◆第35話◆ 『こんなところで見つかるなんて』
「......いつまで撫でてんの?」
「もういいんですか?」
「もういいです」
何分時間が経過しただろうか。星宮にされるがまま頭を撫でられ続けた庵は、ようやく『頭ナデナデの刑』から解放された。宝石級美少女から頭を撫でられることは嬉しいことなのだが、やはり普通に考えて、同級生の女子に頭を撫でれられるというのは客観的に見てすごくみっともない気がする。
庵はわざとらしく咳払いをして気持ちを切り替えた。
「んで、今日は何する?」
「そうですね。テスト期間も終わりましたし、何しましょう」
「......何しようかな」
ここ最近のデート内容は全て勉強会だったので、いざテストから解放されるとデートで何をすればいいか思い浮かばない。何もせずにだらだら、というのもいいかもしれないが、さすがに二人の関係値はそこまで進んでいないだろう。
「ゲームはダメだもんなぁ......」
残念なことに宝石級美少女は壊滅的ゲームセンスのため、あまり楽しむことはできないかもしれない。となると庵の部屋に残るのは漫画、ラノベくらいのものしかなくなってくる。
「あ。それなら天馬くん」
「ん?」
パッと顔を上げた星宮。手を顔の横で合わせて、にこやかに口を開く。
「この前行ったカフェにまた行きませんか? ちょうどまた行きたいなーって思ってた頃なんですよ」
星宮が提案したのはカフェ。二週間程前に二人で行った場所だ。それを聞いた庵は「あぁ」と思い出して、財布事情を考えだす。
「別にいいぞ。今回は俺も金あるしな」
「なら早速向かいましょ。もうすぐ日が暮れてしまいますし」
「分かった。んじゃ行くかぁ」
というわけでカフェに向かうことになった二人。外に出れば沈みかけの太陽が顔を出している。二人は一定の距離を開けながら道を歩いていった。
しかし歩いている間に日が暮れ始め、オレンジ色の空色へと変わっていく。日が暮れるのが早くなっているので、冬はもうすぐそこまで来ているのだろう。
***
カフェ店内にて。二人は前回と同じ席位置に座っていた。
「美味しいですねっ。天馬くん」
「あぁ。すごい本格的な味がする気がする。やっぱ専門のお店の物は違うな」
今回庵が注文したのはモンブラン。味わい深い濃厚な栗の味が口いっぱいに広がる、中々にグレードの高い味だった。口の中に入れたら、甘い味が広がって直ぐに溶けてしまうのを勿体なく感じてしまう。
「――やっぱりいつ食べても美味しいですねぇ」
星宮が注文したのはシンプルな苺の乗ったショートケーキ。一口口に入れる度に星宮はふにゃりとした宝石級の笑みを浮かべていた。星宮は甘い物が大好きなのだろうか。
「食べ過ぎで太らないように気をつけろよ」
「む。失礼ですね天馬くん。前も言いましたけど私はちゃんと体型管理をしているのでそういった心配は不要ですよ」
「そっか。なら余計なこと言ったな」
前回と同じ冗談で星宮をいじってみたら少し拗ねられてしまった。でもまたショートケーキを一口食べれば宝石級の微笑みを浮かべるのでチョロいなと思ってしまう。
本当に、いつまでも見ていられる宝石級の微笑みだ。
「......天馬くん? あまりじろじろ見られるのは恥ずかしいんですけど......」
「え? ああ。ごめんごめん。ちょっと気をとられてた」
ほんのりと頬を赤らめる星宮。これに関しては勝手に見惚れてしまった庵が悪いのだが、星宮の微笑みが反則級に可愛いから仕方ないという風に星宮に責任を押しつけたくなってしまう。まさに宝石級美少女、恐るべしだ。
「......ん。ごちそうさまでした」
モンブランを食べ終え、もうひとつ頼んでおいたオレンジジュースを飲み終えた庵は満足げに息を吐く。ちょうど同じタイミングで星宮もショートケーキを食べ終えたらしく、ちびちびとオレンジジュースを吸っていた。
「美味しかったですね、天馬くん」
「本当にな。また行きたいよ」
「はいっ。今度また行きましょ」
そうしてちょっとカップルっぽいやり取りをして二人は席を立つ。二人は財布を持ってカウンターまで向かった。
「――星宮はお金出さなくていいよ」
「え? 私、お金持ってますよ」
「いや、前回星宮に俺の分まで払ってもらったから今回は俺が星宮の分まで払いたいんだよ。それでお相子だろ?」
そう。前回は庵は星宮にお金を払わせてしまった。彼氏が彼女に奢られるなんて情けない話だ。しかも相手は宝石級美少女であるというのに。だからこそ今回は庵が星宮の分も払いたい。
庵の唐突な発言に星宮は「うーん」と整った眉を寄せて悩む仕草を数秒見せ、顔を上げた。
「別に前回のことは気にしなくていいんですよ?」
「そうは言われても気にしまくってるから。いいから俺に金を払わせてくれ」
「そこまで言うなら......はい。分かりました。今回は天馬くんの好意に甘えます」
渋々といった感じだが星宮は了承してくれた。庵は短く星宮に礼を言って、カウンターに伝票を渡して会計を進めていく。今回は逆に奢ってあげることができ、少し気持ちが楽になった気がした。
「んじゃ、帰るか星宮」
「はい。そうしましょう」
というわけで玄関から店外へと出た二人。外には、すっかりと日が暮れた薄暗い夜空が広がっていた。
「......暗いな」
「そうですね。つい最近まではこの時間でも明るかったんですけどね......」
時の流れをしみじみと感じてしまう。そしてこの暗さからして、庵は星宮を一人で帰らせるわけにはいかないだろう。彼氏として責任を持って彼女を送ってあげるべきだ。
「もう暗いし、今日は俺が家まで――」
と言おうとしたとき、庵の視界に星宮以外の何者かが映った。視界の端に映ったくらいなのでよくは確認できなかったが、その者は確かにこちらを真っ直ぐに見ていて――、
「――え? 庵と、星宮さん?」
そこに居たのは庵の友人である暁だった。部活帰りの暁は信じられないものを見つけてしまったかのような目付きで二人を見ていた。
毎日更新が途絶えて申し訳ない。忙しかったんですぅ