが、驚愕と混乱の中、
次々に〈影〉ビームに射抜かれ、絶命していった。
わざわざステータス・ウィンドウを開いて確かめるまでもない。
撃たれた夜鬼は、撃たれたその場で、
どんどんオレンジ色の粒子になって、消滅していくからである。
回避に成功し、逃亡を試みた夜鬼たちもいた。
が、〈影〉ビームはギュンッ!と軌道を変え、
避けた夜鬼へ再び狙いをつける。
『『『───────────!!!!!!!』』』
〈影〉ビームはどこまでも夜鬼を追い、その体を撃ち抜いた。
夜鬼たちが次々にオレンジ色の光の粒子となっていく。
その光景は、まるで花火による演出のようであった。
夜鬼の群れ、全滅。
この間、十秒と経っていないだろう。
〈神〉お嬢さんってすごい。
オッサンは改めてそう思った。
………なんとなく、お嬢さんのステータス・チェック。
【名前:範徒院夜子】
【性別:女】【年齢:15歳】
【身長:164cm】【体重:55kg】
【バスト:86】【ウエスト:56】【ヒップ:84】
【属性:秩序/善】【神名:ナイアラートテップ】
【HP:11000/11000】【MP:311000/32000】
【保有スキル:怪力・身体強化・加速・影魔法・空中飛行・精神操作(接触)・高速治癒】
────さっき覗いた時から、MPはあんまり減っていない。
とすると、今の凄い〈影〉ビームは、
お嬢さんにとって初歩的な攻撃手段ということになる。
う~ん、頼もし怖い。
絶対に怒らせないようにしよう、と心に誓う。
「……今の技が、〈ワンダー・シャドウ〉十大必殺技のひとつ、
〈ホーミング・シャドウ〉です」
お嬢さんは、ゆっくりと着地しながらそんなことをドヤ顔風味でおっしゃった。
しかし、〈ホーミング・シャドウ〉ね………。
アニメ好きのオッサンとしては、どこかで聞いたような必殺技名である。
MP消費量はそれほどでもないのに、十大必殺技のひとつなのか。
そうなると、残りの必殺技の威力が気になるところである。
見たいような、見たくないような。
「今みたいな凄いのを、まだ他にも使えるんですか?」
とりあえず、お嬢さんをよいしょする方向で話題を振る。
ウッカリ高ノリしているお嬢さんを持ち上げて、
上機嫌でいてもらおうという魂胆だった。
人間、気分が良いと、ひとの頼み事もちゃちゃっと聞いてくれるものだ。
早く現実世界に帰りたい。
「そうですね。今の〈ホーミング・シャドウ〉は、
威力的には下から三番目くらいのものです」
下から、って今ので!?
上の方の威力は、どんだけなんだ。
と、いうか、今以上の攻撃火力が必要になる怪物がいる、
ということでもあるのでは………。
帰りたい、帰りたい。
あったかくはなくとも、危険のない安アパートの一室に早く帰りたい。
なぜに怪物がウジャウジャいる異次元で、デンジャラスお嬢さんと
モンスター・ハンティング?
アニメ好きモブ顔のオッサンとしては、怪物との魔法バトルは、
部屋でポテチかじりながらテレビで見るものである。
とばっちり負傷する危険と隣り合わせで、間近で見るなんてもってのほかだ。
ああ、自衛のために、自分もお嬢さんのような魔法が使えればなあ─────。
そう、思った時。
ビュン!
という音と共に、首すじと両肩あたりに衝撃を受け、熱が生じるのを感じた。
「えっ!?」
オッサンは突発的な事象に、混乱した。
が、すぐになにが起こったかわかった。
マントである。
お嬢さんがまとっているような黒マントが、
いつの間にやら自分の背に出現していた。
格好としてはおそらく、お嬢さんと同じようなものだろう。
こ、是は何事ぞ……!?
「────おじ様、それは、いったい……?」
ドヤ顔風味の、上機嫌調から一転。
お嬢さんが、硬い表情でこちらを見ていた。
「あ、いや、なんでしょう………」
ステータスのことで少々隠し事をしているオッサンは、しどろもどろに。
黒マントを片手でつまんで、愛想笑いなどひとつ。
「お、お揃いになりましたね?」
「……………」
────とりあえず、ジョークはスベッた。
な、なにー、なぜオッサンが黒マントをー?(棒)
ステータスに秘密があるのかー?(棒②)