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◆第27話◆ 『宝石級美少女を救うために』

 

 不吉な黒色をする雨雲は一向に消え去ろうとしない。激しく降り注がれる雨に、それぞれ三人が持つ折り畳み傘は悲鳴を上げていた。


 雨音のせいで三人は会話をすることができない。三人は一定の距離を保ちながら無言で帰路を歩いていた。正確には星宮の帰路であるのだが。


 そうして三人はとある場所まで歩き、足を止めた。


「ここが星宮さんの家? マンション住みなんだね」


「はい。そうです」


 辿り着いたのは学校から徒歩15分程の距離にあったマンション。別に意外というわけでもないが、どうやら星宮はマンションに住んでいたようだ。てっきり庵は一軒家住みだと思っていたので少々驚く。

 

「ここからは一人で大丈夫です。わざわざ送ってもらってありがとうございました」


 ぺこりと腰を折る星宮。そんな星宮を見て北条は苦笑する。


「そんなお礼を言われることじゃないよ。大切な女の子をこんな時間帯に一人で帰らせるわけにはいかないからさ。当然のことをしたまでだよ」


「あ、ありがとうございます」


「だからそんなに謝らなくて大丈夫。それよりも早く家に戻りなよ。まだ服は濡れてるだろうし、風邪引いたらいけないから。帰ったら直ぐに体を温めるんだよ」


「あ......そうですね」


 百点満点スマイルを惜しげもなく星宮に振り撒く北条。庵はそんな北条を見て、何か嫌なものを感じた。別に嫉妬というわけではないのだが――、


(なんかこいつ無駄に星宮に馴れ馴れしいな)


 あはは、と屈託のない笑みを浮かべてるので庵はジーっと訝しむような視線を送る。北条が庵の視線に気づいたのか、こちらに振り向こうとしてきたので直ぐに視線は逸らしたが。


 このまま北条だけに格好つけられるのはどこか癪に障るので、庵も星宮に作り笑いを浮かべて何か言おうとする。


「......まあ星宮、明日また詳しい話を聞くことになると思うけど、今日はゆっくり休めよ。俺は星宮のか......味方だからな。全力で俺も星宮に尽くすから、何かあったら本当に教えてほしい」


「天馬くん......はい。ありがとうございます。では北条くんも天馬くんも、さようなら」


「あぁ」


 そう言って星宮は二人に背を向けて帰ろうとする。だが、背を向けて直ぐ星宮は振り返った。


「あ、そういえば天馬くん。カイロありがとうございました。後日新品を返します」


「いや、カイロくらいいちいち返さなくても......」


「天馬くんはよくても、私が許せないんです。後日返しますね」


 星宮の有無を言わさぬ物言いに庵は押し黙る。結局何も言い返すことができないまま、星宮は庵の視界から消えていった。そんな星宮に対し、庵は溜め息をつく。


「本当に律儀なやつだな。星宮は」


 庵は星宮に何かされても何も返すことができないのに、星宮は庵が何かする度に礼をしようとする。ギブアンドテイクの精神は素晴らしいことなのだが、使い捨てカイロにまでその精神を適用しないでほしいところだ。何も返せない庵が居たたまれない気持ちになってしまう。


 そんな星宮の在り方に頭を悩ませていると、北条が後ろから庵の肩に手をぽんと置く。


「それじゃ天馬、天馬も俺が送るから一緒に帰ろう」


「......俺のこと舐めてる? 全然一人で帰れるし、逆に一人で帰れないと思われてるのならだいぶ心外だぞ」


「ははっ。言葉の綾だよ。いいから一緒に帰ろう。――話したいことがあるからさ」


 その言葉の後半は、とても真面目なものに聞こえた。首を縦に振り、二人は庵の帰路を歩き出す。



***



 段々と雨の勢いは衰えはじめていた。まだ小雨は降っているものの、傘を貫くのではという心配を抱く程の轟音はもう響いていない。


 庵と北条は平行に並びながら、言葉を交わしあう。


「――単刀直入に言って、明日にはこの星宮さんの件を解決させるつもりなんだ」


 真面目な表情で北条を歩きながらそう言った。それを聞いて庵は眉を寄せる。今の北条の発言があまりにも無謀なものに聞こえ、絵空事にしか過ぎないように思えたからだ。


「そうは言っても、まだこの件は情報が無さすぎるだろ。俺たちが知ってるのは星宮が誰かに屋上で何かされたっていうくらいのぼんやりしたものだぞ? 星宮は口を割る気はなさそうだったし......」


「そうだけど、このままじゃ明日も星宮さんが何かされる可能性があるだろ? それを防ぐためにも、俺が一肌脱ぐことにするよ」


「一肌、脱ぐ?」


 自信満々の様子で庵の顔を覗く北条。庵は北条が何を考えているのか分からず、目を細めた。


「実は俺、生徒会に所属してるんだよ」


「え、そうなのか。まぁ......なんかやってそうな雰囲気あるし、そこまで驚かないけど」


 中々に凄いことを言ってきた北条であるが、彼は客観的に見てとても優秀な男であるので庵はあまり大きな反応は見せない。


 しかし北条が生徒会に所属しているという事が、この星宮の件についてどう絡まるのかが理解できない。まさか北条は生徒会にこの件をばらまこうとでも考えているのか。それは流石に星宮が望む展開ではないと察せられるのだが。


「北条お前、何か大事(おおごと)になるような作戦でも考えているのか? あまり騒ぎを起こさずに解決することが星宮のためにも良いと思うんだが」


「へぇ......なんか天馬は星宮さんのことがすごい詳しそうだな」


「あ、いや、別にそんなことは......なんか星宮は大事になるのを嫌いそうだなーって直感的に感じてさ」


 庵は北条にそう言われてギクリとする。自分で放った発言を思い返して、確かにと思わされた。『星宮が大事になるのを嫌う』というのは庵が星宮の普段の態度を見てて思ったことなのだが、北条から見たら違和感でしかないだろう。


 しかし北条はそんな庵に対し言及はせず、視線を庵から外した。


「まぁ、心配はしなくとも俺も天馬と同感だよ。確かに星宮さんは大事になるのを嫌がってそうだ」


「......そうか」


 北条も同感のようで、庵は少し安堵する。しかし大事にもできず、情報もほぼ無しという枷があるというのに北条はこの件をどう解決するというのか。


「んで、どうするんだよ北条」


「あぁ、それはな」


 より表情に真剣さが宿り、その瞳が庵を貫いた。


「できるかは分からないけどさ、確か屋上には――」


 そうして北条は庵に策を話していく。雨の勢いが再び強まりだしていた。



***



「じゃあな北条! お前本当天才だよ。絶対交渉成立させろよ!」


「期待に応えられるよう最善を尽くすよ。絶対に星宮さんを助けような。てことでバイバイ天馬」


「あぁ!」


 庵の家に到着して、二人は解散をした。庵が大げさに北条に手を振って別れを告げる。傍から見たら、まさか今日出会ったばかりの関係とは思われない程の仲の良さだ。しかしそれは、北条が先ほど庵に話した作戦が庵を上機嫌にさせたのが関係しているのだろうが。


「......」


 庵は自身の家に戻り、北条は一人雨が降り注ぐ真っ暗な外に取り残される。北条も自身の家に帰宅するため、進行方向を変えて歩き始めた。


「......」


 轟音を鳴らす雨はより一層勢いを強める。吹き荒れる風が、何度も北条の持つ折り畳み傘にぶつかって、今にも壊れてしまいそうな音を放ち始める。雷まで落とし始めた雲は、まさに何か不吉なことを報せているようで――、


「......はっ」


 真っ暗な空の下、北条康弘は笑った。――いや違う。頬を大きく歪めて嗤ったのだった。



 

次回、第一章最終話の予定です。多分かなり長くなると思います。あ、あと日間ランキングに乗ってました。感謝です!

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