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不思議は銀髪少女のようで  作者: 三田啓介
1/1

プロローグ

波乱を求めることは退屈に生きている人生を楽しく生きるために必須なものなのであろうか。人によって様々であるという意見はもちろんで、行動的なやつはそれこそ海外に行ったり受動的なやつでもそれなりの行動を起こすのかもしれない。しかし実際のところ波乱が起きると言うことはその分だけ自分に何かしらの負担がかかるわけで、それがいくら楽しいもので合っても避けた方がいいのじゃないかと思うこともある。毎日学校に通う中で明日から風邪でも引いて何日か学校やす目ねぇかなと思いいざ本当に風を引くとしんどいし、休みも三日ぐらいで飽きてしまうなんて事を経験したことがある人もいるだろう。波乱でなくとも、何かしら自分の人生に意味を与えようとする行動をする人は多いんじゃないかと思う。それは外的影響のたどり着く場所であり自分で起こすこともできる最も単純な意味づけ。人生において節目というものが何回あるかというのは人によって様々であるわけで一概に何回、と言い表すことはできないであろう。明日から頑張ろうと毎日が人生の節目であるようなドラマチックな人生を送っている人もいればその一方で特に節目を感じることなく生きる人々もまた世の中にはいるのである。結局のところ節目というのは個人の感覚に依拠するものなのであり、他人がどうこういうものではないのである。しかし一方で人間は社会生活をその他大勢の自分以外の人間と共に過ごしているわけで、いくら個人の中に定規が存在するとはいえ、強大すぎる事柄に対しては人々は一様に示すのである。そう考えると、個人の感覚を破壊することは理論上そんなに難しいことでは愛のかもしれない。その力を起こせるかどうかは別として。そうしたことは起こりうるのである。申し訳ない、少々無駄話が過ぎてしまった。しかしこんな話をしたのにも理由がある。それは、俺が当事者になってしまったと言うことである。壊された側だけでなく、壊した側にもなってしまった。定規は完膚なきまでに破壊され、節目どころかそれ以前が全て無とも言えるような新しい人生が始まったのである。始めさせてしまったのである。幸不幸の話をするのであれば、不幸であるように思う。どれだけ言葉を重ねて取り繕ったとしても、互いに残る罪悪感は一生消えない。もう、壊れたものが元に戻ることはない。悲壮感に溢れる出だしで非常に申し訳ない。当人がそう思っているだけで、その実一歩引いた場所から見ていればどこにでもあるような、もしかすると喜劇にすら感じられるかもしれない。そう思って話を始めようと思う。世界が変わった日、俺の人生が新たに始まった高校の入学式の日の事を。



最悪だ…全くもって最悪だ。世の中の中でこれほど最悪な人間が生まれてしまったことを神様に懺悔しなければいけないほど最悪な事をしてしまった。信じる神様がいなくとも全人類に対して謝罪しなければならない最悪の行動を犯してしまった。穴があったら入りたいどころかその穴の中で一生を過ごしてしまってもいい。俺なんかはそうすべきなんだ。窓に映る自分を眺めながらため息をつく。入学式へと向かう地下鉄の中には、俺と同じような格好をしたスーツや着物(晴れ着?)を来た人たちでごった返していた。聞くまでもなく周りの連中も3駅先で降りるんだろうし、俺もその駅で降りる。俺と彼らで違っていることといえばその表情でだけあろう。朝からパチンコで小遣い全部溶かしたサラリーマンのような悲壮感あふれる顔をしている高校生は俺だけである。もしかしたらこのスーツのおかげで本当に大負けしたサラリーマンと思われているかもしれない。家を出る前までの誇らしい加持や、新たな生活に対する期待感なんてものはすでに俺の知らないところへ飛んでいったし、もうこれからの人生をどう生きようかと電車に乗った瞬間に考えることしかできなくなっていた。そんな風貌でいるからかたまたま横を向いた時に目があった女子高生からドン引きされて一瞬で目を逸らされてしまった。小声で何か言っていたのも聞き逃さなかった。普段であればどうでもいいことさえも心にズバズバと刺さってくる。そんなこんなでまたため息をつき、目的地まで懺悔を繰り返していた。許して神様…

「まもなく、日吉、日吉、お出口左側でございます、今日も一日いってらっしゃいませ」

車掌さんのアナウンスとともにドアが開く、重い足をなんとか動かし外に出る。お茶を飲むためにベンチに座ると前の方から知った顔が近づいてきた。

「朝からどんな顔してるんだよお前…返済に追われるサラリーマンみたいな顔してるぞ…」

どうやら本当に死にかけのサラリーマンのようだったらしい。意思と反して声がでない喉を抑えてなんとか声を出す。

「なんでもねぇよ…」

その一言が限界ですらあった

「なんでもなかったら今日高校生になるようなめでたい奴がそうはならんやろ」

「…なっとるやろがい」

ツッコミの声は自然と出るらしい。なんかアホなこと言え吉原。

「なぜかわからんがお前からすげぇ失礼な事を考えてるオーラを感じる」

「いいから立てって、遅れるだろ入学式」

そういって左手を差し出す吉原を拒むことはできなかった。

「悪い、助かるよ」

なんとか立ち上がり吉原の左側に立つ。

「んで、どうしたんだお前。季節外れのインフルエンザでも発症したのか?」

呆れ混じりの声で吉原は問いかける。

「んなわけないだろ、ただちょっと、神に懺悔しなければならないことを犯してしまったんだ…俺は」

「どうしたら一介の高校生がそんな大罪犯せるんだよ…人でも殺したのかお前」

「俺が死んでもいい」

「訳のわからんことを言わんでいいから内容をいえ内容を、中身の伴った言葉を返せ」

政治家の公約ですらほわんとしているというのに、中身、ねぇ…

「見ちまったんだよ…」

「何を?」

「見てしまったんだよ、女子高校生のパンツを…」

「…」

吉原は一言も発さなかった。何も聞かなかったと言うばかりに俺の手から水筒をひったくりお茶をグビグビと飲んでいる。

「そういうわけで、俺のこれからの人生は人のために尽くそうと思うんだ…」

「好きにやってろ、なんにせよ大ごとじゃなくてよかった」

そう言いながら水筒を俺の手元に返す吉原。俺にとっては重大なことではあるがこいつにとってはさほどのことなのであろう。

「ほら、ちんたら歩いてないで行くぞ」

少し歩調を早めた吉原を追って俺は階段を駆けて行った。

改札を抜けて右に曲がると、そこには高校へと続く一本道があった。両脇に並んでいる木々は荘厳で威圧感を感じる。しかし一方でそれが落とす葉っぱは俺たちを歓迎している花吹雪のようにも見えた。明確な門というものが存在しないこの学校では、新入生が各々居心地の良い、決まりのいい場所で記念撮影をしていた。

「お前んとこの母親だか父親だかは来ないの?」

俺と並んで新入生を眺めていた吉原が声を発する。

「来ないな、というよりも来れないといった方が正しいなこの場合」

うちの両親はどちらも高校教師をやっているわけで、つまり勤め先の入学式が行われているわけである。入学式ぐらい来てくれてもよかったんじゃないかとは思うが、仕方のないことなのであろう。

「ああそうか、いすみの家は二人とも高校教師なのか」

「そういうお前は?」

「もうすぐ来るよ、電車が遅れてるらしい」

そういって吉原は周りを見渡す。

「しっかしすげぇな、見渡す限り明らかに俺らとは違う人種の人間ばかりだぞこれは」

豪勢な着物を着ている者、黒塗りの高級車から降りて来る者、普通に見えるような生徒でさえその装飾品や衣服に気品が漂う。かつてこの私塾を創設した一番価値の高いお札に載っているあのおっさんもこうなるとは思っていなかっただろうな。栄誉とか階級意識が大嫌いだったらしいし。そんなこんなでこれから通う高校の創設者に想いを馳せていると、駅の方から見覚えのある一団が見えてきた。

「悪い!時間ないから先いっといてくれ!」

そう言いながら吉原は一段へと向かって行った。どうやらあいつの妹は元気らしい、吉原に殴りかかってるし。

手持ち無沙汰になり、校舎の方へ体を向けた瞬間、見覚えのある女子生徒が俺の前にたちはだかった。俺の事を見て聞いてドン引きしていた例の女子生徒である。綺麗な黒髪は短く切り揃えて、ショートボブのような髪型をしていた。身長は俺よりちょっと低いぐらいだろうか。白いパーカーをだるそうに着崩して、見るものにクールな印象を与える。らんらんだかシャンシャンだかの専属モデルと言われても信じてしまいそうなぐらいの美少女であった。そんなことは束の間、血の気がスーッと引き気づけば頭を下げていた。

「ごめんなさい!!!わざとじゃないんです!!わざとじゃないから…」

渾身の謝罪。初手謝罪。罪悪感が身を苛み出す前に謝る。5秒、10秒経っても反応がない。逃げられても仕方ないかと顔を上げると、その生徒はため息をついて言葉を発する

「何したかは知らないけど、そうじゃないから、知らないから。ただ聞きたいことがあるの、あんたに」

その返答は心底意外な者であった。てっきりさっきのことバラされたくなかったら金よこせぐらいの事を言われるぐらいには覚悟していたのに。

「…聞きたいこと?何?余罪の追求?」

「違うから、何したのよあんた。ってそんなことはどうでもいいの一つだけ質問に答えて」

断る理由もないので素直に頷く。

「あんたさ、昔私とどっかで会ったことない?」

はて、文脈上さっきの地下鉄で目が合ったとかそういうことではないのだろうが、あるだろうかこの人と出会ったことが。記憶をたどってもそれらしい女性は出てこない、もしかしてナンパでもされているのだろうか。そんなこと言うと今度は殺されかねなそうなので、至極単純に返答する。

「いや、ないな。多分初めましてだよ俺たち」

少女は少しだけ残念そうな顔をした。しかし、これだけ印象的な人物と出会っていたら必ず覚えているはずだ。少し沈黙が続いた後に少女が話だす。

「…そっか、ありがと。ごめんね変なこと聞いて、一緒のクラスかわかんないけどよろしくね」

一転して柔らかい笑顔を見せる少女。惚れてしまいそうなぐらい美しい笑顔だった。

「おーい、雪花ちゃーん新入生代表でしょー?早く行くよー」

少女の後ろの方から声がかかる。これまた特徴的な銀髪の少女が、彼女を呼んだようだ。

「分かった、今行く」と返事をし、それから俺の耳元で

「ごめんね、これからよろしく」と優しく囁いた。

そして返事をするまでもなく、少女二人は走り去っていった。なんだったんだろう一体。きつねに化かされたような気分だ。ぼーっと立ち尽くしていると、今度は俺の後ろの方から声がかかる。

「もう式始まるし早く行くぞー」

家族と別れたらしい吉原が後ろから肩をポンと叩く。

「ああ」

とだけ返事をし、式場へと向かった。


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