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◆第24話◆ 『宝石級美少女を探せ』


 雨の勢いが増し、雷まで落ち始めた。そんな中、星宮は屋上で一人孤独に雨に打たれ続ける。


「......ぁ」


 地面にクマのキーホルダーが転がっていた。星宮の鞄に付いていたプラスチックのキーホルダー。今はもう、朝比奈に踏みつけられたせいで、原型を留めていない。


 星宮はそっと手を伸ばし、割れた破片と共にキーホルダーを回収した。


「......ごめんなさい」


 キーホルダーを胸に抱き寄せて、小さく、消え入りそうな声で呟いた。キーホルダーに謝ったのではない。このキーホルダー買ってくれた――、


「お母さん」



***



 時は少し戻って、七限目の授業を終えた直後の放課後。


「既読が付かん......」


 庵は授業中にこっそりと星宮にスマホでメッセージを送っていた。送ったメッセージは『今日の昼休憩に星宮の話をしている女子を見た。理由は後で話すから今日は放課後になったら誰とも話さず直ぐに帰って』というストレートなもの。


 そのメッセージは未だに既読の表示が付かない。


(星宮のクラスに行く......か)


 今日の昼休憩に庵は聞いてしまった。誰かが『星宮を潰す』とそう言っていた。それに賛同する人の声も聞こえていた。


 万が一のことを考えて庵は星宮の様子を確認しに行くべきだろう。星宮が無事に下校しようとしているなら御の字、そのまま庵も帰ってしまえばいい。だが星宮の身に何か起きようとしているのなら、策は無いが彼氏として助けないわけにはいかない。


「――じゃあな庵。また明日学校で」


 考え事をしていたら、隣からポンと肩を叩かれた。視線を向ければ部活道具を背負った暁が立っている。


「あ、ああ。じゃあな。暁も部活頑張れ」


「ありがと。もうすぐ雨が降るだろうし、気をつけて帰れよ。帰宅部」


「ご忠告どうも」


 教室を出ていく暁の背中に手を振っておく。暁の姿が完全に見えなくなったあと、庵も自分の席から立ち上がった。席の横の鞄を掴んで、歩き出す。


(生憎と、今日は部活に遅れそうだ)


 なんてことを思いながら、庵は星宮のクラスに『初めて』向かった。



***



 庵が知っていることは、星宮のクラスの女子 (おそらく) が放課後、星宮に何かしようとしているということ。庵はそれを企てていた女子の顔も知らないし、名前も勿論知らない。


「ちょっとした揉め事とかならいいんだけどなぁ」


 そうは願うが、昼休憩聞いた女子の声は涙声であり怒りに震えていた。イライラとした口調だけならまだしも、泣いているとなればよっぽどの何かがあったはず。


 嫌な胸騒ぎがするも、とりあえず星宮の姿を確認できれば今は問題ない。心臓の鼓動を早めながら、庵は星宮のクラスの目の前までやってきた。


「......」


 扉を少しだけ開けて、中の様子を確認する。視線を教室の端から端まで動かして星宮を探していく。まだ放課後になって直ぐなので教室に残っている人数も多い。


(なんか俺、やってることストーカーだな)


 こっそりと一人で女子探しをするのは、最早変態のそれ。しかし今はそんなことを気にしている場合ではないので、構わず人混みの中を確認していく。


 だが教室の中を何周しても星宮は見つからない。仕方なく教室の扉から目を離す。


「ヤバいな......どうしよ......」


 教室には既に星宮は居なかった。こうなれば、星宮が一人で下校したか、昼休憩の女子たちに何かされているかの二択になってしまう。既に下校しているのなら安心なのだが、どうも警鐘が鳴り止まない。

 

 どうしたものかと顎に手を当て頭を悩ませているとき、庵は横から声をかけられた。


「――何か俺たちのクラスに用?」


「どぅわ!?」


「お、おぉ」

 

 突然声をかけられて、庵は思わずとんでもない声を漏らす。一歩後ずさってから声をかけてきた者の正体を確認した。


「ははっ。急に話しかけてごめんごめん。そんなに驚くとは思わなくてさ」


「......あ、いや、こっちも過剰に反応してすみません」


 爽やかな笑顔で謝罪をしたのは、庵の目から見て超イケメンな男子だった。庵はこの男子に見覚えがある。思考を辿って、この男子の名前を思いだそうとした。数秒の思考の末、ハッと名前が浮かび上がる。


「もしかして......北条?」


 そう。確かこの男の名前は北条康弘。何故庵が北条のことを知っているかといえば、友人である暁が北条と同じ部活に所属しているからだ。時々、暁から北条の話を聞くこともあったり、暁が北条と一緒に歩いているところも見たりするので、それなりに庵は北条のことを知っている。


 名前を当てられた北条は若干驚いた様子で頷く。


「あぁ、そうだよ。俺のこと知ってたんだ。君は?」


「俺は天馬庵です」


「天馬くんね。俺の方も呼び捨てで天馬って呼んでい?」


「あ、全然お好きにどうぞ」


 爽やかスマイルで「ありがとう」という北条。その百点満点なスマイルを見て、あぁこれはモテるなと苦笑する庵。出会って数秒の関係で、すごく距離が縮んだ気がした。


「それで天馬、俺たちのクラスに何か用?」


 それを聞いて庵はハッとなる。庵は北条なんかと心の距離を縮めている場合ではないのだ。


「ああっと、今ちょっと人探してるんだよ」


「人? このクラス?」


「そう。星宮琥珀っていう女子がどこに居るか知らないか? さっき教室は確認したけど、見つからなかったんだ」


 庵が星宮の名前を出すと、北条は「あぁー」と言って顎に手を当てた。眉を寄せて、記憶を辿っているのか黙り込む。そして直ぐに北条は顔を上げた。


「星宮さんなら、このクラスの朝比奈さんたちと一緒にどこか行ったよ」


「......朝比奈?」


「うん。朝比奈さん」


 朝比奈。勿論のこと、庵はその人物のことを知らない。知らないが、嫌な胸騒ぎがしてしまう。その朝比奈という女が、昼休憩に星宮を潰すと言っていた女ではないのか、という思考に至ったのだ。


「その朝比奈って人は星宮と仲が良いのか?」


 不安になり、庵は北条に踏み込んだ質問をする。


「いや、星宮さんが朝比奈さんと話しているのはあまり見ないな。そもそも、星宮さんがクラスメイトと仲良くしているところをあまり見たことないよ」


「マジ......かよ」

 

 これを聞いて点と点が繋がる。このタイミングで星宮をどこかへと連れ去った朝比奈。十中八九、昼休憩に空き教室で泣いていたのは朝比奈だという確信に至った。


「まぁでも、朝比奈さんは優しい人だからな。いつも俺に優しくしてくれるんだ」


「あ、そうなの」


 急に惚気る北条。庵はジトーッとした視線で北条を見る。対する北条はにこやかに微笑んでこう言った。


「今頃、星宮さんと朝比奈さんが仲良くなってたりして。それだったら俺、超嬉しいなぁ」


 


 



 


 

 

【どうでもいい追記】この回、切る場所ミスった。もうちょっと先まで書いて第25話いくべきだったなぁって後悔してる。まあ第25話の冒頭に書こうとしていた部分は持ってきます

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