◆第97話◆ 『文化祭準備一日目』
ちょっと短いですが、これ以上書くとキリが悪いので。
――朝比奈美結。
藍色のツインテールに、切れ長な目。星宮と同じクラスであり、女子グループの中でもカースト上位に君臨する女。彼女を簡単に解説するとすれば、承認欲求が高く、一途で、嫉妬深い。それに加えて頭も悪いのだが、それ故、騙されやすい素直な性格をしている。それが朝比奈美結という女だ。
朝比奈と星宮の関係は、まさに水と油。何せ、二人は以前、ぶつかりあっている。
詳しい解説は省くが、結論を言えば最終的には朝比奈が負けた。しかし、この事件を知るものは学校内でも僅かで、教師陣の耳にも渡っていない。何故大事になっていないかと問われれば、事を大きくしたくないというのが星宮の望みだったからだ。それ故、この事件の加害者である朝比奈含む取り巻きたちは、何の処分もなく、平然といつも通りの生活に戻っていってしまった。
それからというもの、星宮と朝比奈は一切の関わりをしなくなった。廊下で二人きりで会っても、お互い見向きもしない。事件は収まったといえど、二人の関係は修復されないどころかいつの間にか悪化してしまった。
このまま三学期を終えればクラス替え。もうすぐ険悪な関係である二人は別々になる。そうだというのに、何の因果か、二人は『創作物コンテスト』のペアとなってしまった。
『それじゃあ、今日の放課後はさっき発表したペア同士で集まって、『創作物コンテスト』で何を作るのか決めてもらおうか。じゃあ、早速ペアごとに集まってー』
という北条の指示により、早速ペアごとに『創作物コンテスト』の打ち合わせをすることに。その間に、一切の心の準備はできなかった。
よって――、
「......よろしくお願いします」
「......」
「......」
スマホを弄り、こちらに見向きもしない朝比奈。先の思いやられるやっぱり最悪なペアに、星宮は表情を強ばらせた。
***
――『創作物コンテスト』。
それが、今年の文化祭から行われる新しい試みの名称。全学年がクラスごとに二人ペアを作り、それぞれの作品を作る。何を作るかはペア次第で、材料も自由。最後に、作った作品はすべて文化祭当日に展示されて、教師陣やその日に来校するお偉いさんたちが『創作物コンテスト』の最優秀賞を決める。
ペアとは、これから文化祭までの放課後、毎日共に活動することになる。北条の言葉通り、まさに運命共同体のペアだ。最優秀賞を目指すには、ペアの連携力と器用さと想像力が試されることになるだろう。
ちなみに、今教室の机はすべて片付けられているため、クラスメイトは全員地べたに座ってペアと話し合いをしている。朝比奈は壁に背中を預けているので、星宮は若干距離を空けて、おずおずと朝比奈の横に座った。
「......あの、何作りますか?」
「――」
「......」
目も合わせられず、ガン無視される星宮。と思いきや、不意に朝比奈が視線だけ向けてきた。
「......あんたに全て任せるから。私は協力するつもりない」
「っ」
かけられたのは、ほぼ星宮に対する拒絶の言葉。その朝比奈の言葉に少しでも迷いの意思を感じ取れたのなら、星宮は考えを改めるよう説得しただろう。だが、無理だった。今の朝比奈の口調はハッキリとしていて、やる気も感じなくて、こちらとのコミュニケーションを取ることを嫌がっている。今のたった数秒の言葉で、それだけの事を感じ取れてしまった。
「そう、ですか」
朝比奈は過去の遺恨をまだ引きずっているのか。しかし、あのとき一番苦しかったのは星宮だ。理不尽すぎる冤罪をかけられて、暴力まで受けて。朝比奈のせいで、一時はどれだけ心がぼろぼろになったことか。
「......」
悪いのは圧倒的に朝比奈の方なのに、文化祭のペアになってしまったからといって、こんなあからさまな拒絶をするなんて、とても理不尽だと、星宮は思う。だから言い返したいけれど、星宮は朝比奈が怖い。一度いじめられた相手なのだから当たり前だ。
でも、このままでは『創作物コンテスト』に参加できなくなる。朝比奈の言う通り、星宮が一人で作品を作り上げるという手もあるが、そんなの惨めなだけだし、面白くもなんともない。
だからやっぱり、星宮には朝比奈の力が必要なわけで――、
「私はあんたと会話したくない。あんたも、私と話なんてしたくないでしょ」
結局、何も話は進まないまま文化祭準備一日目は終わりを迎えた。過去の遺恨を引きずる朝比奈をどう動かすかが、しばらくの課題になりそうだった。
最近、誤字が多くて申し訳ないです。