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◆第56話◆ 『いつも通りの今日が地獄の始まりだった』


 ――翌日。朝、目が覚めて窓を見てみれば、外には見慣れない真っ白な世界が広がっていた。


「......初雪か。ダルいな」


 雪が降ってはしゃげていたのはもう数年前くらいのことだろう。高校生となった今は、雪合戦をすることもなければ、かまくらを作ることもない。雪など、通行の邪魔にしかならないただの白い障害物だ。


「くっ......はぁ。もう9時かよ。寝よ」


 大きく伸びをして、スマホのホーム画面を開けば大きく9:32の表示。とっくの昔に青美も恭次も仕事場に到着している頃だろう。そんな中、一人庵は二度寝を開始する。これは冬休みに入った学生の特権だ。


「......」


 しかし、目がもう覚めてしまったのか、どうも寝れそうにないらしい。二度寝を直ぐに諦めた庵は毛布を足ではねのけて、その足でエアコンのリモコンを掴み、手元に引き寄せる。


「......朝飯作るか」


 暖房を付け、庵の『今日』はいつも通りに開始した。



***



 午後を過ぎた頃、気温が5℃を下回る中、真っ白な世界を歩いていた。向かう先はバイト先のコンビニである。


「ん。あれ、庵先輩じゃん。先輩、今日シフト入ってたっけ?」


「......ああ、お前か。ちょっと昼御飯用の何かを買いにきた」


「あっそ......って、可愛い後輩にお前呼びはひどくなーい? 庵先輩、もしかしてなんか怒ってる?」


「知らん」


 レジに両手をつき、大きく上半身乗り出してくるのは愛利(あいり)。庵にとって、まったく可愛くないバイトの後輩だ。


「あっ。分かった。一昨日、アタシが庵先輩をからかったのまだ怒ってるんでしょー。めっちゃ根に持つじゃーん」


「――」


「おーい無視しないでよ......って、ガン無視決め込みやがった。はあ。これだから陰キャ童貞野郎は。やることが陰湿なんだよねー」


 愛利の言う通り、庵は少しこの後輩に腹を立てていた。理由は勿論一昨日の一件。愛利のせいで危うく星宮に浮気を疑われることになりかけた事だ。交際関係が壊れかねない事件だったため、案外笑い事ではない。


 牛丼弁当を手に取った庵は、それを愛利の居るレジに置く。そして愛利を強く睨み付けた。


「はーい。牛丼弁当ねー。512円でーす。どう? 庵先輩? だいぶ接客上手くなったでしょ」


「0点」


「あはっ。庵先輩はツンデレだなぁ」


 温度差のある会話をしながら、会計を済ませていく。かじかんだ手で財布の中の小銭をちまちまと探していくが、これがなかなか難しい。小銭を取り出すのに手間取っていると、ニヤニヤとした表情をする愛利がその様子を見つめている。


「そういえば庵先輩、本当に彼女いたんだねー。てっきりどこにでもいる陰キャ童貞野郎かと思ったけど、まさかまさかのだったわ」


「――」


「あっ。彼女がいるってことは、もう陰キャ童貞野郎じゃないか。これからは陰キャ野郎って呼ぶね、庵先輩」


「――」


「あーでも、庵先輩がもしかしたらヤリ○ンの可能性もあるのか。なら、陰キャヤリ○ン野郎に改名するのもありかも。どう思う? 庵先輩」


「――ぶつぶつ言ってないでさっさと会計してくれ」


 既に小銭を出し終えた庵は、呑気な顔をする愛利を睨む。だが地味な顔つきの男に睨まれたところで陽の女は怯まない。へらへらしながら牛丼弁当の会計を始め出した。


 さっきまで我慢していたが、やはり愛利が気に食わない。庵は会計をする愛利の手を止めた。


「愛利」


「んー?」


「ちょっと顔こっち向けて」

 

「えっ。なになに。キス? アタシは別いいけど、庵先輩彼女いるよね?」


「いいから向けろ」


 強気に言うと、愛利は不思議そうな顔して顔をこちらに近づけた。いつ見ても目立つ金色の髪の毛。その髪の毛の生え際から少し覗かせるおでこに庵は狙いを定める。


「いだっ!?」


 庵はそのおでこに全力のでこぴんを喰らわせた。短く悲鳴を上げた涙目の愛利に、庵はこう告げる。


「いいか。俺は童貞だ」


「......はぁ?」



***



 それから帰宅した庵は昼食を終え、特にやることもなくスマホでネットサーフィンを始めた。楽しみにしていた冬休みではあるが、星宮とのデートの日ではない限り、何もすることがなく暇だ。唯一の友達である暁は、今年の冬休みは親戚の家に行ってしまい、来年になるまで帰ってこないらしい。


「......ぅあ。アニメ見ようかなあ」


 ベットにごろんと寝返りをうち、うつ伏せの状態でスマホをいじる。さっきから溜まっていたアニメを消化しようと頭の中では考えているのだが、何故か体が動こうとせず、ずっとツイ○ターとYouTubeを行き来している。この現象は何か名前があるのだろうか。


「......ぁあ。っん!?」


 もういっそのこと親が帰ってくるまで寝てしまおうかと思った矢先、スマホが振動した。画面上に見えるメッセージの通知。確認すれば、星宮のアイコンだ。直ぐ様アプリを起動し、メッセージの内容を確認する。庵は直ぐ既読を付けることに抵抗が無いタイプである。


『初詣の話なんですけど、私、いつもの私服で行って大丈夫でしょうか?』


 メッセージの内容は初詣の服装について。しかし、この星宮に質問に庵はどう答えていいか分からない。顎に手を当て、息を吐く。


「俺、ファッション疎いしな」


 アドバイスできることもないので、ここは変に細かい事を言う必要は無いだろう。そもそも、ファッションについては圧倒的に星宮の方が詳しいはずだ。


 だから、ここは無難に『大丈夫だと思う。星宮に任せる』と返信を――、


「っ。うおっ」


 キーボードを叩こうとした瞬間、再び震え出すスマホ。通知を見てみると、どうやら電話がかかってきたらしい。


「星宮じゃなくて......え、父さん?」


 電話をかけてきたのは星宮ではなく父の恭次。今、この時間帯は恭次はまだ仕事場で働いているはずだ。そもそも、恭次が電話をかけてくることなど滅多にありえないことでもある。なのに何故、となるが、かかってきた以上は出ないわけにはいかない。


「......はい。もしもし」 


 庵は通話に応じ、恭次に喋りかけた。なにやら雑音が聞こえる。おそらく、車の運転中なのだろう。


 そうして、父の返事を待っていると――、


「――おい庵! お前今どこ居る!?」


 一瞬誰の声かと庵は耳を疑った。がらがらで、ものすごい剣幕で、しかし悲痛さも入り交じっていて。だが、今聞こえた声は父である恭次に間違いなかった。この慌てようから、ただならぬ事態であることが直ぐに察せられる。


「い、家だけど。急にどうしたんだよ。何かあっ――」


「今すぐにお前を迎えにいく! 玄関前で待っていろ!」


「いや、は? 意味分からんって。迎えにって、どこ行くんだよ」


 恭次の言っていることに理解が追いつかない。しかし、その理解の追いつかない頭に更に追い打ちをかけるかのような言葉を恭次は浴びせてきて――、


「――青美が、大変なことになったんだ」


 突如父の口から出た母の名前に、庵は言葉を失った。




ようやくここまできました。『宝石級美少女の命を救ったら付き合うことになりました』第二章、本編スタートです。


予め、忠告しておきます。ここから先、ラブコメとしてとても不適切で不快な内容が含まれていくと思います。それでも見てくださるという方は、これからも引き続き応援をよろしくお願いします

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