表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
37/215

◆第37話◆ 『宝石級美少女の思惑』


「私は天馬くんと付き合っています。天馬くんは私のか、彼氏さんです」


 頬を赤く染めながらそう断言してみせた星宮。身体を凍らせる突風も過ぎ去り、暫くの沈黙が三人の間にもたらされた。その沈黙を一番に破ったのは青ざめた表情をした庵であり――、


「星宮ァ――ッ!?」


 夜空の下、庵は近所迷惑も考えずに絶叫した。まあ庵がこうなるのは無理もない話かもしれない。何せ、星宮は庵の予想していた行動と真反対の行動を取ったのだから。


「......星宮さん、それ本当?」


「本当、です」


 暁の確認に、星宮はしっかりと肯定をする。声は震えていても、その言葉を発するのに迷いは含まれてなかったのだと察せられる力強い声だ。


「いやっ。ちょ、まっ。星宮!? 言うの!?」


「ご、ごめんなさい。でも、こうしてはっきり言っておいた方が後々誤解を生まないかと......」


「そうは言ってもなぁ......うぁぁ」


 星宮の言う理屈は分からなくはないが、いくらなんでも全く接点のない暁に対して星宮がこの関係性をばらすのは悪手としか思えない。何か思惑があっての行動かもしれないが、いくらなんでも急すぎる。


「いやぁ、なるほどなぁ」


 星宮の力強い言葉を聞いた暁は、どこか難しい顔をする。眉を寄せながらウ~ンと唸り続け、頭の中で情報の整理でもしているのだろうか。――しかし、難しい顔をしていた暁は急にわざとらしく顔に笑みを浮かべた。


「......暁?」


 庵と肩がぶつかるくらいまで歩み寄ってくる暁。その屈託のない笑みに庵はどう反応したものかと頭を悩ませるが、暁の態度は柔らかなもので――、


「なんだよ庵ぃ。いつの間に星宮さんと付き合ってたんだよー」


「お、おう? 急にどうした」


「お前も中々隅に置けない奴だったってことだなぁ。いやはや、まさかあの星宮さんとかぁ」


「???」


 人が変わったかのように馴れ馴れしく庵をつつく暁。庵はそんな暁の豹変ぶりに余計暁への警戒を強めてしまう。だが、テンションの上がった暁は直ぐに庵から距離を取り、庵と星宮から背を向けた。


「ちょ、暁? どうしたんだよ急に」


 庵が困惑した表情で聞くと、暁は顔だけをこちらに向ける。


「なんでもない。僕の一番の友人がまさか彼女を作っていたとは思わなくて、少し嬉しくなっただけだよ」


「ほ、本当に言ってんのか? それ」


 しかし、その質問に暁は答えなかった。少し間を開けて、暁は再び口を開く。


「今日はもう遅いし僕は帰るよ。聞きたいことは山ほどあるけど、それは明日庵から全部聞く」


 そう言った暁は、直ぐに視線を庵から外して前を向いた。地面に転がっている部活道具を拾い上げて、道の角を曲がり、二人の視界から消え去ろうとする。


 最後に暁は振り向かずに二人へと雑に手を振って――、


「バイバイ二人。邪魔して悪かったな」


 そうして、暁は自身の帰路へと歩みを進めていった。そんな暁の様子を見た庵は目を細めながらポリポリと頬を掻く。


「なんだあいつ」



***



 更に暗くなった夜は、最早自分がどこを歩いているかさえも把握できず、あやふやになってしまう。


 カフェ前でのやり取りを終え、星宮と庵は並びながらカップルらしく帰路を歩いていた。勿論、向かう先は星宮の自宅である。静寂に包まれる夜空の下、二人の静かな足音だけが響いていた。


「どうして、暁に俺たちのこと話したんだ? めちゃくちゃビックリしたんだけど」


 庵は単刀直入にそう質問する。対する星宮は少しだけ視線を下に向けて、こう答えた。


「......あの人なら、言ってもいいかなって思ったんです」


 その答えはどこか意味深なもの。違和感を感じた庵は迷わずにその違和感を追及する。


「え。暁のこと知ってんの?」

 

「はい。実際には話したことありませんでしたけど、黒羽くんは一年生の中では結構有名な人ですよ。私のクラスでもちょくちょく話題に上がったりしています」


「マジか。あいつ人気者すぎだろ」


「はい。それに、成績優秀で運動神経も抜群って噂も聞いています。それに人柄もすごく良いらしくて......」


 どこか遠い目をしながら星宮は暁について知っていることを語っていく。ただ、今星宮が言っていることは『暁がどういう人物であるか』ということだけだ。ただ成績優秀の運動神経抜群という肩書きだけを信じて、自ら交際関係の暴露という危ない行動を取るほど星宮はバカじゃない。


「......要するに、暁が良い奴って分かってたから言ったってこと?」


「それは、多分違います」


 庵の質問に星宮は即答で否定する。星宮は視線を暗闇の中、庵に合わせた。


「理由の一つは、天馬くんの誤魔化しがちょっとお下手だったので、黒羽くん変に誤解を生ませてしまう前にいっそのこと言ってしまおうと思った......というのもあります」


「おぉ。結構グサッときた」


 ご丁寧に宝石級美少女からダメ出しを喰らい、庵のか弱い心はひび割れる。ただ、庵の気持ちがちょっと沈んだところで星宮は庵から視線を外した。二人の歩みが止まる。


 その外された視線は夜空にうっすらと煌めく星々に向けられて――、


「もう一つの理由は――」


「......うん?」

 

 少しだけ間を開けて、星宮は視線を庵へと戻した。透き通るくらいに美しいマリンブルー色の瞳は庵だけを映す。庵も星宮の綺麗な瞳を見つめ返した。


「......自分でもよく分からないんです。言葉にしづらいんですけど、なんか、私たちの関係のことを誰かに言いたいなって思ってしまって」


「......」


「私、どうしちゃったんですかね」


 星宮は首を横に軽く振って、宝石級の微笑みを浮かべた。でも、その微笑みは少し儚いものにも見えてしまい、どこか庵はもやもやとしてしまう。


「今日は勝手なことをしてしまってごめんなさい、天馬くん。次からは気をつけます」


 庵はもう、この交際関係をばらした星宮を咎める気にはなれなかった。いや、なれるわけがなかった。この宝石級の微笑みに何かとても心を動かされている気がして――。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ