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宝石級美少女の命を救ったら付き合うことになりました  作者: マムル
最終章・前編

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182/233

◆第173話◆ 『宝石級美少女とは関係が深まってきたのでこんなゲーム余裕です』

珍しく2話連続更新です。


 『新春!超■■が盛り上がる! スペシ■■ドキ■キハラハラすごろく〜2018ver〜』

 ※一部箱が破損していて読めない。

 

 ルールは基本のすごろくと同じ!

 サイコロを振ってマスを進んでいき、誰よりも早くゴールを目指そう!

 ただし、すべてのマスにプレイヤーたちを困らせる沢山のお題が用意してあるので要注意だ!


 推奨人数4人以上〜

 対象年齢18歳以上〜



***



 庵が青のコマ、琥珀が赤のコマを使用し、すごろくがスタートした。じゃんけんの結果、琥珀が先行となり、先にサイコロを回す。このときはまだ未知のゲームに挑戦するワクワクが大きく、琥珀も機嫌が良いのか、鼻歌を歌いながらコマを手に取っている。


「3ですね。いち、に、さん.....と。えーと、”今一番近いプレイヤーにデコピンする”ってマスに書いてあります」


 説明通り、どうやらすべてのマスに何かしらのお題が用意されているようだ。まず最初はデコピン。琥珀が庵の方を向き、小悪魔のような笑みを浮かべる。


「一番近いプレイヤーとか関係なく俺しかいないからなぁ」


 踏んだマスが他プレイヤーを巻き込むお題だった場合、2人しか居ないので、確実に庵→琥珀、琥珀→庵の2パターンになってしまう。これは以前の人生ゲームのときもそうだった。やはりこういうテーブルゲームはもっと大人数でやるべきものなのだろう。


「じゃあ庵くん、前髪どけてください。おとなしくデコピンを喰らってください」


「おとなしくどころか喜んで喰らうぞ」


「むっ、余裕ですね」


 そういう意味で言ったわけではないが、Mだと勘違いされたくないので触れないでおく。少しムッとした様子の琥珀の小さな白い手が、デコピンのポーズで庵に迫ってきた。


「えいっ」

「お」


 一瞬の衝撃が庵のおでこに走り、ジワジワと余韻が残って消えていく。ちょっとは痛かったが、正直なところ、まぁだろうなという感想だ。庵の表情は特に変わらず、デコピンを終えたポーズのままの琥珀と数秒見つめ合った。


「ちょっとヒリってしたくらいだな。もうちょっと力溜めて、素早く指離したらもっと威力出るんじゃない?」


「......庵くんが頑丈なだけじゃないですか」


 感想は余計だったようで、琥珀の機嫌を少し損ねてしまった。



***



 というわけで琥珀のデコピンは不発に終わり、次は庵のターン。琥珀の転がしたサイコロを広い、再びテーブルに転がした。


「俺も3だ。じゃあ今度は俺がデコピンだな」


「い、庵くんもデコピンですか......」


 庵も琥珀と同じマスに止まり、先ほどと立場が逆転する。さっきまでの琥珀の小悪魔のような表情は消え去り、今度は怯える小動物のような表情になっていた。その表情はずるいが、確かに男からのデコピンはか弱い乙女からしたら恐怖だろう。


「......ルールはルールですからね。じゃあ、どうぞ」


 覚悟を決めたのか、琥珀は熊手のような前髪 (シースルーバング)を片手で上げて、ぎゅっと目を瞑る。今から庵はこの可愛らしいお顔にデコピンを放たないといけないらしい。大切な彼女にそんなことは勿論したくはないが、ルールはルールなので仕方ない。端正な顔立ちと真っ直ぐ向き合い、庵は少し震える右手でデコピンの形を作る。


(できるだけ優しくして......でも舐めてるって思われたら嫌だから、それなりの力加減を......)


 無論、琥珀に本気のデコピンを喰らわすわけにもいかないので、ある程度加減を入れてデコピンをする。なかなかに絶妙な調整が必要だ。


(......肌綺麗だな。ほっぺたつまみたい)


 そんな雑念を抱えながら、いよいよデコピンを琥珀のおでこにロックオンし、あとは放つだけとなる。


「......じゃ、いくぞ。ほい」

「ぅ......」


 想定通り、ちょい痛くらいのかなり絶妙なデコピンを放つことに成功。小さく琥珀から悲鳴が漏れたが、おそらく反射的なものだろう。勿論痕になったりもしていない。


「どうだった?」


「そんなにですね。庵くんは優しいから絶対手加減してくれるって分かってましたよ」


「いやまぁ、彼女に本気でデコピンなんかできないって」


「しても全然良かったですけどね。私、痛みには耐性あるので」


 と自信有りげな琥珀だが、彼女が痛みに耐性ができたと考える理由は北条による暴力なので、かなり触れづらいところだった。実際のところ、そこまで変わってなさそうだが。


「じゃあ次は私ですね。あれ、サイコロ......」


「あ、俺の足元落ちてたわ。――はい」


「ありがとうございますっ」


 庵のお題が終わり、次は再び琥珀のターン。庵がサイコロを手渡し、琥珀が何のおまじないか手の中でサイコロを転がす。そんな些細な可愛らしい行動が数秒、その後サイコロがテーブルに転がる。


「えーと、あっ、6ですっ」


「でかいの引いたな」


「ふふん。6だから、いち、にー、さん、しー、ごー、ろく......えーと、このマスは”今一番遠いプレイヤーに壁ドン”」


 書かれたお題を読み上げ、数秒硬直する琥珀。庵もぴくりと肩を跳ねさせ、とりあえず琥珀の反応をうかかがった。勿論、一番遠いプレイヤーにかかわらず庵しかいないので、琥珀が庵に壁ドンをしなければならない。


「えっと、壁ドンってあれですよね。壁にドンってするやつ」


「壁にドンってするやつだな」


「......ですよね」


 まさしく文字通りなのだが、一応確認の意味を込めて聞くだけ聞いた琥珀。当たり前の解答に、琥珀は一度大きく深呼吸する。


「こ、こういうのは恥ずかしがったら負けなんですよっ......じゃあ私がドンってしてあげるので、庵くんは壁の方に寄ってください」


「お、おう。――じゃあ、ここらへんでいい?」


「大丈夫です」


 覚悟を決めたのか、やる気満々そうに立ち上がった琥珀が壁に背中を預ける庵に詰め寄る。宝石級の顔面が間近に急接近し、庵は思わず視線を逸らしてしまう。


「じゃあ、いきます」


「なんか、壁ドンの空気じゃないな?」


「うるさいです。――えいっ」


「お、おぉ」


「なんですかその反応!?」


 庵の余計な一言と、絶対にいらないかけ声が相まり、雰囲気の欠片もない壁ドンが終了した。それに壁ドン特有の「俺と付き合え」的な俺様系の威圧感もなく、ただポンと壁に手を置いただけなので壁ドンと表現できるかすらも怪しい。


(......うん、最高だな)


 だとしても琥珀の壁ドンということには変わりないので、そういううぶなとこも含めて庵は最高の体験だったと振り返り、心のなかでウンウンと頷く。その間、すぐに壁から手を離した琥珀が、口元を袖で隠しながらそっぽを向いていて――、


「――やっぱり、壁ドンは男の人がするべきです。壁ドンの良さって、身長差とか、威圧感じゃないですか」


「......」


 身長差は、ある。でも、威圧感は出せない。庵は自分が草食動物か肉食動物かの二択なら、絶対に草食動物よりだと自認しているので、そういう俺様系の行動を大の苦手としていた。そもそも琥珀に壁ドンなんて小っ恥ずかしくてできるわけがないが。


「私の番は終わりですっ。次、庵くんですよ!」


「え、あぁっ。ごめん。ボーっとしてた」


 庵が、琥珀の先程の発言について少し頭を悩ませていると、慌てた口調の琥珀がサイコロを押し付けてきた。サイコロを受け取った庵は、気持ちを切り替え、再びテーブルに目を向ける。


(俺たちも成長したのか、意外とすんなりゲームが進行するな。3ヶ月前とかだったら、あの壁ドンのくだりで絶対気まずくなって、お通夜モード突入してただろうし)


 思い返してみれば、気づかぬうちに沢山の成長を遂げている庵と琥珀。いろいろな困難を乗り越えたことでお互いの信頼が高まってきたのか、最近は会話のキャッチボールもスムーズで、手が触れ合うくらいのスキンシップなら何も気にならなくなってきた。


(よくよく考えれば、俺と琥珀って、手も繋いだし、ハグもしたし、キスも......いやまあキスはちょっと”アレ”だったけど、それはいつかリベンジするとして――もう、恋人としてだいぶ関係が深まっているわけだよな。なら今更、こんな正月にやるようなゲームでビクビクする必要ないんじゃないか)


 庵はこのお題付きすごろくゲームに、未だ一抹の不安を抱えていた。何か琥珀を困らせるようなとんでもないお題を引いてしまうのでは、という不安だ。しかし、もしかしたらそれは杞憂なのかもしれないと今になって思う。もう、今の庵は昔の庵じゃない。成長した、庵なのだから。


「......庵くん? サイコロ早く振ってください」


「あ、ごめん。ボーッとしてた」


「またですか。寝不足なんですか?」


「えーっと、今日は5時間睡眠だな」


「......少ないですね」


 5時間睡眠は庵にとって普通のことなのだが、琥珀に微妙な反応をされてしまう。しかし、さっきからボーッとしてしまうのに睡眠はまったく関係していない。そして、もう目は覚めた。心機一転、ここから庵のターンが始まる。


「よし。じゃあいくか」


 サイコロを転がし、出た目は4。コマを手に取り、4つ進める。そして止まったマスにかかれている文を読み上げ――ようとした。


「えーっと、”一番近くのプレイヤーとポッキーゲー......うぉ?」


 読み上げている途中で硬直し、背筋を凍らせる庵。何も知らない琥珀が、不思議そうに庵の隣に寄って、お題を読もうとする。


「なんて書いてあったんですか?」


「え、いや......」


「......”一番近くのプレイヤーとポッキーゲ......はっ......」


 琥珀もお題を言い切ることができず、途中で庵と同じく硬直した。


「......」

「......」 


 いつぶりだろうか。再び、2人の空気が凍てつく。庵も琥珀も、気まずくて、今どういう発言をするべきかなのか分からない。先ほどはよく”俺は成長した”なんて間抜けなことを言えたものだ。


「あっ、えっと、どうしますか庵くん」


「......えっと、まぁ今ポッキー無いし、このお題はパスにするか.....」


 気まずい空気に耐えきれなくなった琥珀が話しかけてくれる。咄嗟の反応で、庵は”パス”と口にしてしまうが――、



「――ポッキー、ありますけど」


「え? あぁ......」


 琥珀が若干震えた声で、テーブルの端に追いやられた皿を指差す。そこには庵が持ってきていたお菓子があり、その中にはポッキーも入っていた。自分で持ってきたくせに、テンパったせいか完全に記憶から消えていたのだ。


(――え。マジですんの。この空気で?)


 突如始まったサイコロゲームは、まだ序盤にも関わらず波乱の展開が始まろうとしていた。 







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