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◆第80話◆ 『宝石級美少女の過去(後編)』

過去最高に難産な回でした


 ――いつ意識を失って、いつ意識を取り戻したのか、覚えていない。


 でも、気がついたときには周りに誰も居なくて、私は一人ぼっちで校舎裏に横たわっていた。あかりちゃんも理沙ちゃんも、どこか消えている。どこ行ったんだろう。


 外はもう真っ暗。とりあえず校舎裏から出ようとするけれど、体の至るところがずきずきと傷んで、立ち上がるのさえ一苦労。私は息を荒くさせて、強引に立ち上がった。口の中が血だらけで、とても痛いし気持ち悪い。


 私は体を引きずるようにして歩みを進め、校舎内へと入っていく。ただひたすらに、何も考えずに私は職員室に向かっていた。保健室よりも、職員室を優先した。



「――先生たちに、言わないと」



 このときの私は、本当の地獄の始まりはこれからだということをまだ知らない。



***



 翌日の朝イチ、絆創膏だらけになった私は、職員室で学年主任の先生と昨日に引き続き話をしていた。どこか気まずそうな様子の先生は、何故か苦笑いを浮かべている。


 そんな様子のおかしい学年主任の先生は私にとんでもないことを言ってきた。


「えっとね星宮さん、岡田シャンドルくんと神代真由美さんの処分についてなんだけど、多分どちらも停学一週間という形になりそうだ」


「......は?」


 私は、その言葉を聞いて、思わず失礼な言葉を漏らした。だって、今学年主任の先生が何を言ったのか理解できなかったから。急にこの先生は何を言っているんだろうって。


「ちょっと待ってください、意味が分かりません。停学一週間というのはどういうことですか」


「いや、あのね星宮さん。昨日の夜、我々教師陣がそれぞれの家庭に電話をかけてだね、それでこちら側でいろいろと決めさせてもらったんだよ」


「私のところには電話は来ていません。停学一週間とか、何を勝手に決めてるんですかっ。そんなの罰として軽すぎると思いますし、罰を決める前にもっと事情聴取をするべきじゃないですか! 私、まだ先生に何も詳しい事情を話していませんよ!」


「......」


 何の話し合いもせずに、何で罰を決めているのか意味が分からない。あまりにも雑すぎる先生の対応に、私は声を荒げた。そうすると先生は困ったように頭を掻く。


「......星宮さんの気持ちは分かるよ。でもね、岡田さんと神代さんにもいろいろと事情があるようでねぇ」


「いや、私は被害者で、シャンドルくんと神代さんは加害者なんですよ!? なのになんで私じゃなく二人を優先するんですかっ」


「うーん......気持ちは分かるんだけどねぇ」


 先生の様子は明らかにおかしかった。こんなのまともな対応とは言えないし、あまりにも酷すぎる。


「は......? 私、何にも悪いことしてないのに、こんなにケガしたんですよ。友達の、あかりちゃんと理沙ちゃんだってケガを負わされてました。なのに学校側の対応がこれですか? いくらなんでもおかしくないですか?」


 被害者と加害者。どっちが事後に優遇されるべきかなんて考える余地もない。でも何故か先生はその当たり前をしてくれようとしない。それは、何か後ろめたいことを隠しているようにも見えて――、


「――星宮さんと同じ場所に居た遠藤さんと赤井さんなら、神代さんと岡田くんが『停学一週間の処分』を受けるという条件を飲んだよ」


「え? あかりちゃんと、理沙ちゃんが......?」


 私は耳を疑った。だって、あまりにも信じられないことを言われたから。なんで二人は停学一週間の条件で納得しているのか分からない。


 よく分からない嫌な寒気を感じ、気づけば私はその場から立ち上がっていた。


「ちょっと、あかりちゃんと理沙ちゃんに話を聞いてきます」


「あ、ああ分かったよ」


 すごく嫌な予感がした。胸騒ぎが止まらない。



***



 私は教室の扉を開け放ち、真っ直ぐにあかりちゃんと理沙ちゃんの元に向かった。


「あかりちゃんっ。理沙ちゃんっ」


「あっ......」


「......」


 私が遠慮なく話しかけると、何故かあかりちゃんと理沙ちゃんは揃って気まずそうに私から視線を逸らした。よく分からないけど、私はそのまま二人に言葉を続ける。


「なんで、シャンドルくんと神代さんの『停学一週間』の話に同意したんですかっ。もっと話し合ってから――」

 

「あの、琥珀。......ううん、星宮、さん」


 理沙ちゃんが私の言葉を遮る。顔を俯かせて、私のことを遠ざけるように『星宮さん』って呼んで、暗い様子で口を開いていた。私は意味が分からず、「え?」と溢す。



「突然で悪いけど、もうアタシたちに関わらないでくれない?」



 理沙ちゃんから放たれた言葉は、数秒は理解できなかった。でも、ゆっくりと脳内で処理されて、私の背筋は凍っていく。謎の震えを感じながら、私は口を開く。


「.....え?」


 理沙ちゃんとあかりちゃんの態度がよそよそしい。まるで、二人とも私と居るのが嫌みたいな感じ。やっぱり意味が分からず、私は二人に手を伸ばそうとした。


「どういう......こと、ですか。理沙ちゃ――」


「どういうことも何も、アンタは友達から捨てられたんだよ、星宮」


 急に割り込んできた、この場には居ない第三者の声。その声が聞こえた方に振り返ると、そこには神代さんが立っていた。昨日ぶりの対面に、私は呼吸を詰まらせる。


「神代、さん。二人に何か、したんですか」


「いやいや勝手な邪推しないでよ。ワタシはただ事実を言っただけじゃん。アンタは友達から見捨てられたの。分かる?」


 話の整理が追いつかない。何で学校側がまともな対応を取ってくれないかも分からないのに、そこに更に意味不明が重なった。何で私は、友達に拒絶されているの。


「てか星宮、絆創膏だらけじゃん。ダサいしキモくね。せっかくお顔が可愛いのにそれじゃ台無しだねぇ」


「は......? ちょっと待ってください。え?」


 悪口を言われているのに、理沙ちゃんとあかりちゃんは庇う素振りすらみせてくれない。昨日まであんなに仲良かったのに、なんで。分からない。分からない。



「――本当に、ざまぁないわ星宮。ワタシがそう簡単に退学するとでも思った? 学校の先生なんか、ワタシからしたらチョロいもんよ」



 神代さんがニマァといやらしい笑顔を作った。私は何も言葉を返せなくなって、ただ呆然と立ち尽くしていたと思う。そのときは、ただ神代さんの恐ろしくて仕方なかった。


 それでも、分からないことだらけでも一つ分かったことがある。この意味不明な事態の裏にはすべて、神代さんが関わっているということ。そうじゃなければ、こんな最悪の事態に陥るわけがない。



***



 それから精神状態が崩れた私は泣き寝入りして、神代さんとシャンドルくんは停学一週間の処分だけを受けることになったらしい。私には、学校側がこの騒動を隠蔽しようとしているようにしか見えなかった。


 お父さんが居ればもっとどうにかすることができたかもしれないけど、生憎と私は一人暮らしだし、お父さんは海外で働いている放任主義な人。頼れることなんて何一つない。


 教育委員会に連絡したり、警察沙汰になれば、もしかしたら少しは戦えたかもしれない。でも、そうするとお父さんに迷惑をかけることになる。複雑な事情を持つ私には、できない選択肢だった。

 

 そして、それとは別に、私は何故か友達も失った。この日を境に、あかりちゃんと理沙ちゃんは私と距離を置いてきた。距離を置いたという表現は甘すぎるかもしれない。二人は私を拒絶していた。きっと神代さんが何かしたのだろうけれど。



***



 ここから語るのは、私がもうあと数ヶ月して分かったことの話。


 神代さんは、どうやらここの学校の校長先生の子供だったらしく、上層部の権力を使って、事態を大きくしないように、強引に騒ぎを収めたらしかった。どうりで学校の対応が酷かったわけ。そんなの、あまりにも卑怯だ。


 そしてあかりちゃんと理沙ちゃんが私を拒絶し始めた理由。それは、神代さんが二人を脅していたのが理由だったそうだ。どういう脅しをされたのかは分からないけれど、そんな簡単に友情が崩れるとは思いもしなかった。二人を信じていたのに、とても裏切られた気分だった。



***


 

 友達を失ったその日から数週間、私はイジメを受け出した。発端は神代さん。


 私はあの日以降も告白を受け続けていた。勿論全部断っているけれど、それを不愉快に思った神代さんが更に私を陥れようとしてきたらしい。今では神代さんのグループがちょくちょく私に嫌がらせをしに来る。

 

「......」


 靴置き場に置いていた靴に、いつの間にか砂が詰められていた。昨日とおんなじ。そんな惨めな私に、クラスメイトの私はきっと気づいてくれているはずなのに、誰も救いの手を伸ばしてはくれない。


 砂を振り落とし、私は一人で学校の外に出る。僅かに顔を俯かせて、ゆっくりと歩みを進めた。精神状態は最悪だ。でも、もうこの状態に慣れたまであったけれど。


「......もう、何も信じられないです」


 ――友達に裏切られ、学校にも裏切られ、クラスメイトにも裏切られた。


 今まで信じていたもの全てに裏切られて、私はショックを受けた。でも、もういいってそのときは思ってたと思う。だって、どうせもう少しすれば中学卒業だったから。


「高校は、どうしましょうか。もう、こんな最悪な目には合いたくないですね」


 どうすれば穏便に高校生活を過ごせるんだろう。そもそも、何で私はこんな最悪な目にあっているのだろう。その理由は、一つだ。




「――私が男の子の心を奪わなければ、誰も刺激することはないですかね。そうしたら、高校生活は安心して過ごせます」




 昔から私は嫉妬されることが多かった。自分自身はあまり自覚がないのだけれど、どうやら私はとても可愛い顔をしているらしい。そのせいで、今日まで散々な目に合ってきているのだ。




「私が笑顔になるのをやめて無愛想になれば、男の子は寄ってこなくなるでしょうか」

 


 

 もしかしたら私の悩みを贅沢な悩みって思うかもしれない。でも、全然贅沢なんかじゃない。こんなの、人生を狂わすだけの『最悪』だ。だから私はこの悩みに立ち向かう。



「高校では友達を作るのもやめておきましょう。また裏切られたら、怖いですから」



 そうして私は少しずつ変わっていった。理不尽な暴力を受けて、友達を失って、イジメを受けて......本当に地獄のような中学三年生を過ごした私。


 同じ過ちを犯さないように、高校生活は計画立てて過ごしていく。


 ・男の子の心を奪わないように、無愛想を演じる

 ・信じてもどうせ裏切られるので、友達は作らない



「これで......高校生活は無事に過ごせますよね......」


 

 これが、私の過去。ズタズタに心を傷つけられた、最悪の過去。

過去編で新しく登場したキャラは本編ではもう出てこないので、記憶から抹消してもらっても大丈夫です。


あと、過去編もうちょっと細かい描写挟むべきでした...後編急ぎすぎちゃった´`*

そんな過去編ですが、星宮にどういう過去があったのかざっくり分かってもらえれば、それで大丈夫です。


次回から星宮と庵の場面に戻り、第二章もクライマックスに入っていきます。よろしくお願いします


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― 新着の感想 ―
[一言] 学校のいじめに身内の事件を権力でもみ消す。このリアルな汚さがある感じが好きです。これからも頑張ってください。
[一言] なるほど。これでは星宮さんも自分で戦うしかないですね…しかも校長の子息がいじめをやらかして、それをもみ消すというオトナの汚い面を見せつけられた…そんな中でよく星宮ちゃん、(最終的に自殺を考え…
2023/03/03 11:35 退会済み
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