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◆第43話◆ 『宝石級美少女とクリスマス(3)』


「わあっ。綺麗ですね、天馬くん」


「んだな」


 目を輝かせる星宮の視線の先には、イルミネーションで繋がれた木々や看板がある。無数に連なるカラフルな光は、この聖なる夜を幻想的に照らしていた。その光に魅入られた庵は感慨深いものを感じ、息を吐く。


「......俺、何気にイルミネーションとか久しぶりに見るかもな」


「えっ。そうなんですか? イルミネーションなら毎年飾られてますけど?」


「いや、俺基本的に友達とどっか遊びに行ったりしないからさ。大体いつも家に居るんだよ。クリスマスも正月も夏休みも冬休みも全部。ほんと、怠惰だよなぁ」


 庵は帰宅部であり、友達と言える友達は暁一人しか存在しない。そんな陰を極めている男は無論、インドアである。それ故、世間がざわめくクリスマスや正月などのイベントも庵にとっては平日のようなものであり、何も特別なことはしてこなかった。


 ただ、今年のクリスマスは違う。今、庵の隣には誰もが二度見してしまう程の宝石級美少女が居る。しかもそれは紛うことなき庵の彼女であった。


「案外、楽しいもんだな」


「え?」


「俺、前までクリスマスとか何が楽しいんだって思ってたけど、今はちょっと楽しいかも」


「それは良い心境の変化ですけど......なんで急にそんなことを思ったんですか?」


 そう問われ、庵は星宮の方に視線を向ける。星宮琥珀は容姿端麗で、視線が合えばいつだって心臓がドキリとしてしまう天使のような存在。いつの間にその存在が庵の生き甲斐の一つになっていた。そう、それこそが理由だ。


「今は俺には星宮が居るからだよ。俺、いっつも一人だったからさ」


「あぁ」


 その答えに星宮は少し難しい顔をした。でも、直ぐに余計な考えを振り払うように頭を小さく振って、顔を上げた。


「......天馬くん、ここじゃなくて別のとこ行きましょっ」


「え? 別いいけど」


「ちょっと私、天馬くんと行きたい場所があったんです」


 星宮がぐいぐいとパーカーの裾を引っ張るので、庵は少し困惑しながら星宮の後をついていく。その進行方向の先には、ゲームセンターがあり――、



***



 何の躊躇いもなくゲームセンター店内へと入店した庵と星宮。


 今日はクリスマスイブのため、やはりゲーセンの店内は騒がしい。しかも店内に居る大半がカップルとみられる男女二人組なので、庵は非常に居たたまれない気分になってしまう。


「ゲーセンか。星宮クレーンゲームでもするの?」


「いえ。それもいいですけど、そうじゃなくてですねー......」


 どうやら星宮の目当てはクレーンゲームなどではないらしい。きょろきょろと辺りを見渡す星宮。すると、お目当てのものを見つけたらしく「あっ」と声を上げた。


「天馬くん、あれですっ。あれやりましょう」


「あれって......『あれ』!?」


 星宮が指差す先、そこには白く大きな機械があった。あの機械はさすがの庵も知っている。陽キャラな女子たちがこぞって撮ってイン○タに投稿する、あれだ。


「はいっ。プリクラです」


 そう、プリクラ。正確にはプリント倶楽部というらしいが、この機械はあまりにも庵にとって未知の世界である。おおよそ、この機械ですることと言えば一つだが――、


「一緒に撮りましょう!」


「やだ!」


 星宮のわくわくした声を遮るように、庵は強く断った。庵のあまりにも早い即断に星宮は少し困った顔をする。


「なんでですか。クリスマス記念ということで、物は試しに撮ってみましょうよ」


「いや、俺と星宮で撮るとか、マジで俺が不純物になるって。だから絶対に遠慮しとく」


「何言ってるんですかっ。天馬くんは全然不純物なんかじゃないですっ。もっと自分に自信を持ってください」


「そうは言われても、さすがにプリクラはキツイって......」


 庵は別に自分に自信がないわけではないのだが、あまりにも星宮の容姿のレベルが高すぎて、プリクラを一緒に撮るのに気が引けてしまうのだ。これが星宮ではなく暁とかだったなら、何の躊躇いなく撮れたのだろうが。


「別に誰かに見せたりとかするんじゃないんですよ? それでも嫌なんですか?」


「そういうの関係なしに本当に無理。俺は絶対プリクラとか無理っ」


 庵は断固として拒否を貫く。そうすると、さすがの星宮も形の整った眉を下げて残念そうな顔をしだす。


「どうしても、嫌ですか?」


「ごめん......嫌だわ。こればっかりは譲れん」


「......そうですか」


 素直に答えると、星宮はすぅーっと息を吸って吐いた。そうすると何故か星宮は体をもじもじとさせ始める。急な星宮の不可解な動きに庵は首を傾げた。


「天馬くんは自分の容姿に自信がないからプリクラが嫌ってことですよね」


「まあ、そうなるな」


「そうですか。――じゃあこんなこと、一度しか言わないですからね」


「え? どうゆうこと?」


 そして、少しの間が空いたあと星宮は顔を赤らめながら――、


「......天馬くん、かっこいいですよ」


 消え入ってしまいそうなか細いで、星宮はそんなことを言ってきた。言って直ぐ星宮は恥ずかしさからか視線を逸らしたが、対する庵は目を大きく見開く。


「え。目、大丈夫?」


「っ。私は本当のことを言いましたっ。そんな酷いことを言うなら私も怒りますよっ」


「いやだって、俺がかっこいいとか絶対にありえないし」


「かっこいいにも色々意味はあります!」


 思ったことがポロリと口に出てしまい、そのせいで星宮はどこか吹っ切れてしまった様子。星宮は真っ直ぐ庵に近づき、顔を赤くしたまま庵の腕を掴んだ。そしてそのまま庵は星宮と共にプリクラの機械まで連れていかれる。


「私についてきてください天馬くん。酷いこと言った罰として、一緒にプリクラ撮りますよ」


「いやっ。ちょ、待てって。ごめんっ。ごめんって」


「拒否権はないですっ」


 本気を出せば振り払うこともできる星宮の腕力だが、さすがの庵もそこまでして逃げようとは思えなかった。本当に嫌ではあるが、今回ばかりはどうにもならないらしい。



***



「はい、チーズ」


 しかしいざ撮ってみれば案外楽しいもの。ただ、無駄に美化された庵を星宮が満足そうに笑い、やはり庵は溜息をつくことになった。


 でも今日くらい、お互い似合わないことをしてもクリスマスの雰囲気に流されてちょっとは楽しめてしまうのかもしれない。そして何気に、付き合いだして初めて二人はツーショットを撮ったのだった。

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