表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
60/215

◆第60話◆ 『宝石級美少女の相談相手』


 ――翌日。この日は12月31日であり、明日に新年を控えた大晦日の日であった。


 年末年始というこの期間、多くの人たちが正月休みに入り始める頃合いだ。だが、この世の全員がそうというわけでもない。


 町にぽつんとある小さな建物、コンビニ。このコンビニは大晦日だというのにも関わらず、いつも通りに通常運転をしていた。今や、コンビニは年中無休というのが当たり前となってきた時代である。


「......」


 そのコンビニのレジの前に立つ金髪女子高生は前島愛利(まえじまあいり)。彼女は今日大晦日にバイトのシフトを入れていた。しかし今の愛利は、客が寄りつかないくらいの不満そうな表情をしている。暇をしていたのだ。


「......客来ないじゃん。まぁそりゃそうだよねー」


 ぶつぶつと独り言を漏らし、レジ前で頬杖をつく愛利。別に接客がしたいというわけではないが、何もする事がないというのは暇なもの。大きく伸びをし、あくびをする。


「はぁ......」


 そうしてしばらく愛利がレジ前で頬杖をついていると、後ろから物音が聞こえた。何事かと視線を向ければ、関係者のみ入れる部屋から、このコンビニの店長と一人の女子高生が出てくる。


「――じゃあ今日はお疲れ様。年明けからよろしく頼むよ」


「はい。よろしくお願いします」


 どうやら部屋ではバイトの面接が行われていたらしい。そして店長の反応の良さからして、採用は間違い無しであろう。だが愛利はその女子高生の後ろ姿を見て首を傾げた。


「あの髪の毛......」


 愛利の瞳に映るのは、その女子高生の持つ雪色のセミロングヘア。それはとても見覚えのあるもので、愛利はつい最近この人物に会った覚えがある。だが後一歩が思い出せず、もどかしい。


 なんとか愛利が思いだそうとしていると、ちょうどその女子高生が愛利の方に振り返った。


「――あっ」

「――あっ」


 お互いに顔を見合って、瞬時に理解する。愛利の頭の中のピースがカチッと音を立ててはまった。


「庵先輩の彼女の人じゃーん」



***

 


 その後、コンビニの女子更衣室にて。愛利に無理やり連れていかれた星宮は、近くの椅子に座らせられていた。


「――はいこれ。お・で・ん。一緒に食べよ」


 更衣室に戻ってきた愛利はおでんを買って戻ってきた。冷めないうちにと急ぐ愛利は、星宮の手に割りばしを強引に押しつける。無論、星宮は困惑するしかない。


「えっ。あの......前島さんがいいならいいですけど。そもそも、ここ関係者以外立ち入り禁止な場所じゃないんですか。まだ私、採用って決まったわけじゃないんですよ」


「細かい事は気にしない気にしない。てゆうか、アタシみたいなバカでも採用されるんだから、されん方が逆に難しいでしょ。だからもう採用って決まったようなもんだし、絶対大丈夫だから」


「は、はあ」


 暴論の圧に負けた星宮は、しぶしぶと首を縦に頷く。その様子に満足したのか、愛利は満面の笑顔で割りばしを音を立てて割った。


「さっ。おでん食べよ食べよ。アタシは庵先輩と違って後輩に優しいから、全然遠慮せず食べていいからねー。こういうの早い者勝ちだから」


「じゃあ......いただきます」


 そうしておでんに手を付け始めた二人。満足そうに頬を赤らめて食べる愛利と、遠慮がちに恐る恐る食べる星宮。愛利的にはバイトの優しい先輩面を演じたかったのかもしれないが、あまり星宮には伝わらなかったようだ。


「あっ。てかさ、名前なんなの? 庵先輩の彼女さん」


「......星宮琥珀です」


「へー。琥珀ちゃんねー。良いじゃん」


 軽々と下の名前で呼んでくことに対し、星宮は少し驚いた。久しぶりに同年齢の女子に下の名前で呼ばれて新鮮だったからだ。最後に下の名前で呼ばれたのは中学三年の一学期くらいであり、あまり星宮の中では良い印象に残っていない。記憶はもう古いが、昔の女友達に呼ばれたのが最後だった。


「んで、何でここ来たの? やっぱり彼氏がアタシに取られないか心配になったから?」


「......それは秘密です。理由はいろいろとありますよ」


「ええぇ。隠さなくてもいいんだよ、女同士なんだからさぁ。教えてよぉ。アタシ秘密守るのめっっっちゃ得意だから。庵先輩といちゃつきたいんでしょー」


「そんなこと普段からしてません」


 愛利の面倒くさい問いかけに、星宮はあまり良い表情をしない。それよりも、星宮はさっきからずっとどこか暗い空気を纏っていた。星宮の表情が芳しくないことにだんだん気づいてきた愛利は少し困った顔をする。


「......あれ。琥珀ちゃん、もしかしてアタシになんか怒ってる?」


「えっ?」


「あ、あれか。この前、アタシが庵先輩をからかってるのが琥珀ちゃんに見つかっちゃったやつ? あれは本当に悪いことしたって思ってるよー。もうからかったりしないから、許して琥珀ちゃん」


 何か後ろめたい事を思い出したのか、頭を下げてすらすらと謝り始めた愛利。しかしそれは愛利の見当違いだったらしく、星宮は慌てた様子で「顔を上げてください」と言う。


「うう。琥珀ちゃんがそんなに傷ついてたなんて思いもしなかった。アタシ、切腹する」


「洒落にならない冗談やめてください。別に私は前島さんの事はもうそこまで気にしてませんよ。いや......ちょっとは気にしてますけどね」


「え、そなの? じゃあなんで今の星宮ちゃん不機嫌そうっていうか、暗そうなの? アタシの顔が怖い?」


 コロコロと表情の変わる愛利に、星宮が少しだけクスリと笑う。しかし、その表情も直ぐに暗いものへと戻った。愛利も星宮の雰囲気に流されて、おでんを食べる箸の手を止める。


「天馬くんの、ことなんですよね」


「ああ庵先輩ね。なんかあったの?」


「......ちょっと色々あって。えっと、誰にも言いませんか?」


 星宮がそう聞くと、愛利は「勿論」と胸を叩く。愛利は星宮にとって、まだ信用に値できる人物とは思えないが、愛利は庵と星宮の交際関係を知る数少ない一人だ。だからこそ、少し気が緩んでしまう。


「――それが」


 星宮が他人に悩みを語り出す。その行動はとても珍しく、星宮がだいぶ精神的に傷ついている証拠でもあった。



***



「既読無視して何の謝罪もなく、その後通話で『しばらく関わってくんな』って言われたぁ!?」


「ちょっと前島さんっ。声大きいですっ」


 この更衣室を貫通してしまう程の大声で叫ぶ愛利。慌てて星宮が宥めようとするが、危ないスイッチの入ってしまった愛利は鬼の形相をしていた。地団駄を踏み、テーブルの上のおでんの中身が揺れる。


「琥珀ちゃん!!!」


「は、はい」


「それ絶対浮気だよ! アタシの長年の感がいってる! あの陰キャ童貞野郎、他の女を見つけやがったんだ。あいつ......よくもアタシの可愛い後輩を! 殺してやる!」


 根拠も無く星宮の耳元でギャーギャーと喚きだす愛利。星宮が困惑していることにも気づかず、愛利は星宮の手を掴み、力強い眼差しを見せた。


「琥珀ちゃん、あのクソ陰キャ童貞浮気野郎、一緒に殺しにいこう」


「ちょ、ちょっと早とちりしすぎです。意味の分からないことばっかり言わないでください。それに、天馬くんはそんな簡単に浮気をするような人じゃありません」


「火炙りか水責めか針千本か。できるだけあいつが苦しむように死に追いやって」


「あの、私の話を聞いてください!」


 勝手に話をまとめて勝手に話を進めようとする愛利の暴走だが、星宮が大きな声を出すと少しだけ冷静さを取り戻した様子。不満そうではあるが、ようやく静かになった愛利に対して星宮は小さく溜め息をつく。


「......天馬くんはとても優しい人です。それは、身近にいる私が一番分かります。だから浮気では絶対無いと思うんですよ」


「いや、男は息をするように浮気するよ。あいつあんまり表情に出ないタイプだからタチ悪いね」


「この前、天馬くんが前島さんとじゃれあっていたのを私が見つけたことですけど、天馬くんは後日、ちゃんと誠心誠意謝ってくれましたよ」


 そう星宮が返すと、愛利は少しだけギクリとした顔をする。


「ぐ......それ言われたら言い返しようないじゃん」


 愛利は思い出す。初めて庵と出会った日、庵の帰宅についていこうとし、度の過ぎたちょっかいをかけたことを。だが庵はそのちょっかいに対し「変な誤解を生むからやめてくれ」といった内容のことを言っていた。簡潔に言ってしまえば、庵は美少女に体を密着されても変な気を起こさなかったのだ。


「......ふん。まあ言い合っても仕方ないから、とりあえずは庵先輩のこと認めてあげるけど」


「ならよかったです。天馬くんは優しいですから」


「彼氏自慢腹立つー。惚気話腹立つー」


 不満そうに舌を出した愛利は、残っていたおでんの具を一気に食べ尽くした。その様子に星宮はまたクスリと笑う。しかし、その笑みも一瞬のものだ。


「......だから、心配なんです。あんな冷たい事を天馬くんが急に言うなんて、きっと何かあったんだと思います。それに」


「それに?」


 星宮は少しだけ間を空けて、口を開く。


「明日は、天馬くんと一緒に初詣に行く予定なんですよ」


 明日は1月1日、新年。星宮が天馬家の家族と初詣に行く約束をしていた日であった。初詣に行ったことがない星宮はこの日を楽しみにしていたが、それどころではなくなっているかもしれない。


「へえ。それじゃ、とりあえず庵先輩にメッセージ送ったら? 返信くらいしてくれるでしょ」


「昨日既に送っています。でも、まだ未読で......」


 と、会話を続けていると、更衣室の扉を叩く音が室内に響いた。愛利が「どうぞー」と言うと、扉から店長が顔を出す。


「急にごめんね、前島さん。星宮さん」


「どうしたんですかー店長」


「いやぁ、それがだね」


 店長は困ったように顔を上げ、こう話した。


「天馬くん、今日シフト入っているのにまだ来ていないんだよ。君たち、何か知らないかい?」

あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願い致します´`*

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 愛莉、なかなか優しそうですね…もしかしたら影から日向から二人を支えてくれたりするのでしょうか。意外とギャルが大人で優しいはクリシェだったりするので、二人の苦しみをなんとか解決してくれるような…
2023/01/02 19:33 退会済み
管理
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ