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宝石級美少女の命を救ったら付き合うことになりました  作者: マムル
最終章・前編

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◆第172話◆ 『宝石級美少女が久しぶりに家に来ました』


 3人で行ったカラオケの翌日。約束通り、今日は丸一日デートだ。そして今回は琥珀が庵の家に久しぶりに来てくれていた。琥珀が庵の部屋に来るのは”初詣”の日以来で、約二ヶ月ぶりである。


「庵くんの部屋、久しぶりですね。すごく新鮮な気分です」


「俺も久しぶりに琥珀が来てなんか変な気分だわ。ほんと、直近2ヶ月いろいろあったからなぁ」


 バッグを足元に置いて、口元に笑みをくっつけながらぐるりと部屋を一周する琥珀。その妖精のような姿に、庵はどこか安心感を覚えてしまう。ここ最近ずっと殺風景だと思っていた空間に、琥珀という存在が加わるだけでここまで華やかに見えるなんて。


「.....ちょっと緊張するな」


「何か言いました?」


「いやなんも」


 琥珀が庵の部屋に居るのはちょっと前までは当たり前の光景だったのに、今となっては懐かしさを感じるほどに時間が空いてしまった。そのせいか、狭い空間に二人きりということに少し耐性がなくなっている。


(落ち着け俺。いつも通り。いつも通りでいいんだ。余裕のない男はダサいからな)


 琥珀と距離を取っている期間、庵は恋愛ついてのネット記事を手当たり次第に読み漁り、”知識だけ”は豊富になっていた。無論、頭に入れた知識を実際の場面で活かせるか、となると話は変わってくるが。


「よしっ。気合い入れて、今日は良い一日にしていこう。頑張れ俺」


 己の頬を軽く叩き、一度気持ちを切り替える。


 ようやく、失っていた琥珀との時間を取り戻せていけるのだと思うと、まだうまく実感が湧かないほどに嬉しく思える。これから、こんな可愛い彼女とどのような未来を歩めていけるのだろうか。期待に胸がいっぱいになって、苦しくなってしまう。


「あっ。枕カバー、もしかして新しいのにしたんですか?」


「え、よく気づいたな。だいぶ汚くなってたから、ネットで買ってきた」


「そうなんですねー。私、記憶力には自信あるので、庵くんの部屋のことはよく覚えていますよ。だから、ちょっとした変化もお見通しです」


 もともと水色の枕カバーを使っていたが、つい最近、前よりも少し濃い水色のカバーに新調した。パッと見では然程大きな変化はないが、目ざとい琥珀は「ふふん」と少し自慢げに当ててくる。二ヶ月もの期間が空いたというのに、すごい記憶力だ。


「あと、ちょっと部屋綺麗になりました? なんか、少しスッキリした気がします」


「あー、それは......」


 庵らしくない綺麗に片付いた部屋に、感心した様子の琥珀。これでは、もしかしたら整理整頓ができるようになったと勘違いされるかもしれない。だが残念ながら、昨日までの庵の部屋は、物が床に散乱したり、空のペットボトルが沢山勉強机に置いてあったりと、なかなかに凄惨な状態であった。しばらく琥珀が部屋に来ていなかったので気が抜け、今日の朝、急いで掃除をしたのだ。そのおかげで、元よりも綺麗な部屋が完成してしまったのである。


「今日は久しぶりに琥珀が来るしな。さすがに部屋の掃除しといた」


「え、私のためにしてくれたんですか?」


「うん。そりゃな」


 正直に言うと、少しだけ驚いた様子を見せる琥珀。彼氏の部屋がゴミ屋敷など笑えた冗談ではないので、庵としては当たり前のことをしたまでと思っているのだが。


「別に、私にそこまで気を遣わなくていいですよ?」


「いやするだろ。部屋に入れるなら、これくらいは最低限のマナーだって俺は思ってるし」 


「......庵くん、優しいですね」


「優しいは少し違うくない.....? まぁでも、これくらい普通だろ」


 琥珀だからこそ気を遣うのだが、相手が誰であろうとこれくらいはして当たり前。宝石級美少女を部屋に招いているのだから、これでもまだギリギリ及第点といったところだ。


「――ジュースとお菓子持ってくるから、適当にそこら辺座っといて」


「えっ、もらっていいんですか?」


「当たり前だろ。琥珀のために買ってきたやつだから。ポッキーとかだけどいい?」


「あっ、ありがとうございます。ポッキー好きです」


「ならよかった」


 おやつを用意するため、一度部屋から退出する庵。一人取り残された琥珀は荷物を足元に置いて、地面に膝をついた。そして、少し赤くなってしまった頬を両手で抑える。


「はぁ......」


 それから、なんとなく壁に頭を預け、短く息を吐いた。


「......二人きりって、こんなに緊張しましたっけ」


 いつもなら平然と会話できるのに、今日はうまく頭が回らない。少し、庵のことを意識しすぎているのだろうか。しかし、庵のことを異性として意識しだしたのはだいぶ前の話で、その感覚にはもう慣れている。


 なら、久しぶりのお家デートに緊張しているのだろうか。それは、あるかもしれない。何故なら、今琥珀は居心地の悪さのようなものを微かに感じていた。だが、お家デートはこれまでに何度もしている。それが理由というのなら、なんで今さら、居心地の悪さや、緊張を感じるのだろうか。


「......」


 自分なりの答えを見つけた琥珀は、そっと己の華奢な身体を抱きしめた。



***



 それから数分後。

 庵がポッキーを口に咥えていると、琥珀が何やらバッグとカバンを漁りだした。



「見てください庵くん! 昨日引き出しから、面白いもの見つけたんですよ」


「これは......すごろく?」


 琥珀がバッグから取り出したのは、ちょうどテーブルに収まるサイズのすごろくシートとサイコロ。庵も過去に家族と何回かやったことのある、見慣れたテーブルゲームだ。


「はいっ。でもこのすごろく、ただのすごろくじゃないんですよ。このすごろくは、ほとんどのマスに何かしらのお題があって、そのお題をこなさないとゲームが進行しないんです。だから、普通のすごろくよりもとっても盛り上がるんですよ!」


「何かしらのお題ってなんだよ。嫌な予感しかしないんだが」


 今の説明を聞いて、庵の脳内に思い返されるのは過去琥珀と遊んだ『人生ゲーム』。2人で行ったあのゲームは、いろいろとツッコミどころが多く、庵の不運と気まずい展開が続き、割と嫌な意味で記憶に色濃く残っている。そのときはもう二度と人生ゲームはしないと誓ったものであるが――、


「......このすごろく、2人でするのか?」


「そうですよ? 私と庵くんしかいないじゃないですか」


「なんだこのデジャヴ感......」


 しかし、前回の人生ゲームとは違って今回はすごろく。琥珀の言っていた”何かしらのお題”は少し引っかかるが、前回のように結婚したり子供が出来たりすることは多分ないだろう。庵は琥珀の持ってきてくれたすごろくがまともなものだと信じることにし、自分の使うコマを手に取った。


「ルールは基本普通のすごろくだと思うので、細かいことはやりながら覚えていきましょう。私もルールまったく分かってないので」


「琥珀ルール分からないの!? なんで?」


 さらりと告げられる衝撃の事実に、庵は声を大きくした。一応説明書はあるのでゲーム進行に支障はないが、ゲームを持ってきてくれた張本人がルールを理解していないのは少し問題だ。


「このすごろく、だいぶ昔のお正月の福袋に入ってたもので、一回も使ったことないんですよね。でも、お互い初見のほうが楽しめるじゃないですか。多分面白いですよ」


「福袋のやつなのか。初見の方が面白いのはまぁそうなんだけど......なんか急に怖くなってきたなこのすごろく」


「怖くなんかないです、大丈夫ですよっ。さ、やりましょ庵くんっ」


 斯くして、人生ゲームに続き、すごろくという二度目のテーブルゲームが始まった。



 


 

この感じ、懐かしい。

来週は2話くらい更新する予定です。

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― 新着の感想 ―
更新ありがとうございます! ルールを知らないでやるのは強者だなぁ。いいぞもっとイチャイチャしろ!
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