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◆第42話◆ 『宝石級美少女とクリスマス(2)』


「今日はもう家に帰るのかい? 天馬くん」


「え? あ、まぁ。そうですかね」


 バイトを終え、コンビニを出ようとすれば後ろから店長に声をかけられる。その何でもない質問に頬をポリポリと掻きながら答えると、店長は「そうかそうか」と微笑んだ。


「今日はクリスマスイブだね。精一杯楽しんでくるんだよ」


「......? 俺、家に帰るって言いましたけど?」


 どこか会話が噛み合ってる感じがせず、庵は眉を寄せるが、店長は変わらず優しい微笑みを顔に浮かべ続けている。


「そんなお洒落してるんだ。今からどこかへ出かけるんだろう?」


 そう言われ、庵はハッとした。今の庵の姿はそれなりに整ったパーカーとジーパン姿。決して格好良い服装とは言えないが、コンビニの制服のまま帰宅する普段と比べたら大違いだ。


 だとしても、服装が変わっただけでここまで気づく店長も恐ろしいのだが。


「......よく分かりましたね店長。ちょっと、友達に会いに行ってきます」


「そうか。友達に会いに行くんだねぇ。いやぁ、青春だなぁ」


 しみじみとした顔をする店長。羨ましそうに漏らす店長の声に庵は少し笑って、それから店長に背を向けた。


「それじゃ、お疲れ様でした」


「あぁ、お疲れ様」


 そうして、庵はバイト先のコンビニから出たのだが――、


「天馬くん、友達っていうのは女の子かい?」


 そんな声が聞こえた気がしたのだが、庵は聞こえなかったフリをした。店長は一体どれだけ勘が良いのやら。



***



 沢山の星々が煌めく夜空の下、庵は心臓をばくばくとさせながら無我夢中に走っていた。目的地は、待ち合わせの場所である公園――近くにある大きなクリスマスツリーの木の下。


 待ち合わせにしてはなかなかにロマンチックな場所だが、このクリスマスツリーは近所でも結構有名なので、待ち合わせ場所には分かりやすくて案外最適なのだ。


「はぁ......ちょっと早く来すぎたか?」


 クリスマスツリーまで辿り着いた庵。スマホで現在時刻を確認すれば、19時半であった。待ち合わせの時刻まで後十分も残っている。


「寒っ。手袋持ってけば良かったな」


 パーカーの下にも厚手のインナーシャツを着ているのだが、手だけはどうしても隠せない。すりすりと手を擦り合わせて摩擦で温めようとするも、気休め程度にしかならなそうだ。


「......いつ来るんだろ」


 寒いのはさておき、庵はぽつりと呟いて考え出す。星宮が来たら、まず何を話そうか。デートの日じゃないのにデートに誘ったことをまず謝罪すべきか、それともいつもと変わりない態度で話そうか。


 メッセージの反応からして、今この時間帯からデートということ関しては嫌がってはなさそうだったが、やはり不安にはなる。一体どうすればと頭を悩ませ続けていると――、


「――お待たせしました。天馬くん」


 耳に聞こえたのは鈴のように綺麗な声。声が聞こえた方を振り向けば、そこにはカーディガンを羽織る、冬用姿の宝石級美少女の姿があった。


「あ、星宮」


「はい。待たせてしまいましたか?」


「いや、俺も今来たところだよ」


「なら良かったです」


 と、ありきたりな会話を始めに二人はクリスマスツリーの下に集まった。庵の目の前に現れた宝石級美少女はいつもに増して可愛く、つい直視するのが恥ずかしくなって目を逸らしてしまう。やはり宝石級美少女の破壊力はいつになっても慣れる気がしない。


「こんな時間に会うなんて、初めてですね。ちょっと不思議な感じがします」


 そう言われて、庵も確かにと思う。基本的に星宮とは放課後の4時から5時の間か、休日の午前辺りに会うので、夜中に会った経験はほぼない。強いて言うならば、二人でカフェに行った時だが、あのときは空は真っ暗だったとはいえ5時半くらいだった。


 7時半という時間帯に会うのはどこか背徳感を感じてしまう。別にいけないことでもないのに、何故かいけないことをしている気分だった。


「あの、星宮......」


「どうしました?」


「えーと......」


 こんな時間に呼び出してごめん、と言うつもりだったが、その言葉は喉元まで出かけて引っ込んでいった。そんなことを言うのは、この雰囲気をぶち壊しにする気がしたのだ。頭をブンブンと振って、庵は余計な考えを切り捨てる。


 星宮が嫌な顔一つせずに来てくれた。その事実があるのだから、いちいち変なことを気負う必要はないのだ。


「いや、やっぱり何でもない。ごめん」


「そうですか。ちょっと気になりますけど、大丈夫ですよ」


 にこやかに微笑んで庵の意味深に見えてしまう発言をスルーしてくれる。そんな星宮の優しさに、庵は少し申し訳なくなってしまった。


「――それで天馬くん」


 庵がうじうじとしていると、星宮が庵に喋りかける。星宮のくりっとしたマリンブルー色の瞳が庵だけを映し、にこやかに微笑んだ。その表情にまたドキッとしてしまって、本当に自分が情けなく思えてしまう。


 そんな宝石級美少女は宝石級の微笑みを浮かべたまま、こう庵に問いかけた。


「私をどこに連れていってくれるんですか?」


 今日は一年に一度のクリスマスイブ。遠くに見えるイルミネーションの光がチラチラと煌めいていた。

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